中庭に侵入したスヴェンは気配を殺しながら外壁へ進むが、騎士甲冑から鳴る金属音に近場の茂みに身を潜める。
巡回の騎士が周囲を見渡し誰も居ない様子に不思議そうに首を傾げた。
「変だな、いま僅かに気配と魔力を感じたんだが……状況が状況だ。念入りに調べるか」
感じた疑問をそのままにせず念入りに周囲を調べ始める騎士の姿にスヴェンは思わず感心してしまう。
ざる警備とは違う。正に警備を任された者の責任在る行動に、やはり警備とはこう在るべきだと。
だが騎士が茂みを調べ始め、こちらが発見されるのも時間の問題だ。
それに動けば草木の音で必ず潜入がバレて戦闘に入る。
それならば仕方ないっとスヴェンは自身が隠れる茂みに手が伸びた瞬間ーー騎士を茂みに引きずり込み、声を挙げるよりも迅速に意識を刈り取る。
腰の騎士剣を拝借し、茂みから外壁に駆け抜ける。
そのままの勢いで外壁を足場に東塔を一気に駆け上がった。
東塔の最上階に続く窓辺で身を隠したスヴェンは息を押し殺す。
中庭の騎士を一人気絶させた。それは割り当てられた担当が一人戻らなければすぐさま捜索が始まり何者かの侵入が自ずとバレる。
まだバレるには早い。責めて城内に侵入してからの方が好ましいが、想定よりも騎士は職務に忠実で真面目だったらしい。
『おい! 誰にやられた!?』
『城内に侵入者有り!! 侵入者は武器を奪い潜伏してる模様っ!!』
拡声魔法でエルリア城に響き渡る声にスヴェンは眉を歪めた。
あまりにも早過ぎるっと息を吐く間に廊下から慌しい金属音が響き渡る。
「バレたけどどうするの?」
声を潜めて問いかけるミントにスヴェンは小さく答える。
「目的は変わらねえよ……このまま姫さんが居る謁見の間を目指すさ」
東塔の最上階から謁見の間までは遠い。だが馬鹿正直に廊下を進めば騎士の挟み討ちに遭う。
スヴェンは最上階から中庭の様子を覗き込む。
そこには既に集まった騎士と指揮を執る部隊長らしき人物の姿が見える。
草の根掻き分け中庭を一斉に捜索する騎士の姿にミントが顔を引きづらせた。
「人間ってあんなに数を動員するの?」
「姫さんの身の安全を考えりゃあ普通……いや、少ない方だな」
現代のエルリア城の見張りはもっと多い。それだけ城下町に攻め込んだ野盗に人数が割かれているのだ。
それも時間の問題だ。野盗程度ではエルリア魔法騎士団を相手に長く保つことは無い。
武装面と戦闘技術を遥かに上回る騎士の軍勢。それに対する野盗は荒くれ者に多少毛が生えた程度。
中には実力者も居るが少なくともラスラに招集された野盗にはそれらしい者は居なかった。
様子見する暇さえ無い。
スヴェンは外壁の最上階から謁見の間が在る一階に飛び降りては窓の縁を掴む。
そして窓を開け廊下に飛び込むと数人のメイドと鉢合わせしてしまう。
こちらをメイド達が発見するや瞬時にガーターベルトの鞘からナイフを引き抜く。
投擲の構えを取るメイド達にスヴェンが縮地で背後に回り込む。
全員の後頭部を強打する事で意識を奪い、ついでにナイフを五本ほど回収する。
ーー使用人が使うナイフも結構上等な代物だな。
鋭く鋭利で投擲を目的にしたナイフ。レーナに使う気は無いが、謁見の間から感じる威圧感を放つ者に対しては必要だ。
いや、恐らく甘さを捨てなければ投擲も通用しないだろう。
スヴェンは騎士剣を引き抜き、騎士が駆け付ける前に廊下を駆け抜ける。
程なくして到着する謁見の間の扉を蹴り破りーー同時に視界に火球が迫った。
魔力を纏わせた騎士剣で火球を斬り払い、謁見の間に踏み込む。
最奥の玉座に座る幼いレーナ。現代の知人の面影を感じる騎士とラピス魔法学院の生徒にスヴェンの眉が嫌そうに歪んだ。
半ば予想はしていた。レーナを護る者と言えば自然とエルリア魔法騎士団の中でも腕利の人物だと。
だが当時の騎士団長や副団長が待ち受けるかとも思っていたが現実は違う。
スヴェンの目の前に居るのは十一年の前のラオとフィルシス、そしてレーナの周りで護りを固める三人の騎士だ。
以前フィルシスはレーナが襲われる瞬間を騎士団の中で目撃していたと語っていたが、過去の記憶に食い違いが出るのは無理もない。
ーー最悪だな。ラオとは戦ったことがねぇがフィルシスはどの時代でも
騎士剣を構える五人の中でも取分け凄まじい魔力と覇気を放つフィルシスにスヴェンの額から冷や汗が浮かぶ。
彼女とは鍛錬で幾度なく殺し合いに近い手合わせを重ねて来たが、この時代のフィルシスが既に何処までの域に達しているのか計りかねる。
探りながら相手にしてる余裕も暇もない。何せ護られているレーナでさえ既に騎士を支援するために魔力を活性化させているからだ。
彼女のことだ。目的が自身だと判断して下手に避難せず被害を最小限に留めるためにこの場に未だ残っていたのだろう。
ーー前衛のラオとフィルシスに加えて姫さんの召喚魔法か。
エルリア城に攻め込む馬鹿は居ないだろうと鷹を括っていたが、実際にはその馬鹿は自分自身だった。
スヴェンは内心で浮かんだ思考を他所に謁見の間を駆け出す。
同時に左右からラオとフィルシスの斬撃が迫る。
ガキィーン!! 謁見の間に重々しい金属音と騎士剣の悲鳴が鳴り響く!