傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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28-4.過去へ

 平原に出たスヴェンは周囲を見渡し誰も付近に居ないことを確かめてから呼び掛ける。

 

「出て来い」

 

 無愛想なたった一言でミントが隣に姿を表す。

 

「過去に飛ぶんだね」

 

 あぁ、と小さく頷き身体が点滅するように透過を繰り返す。

 発作の如く不定期に訪れる症状は程なくしてまた元の状態に戻る。

 ミントが地面に魔法陣を描く側、スヴェンは思案する。

 間隔は以前と変わりないように思えるが、残されてる時間はそれほど多くない。

 本音を言えば時間跳躍に辺り入念な準備を進めてから挑みたいが、それでは恐らく間に合わない。

 戦場で理不尽に死ぬのは別に構わないが、戦場とは全く無関係な所で死んでやる気は微塵も無いのだ。

 ただデウス・ウェポンに帰還したとして自身の望む戦場が残ってるかと問われれば、帰還時には既に覇王エルデの手によって平和な世の中が築かれてるか発展途上だろう。

 それでも依頼失敗やらの手続きーーそれ以上にあのどうしようも無く戦争経済に支えられた世界がどう変わるのか見てみたいという欲も抱き始めている。

 平和な世界を見て暮らした確かな影響にスヴェンは悪くないっと思う以上にあの女の危険性が脳裏にちらつく。

 帰還してあの女を始末して、どうするべきか。そんな未来の事を思考してはミントが魔法陣を完成させるまで静かに待つ。

 

「此処にコレを書き足してっと……むふー! 我ながら完璧な構築式と魔法陣!」

 

 ミントが自身の描いた魔法陣に自信満々に胸を張る。

 確かにそれは時の悪魔であるミントにしか構築できない魔法陣だ。

 魔法陣に刻まれた読めない言語と認識できるが人類の知恵では理解を拒むかのような術式。

 確かにこれは人類には到底扱えない魔法だ。契約者のスヴェンでも解読は許されない秘匿された神秘に思わず感心の息が漏れる。

 

「それじゃあスヴェン、魔法陣の中心に立って」

 

 ミントの指示にスヴェンは何の疑いも抱かず魔法陣の中心に立つ。

 するとミントが魂の状態に変化し、スヴェンの身体の中に入り込む。

 

「これでぼくはスヴェンと何処までも一緒だよ、どう嬉しい?」

 

 どうでも良いが此処で邪険に扱えば、事故に繋がる可能性も捨てきれない。

 

「……過去に飛ぶってのは未知の体験だ。同行者が居るってのは心強いもんだ」

 

「そういう事にしておくよ。じゃあ『我が契約者を過去へ誘いたまえ』」

 

 ミントの詠唱と共に魔法陣から時の空間が溢れ出し、スヴェンをあっという間に呑み込む。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 時の空間が止み辺りを見渡すと然程変わらない光景が映り込む。

 本当に時間跳躍が出来たのか、確認のためにフード付きの黒い外套で身を隠したスヴェンはエルリア城に向けて歩き出す。

 門から街道に続く人々と荷獣車の長蛇の列。騎士による関門にスヴェンは眉を歪める。

 身分証明書は未来の年号を描き記したオルゼア王のサイン付きの物しか所持していない。

 だがまだ此処が過去の時間軸で在る確証も無いため、スヴェンは長蛇の列に耳を傾けた。

 

『オルゼア王様、アリシア王女……なんでこんな事にっ』

 

『国はこれからどうなるの? まだ幼いレーナ様が国を担うって話だけど』

 

『……姫様は本来ラピス魔法学院に入学する筈だったのに、それなのに国の為に青春を犠牲にするなんて』

 

 悲しみに染まった感情から漏れ出す言葉の数々にスヴェンは長蛇の列から振り返る。

 

 ーー間違いなく此処は過去か。となると悠長に並んでる暇はねぇな。

 

 一度魔法陣の所まで戻ったスヴェンはミントに問う。

 

「魔法陣はこのままで良いのか?」

 

「心配無いよ、そろそろ消滅するから」

 

 ミントがそう言った途端、魔法陣は自ら自壊をはじめ地面から消滅した。

 これで誰かに発見される恐れは無くなった。

 未知の魔法陣、人類では解読できない魔法など発見された日には大騒ぎは愚か現代に何かしらの影響を及ぼしていただろう。

 それこそ過去で果たすべき目的が果たせなくなる可能性も。

 

「それでさぁ、どうやって城下町に入るの?」

 

 スヴェンはエルリア城下町を囲む絶壁を見上げ、見張りの騎士が居ないことを確かめてから壁に近寄る。

 

「壁ってのは飛び越えるためにあんだよ」

 

 言うや否や脚力に力を込めたスヴェンが地面を蹴り、一気に絶壁の頂上に着地した。

 始めて登る壁の頂上から見えるエルリア城下町と中心に聳え立つエルリア城とその隣のラピス魔法学院。

 この城下町の何処かにラスラ司祭が居る。スヴェンはタンっと頂上から城下町西通りに降り立ち、誰も居ない物陰から素早く道路に出た。

 

 ーー空気が重い、此処は本当にあのエルリアなのか?

 

 眼に映る光景は細部こそ異なるが紛れもないエルリア城下町。しかし、まるで別の場所だと錯覚させるような重たく沈んだ空気にスヴェンは眉を歪めた。

 オルゼア王の消息不明とアリシア王女の急死に国民が嘆き悲しんだ結果、空気が重いのか。

 王族が与える影響が此処まで大きいとわ。これでは現在でレーナが死亡した時の影響は計り知れないだろう。

 レーナから呪いを受けた事実を消し、彼女を救う事で自身の消滅からも逃れる。

 目的の為に見ず知らずのラスラ司祭の殺害を厭わない。外道にしか果たせない仕事にスヴェンは人混みに紛れながら対象の捜索を開始した。

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