傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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28-6.接触のために

 エルリア城下町の北区に到着したスヴェンは聴力を研ぎ澄ませ、各地の騒ぎ声に思案する。

 誘拐事件と同時に発生した洗脳による暴動事件が起きた。これでエルリア魔法騎士団は更に人員を割かれることになるが、恐らく二つの事件を解決して初めて野盗集団が城下町に攻め込む。

 となればラスラ司祭は何処かで城下町の様子を観察している筈だ。

 

「先ずは豪邸を調べてみるか」

 

 北区の中で他のレンガ造りの民家と違って異彩を放つ豪邸に視線を向ける。

 嫌というほど目立つが貴族の道楽と認識してしまえばそれは違和感にもならない。

 恐らくラスラ司祭はその辺を踏まえて建築された豪邸を買ったのだろう。

 何よりも広々とした敷地に地下室付きとなれば野盗崩れや荒くれ者を潜伏させるには丁度いい。

 スヴェンが豪邸に向けて歩き出すと、背後から確実に近寄る気配に視線だけを移す。

 

「お前も雇われか?」

 

 フードで素顔を隠した大男の問いかけ。

 同じくフードで素顔を隠しているこちらを同業者か仲間と勘違いして接触。

 騎士と接触してしまう危険性は有るがラスラ司祭と接触のチャンスが有るなら都合が良い状況だ。

 スヴェンは大男の問い掛けに無言で頷く。

 詳細をろくに確認せずこちらを仲間と認識したのか、大男は語り出した。

 

「混乱中のエルリアで人攫いなんざ、雇主も大胆だよなぁ」

 

 無言で頷くスヴェンに大男は気にした素振りも見せず。

 

「1人金貨100枚! ガキを5人誘拐するだけで追加で金貨600枚だぜ? どんだけ気前が良いんだか」

 

 一人に対する報酬としても破格だが、それを雇った四十人に支払うとなれば相当な金額だ。

 硬貨を持たない邪神教団がそれだけの金額を支払えるのか。

 生贄が欲しいだけで雇った連中に報酬を払う気は一切無いのかもしれない。

 むしろ単なる揺動に使うだけなら捨て駒として使い捨てるから最初から払う必要性など皆無だ。

 目の前の大男も捨て駒だと判断したスヴェンは漸く口を開く。

 

「どんな奴なんだ?」

 

「お? 接触した奴の話だと素顔は判らないかったが長身痩躯の男って話だぜ。まあ、拠点から見て何処の国の貴族様なんだかなぁ」

 

 長身痩躯の男。背格好が似てるならそれだけ後が楽だ。

 スヴェンはラスラ司祭の情報を頭に入れ、大男と豪邸に向かう。

 その道中で絶えず聴こえる騒ぎ声に大男が足を止めて。

 

「そういやぁ、町中が妙に騒がしいな」

 

 暴動が起きてる事を知らない様子でそんな事を口にした。

 誘拐なら誰にも悟られず、隠密で犯行に及ぶため騒ぎ声を同行者と結び付かない。

 此処で同業者の仕業を示唆すれば大男はこちらの素性を怪しむだろう。

 そもそも大男が暴動を知らないとなれば、彼等とラスラ司祭は情報共有を行っていない可能性が高い。

 完全な捨て駒として扱うなら情報を与える筈も無いが。

 

「これだけ人が集まってるんだから騒ぎぐらい起きるだろ」

 

 スヴェンが肩を竦めるながら大男の疑問に答えると、彼は騒ぎの聴こえる方向を見つめながら。

 

「祭りなら娘にも見せてやりたかったよ」

 

 大男の素性や過去など一切興味は無いが、娘と同じ歳の子を誘拐するとなればもう大男は娘をまともに抱き締めることはできない。

 犯罪者の娘というレッテルを貼られ後ろ指を刺されながら生きていく。

 スヴェンにとって大男の娘がどうなろうがどうでも良い事柄でしかない。 

 現に現代では既に大男も逮捕され罪人として裁かれている以上、彼の娘は犯罪者の娘として扱われているだろう。

 それとも既に娘は亡くなっているのか。スヴェンは自身の思考にどうでも良いことだなっと見切りを付け、

 

「……行かないか?」

 

 足を止めた大男に問いかける。

 すると大男は豪邸に真っ直ぐと歩き出した。

 

「もう止まれないよな……今更、今更罪悪感を懐くなんてよ」

 

 確かに紡がれた後悔を宿した声にスヴェンは無言で大男の背中を見つめる。

 この男は本来なら野盗崩れに身を費やすような性格では無かったのかもしれない。

 こうして改めて観察すれば野盗から感じる血の臭いが、業の深い臭いが感じられないのだ。

 むしろ背中には哀愁さえ漂う。背丈と筋肉質の腕から似合わない弱々しい背中にスヴェンは小さな息を吐く。

 どんなに弱々しい背中を見せられようともスヴェンの心と思考は冷徹で、目的の為ならば罪の意識に苛まれる大男を殺害することも厭わない。

 スヴェンはそんな思考を秘めながら大男と共に豪邸に近付く。

 

 門番がこちらを見るや素性を確認することもせず門を開け、スヴェンは落胆と呆れを内心で抱いた。

 所詮は野盗崩れと荒くれ者。互いの顔を知ってる訳でも無ければ素性を確かめもしない。

 これでは騎士が駆け付けて来るまで時間も無さそうだ。

 現に通りがかりの住人はこちらを訝しみ、自然体を装いながらエルリア城に続く通りを歩く始末。

 立ち去った住人から視線を外し、大男の後に続いて豪邸の敷地内に踏み込む。

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