傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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29-9.帰還と対価

 淡い緑の光が沈んだ意識を呼び起こす。

 スヴェンが眼を開くとそこにはミアの顔と月明かりの空が映り込んでいた。

 頭部に感じる感触から膝枕で自身の頭部を支えるミアに気付いたスヴェンは記憶を探る。

 なぜこんな状況になっているのか。記憶を探れば探るほど鮮明に呼び起こされる記憶。

 過去の時代から現代に戻った直後、自身を急激に襲った疲労感の影響で歪む視界の中でそのまま地面に倒れたのだ。

 倒れた原因を思い出したスヴェンは身体を動かそうとするも、両肩をミアに押さえ付けられる。

 両手に魔力を流し込んでまで押さえ込む彼女にスヴェンは思わず眉を歪めながら疑問を口にした。

 

「なぜアンタが此処に?」

 

「はぁ〜嫌な予感がして探してみればスヴェンさんが此処で、何もない平原で倒れてたんだよ。それも全身血塗れでさ」

 

「背中の大きな裂傷、貫通された腹部……一体何と戦ったらスヴェンさんがそんな重傷を負うのよ」

 

 消え入りそうな不安を宿したミアの声にスヴェンは何と戦ったのか無言を貫くことで回答を拒否した。

 

「むぅ、相談の一つや二つはして欲しいけど……さっき姫様が目覚めたって報せが届いたからきっとそういうことなんだよね……スヴェンさんの体内からは嫌な気配も感じるし」

 

 レーナの目覚めにスヴェンは安堵の息を漏らし、同時に察しの良いミアに。

 

「悪い、心配をかけたな」

 

「別に良いよ治療師として重症者を治すのが私の仕事だし……それに私とスヴェンさんはビジネスパートナーだもん」

 

 ミアはそんな事を言いながら笑みを浮かべて笑った。

 

「そうだったな」

 

 スヴェンはこちらを見詰めるミアから視線を逸らし、思考を別に向ける。

 レーナが目覚めたと言うことは、改変の影響は最小限に留めることができたのか。

 まだ判断は出来ないが一先ず空腹はどうにかしなければならない。

 

「腹が減った」

 

「美少女の膝枕の感想よりも空腹ですか、そうですかぁ」

 

「ぼくの契約者を誘惑しようとしないでくれる?」

 

 下丹田から姿を現した時の悪魔ーーミントの出現にミアは敵意を剥き出しに睨みながらその姿に疑問を口にした。

 

「なに? 時の悪魔って実は美少女だったの? でも私は遠慮なく殴れるよ!!」

 

 拳を構えるミアにミントは不敵な笑みを浮かべる。

 ミアの攻撃が一切通じないからこそ来る余裕の笑み。だがそれはミアも重々理解しているだろう。

 その証拠にミアはスヴェンの腕を持ち、ミントの腹部に拳を振り抜いた。

 しかしミントは不敵な笑みを浮かべ、

 

「さっきまで効いてたけど、残念だったね! スヴェンは既に過去に存在しているからもうぼくに危害を加えることはできないよ!」

 

 嬉々として過去に時間跳躍した弊害を語った。

 それは覚悟してしていたリスクだが、ガンバスターはまだ過去に存在していない武器だ。

 

「ガンバスターは効くんだろ?」

 

 そう指摘してやるとミントは無言で視線を逸らした。

 無言を肯定と捉えたミアが小悪魔のような笑みを浮かべる。

 

「じゃあガンバスターで殴ろうか」

 

「一発で気が済むなら安いもんだが、持って来るか?」

 

「今回はやめておく。事情はルーピン所長から聴いてるからさ、それにやっぱりかわいい女の子の姿だと流石に私の良心が痛むよ」

 

 戯けるミアを他所にスヴェンは何か言いたげなミントに視線を移す。

 

「対価の請求か」

 

「そっ、時間跳躍の往復分の対価はしっかり払って貰うよ」

 

「対価……スヴェンさんは何を要求されたの?」

 

 不安そうな表情で訊ねるスヴェンは簡潔に答えた。

 

「寿命」

 

 その瞬間ミアは察した表情を一瞬だけ浮かべ、すぐさま視線はミントに向けられる。

 

「人間、どうして憐れみの表情を向けるのかな?」

 

 事情を知らないミントは不思議そうに小首を傾げながら、こちらに掌をかざす。

 

「『我と契約せし者よ、力の代償として汝の寿命を貰い受ける』」

 

