傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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番外編
01.訳あり貴族令嬢


 学業が終わった放課後の帰り道、ラウルはふとなぜ水練の授業は男女別で温水施設で行われるだろうか?

 小慣れた帰り道で生じた純粋な疑問。エルナとロイなら何か知ってるかもしれないっと考え二人に疑問を問い掛けた。

 

「なあ? 今日は水練が有っただろ」

 

「ん? 有ったな。それが如何したんだ?」

 

「いやさ、なんで男女別なんだろうなぁって」

 

 言っていて内心でくだらない質問してるっと思いながらも二人に視線を向ければ、二人は足を止めて思案顔を浮かべていた。

 

「男女で体力差が生じる……それだと実戦授業も分けられるはず」

 

「プールは広々としてるから人数的な問題じゃないよね」

 

 考え込む二人を他所にラウルは教室で見た同級生の様子を思い出す。

 水練の準備のために更衣室に女子が移動した後、一部の男子が妙に鼻の下を伸ばしていた。

 もしかしたら水練が男女別なのと何か関係が有るのかもしれない。

 

「あっ、そういえば水練は初等部からずっと男女別って聴いたことあるかも」

 

「じゃあ男女別に別れるのが普通なのか」

 

「私達にとっての疑問はあの子達にとって普通なんだと思う」

 

 五歳から入学した一般生徒と違って自分達は十一歳からの途中入学だ。

 クラスでも既に仲の良い友人が固まっているが、それでもクラスメイト達は自分達を温かく歓迎してくれた。

 

「些細な疑問で変な奴って思われるのもちょっと嫌だな」

 

「そうだな、せっかく馴染めて来た所で距離感が空くのは寂しいな」

 

 三人は互いに顔を見合わせ頷き合う。

 さっきの疑問は自分達の胸の内にしまって忘れようと。

 

「あ、そう言えば今日からのご飯当番如何する? まだ決めてなかったよね」

 

 家事全般はスヴェンが熟していたからいざ自分達で用意するとなると少々億劫に思える。

 それでも全く経験が無い訳ではないが、面倒なもの面倒というのが正直な本音だ。

 ただ寮と家を行き来する生活をするということは、必然的に四人で生活するということ。

 そこで一人だけ面倒だからやらないなんて言えば、不和を生むか最悪スヴェンに飯抜きを言い渡せるかもしれない。

 

「アニキが居ない初日だから3人でやるのはどうだ? ぶっちゃけおれはあんま料理できないし」

 

「ラウルは野営生活が長った筈なんだが、料理が不得意って意外だよな」

 

 思えば野盗時代は獲った動物や魚を串に刺して焼いて食べる生活ばかりでまともな料理をする事は無かった。

 そもそも行商人から掠奪を働くにしても運搬してる荷物に都合よく香料や調味料が入っているとは限らず、根無草の生活も合間ってそう多くの荷物を携行できなかったのも理由の一つだ。

 

「獲物を獲るのだけでも大変だったんだよ」

 

「判るかも。魔法で仕留めようとするとすぐに反応して逃げられちゃうもんね」

 

「あー、そう言えば敏感だもんなぁ」

 

 二人も元邪神教団の異端者だ。宿屋で泊まるにも危険性が伴う関係で必然的に野宿になるか、邪神教団の拠点で宿泊するかの二択。

 ラウルは互いに苦労したなぁっと溢せば、エルナとロイも苦笑を浮かべた。

 

「まだ俺達は11歳なんだが?」

 

「まだまだ子供だから苦労話には早いかなぁ。それに若い内から苦労し続けると老け顔になるって聴くし」

 

「渋くてカッコいい大人に成長できれば良いんだけどなぁ」

 

「ラウルに渋さぁ〜? うわぁ似合わないなぁ」

 

「うわぁってなんだよ、うわぁって」

 

 理想の大人になるのもまだまだ先の事だ。だと言うのにうわぁっと眉を顰められるのは失礼な話だ。

 ラウルがため息混じりでエルナを睨むと路地から突然人が飛び出し、反応が遅れたラウルは避けることができず、

 

「きゃあ!」

 

「うわっ!」

 

