傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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27-8.絶望の未来

 とある初夏の季節。

 エルリア城のレーナは齎される報告に眉を歪める。

 

「……今回も失敗してしまったのね」

 

「いえ、あれは明らかな裏切りですよ。それにメルリアの子供達もフェルシオンのユーリ伯爵達は……」

 

 邪神教団の暗躍によって旅立った異界人は同行者のクレアを隷属化させ裏切りメルリアの事件に加担。

 邪神教団は誘拐した子供達全員を生贄に捧げ、メルリアの住民に絶望と悲しみを齎した。

 その一方で交易都市フェルシオンでは邪神教団のアイラ司祭がユーリ伯爵とリリアを殺害し、町の住人全員を操ることで支配下に置き町を完全制圧。

 ユーリ伯爵が管理していた封印の鍵も邪神教団の信徒に回収され、エルリアに暗い影を落としていた。

 

「……私は、頼る相手を間違えてしまったのね」

 

「姫様……しかし魔王様の身を安全に救い出すには他に方法も……」

 

「えぇ……だけどこれ以上の被害はもうお父様も黙認する事はできないわ」

 

 国民とアルディアを天秤にかけて決断する時が迫れている。

 それでも魔王を犠牲にして良いのか。何の為に各国は邪神教団に耐え続けたのか。それは全てアルディアを安全に救い出す為にだ。

 しかしこれ以上は信用できない異界人を頼り続ける事はもう無理だ。

 勝手に召喚した負目も有るが、これ以上は何も解決策にもならず悪戯に国民に被害を与えるだけで何もならない。

 

「……召喚はもう無理ね。別の方法を模索しましょう」

 

「……隙を見てフィルシス騎士団長が侵入できれば良いのですが」

 

「最前線で戦線を支える彼女が不在となれば不信感を招くわ」

 

 今更フィルシスを潜入させる事はできない。それに凍結封印の解除に必要な瑠璃の浄炎さえまだ入手できていない。

 改めて手詰まりな状況にレーナは頭を抱え、心配する家臣の前で気丈に振る舞う。

 次の一手を打たなければならない。

 そう思考したその時だった。突如北の方角から膨大な魔力の柱が立ち登り空が赫く染まったのは。

 突然の事に執務椅子を蹴り立ったレーナは窓に振り向く。

 

「あの方角は……っ! 至急全騎士団に国民の避難指示を!」

 

 慌てながら廊下に駆け出す家臣を見送ったレーナは眼を瞑り、

 

『私の声は聴こえてるかしら?』

 

 竜王に念話を送り語りかける。

 

『うむ、我の召喚姫よ聴こえてるぞ』

 

『ヴェルハイム魔聖国の状況がどうなってるか判る?』

 

『……いま上空付近に着いた所だが、最悪の一言に尽きる』

 

 竜王が語る最悪の状況。それは膨大な魔力と変貌した魔力から邪神眷属が復活してしまった事を意味する。

 それだけでも目の前が真っ暗になりそうになるが、レーナは悲観して倒れてる暇など無いっと踏ん張り竜王に問う。

 

『巨城都市エルデオンの被害状況は?』

 

『……残念ながらもう巨城都市は完全に消滅した。地図の何処にもあの国は無い』

 

『……っ!? そ、んな。国境に居たフィルシス達や魔族はっ?』

 

『……ほう、エルリア魔法騎士団は無事だ。いま撤退を開始したようだな』

 

 しかしこのまま復活した邪神眷属が撤退するフィルシスを見逃す筈が無い。

 それにフィルシスも部下を逃すために殿を勤めるだろう。それでは、万が一の時に邪神眷属に対する対抗手段を失う。

 

『邪神眷属、倒せそう?』

 

『我にとって赤子同然……』

 

 竜王を通して膨大な魔力がレーナに伝わる。

 圧縮した魔力をブレスとして放つ竜王の姿を視界に映したレーナは、ブレスの余波で空と浮遊群が燃え盛る様に眉を歪めた。

 やり過ぎだと思わなくも無いが、人類の脅威を早めに討伐する事に越した事は無い。

 しかしレーナの安堵も束の間、

 

『……奴め不老不死を憑代に復活したな』

 

 エルロイ司祭を憑代に復活した邪神眷属。その事実だけでレーナは悟ってしまう。

 いくら竜王でも大地を傷付けない誓約を課してる以上、邪神眷属を仕留めることは不可能だ。

 

『……っ! 倒せないなら足止めするしかないわねっ』

 

『ならばその勤めは我が果たそう』

 

 竜王から念話が切られ、彼が本格的に戦闘に突入したのだとレーナは理解する。

 同時に竜王が足止めしている間に解決策を導き出さなければならない。

 悲観してる暇も友と同盟国の滅亡を嘆く暇も無い。いや、一度泣いてしまえばもう立ち上がれない、そんな強迫観念がレーナを突き動かしオルゼア王の下まで急がせるのだった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 邪神眷属の復活から程なくしてーー竜王と交戦中の邪神眷属は無数の使い魔を召喚し世界各地に解き放った。

 一体一体が連携して当たらなければ厳しい手合いにエルリア魔法騎士団は次第に消耗戦を強いられる中、更なる絶望が世界を襲う。

 ミルディル森林国に潜伏していたジギルド司祭が封印の鍵を入手、二体目の邪神眷属が復活。

 復活の余波によりミルディル森林国は壊滅し、逃げ惑う国民が眷属の使い魔に狩られ生贄として捧げられ、美しかった大森林国は死の樹海に変貌した。

 どうやって二体目の邪神眷属を倒すか。議論する暇も与えず、フィルシスが単身でミルディル森林国に出立。

 それをレーナ達が知ったのは彼女が出立した後だった。

 

 それから夏が終わり秋が訪れ、レーナ達の下に知らせが届く。

 フィルシス、邪神眷属と相討ちという知らせが。

 エルリア魔法騎士団の最高戦力である彼女の戦死はエルリア国民に更なる絶望を与えるには充分過ぎるほどだった。

 いくら一体倒せても不死性を持つ北の邪神眷属は如何あっても倒し切れない。

 今は竜王によって足止めされているが、いつ拮抗が崩れてもおかしくは無い。

 誰しもが現状に悲観する中、更に畳み掛けるように絶望が襲った。

 突如呪いに蝕まれ倒れたレーナが、あらゆる解呪魔法も効かず帰らぬ人となりーー同時にレーナと召喚契約を結んでいた各大精霊や竜王も彼女に召喚された異界人の同時消滅。

 民に愛された姫の死を国民は嘆くことも許されず、邪神教団と眷属の使い魔に狩られーー襲来した北の邪神眷属にオルゼア王が立ち向かうことに。

 

 戦闘は三日三晩続いた。ミアの治療魔法によって傷を癒しながら奮戦するオルゼア王だったが、いくら殺せども蘇る邪神眷属を相手に次第に劣勢を強いられーーオルゼア王はミアと共にその命を散らした。

 彼の死はすぐさま各国に伝わり、人類は悲観しながら攻め込む眷属の使い魔に蹂躙されーー人類は邪神眷属が復活してから一年も保たずに滅亡した。

 その後邪神の復活によりアトラス神が地上に降臨。

 天使と邪神眷属による衝突。

 二度目の二柱の衝突によって大地は死に絶え、星の魔力が枯れ果てテルカ・アトラスは静かに消滅した。

 

 それが時の悪魔が視た人類が滅びる未来だった。

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