 詠唱と共にスヴェンの体内から何かが抜け出る感覚が襲う。

 これが寿命を抜き出す際の感覚なのか、到底言葉では表現出来ない感覚にスヴェンの眉が歪む。

 そして寿命を抜き取ったミントの表情が次第に高揚間が増し、

 

「ふふっ! これでスヴェンの寿命は尽きてその魂は永遠にぼくの物に……あ、れぇ??」

 

 自身の計画を暴露しながらいつまで経っても平然と生きているスヴェンにミントが首を傾げる。

 寿命が尽きた人間を隷属化させる。悪魔らしいやり方にスヴェンは納得しながらミアの拘束を跳ね除けて立ち上がった。

 改めて自身の身体を見渡せば容姿に変化はない。

 ということは寿命を抜き取る行為事態は、本来人が持つ生きられる時間を抜き取ったという事になるのか。

 スヴェンはジギルド司祭と自身を比較し、悪魔によって寿命の支払いは異なるのだと理解した。

 

「……あのぉ、100年分の寿命を対価として払って貰ったんだけどぉ? 何で生きてるの?」

 

「実はスヴェンさんは500年は生きられるんだって」

 

「500年……えぇ、人間が500年もぉ?」

 

「デウス・ウェポンの人間はな……それよか、もうアンタと契約する必要もねぇ。契約破棄はどうすりゃあ良い?」

 

 時の悪魔の力はもう必要ない。

 レーナを救う名目で使用した時の悪魔の力は、やはり人には過ぎた力だ。

 それを個人が契約し続けては後々面倒ごとを呼び込む種にしか成り得ないだろう。

 

「ぼく、用済みだから捨てられるんだぁ」

 

「言葉は選べよ? ってか契約する際に言ってる筈だが……」

 

「それはそうだけどさぁ……ああ、でも自由に過ごして良いって言ってたよね」

 

 強大な力を持つこの悪魔に自由という言葉の意味を履き違えられても困る。

 

「あぁ、人様に迷惑をかけねえ程度の自由だがな」

 

 念の為に釘を刺すとミントは笑みを浮かべながら、指に宿した魔力を操る。

 すると何かを断ち切る動作をしたかと思えば自身とミントの間に有った繋がりが途切れた。

 

「これで君とぼくの間に契約は存在しない……だけど、ミントって名乗り続けていいかな?」

 

「名乗るのは勝手だ、アンタの好きにしろ」

 

 それだけ告げるとミントは嬉しそうに宙を舞い、

 

「じゃあねぇ! ぼくはこれから自由に生きるよ!」

 

 そう言ってエルリア城の方に飛び去って行く。

 無性に嫌な予感がする気もするが、自身の天敵の側で生活するほどミントはアホではないだろう。

 きっとこの嫌な予感も疲れから来る勘違いなのかもしれない。

 

「悪魔ってあっさりしてるよね……それにしても随分とかわいい姿だったね」

 

「悪魔に性別の概念はねぇだろ? だから俺にとっちゃあアイツは戦場で出会す連中と同じようなもんだ」

 

 幾ら少女であろうとも性別など関係無く武器を持ち戦場に現れるのなら、それは戦士であり殺すべき敵でしかない。

 だからこそスヴェンにとってミントがいくら少女の姿になろうとも、眼に映るのは時の悪魔としか映らない。

 

「えっと敵味方ってこと?」

 

「まあ、そんなもんだな。時の悪魔の場合はただそこに居る悪魔程度の認識になるが」

 

「悪魔に対しても辛辣だねぇ……ねぇ、今からご飯食べに行かない? 私も食べたらすぐにエンケリア村に帰らないとだし」

 

 本来ミアは故郷で廃人になった者の治療を始める予定だった。

 忙しい彼女がわざわざ駆け付けてくれたのだ。

 

「忙しいアンタには世話になったからな、今日は奢る」

 

「うん! 私もお腹空いてるから沢山食べるよ!」

 

「おう、遠慮なんざすんな」

 

 二人はエルリア城下町の酒場に歩き出し、隣でこちらを覗き込むように上目遣いで懇願するように語りかける。

 

「お酒も呑んでいい?」

 

「普段なら断るところだが俺も今日は酒を呑みてえ気分だ」

 

 その後二人は酒場で飲食し、案の定酔い潰れたミアをエルリア城の騎士に頼んでエンケリア村の実家まで送り届けてからスヴェンは自宅に帰るのだった。

 なぜか地下室に勝手に棲み着いた時の悪魔の存在を無視して眠りに就くことに……。

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