 路地から飛び出した少女と衝突してしまった。

 突然のことに尻餅付いたラウルは立ち上がりぶつかった少女を一目見て息を呑んだ。

 華奢な身体、目鼻立ちが整った小顔、長い桃色髪、首からペンダントをぶら下げ可愛らしいドレスを着こなした少女にラウルは手を差し伸べる。

 

「大丈夫か?」

 

 訳ありそうな少女は少しだけ迷いを見せながらも路地から響く足音にラウルの手を掴む。

 

「ありがとうございます。いえ、ぶつかってしまい申し訳ありませんでしたわ……先を急いでるので失礼致します!」

 

 少女はそのまま職人通りの方に走り去り、遅れて二人組の黒服の男が路地から現れた。

 

「どっちに行った!?」

 

「クソ、逃げられると事だぞっ!」

 

 少女を追う不審人物、ここはエルリア魔法騎士団に通報するべきだ。

 そう判断したラウル達は視線を動かして近場の騎士を探すも、如何やらこの付近に騎士は居ないようだ。

 間の悪さに息を吐くと二人組の男がこちらに近付く。

 

「やぁキミ達、この辺で桃色髪をした少女を見なかったかい?」

 

 脅すでも無く穏やかな口調で訊ねる男にラウルは職人通りとは真逆の方向を指差して。

 

「桃色髪の少女ならあっちに行ったよ」

 

「よしあっちだな!」

 

 そのまま二人組は職人通りとは真逆の方向に駆け出した。

 

「悪い嘘付きだねぇ」

 

 揶揄うエルナにラウルはわざとらしく肩を竦めながらしたり顔を浮かべる。

 

「嘘は言ってないよ。この辺で桃色髪の女の子って別に珍しくないだろ」

 

 人混みの中で確かに桃色髪の少女が職人通りとは真逆の中央通りに向かう姿を目にしているのだ。

 だから嘘では無いし黒服の男達に何か言われても誤魔化しは効く。

 だが問題はさっきの少女がなぜ追われていたのかだ。

 

「それにしてもさっきの女の子、なんで追われてたんだろうな?」

 

「エルリアで貴族絡みの問題だと跡継ぎとかかなぁ? 稀に側室の子が荒くれ者とか雇って誘拐事件を起こすことも有るんだって」

 

「跡継ぎ問題ならうちに依頼が来ない限りは関わるべきじゃないかもな」

 

 ロイの意見も尤もだ。

 依頼人としてボディガード・セキリュティを訊ねるなら依頼を請けられる。

 だが、そうで無いなら近場の騎士に伝えて桃色髪の少女を保護して貰った方が遥かに安全だ。

 それでも心は先程の少女の手助けをしてやりたいっと訴えている。

 一目惚れとは違う。ただ単に元野盗だった自分自身ができる償いの一つとして困ってる少女を助けてやりたいのだ。

 

「なあ、やっぱ依頼とは関係無しに贖罪の意味も兼ねて助ける……までは行かないけど手伝うべきじゃないか?」

 

 自身の意見に二人は顔を見合わせ、やがて笑みを浮かべた。

 

「お前ならそう言うと思ったよ」

 

「でも私達が無償で人助けをしちゃうとボディガード・セキリュティを単なる便利屋だって勘違いしちゃう人が増えるからあくまでも依頼としてだね」

 

 無償で人助けをするのは余程のお人好しだっとスヴェンは言っていたが、確かに贖罪の意味も兼ねているが危険が伴うならそれなりの対価は求めるべきだ。

 

「じゃあ寄り道せずこのまま帰るか。幸い職人通りに向かったしな」

 

 歩みを再会させた三人は職人通りに進む。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 職人通りを進み、件の桃色髪の少女が見当たらないまま路地裏から裏通りの自宅に到着すると。

 桃色髪の少女が周囲を警戒しながら自宅の前で待っていた。

 つまり彼女の目的は元々ボディガード・セキリュティに依頼を出すためだった事が判る。

 ラウル達は互いに顔を見合わせ、普段通りの会話を織り交ぜながら桃色髪の少女に近付く。

 

「あっ、あなた方は先程の……」

 

 こちらに気付いた彼女は会釈を混ぜながら微笑みを浮かべた。

 

「およ? うちに何か用事でも有るの?」

 

「うちという事はあなた方はボディガード・セキリュティの関係者でしょうか?」

 

