傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

287 / 325
27-4.時の悪魔

 スヴェンが最奥に飛ばされる少し前。

 

 歪んだ時の空間の中で長い浅葱色の髪を靡かせた中性的な顔立ちの人物が微睡から目覚める。

 ソレは黒を基調にしたスーツを着こなし、歪んだ空間の中からある一点を見詰めていた。

 金髪、鋭い三白眼に紅い瞳の人間。上着こそ共に行動している村人と変わりないがズボンと背中に背負う武器は違う。

 

「時の悪魔と呼ばれるぼくが知らない武器と生地。未知の素材を使ってるからこそ攻撃が通じてしまう」

 

 巻き戻りの魔法陣を護らせていたかわいい使い魔は、監視中の男に一度真っ二つに斬り裂かれ撤退した。

 そして巻き戻りの魔法陣を解除したのもあの男だ。

 このままでは此処に辿り着くのも明白だった。いや、敢えて招き入れるのも良いのかもしれない。

 彼さえ排除してしまえば時獄に護られているエンケリア村は無事で済むのだから。

 時の悪魔にとって時獄に侵入した男こそ巨悪だ。しかし人間の感情や尺度で言えば村一つを封じ込めたこちらが悪に見えるのは間違いない。

 理由を話せばエンケリア村の人々は受け入れるのか? そう何度も自問自答したが、

 

「こんなことした事情なんて話せるわけないじゃないか」

 

 視てしまった未来の光景を決して語るわけにはいかない。

 あんな絶望しか残されていない未来などーーあんな未来はもう視たく無いよ。

 時の悪魔はそれ以降未来視を使わず、ただその時が過ぎ去るのを待つことを選んだ。

 偶然近くを通りかかったエンケリア村を責めて護ろうとして。

 

「主人様、たまには外に出ては如何かですか?」

 

 自身に語りかける使い魔に視線を向けた時の悪魔は、

 

「もう回復したんだ。いや、外に出るのはちょっとねぇ」

 

 潜む場所に選んだ鉱山の最奥から出ることに嫌そうに顔を顰めた。

 時折り上の階に出向いて幻覚魔法で好き勝手に風景を弄ったりしたが。

 

「あの恐ろしい人間が此処に到着したら主人様の身が危険ですわ!」

 

 使い魔自身が身を持って経験したからこそ此処から逃げろと言っているのだ。

 此処にあの男が来る、それは困る。困るが出掛けた矢先にばったり遭遇というのも嫌だ。

 しかし心中を隠した時の悪魔はこちらを永年慕い続ける使い魔に、

 

「いやぁ、でもぼくって強いからね」

 

 あくまでも強気な姿勢を示す。

 実際に時の悪魔は何度も邪神眷属を返討ちにし、時には勝負を挑む悪魔を討ち取ったことも何度も有る。

 

 ーーまあ、概念に護られてるから負けは無いんだよね。

 

 それに加えて悪魔だから肉体が滅んでも地獄に戻るだけで死ぬことは少ない。

 

「いえ、今回ばかりは主人様にも通じる武器を待ってる手合いですわ!」

 

 未知の武器を使う男。過去に存在した異界人と呼ばれる者で間違いない。

 

 ーー異界人が召喚されてる。……まだ未来通りに進んでるんだ。

 

 異界人の目的はエンケリア村の解放は明白だが、もしも真実を打ち明けたら黙認か協力してくれるかもしれない。

 時の悪魔は騒ぐ使い魔を抱き上げ、ふわふわの身体を優しく撫でやる。

 既に絶滅したミュレースキャットのふわふわの毛並みに頬が綻ぶが使い魔の表情は険しいままだ。

 

「落ち着いて、相手は人間なんだ。少し力を見せれば引き込めるかもしれない」

 

 優しく撫で次第に使い魔は心地いいのか、そのまま腕の中で眠り始めた。

 万が一戦闘になる可能性が有る以上、大切な使い魔をこれ以上傷付けさせる訳にはいかない。

 時の悪魔は使い魔を異空間の中に入れ、改めて坑道を進む男に視線を移す。

 招き入れるには少々心の準備がいる。いくら悪魔でも怖い者は怖いし、交渉を優位に進めるには弱みをみせず相手の心を挫くことから始めなければならない。

 手始めに弄った坑道を眼にした反応を窺おう。

 

 時の悪魔が最奥でスヴェンに悟られず観察を続けーーとある単語を耳にした時の悪魔は事の真意を確かめるために坑夫とスヴェンを分断させることに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。