城下町襲撃が起こる少し前。
城内が慌しい。
騎士の報告では城下町で誘拐事件と暴動が発生、そちらは主犯が発見されないものの事件は鎮圧された。
幼いレーナは不安そうな市民を前に駆け付ける騎士に訊ねる。
「なにが起こってるの?」
「はっ! 城下町に野盗共が攻め込みました!」
突然の城下町襲撃の知らせに謁見に訪れていた市民が惑う。
それはレーナも同じくだった。なぜ今日に限って、大事な日に限ってこうも立て続けに事件が起きるのか。
父と母も居ない。王族として民を護らなければならない責務が幼いレーナの肩に重くのしかかる。
怖い。誰かが傷付くのも、自身の判断一つで犠牲者が出ることも。
それでも替わりなど居ない。
幼いレーナは恐怖をひた隠しに平静を装う。
こんな時どうすれば良いのかは父から教わっている。優先すべきことは市民の安全だ。
「至急城内に駐留中の騎士を出陣させ市民を城内の地下広間へ! それと城下町で行動中の騎士と野盗の討伐を……っ」
「よろしいのですか? それでは城内の護りが手薄になりますが」
「市民の安全優先にお願い」
「御意!」
騎士は一礼すると伝令に謁見の間を慌しく駆け出す。
彼が立ち去ると同時にここに集った市民達の不安な眼差しがレーナに突き刺さる。
レーナは側に控えている騎士に視線を向け、
「彼等を地下広間へお願い」
謁見に訪れた人々の避難を促せば騎士はそれに応じて迅速に動く。
そして滞りなく避難は終わり、謁見の間に残されたレーナは護衛として残ったラオ部隊長と少人数の騎士を前に息を吐いた。
野盗の討伐は現場の部隊長の判断に任せるほかない。
レーナは身の程に余る玉座に深々と座り込む。
「どうして今日なの?」
事前に大々的に人々を集めて謁見することで新しい国の主導者として民の意見を求める日だった。
それがオルゼア王不在の留守を護る代役としての勤めだと言うのに事件が起きた。
騎士団の半数以上をオルゼア王捜索に当て、謁見に訪れる人々の護衛にも騎士団を派遣。
結果的にエルリア城を手薄にさせてしまった自身の判断が間違っていたのか。
もしも騎士団の戦力が半分なら野盗は攻め込もうなどと考えなかったのではないか?
レーナが不安と重積に苦悩する中、謁見の間のドアが開かれる。
ラピス魔法学院の制服を着こなし美しい銀髪を靡かせた美少女ーーフィルシスが屈託のない笑顔で歩む。
彼女が我が物顔で謁見の間に入って来たことにラオ達が頭を抱えるが、レーナは特に気にもせず彼女に視線を向ける。
「何やら大変そうだね姫様。私も手伝おうか?」
今すぐ野盗と戦いっと笑みを浮かべるフィルシスにラオが深くため息を吐く。
「貴女は学生の身、騎士の真似事は学院を卒業してからにしなさい」
まだ市民の彼女を討伐に向かわせないっと語るラオにフィルシスが詰まらそうな表情を浮かべる。
彼女は父の一番弟子にして現騎士団長すら凌駕する武術と魔法技術を持つ実力者だ。
それでも実戦は違う。武器と魔法で互いの生命を奪い合うことは鍛錬や修行とは異なる。
レーナはフィルシスをじっと見つめてもしもを考えてしまう。
混乱する城下町で野盗の凶刃にかかるフィルシスの姿を。
有り得なくはない。近しい人がまた居なくなるのは耐え難い苦痛だ。
「フィルシス……お願いだから無茶はやめて」
涙目でフィルシスにそう告げると彼女は慌てた様子で手を振る。
「じ、冗談ですよ姫様! だからその……ええっと、涙を拭いてください」
珍しく狼狽えるフィルシスに自然と涙が引っ込み笑みが溢れる。
レーナは願うこのまま何事も無く無事に事が終わることを。