「実はおれ達は此処で住み込みで働かせて貰ってるんだ。まあ、学生だから寮を往復しての生活だけどさ」

 

 ラウルが答えると桃色髪の少女は微笑みを曇らせ、次第に顔色が困惑に染まる。

 

「えっと、オーナーのスヴェン殿は?」

 

「スヴェンなら次の依頼に向けて留守にしてるんだ」

 

「そ、んな……アラタさんの紹介でスヴェン殿なら護ってくれると聴いていたのに」

 

 確かにスヴェンなら確実に彼女を安心させながら護れるだろう。

 それでも自分達もボディガード・セキリュティの一人だ。彼に不在中の依頼を任された身としてやり遂げる覚悟は有る。

 

「そのスヴェンからおれ達は不在中の依頼を任されてるんだ」

 

「でも子供3人の護衛は不安だよね? 騎士を呼ぶまでうちで保護することもできるけど」

 

 エルナの提案に桃色髪の少女は困った様子で首を横に振る。

 

「い、いえ騎士は不要ですわ……ですからわたくしはあなた方に依頼を出しますわ」

 

 騎士は不要。それだけ騎士を頼れない事情が有る事が判った。

 貴族が騎士を頼れない理由がなんなのかは現状では判らないが、訳あり貴族は何処の国でも居るものだ。

 

「じゃあ詳しい話は中で話そ」

 

 エルナが桃色髪の少女を先導し、自宅の鍵を開けて中に案内する。

 そんな中、ラウルとロイは周囲を見渡して人が居ない様子を確認してから事務室に向かう。

 事務室で依頼の契約を済ませる前にソファに座ったエルナが彼女に質問する。

 

「それじゃあ先ずは自己紹介から行こっか。私はエルナ、背後2人はロイとラウル。あっ、ラウルは冴えない顔の方ね」

 

 余計な一言を付け加えたエルナに思わずため息が漏れる。

 

「エルナさん、ロイさん、冴えない顔のラウルさんですわね」

 

「いや、冴えない顔は付けなくて良いからね?」

 

「面白そうだったのでつい……っと紹介が遅れましたわね。わたくしはバレルット男爵の娘リゼッタと申しますわ」

 

 バレルット男爵。知らない男爵の名前にラウルが首を傾げる中、エルナが思案顔を浮かべ。

 

「確かバレルット男爵ってエルリア東部の鉱山の運営を一手に取り仕切ってる人だったよね」

 

「えぇ、よくご存知ですわね。……ですが、その父上が先日不慮の事故でお亡くなりなりまして」

 

 不慮の事故と先程の黒服の男達。事件を疑わせるには充分な判断材料だが、それなら騎士が彼女の身辺警護に就く筈だ。

 

「不慮の事故? 暗殺とか??」

 

「いえ、そう言った薄暗いことでは無くてですね。移動中にモンスターに襲われまして……」

 

 リゼッタの表情が悲しみに歪む。

 父をモンスターに殺され失った悲しみはまだ癒えきって無いのだろう。

 

「ごめん、無遠慮だったね」

 

「いえ、大丈夫ですわ。それよりも問題は今回の件ですの」

 

「さっきリゼッタを追いかけてる黒服の男達と会ったけど、今回の件絡みってことかな」

 

「えぇ、側室の妻に雇われた追手ですわ。わたくしの母上と側室の妻は仲が余りよろしくありませんの。その関係なのでしょうか、わたくしも目の敵にされておりまして」

 

「うーん、跡継ぎ問題かなぁって予想はしていたけど……それなら如何して騎士団を頼らないの?」

 

 エルナの質問にリゼッタは苦笑を浮かべた。

 

「実は父上が不測の事態に備えて残していた遺言には、跡継ぎをわたくしに指名するという記載と家督を継ぐ条件として書類が受理されるまでの間に起きた困難を騎士に頼らず解決することが記されていまして……」

 

 遺言に条件を記載されてる以リゼッタは遺言に従わなければならない。

 それが側室の妻がつけ入る隙を与えたと考えられるが、恐らく騎士の介入で側室の妻とその子供が捕まることを防ぎたかったのか。

 ラウルは話を聴きながらそんな推測を浮かべた。

 

「また厳しい条件だね」

 

「父上は側室の妻も愛してましたの。もしも彼女に息子が産まれていれば、家督はその子が継いでいたでしょうね」

 

