沈んだ空気が漂う大通りを人混みに紛れながら進む。
光景は現代とあまり変わり無いが、エルリア城下町大通りの店は現代と比べてかなり異なる。
例えば【ペ・ルシェ】が在った建物は空家で買い手待ちだ。
現代との違いを実感したスヴェンは大通りの広場に在る魔法時計に視線を移す。
魔法時計が現在時刻、九時三十分を示す。
ラスラ司祭が事を終えてエルリア嬢を襲撃するまであと五時間だ。
誘拐事件の発生は十時十二分ーー事件を阻止するのは無理だな。
スヴェンは人混みに紛れながら周囲に視線を巡らせる。
エルリア城下町の町人、巡回の騎士、そして紛れ込むフードで素顔を隠した通行人が所々で紛れ込んでいる。
検問が敷かれてる状況で怪しげな人物が易々と街に入り込めるのか?
その疑問の答えは簡単だ。予め購入していた拠点に潜伏させ当日に行動させる。
巡回の騎士も素顔を隠す通行人を怪しんでいるが人混みで中々近付けない様子だ。
それはスヴェンに対する騎士の目も同様に。
ーー此処に留まるのは危険だな。
スヴェンは人混みに紛れながら適当な所で路地裏に反れ、そのまま道なりに進む。
行き着く壁を飛び越え、大通りの路地裏から南の宿屋通りに向かう。
そしてまた人混みに紛れるように路地裏から宿屋通りに出るっと。
「あの! ウチの子を見ませんでしか!? 長い青髪の私に似た女の子を!」
「ミアを見なかったか!?」
若いアドラとミリファがすれ違う人々に訊ねる。
だが通行人は受け答えはするもののミアの行方は掴めず。
ーーミアは誘拐されかけたって話だが。
スヴェンはミアの魔力に意識を傾け眉を歪めた。
周囲の人々からミアの魔力だけを探ったが、肝心の彼女の魔力だけは感じない。
魔力は感じられないが、魔力を発する人物の直ぐそばで魔力を発していない気配が移動している。
ーー路地裏から北区に移動してんのか。
頭に叩き込んだ地図と進行を方向を照らし合わせたスヴェンは、低姿勢で人混みの中を素早く駆け抜け北区に繋がる路地裏に入った。
路地裏の物陰からじたばたと暴れる足が見え、
「お嬢ちゃん、大人しくしな? さもないとかわいいお顔に傷が付くぜ?」
人攫いの脅迫する声が耳に届く。
ミアは過去に長身痩躯の誰かに助けられたっと語っていたが、此処に誰かが都合良く来る確証は無い。
もしもその誰かが路地裏に入るスヴェンを見て追跡するなら後は任せても問題ない筈だ。
足を止めたスヴェンに人攫いに担がれた幼いミアが悲痛な眼差しで助けを求める。
ーー仕方ねえ、特徴だけならまだ支障は出ねぇだろ。
決断したスヴェンは一瞬で人攫いと距離を詰め、頭部に拳を叩き込む。
脳を揺らす一撃を受けた人攫いは幼いミアを手放し、地面に崩れ落ちた。
そして地面に座り込みながら涙を拭う幼いミアを他所にスヴェンは人攫いを弄る。
フードの中に仕込まれたナイフを彼女に気付かれない内に自身の袖に忍ばせ、
「……立てるか?」
声色を変え淡々と問いかけては自身の対応に眉が歪む。
これではむしろミアを怯えさせてしまうのでは? そんな自身の失敗に内心で頭を抱えるスヴェンを他所に、幼いミアがズボンの裾を掴む。
「こ、わくて……た、たてない」
「あっちの通りで嬢ちゃんに似た女性が捜していた」
「ぱぱ、まま、あいたい……」
誘拐されかけ脅された事実がまだ幼い少女の心を傷付けるには充分だ。
恐怖で腰が抜けて立てないのも、両親が捜索しているっと知って立ち上がれないのも無理はない。
無理は無いが幼いミアをこのまま路地裏に放置するのも、別の人攫いに誘拐される危険が有る。
スヴェンは仕方ないっと幼いミアに背を向け屈む。
そして背中に幼いミアを担いだスヴェンは、
「……こわかった」
ポツリと涙声で啜り泣く幼いミアの声に無言で宿屋通りに歩む。
宿屋通りでミアを捜すアドラとミリファを発見したスヴェンは歩みを止めた。
涙を流しながら騎士に捜索を訴える二人。
人混みと周囲の声で会話は聴こえないが、四人の口の動きからどんな会話かは判る。
ーー誘拐事件発生、此処でミアを送り届けりゃあ職質は避けられねぇな。
騎士と接触して情報が記録されるのは拙い。
まだ若干距離は有るが此処は幼いミアに一人で戻って貰う他に無い。
スヴェンは静かに背中のミアを地面に降ろす。
そして戸惑いながら不安に染まる幼いミアにスヴェンは目線を合わせながら語りかけた。
「あそこに両親が居るだろ?」
彼女の両親の場所を指差すっと幼いミアが振り向く。
「あっ! ぱぱとままだぁ!」
両親の姿を眼にして安心し切ったのか、幼いミアがこちらに振り返って花のような笑顔を浮かべた。
「此処からなら1人で行けるな?」
「うん、ありがとう!」
手を振りながらアドラとミリファの元に駆け出すミア。
スヴェンは彼女が無事に二人の元に辿り着いた事を見届け、こちらの存在を知られる前にその場から素早く姿を消す。
人混みに紛れ北区を目指すスヴェンの背後でこちらを探すミア達の声を背にしながら。