エンケリア鉱山から出たスヴェンは出入り口で立ち往生していたルーピン達と合流し、空を見上げた。
時の悪魔を封魔瓶に封じたが相変わらず灰色に濁った空がまだ時獄が解除されていないことを告げる。
「時の悪魔は倒した筈なんだが、本人に解除させねぇとダメなのか?」
「さらっと朗報を言ってくれるねぇ」
困惑混じりに眼鏡を押し上げたルーピンに視線を移し、
「その件も踏まえて話が有る」
事によれば深刻な話だ。そう眼で告げれば、彼は察したように小屋に向けて歩き出す。
彼の背中を追うべく歩き出したスヴェンは、背後から突き刺さる困惑の視線と足踏みする気配に視線を移した。
「坑道の案内助かった、後は家でのんびり過ごしてくれ」
「途中までだったがな。……いや、そうだな鉱山の再稼働に向けて英気を養うとするか」
未だ解除されない時獄、襲う不安感や疑心を堪えてまでアドラは言葉を呑み込んだ。
そんな彼に言える事は一つしか無い。
「脅してでも時獄は解除させる……フッ、まあだからしばらく小屋には近付くな」
「お、おう……本来時の悪魔は憎むべきなんだろうけど、今は同情しかないな」
敵に同情するべきでは無いが、時の悪魔が語る真実次第では同情は正当な感情なのかもしれない。
尤も今のアドラが向けている同情心はこれから拷問される哀れな時の悪魔に対してだが。
▽ ▽ ▽
アドラ達と別れた後、ルーピンの小屋に到着したスヴェンは封魔瓶をテーブルの上にやや乱暴気味に置く。
中身の魂が揺れ動き、漸く目が覚めたのか。魂はまるで辺りを見渡すように動き始めた。
「魂の状態ってのは視界があんのか?」
「仕草から見るに有るみたいだね……ふむ、興味深いな。何か魔道具に活かせないか徹底的に調べてみようかな」
未知の探究に対して楽しげに笑うルーピンの一面に呆れ気味にため息を吐く。
「悪魔に通じるかは知らねえが、ソイツは結構臆病なんだ。悪いが追求は用済みになった後にでもしてくれ」
「君……だいぶ酷い事言ってる自覚有る?」
所詮時の悪魔は一時的に契約したあとは用済みだ。その後悪魔が何をしようがどうでも良ければ、ルーピンの探究心を満たすならそれはそれで良いとさえ思う。
そんな会話が時の悪魔に聴こえていたのか、
「ぼ、ぼくに何をするき!? こんな状態のぼくを追い込もうとするなんて……人間はいつから冷酷に育ったんだっ!!」
人類の冷酷さを非難する叫びが部屋に響き渡る。
「……スヴェン、これは本当に時の悪魔なのかな? こんな怯えた悪魔なんてぼくは初めてみたよ」
「さっきも言ったろ、コイツは戦闘中に泣き喚く程度には臆病なんだ」
一体何をしたんだ? そんな咎めるような視線を無視しながらスヴェンは封魔瓶の時の悪魔を睨む。
「さて、先ずは時獄を解除して貰おうか?」
ガンバスターの柄に手を伸ばしながら時の悪魔に要求を告げる。
「……」
だが時の悪魔は無言のまま魂を震わせるばかりで時獄を解除する素振りを一向に見せない。
単なる力技による脅しは通じない。むしろ完全に怯えた状態では会話もままならない。
遣り難い相手だ。脅しが通じないなら要求を変える他に無い。
だが時獄の解除は絶対条件だ。それを踏まえた上でスヴェンは思考を巡らせながら時の悪魔に比較的穏やかな口調で語りかける。
「そういやアンタは滅びゆく人類がどうのとか、聴きたい事が有るとか言っていたが……解除の前になぜエンケリア村を時獄に封じたのか話してくれねぇか?」
ルーピンが驚愕に眼を見開く中、敢えて話を聴く姿勢を見せれば時の悪魔はしばしの沈黙のあと漸くーーゆっくりと静かに語り始めた。
「ぼくは……時の流れに委ねながら穏やかにひっそりと暮らすのが好きなんだ」
「ひっそりと可愛い使い魔と過ごしながらぼくは、たまに姿を隠して外を出歩くんだ……ちょっと前まで何も無い場所に国が出来てる時なんて新鮮で楽しくてね」
「時間の感覚が随分と違うらしいね」
時の悪魔にとって時間経過など有って無いようなもの。
そんな感情を浮かべながらスヴェンは黙って時の悪魔の語りに耳を傾ける。
「たまの散歩ともう一つぼくは未来を視ることも趣味で……」
未来視で人類が滅びる未来を視たから時獄にエンケリア村を封じ込めた。
なぜエンケリア村が選ばれたのかは、単に偶然近くに居たからという事も察しが付く。
スヴェンはそれを踏まえた上で無言を貫く。
「君が視た未来を詳細に話してくれないか? それが判らなければ我々は回避することも備えることもできないからね」
穏やかに論するルーピンに時の悪魔は吐息を吐き、意を決したのか魂を震わせながらゆっくりと視てしまった絶望の未来を語り始めた。