「それって……それは側室の妻からしたら面白くないのかも」

 

 貴族の社会はよく判らないが、結局のところ側室の妻に男の子が産まれていたら立場が変わるだけで何も変わらないのかもしれない。

 正妻と側室、男としてハーレムは夢に見てしまうがいざ跡継ぎ問題に直面すると夢というのは醒めてしまうらしい。

 ラウルは結婚するなら好きな女性一人だっと心に誓い、

 

「それで書類が受理される日はいつなんだ?」

 

 護衛日数を訊ねた。

 

「明日の17時ですわ。それまでにペンダントを持って大通りの裁判所に行けば引き継ぎ完了ですの」

 

 明日の十七時までに裁判所まで護衛すれば依頼完了となる。

 時間までに向かう。それまで自宅で匿うのは当然だが、いつも不測の事態を予測しなければならない。

 スヴェンがいつも当然のようにやっていることを。

 

「それじゃあ依頼書にサインと提示する報酬額を書いてね」

 

 リゼッタはエルナに言われた通りに依頼書に記載を終え、

 

「それでは時間まで護衛をお願いしますわ」

 

 改めてこちらに頭を下げたのだ。

 

「明日は丁度学院も休校日だったしな」

 

「うん、貴族の口に合うか判らないけど夕飯の支度するね」

 

「じゃあ俺とエルナでやるからラウルは彼女を頼む」

 

 そう言って二人は足速に二階のキッチンに向かい、残されたラウルとリゼッタは静かな空間に戸惑う。

 不思議と訪れる緊張感を感じながらラウルは窓のカーテンを閉める。

 庭から黒服にリゼッタの姿を見られても拙い。

 仮に襲撃されても一旦地下室に匿うか、屋根を移動して移動することも可能だがーーどんだけ雇われてんのかな?

 

「そういえば、黒服はどれぐらい居るんだ?」

 

「わたくしが把握してる限りでは20人、身なりこそ黒服で固めていますが正体は荒くれ者ですわ」

 

「20人……荒くれ者でも油断はできないなぁ」

 

「そうですの?」

 

「これはアニキーースヴェンがいつも言ってることなんだけど、常に不測の事態は予想しろ、決して相手が誰だろうと油断すんなってさ」

 

 スヴェンの教えを告げるとリゼッタが興味深そうに眼を細めた。

 

「そのスヴェン殿はアラタさんと知り合いだそうですが、何者なのでしょうか? あっ、普段通りの呼び方で構いませんわよ」

 

「うーん、おれ達実はアニキの交流関係ってよく知らないんだよな」

 

 ラウルは敢えてスヴェンが異界人だということを伏せた。

 ラピス魔法学院や町中でよく耳にする異界人の悪い評判や悪印象が、スヴェンに対して悪い印象を与えかねないからだ。

 

「なんでも窮地を助けて頂いたとか」

 

「そうなんだ。そのアラタって人はどんな人なんだ?」

 

「アラタさんはフェルシオンのユーリ伯爵の代理人を勤める使用人のお方ですわね」

 

 アラタの話にラウルは不思議そうに首を傾げた。

 疑問を察したリゼッタはこちらの様子を見て微笑む。

 

「通常なら子が家督を継ぎ領主経営をするものなのですが、業務内容を把握し、住民からの信頼も厚いアラタさんなら代理人を任せられるとオルゼア王が判断さなったのですわ」

 

「うーん、それじゃあ今回の件はオルゼア王が介入できないことなのか」

 

「オルゼア王が貴族の跡継ぎ問題に介入するのは、当主に不測の事態が起こり家督を跡継ぎに継がなかった時ですわ」

 

 なんとなくラウルはアラタの身の回りで起きたことを想像し、そこで偶然スヴェンと出会い助けられたのだと理解した。

 だからアラタがスヴェンをリゼッタに紹介したのも信頼からだ。

 ラウルが改めてスヴェンの背中の大きさを理解すると事務室にエプロンを着けたエルナがやって来る。

 

「あら、可愛らしいエプロンですわね」

 

「私のお気に入りだよ。っと夕飯が出来たから呼びに来たけど2人とも楽しそうだね」

 

「えぇ、彼のおかげで緊張がほぐれましたわ」

 

