身体が朽ち果て魂の状態になった時の悪魔にスヴェンは呆気に取られ、
「終わっただと?」
時の悪魔の現状に疑問が漏れ出した。
討伐と捕獲対象をあっさり片付けられたのは嬉しい誤算とも言えるが、スヴェンを晴れない靄が襲う。
瞬時に時間と空間を停止し、停止中に大量の魔法陣を仕掛けて確実に殺しに来た時の悪魔は決して弱い筈はない。
むしろ時間停止を警戒して初手で様子見を兼ねた残像を作らなければ、魔力の鎧で大量の魔法を防ぐ羽目になっていた。
警戒と対策が功を成したとも言えるが、
「……痛み、恐れ、挙げ句の果てに泣くか。悪魔にしちゃあ随分感情豊かだったな」
恐らく時の悪魔は概念の護りによって充実した戦闘経験を得られなかったのだろう。
それが今回の依頼達成に導いた大きな要因だ。もしも奢りも無く絶え間ない研鑽を重ねていれば異界人であろうとも対処は不可能に近いかもしれない。
現に時の悪魔が使用した魔剣を魔力の鎧で防いだが、魔力は大量に減り二撃目を防ぐことは不可能な状態だった。
そんな状態でまた時間停止でもされれば護る手段など無く詰む。
いや、手出しが難しい異空間内に潜伏されてしまえば発見することも厳しいだろう。
だからこそ、なぜ? わざわざ自身を近場まで転移させ待ち構えていたのか。
始まりから終わりまで疑問が尽きない。
それにっとスヴェンは封魔瓶を取り出しながら息を吐く。
「コイツには聞かなきゃならねえことが有るな」
戦闘中に発した滅びる人類の存続。それではまるで時の悪魔が時獄でエンケリア村の住人を護っていたようではないか。
いや、見方を変えてしまえば確かにエンケリア村は三年間はあらゆる外部の干渉、邪神教団から護られていた。
時獄と巻き戻りの魔法を組み合わせることで三時間を繰り返させ、食料問題や寿命の問題を先延ばし。
謂わばエンケリア村の現状は地獄とも言えるが、逆に楽園とも言える。
死の繰り返しに目を瞑ってしまえばの話だが。
「人類滅亡の引き金を引く……まあ、そん時は帰還なんざ言ってられねえなぁ」
人類が滅びる要因は数多く存在するが、それを依頼を請たとはいえ異界人の自身がきっかけを作ったとなれば話は違う。
きっかけを作った者としてテルカ・アトラスと共に死ぬのが道理というものだ。
しかしまだ真実と決まった訳でもない。
スヴェンが封魔瓶に魔力を流し込めば、時の悪魔の魂が瓶の中に吸い込まれる。
これで後は時獄が解除されたかどうか確かめるために、一旦外に出るだけ。
初見の順路を引き返すという奇妙な状況では有るが、一刻も速く戻りルーピン達と合流すべきだ。
スヴェンはサイドポーチに封魔瓶をしまい、出口に向けて歩き出す。
▽ ▽ ▽
最下層で空のトロッコと山積みの金鉱石を乗せたトロッコを発見した。
出入り口に有る筈だったトロッコが此処に有るという事は、時の悪魔の妨害によるもの。
地下二階から始まった幻覚魔法も進行を遅らせる為の妨害だっと今なら説明が付く。
そこまで妨害しておきながら最後に自身を招くように最奥に転移させた事にスヴェンは改めて顔を顰めた。
策を弄し徹底していた時の悪魔を高く評価していたからこそ、なぜ最後に詰めを誤り短絡的な行動に出たのか。
ーー自信の表れか、それとも……。
戦闘に入る前に時の悪魔は何かを聞きたがっていた素振りを見せていた。
それが時の悪魔を行動させた要因なのかもしれない。
悪魔が人類滅亡回避の為に時獄でエンケリア村を封じた。なぜエンケリア村が選ばれたのか、それは本人の口から直接聞き出せば判ることだが、少なくともスヴェンは知る必要が有ると考えた。
時の悪魔が一体何を知り何を視たのかを。
「考えても仕方ねえか、先ずは此処から出ねえ事にはな」
レールに置かれたトロッコを使えば出口まですぐだろう。
トロッコに問題が無いことを調べてから乗ったスヴェンは、側のレバーに魔力を流し込む。
魔力を受けたトロッコが勝手にレール上を走り出し、熱気がスヴェンの頬を撫でる。
スヴェンは息を吐き眼を瞑った。
出口まで最適化されたルート。これならそう時間を掛けずとも出口に到着するだろう。