傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

304 / 325
第二十九章 過去と現代
29-1.交戦


 警戒心を最大に周囲を見渡すラスラの背後でスヴェンはナイフを構える。

 気配を殺し首筋にナイフを一閃ーー風斬り音がラスラに奇襲を知らせ、彼は身を屈める事でナイフを避けた。

 一撃が避けられる事も想定範囲、スヴェンは素早くその場から離れ再度ラスラの背後に周り込む。

 魔力をナイフに纏わせ距離を詰める。だがスヴェンがラスラに近付いた瞬間、

 

「背後かっ!」

 

 ラスラの身体から放たれる魔力の衝撃波が迫る。

 魔力を纏わせたナイフで衝撃波を防ぐが、振り向いたラスラに姿を見られてしまう。

 

 ーー司祭相手に速攻って訳にもいかねぇか。

 

 黒い外套で素顔を隠したラスラが身構えながらこちらに問いかける。

 

「殺気を感じさせない奇襲……何者だ?」

 

 これから殺す相手にわざわざ馬鹿正直に答えてやる義理は無い。

 

「……」

 

 無言で再度ナイフに魔力を纏わせる。スヴェンの態度にラスラのため息が平原に響く。

 ラスラの様子などお構いなしにスヴェンは地を蹴り駆け出す。

 スヴェンに対してラスラは魔法陣を展開させ詠唱を唱える。

 

「『氷刃よ、我が敵を斬り刻め』」

 

 魔法陣から氷の刃が出現する中、スヴェンは魔法陣から魔法が撃たれるよりも速くラスラの真横からナイフを振り抜く。

 しかしラスラは身を引く事でナイフを辛うじて避ける。

 

「終わりだ」

 

 一刃を避けたラスラの宣言に魔法陣から氷の刃が放たれる。

 だが、例え刃が短くとも距離を詰める事は可能だ。

 スヴェンは氷の刃が迫る中、ナイフに纏わせた魔力で刃を形成し腰を捻りそのまま一閃を放つ。

 魔力の刃によって薙ぎ払われる氷の刃、確実に届く間合いにラスラが拳に魔力を纏わせ魔力の刃を弾く。

 渦巻く魔力を纏った拳。一見間合いに注視すれば容易に対処可能と思われるが魔力を扱う技に距離は然程関係ない。

 スヴェンが再度魔力の刃を振り抜くとラスラは構えを取り、拳を打ち出すことで魔力の衝撃波を放つ。

 

 魔力の刃と魔力の衝撃波の衝突。純粋な力の衝撃が周辺を襲う。

 

 スヴェンは魔力の刃で魔力の衝撃波を弾き、気配を殺しながら縮地を繰り出す。

 視界を揺さぶるように反復を織り交ぜながら。

 こちらを見失うラスラにスヴェンはやや離れた位置で突きを放つ構えを取る。

 魔力は推進力のように使えれば、魔力操作によって糸を生成する事も可能だ。

 更にラスラが放った魔力の衝撃波のように魔力を斬撃として放つこともできる。

 スヴェンはナイフで突きを繰り出し、直線上に細く鋭い一本の斬撃を放つ。

 斬撃がラスラの背中に迫るが、直前でラスラが僅かに動き斬撃が肩を穿つ。

 狙いが逸れるのも想定範囲内だ。しかしラスラは勘が鋭いのか攻撃が届く前に反応してしまう。

 それとも周囲に微量な魔力でも張り巡らせているのか?

 

 ーー反応しきれねぇ速度でやるしかねぇか。

 

 下丹田の魔力を全身に巡らせたスヴェンはより速い速度でラスラとの距離を詰める。

 だが、ナイフによる接近手段しか無いっと察したのか。ラスラは障壁を張ることでナイフの刃を防ぐ。

 火花が散り刃毀れするナイフにスヴェンの眉が歪む。

 やはり拾い物の武器はろくな物では無い。アシュナが鍛造するクロミスリル製のナイフが恋しい。

 

「諦めたら如何だ?」

 

 ラスラが障壁に護れて余裕の態度を見せる。

 同時に障壁に護れながらラスラは詠唱を唱え、魔法陣から闇の波動を放つ。

 スヴェンは闇の波動を跳躍することで避けるが、上空に魔法陣が出現し舌打ちを鳴らす。

 

「『岩石の雨よ我が敵を押し潰せ』」

 

 上空の魔法陣から岩石が降り注ぎ、スヴェンは息を吐く。

 迫る岩石の雨、宙では避け切れないがーースヴェンは身体を捻る事で岩石の直撃を避け岩石を足場に走る。

 岩石から岩石へ飛び移ることで岩石の雨を避けたスヴェンは、ナイフに練り込んだ魔力を流し込む。

 そして魔力で巨大な刃を形成したスヴェンは、宙からラスラに目掛けて一気に振り抜く。

 

「んなのアリかよ!」

 

 悪態を吐くラスラを他所に巨大な刃が障壁を押し潰し、障壁を砕く。

 巨大な刃がラスラを斬り裂くーーそれよりも速くスヴェンの脇腹を闇の矢が穿つ。

 障壁で防いでいる間に詠唱を完了させ反撃に移った。そう理解する中、鮮血が宙を舞う。

 脇腹に闇の矢が突き刺さろうともスヴェンは決して止まる事はない。

 スヴェンが巨大な刃を振り抜き、大地に衝撃が走る。

 砂塵が舞う中、地面に着地したスヴェンはナイフに亀裂が走る様子に眉を歪めた。

 魔力の刃を放つには強度が足りず、あと一振りで折れてしまう。

 加えて巨大な刃は確実に大地に振り下ろしたがラスラを斬った手応えが無い。

 砂塵が止み、ラスラが立っていた大地は巨大な刃によって斬痕が刻まれているものの肝心の死体は愚かラスラの姿がない。

 恐らくラスラは魔法で避けたのだろう。そして気配と魔力も感じられないのは、完全に気配を遮断しているからだ。

 こちらの技術を使われているが足音、息遣いまでは殺し切れていない。

 スヴェンは背後に振り向き様に魔力を纏った左拳を放つ。

 

 ガキィーン!! 拳が魔力の刃を弾き、ラスラのフードがはためく。

 

「猿真似は通じないか」

 

 悪態を吐くラスラにスヴェンは答えない。

 

「……」

 

 無言で構え直すが脇腹から流れ出る血。それを眼にしたラスラの口元が歪む。

 

「その出血量でいつまで保つ?」

 

 この程度の出血量で気を失うほど柔では無い。

 ラスラは魔力の刃を構え地を駆ける。

 それに対してスヴェンも地を駆けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。