「うんうん、それは良かったよ」

 

 それから二階のリビングに向かい少し早めの夕食を済ませ、リゼッタに屋内を案内してからエルナと彼女は共に入浴することに。

 リビングでコーヒーを呑むロイにラウルは問う。

 

「それで? 2人のことだから調理中に明日の予定を考えてたんだろ」

 

「あぁ安全を取るのは当然として……裁判所までの道のりは遠回しになるな」

 

「まあ、20人の黒服が裁判所付近を見張ると考えると戦闘も避けられないよなぁ」

 

「本当なら先手を打ちたい所だが、不在中にエルナとリゼッタが襲われる可能性も有るからなぁ」

 

「そうだよなぁ〜魔法で黒服の居場所が判れば楽なんだろうけどさ」

 

 そんな楽になる魔法はきっと無いだろう。

 仮に有ったとしても発動できるとは限らない。

 ラウルは自身が扱える魔法で護衛を達成せるしかないっと思考する中、

 

「もしもの時はラウル、お前がリゼッタを裁判所まで連れて行け」

 

 そんなもしもの事をロイが口にした。

 縁起でも無いがもしもが起こらないなんて事は低い。

 それはミルディル森林国の邪神眷族復活で身に沁みて理解している。

 だからこそラウルはロイの言葉に深妙な表情で頷く。

 それにロイとエルナは実戦慣れしているため、大人が相手でもそう簡単に遅れを取ることは無い。

 

「もしもの時は任せてくれよ。硬質化魔法を使ってでも盾になるさ」

 

「頼もしいけど無茶はするなよ」

 

 ラウルはロイに笑みを浮かべ、無茶はしないっと告げ自室に戻る。

 明日の移動か襲撃に備えて早めに休むために。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 翌日の十三時、ラウル達はフードを被せたリゼッタを連れて職人通りの表通りに出ていた。

 物陰から道路の様子を伺えば道路を見張る黒服の三人が通行人に眼を光らせ、

 

「この辺で桃色髪の少女を見なかったか?」

 

 リゼッタの所在を訊ねた。

 

「さあ? 桃色髪なんて珍しくも無いからなぁ。それよりも通行の邪魔だよ!」

 

 黒服を押し除けて通行人はそのまま装飾店に入り、黒服達が舌打ちを鳴らす。

 

「一体何処に行ったんだ?」

 

「城下町に居るのは確実だ」

 

「全く広い城下町を20人で捜って方が無理が有る」

 

 不満を漏らす黒服の言う通りだ。

 たった二十人程度で広い城下町からたった一人の少女を見付けることは難しい。

 ただ彼等の居る場所が最悪だ。職人通りから各通りに向かうには必ず通る必要が有る道路で見張られては思うように動けない。

 ラウルがどうにかして気を引けないかと思案する中、

 

「『銀の鎖よ、標的に絡み付け』」

 

「『闇よ、標的から光を奪え』」

 

 エルナとロイが詠唱を唱え、魔法陣から銀の鎖が飛び出した。

 銀の鎖が黒服に気付かれ無いように背後から迫り、一瞬で巻き付くとそこに畳み掛けるようにロイの闇の魔法が黒服達の視界を覆い隠す。

 動きを封じられ視界も失った黒服達を他所にラウル達はリゼッタを連れてその場を急いで離れる。

 背後から黒服達の騒声が聴こえるが、敢えて騒がせる事で黒服の注意を職人通りに逸らす。

 上手くいけば儲けだがそう簡単には行かないのが現実だ。

 職人通りから大通りに続く道路を走り抜け、大通りに到着すると裁判所の周辺を囲む十七人の黒服の姿にラウル達は深いため息を漏らした。

 

「あれ待ってればいずれ来るからそれまでサボってようぜ! って感じに見えるんだけど」

 

「待ち伏せは予測通りだが……さて如何やって突破するか」

 

「? さっきの魔法で拘束しちゃえば良いのでは?」

 

「ああも散開してると気付かれるかな。一箇所に纏まってくれたら良いんだけどねぇ」

 

