傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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29-6.強者

 スヴェンは軋む騎士剣に魔力を流し込む。

 それに対してラオとフィルシスも同時に自身の武器に魔力を流し込んだ。

 このまま二人の刃を防いでいては騎士剣が保たない。

 対峙する二人もそれを理解してるからこそ己の武器に魔力を流し込みこちらの行動に備えた。

 次の行動が読まれているなら敢えて此処は乗るしかない。

 スヴェンは騎士剣に纏わせた魔力を解放することで衝撃波を放つーーだが案の定、二人も魔力を解放することで衝撃波を放った。

 三人の衝撃波が謁見の間で衝突しスヴェンの衝撃波が掻き消され、身体が弾かれる。

 離脱を目的とするなら解放時の威力を抑えれば二人の衝撃波によって離れることができる。

 宙を舞うスヴェンは壁を足場にレーナの下を目指して跳躍した。

 

「させないよ」

 

 凛とした声が響く。

 レーナに迫る中、間にフィルシスが割って入る。

 彼女が放つ一太刀でスヴェンの身体は床に叩き付けられた。

 背骨が軋む。それでもスヴェンは素早く立ち上がり、背後から迫るラオの大剣を避ける。

 そして反撃と言わんばかりに魔力を纏った回転斬りを放ち、ラオを廊下まで吹き飛ばす。

 だが廊下ですぐさま反撃の一手に出るラオ。

 背後で魔力を練り込むフィルシスにスヴェンは騎士剣に纏わせた魔力を刃に形成させる。

 同時に床を蹴り駆け出すラオとフィルシス。また前後から迫られるなら対応は比較的楽だが、相手はあのフィルシスだ。

 二手目は初撃と違いタイミングを意図的にズラす筈だ。

 スヴェンはラオよりも先に迫るフィルシスに袈裟斬りを放ち、彼女が防いだ瞬間に後方のラオに奪ったナイフを投擲する。

 癖で急所に向けて放ったナイフは騎士甲冑の強固な守りに阻まれ床に弾かれる。

 たが人は咄嗟に飛来物に対して足を一瞬だけ止めてしまう。

 ラオが一瞬だけ足を止めた刹那の瞬間にスヴェンはフィルシスの一閃を身を屈めることで避けーー彼女の腹部に魔力の斬撃を放つ。

 後方の壁に衝突したフィルシスの表情は楽しげに笑っていた。

 

「はじめて実戦で人と斬り合ったけど、これは良いね」

 

 どうやら本格的にその気にさせてしまったようだ。

 だが彼女を無力化しない限りレーナに拳が届くことは叶わない。

 スヴェンが刹那の瞬間に思考を浮かべると、真横に孤月の斬撃が走る。

 冷や汗と共に視線を向ければ床に深々と刻まれた斬撃痕。

 

「……あまり損害を出すな」

 

「そうも言ってられないよ」

 

 苦言を漏らすラオにフィルシスは屈託のない笑みで答える。

 現代のフィルシスと然程変わらない口調。彼女は騎士団長になろうとも気質自体は変わらなかったのか。

 スヴェンは前方のフィルシスと三人の騎士に視線を移す。

 敵が放つ魔法を利用したいところだが、三人の騎士はいつでも魔法が撃てる状態だ。

 隙を見せればいつでも撃つ。騎士から感じる視線にスヴェンが動く。

 目前に迫るフィルシスの剣戟に対して斬り返し、敢えて腕の力を緩め彼女に騎士剣を弾かせる。

 騎士剣が宙を舞う中、フィルシスの刃がスヴェンの首筋を撫でる。

 迷いも躊躇もない一撃。

 彼女の言う敵ーーエルリアの市民と王族に危害を加える者に対する無慈悲な一撃がスヴェンの首筋に吸い込まれる。

 だが刃が首筋に到達するよりも速く展開された魔力の鎧がフィルシスの刃を弾く。

 同時に魔力の鎧はたった一撃で砕け散り、僅かに首筋に切り傷が走る。

 首筋から血が流れる刹那の一瞬--スヴェンがフィルシスに殺意を宿した手刀を放つ。

 明確な殺意を感じ取った三人の騎士がレーナの指示によって魔法を放った。

 

 --漸く魔法を撃ったか。

 

 飛来する火球と氷塊、雷球にスヴェンは魔力を纏ったナイフを投擲することで魔法を爆破させる。

 たちまち謁見の間に広がる煙に全員の視界が覆われる。

 スヴェンはその場から離脱し、一気にレーナの元まで駆けた。

 

「これは……狙っていたのかい?」

 

「バカな。賭けにも程が有る」

 

 フィルシスとラオの言葉が響く。

 確かにこれは魔法を撃たれるかどうかの賭け。

 放つ魔法の種類にも依存するが、煙幕を作り出すにはこうする他に方法も無かった。

 それでも何一つ油断はできない。

 ラオとフィルシスも気配で位置を探れる。と言うことは幾ら視界を封じようと意味は薄い。

 だがもうレーナは目前だ。

 スヴェンは魔力を纏った回し蹴りで三人の騎士の意識を刈り取る。

 あとは自身の拳でレーナの腹部を貫くばかり。

 スヴェンが魔力を纏った拳を構えた瞬間--レーナの声が響く。

 

「『契約せし氷結の大精霊よ、我が呼び声に応じ敵を無力化せよ』」

 

 膨大な魔力。一瞬で床に展開される召喚魔法陣にスヴェンの背筋が、この場の空気が威圧感によって凍る。

 召喚魔法陣から出現する存在ー-アシュナが召喚する風の精霊とは全く異なる存在がスヴェンの身体を吹飛ばす。

 凍り付く息を吐きながら現れた氷結の大精霊がレーナを護るように立ち塞がる。

 現代では見る事が叶わないレーナの召喚魔法。エルリアの敵を殲滅するための召喚魔法がこうして使われる身になろうとわ。

 まだ健在のラオとフィルシスに加えて氷結の大精霊。

 正に危機的な状況だがスヴェンはフードの中で嗤う。

 側に転がる騎士剣を拾い上げ、己の奥底から殺意を解き放つ。

 残り魔力、騎士剣のひび割れ。スヴェンは自身に残された少ない手札を念頭にその場を駆け出した。

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