 かと言って町中で攻撃魔法の使用は禁じられている。

 現状で使える魔法は造形魔法、闇属性の支援、妨害魔法、硬質化魔法だけ。

 この中で最も拘束力の有る魔法が造形魔法だけになる。

 スヴェンならきっと高速移動で黒服に悟られず無力化してしまうのだろう。

 だが生憎と自分達にはスヴェンのような身体能力は無い。

 ラウルは切れる手札とどう行動すれば安全にリゼッタを裁判所に連れて行けるか。

 職人通りで放置した黒服三人が魔法から解放されるまで五分の猶予は有るが、リゼッタを隠して戦闘するにもやはり五分という制限時間が気掛かりだ。

 それならエルナとロイに跡を任せ、自分は彼等を一箇所に集める他にない。

 

「おれがアイツらを引き付ける」

 

「一箇所に集まるか、最低十人が集まったら魔法を使うよ」

 

「ラウルの案以外に打てる手は無いか。気を付けろよ?」

 

「おう、いざって時は魔法で身を護るさ」

 

「あの、怪我だけはしないでくださいね」

 

 リゼッタの不安そうな眼差しにラウルは笑いかけ、そのまま裁判所に駆け出す。

 そしてラウルは黒服達の前で立ち止まり、指先を彼等に向ける。

 指先を向けられたことに訝しむ黒服と裁判所前を避けて通る通行人の視線がラウルに注がれる。

 確かに町中で攻撃魔法は使用できないが、詠唱破壊した魔法や悪戯用の魔法は違う。

 ラウルは指先に魔力を集め水を生成する。

 そして指先から水を放つ事で黒服に顔に掛けた。

 顔が濡れた黒服は怒りを露わに拳を鳴らし、

 

「おい、ガキっ! 随分と舐めたことしてくれるじゃあないかっ!」

 

 一人目がラウルに近付くとまるで憂さ晴らしでもするかのように十六人の黒服が近付く。

 まさか全員釣られてるとは思っても見なかったラウルは頬を引き攣らせた。

 

「や、やだなぁ! ちょっとした悪戯じゃないか!」

 

「へっ! 運が悪かったな! 俺達はターゲットを中々捕まえられなくて苛々してたところなんだよ!」

 

 黒服の拳が振り抜かれ、通過人の誰かが悲鳴を叫ぶ。

 

「『我が身よ、鉄に変えよ』」

 

 硬質化魔法を唱えたラウルの顔が鉄に変わり、黒服の拳から鈍い音が鳴り響く。

 腕を痛めた黒服の一人が蹲りる中、ラウルの足元を銀の鎖が駆け巡る。

 そして銀の鎖があっという間に黒服達の足元を絡め取った。

 バランスを崩し一斉に地面に倒れ込む黒服達。そこにロイの闇の魔法が追い討ちをかけるが如く黒服達を闇に包む。

 

「く、暗ぁっ!?」

 

「や、闇がぁぁぁっ!!」

 

「おお、大いなる闇よ。わたしを祝福してくだされっ!」

 

 騒ぎ立てる黒服の中に一人だけ妙な事を口走る者が居るが、ラウルはツッコミたい衝動を抑えてリゼッタ達に振り向き手を振った。

 闇に包まれた黒服達を他所に裁判所に駆け込み、ラウル達はリゼッタの手続きと家督相続を見届けーー騒ぎを聞き付けて駆け付けたエルリア魔法騎士団に事情を説明してから事務室に戻るのだった。

 

「今日はなんと御礼を申し上げれば良いか」

 

 城下町の荷獣車乗り合い所で感謝を告げるリゼッタに三人は笑みを向ける。

 そんな彼等をリゼッタは抱き寄せ、

 

「この御恩は忘れませんわ。何か有ったら我が家をいつでも訊ねてください」

 

 そう言ってリゼッタは微笑みながら騎士団が護衛に就く荷獣車に乗り込んだ。

 ふわっとした優しい甘い香りにラウルは呆然と走り出す荷獣車を見詰め、エルナに横腹を突かれて漸く現実に戻る。

 

「帰って夕飯の準備だよ。昨日は私とロイが担当したから今日はラウルねっ!」

 

「せっかくだから外食にしないか? ほら初めて3人で依頼を達成した記念にさ」

 

「良いな」

 

「じゃあさ! お魚料理が美味しいって評判のあのお店に行ってみない?」

 

 昨日は肉料理だった事を頭に浮かべたエルナの提案に二人は賛同し、さっそく店に向かうのだった。

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