自宅の二階リビングでエルナの作った朝食を食べるスヴェンは、何か言いたげな視線を向けるエルナ達に視線を移す。
「今日は1日家でゆっくりする予定だが……」
「ほんと!? じゃあ今日はさ、みんなで写真撮ろうよ!」
喜ぶエルナの提案にスヴェンはロイとラウルが密かに拳を合わせる様子を見逃さず、彼らがこの日のために準備していたのだと悟る。
ふと朝食を貪るミントに視線を移し、
「……悪魔の威厳ってのはもうねぇな」
地下室で惰眠と怠惰を貪り使い魔と戯れる日々を過ごし、飯時だけこうしてリビングで飯を食うだけの居候と成り果てた悪魔。
もはやただの引きこもりだ。かと言って力を借りるかと問われればそれも違う。
実際にエルナ達はミントと契約することは拒絶している。
過ぎた力を持つことの意味を既に理解している三人にとって自身の力を高める方が遥かに有意義なことだと理解してるからだ。
「ねぇ? お兄さんが居なくなった後、もしも私達がバラバラになったらどうするんだろうねぇ?」
「その時はぼくを養う権利を与えるけど?」
「いや、エルナを養うのに忙しいな」
「おれもロイと協力してエルナを養うので余裕が無いかもなぁ」
「私も2人に養われるので忙しいから無理かな」
「結局バラバラになってないよねっ!?」
朝から騒ぐミントを他所にスヴェンはたまごをサンドを齧り付く。
咀嚼して飲み込むでから三人に視線を移す。
「本当に良いのか? ボディガード・セキリュティを引き継がずともアンタらには別の道も有ったろう」
「うーん、私も他の道を考えたけどね……やっぱりお兄さんがこの家を残してくれるとなると、私達家族で経営してきたボディガード・セキリュティは残したいんだぁ」
「それにお兄さんの公的記録ももう無いから……責めて私達はお兄さんが居た証になりたい。それはきっとレーナ姫もミアのお姉さんも同じ気持ちだと思うんだ」
本来なら自身の記録は遺すべきでは無い。この考えは三年前から変わらないが、万が一この世界に再び戻ることが有れば帰る家は必要なのかもしれない。
いや、本来なら家族が居る家こそが帰るべき場所なのだ。
それでもスヴェンにはデウス・ウェポンでやり残しが多い。それを片付けるのにどれぐらいの期間が掛かるか判らないが、
「そうかい……なら俺も選ばねえとな」
このボディガード・セキリュティを残すなら後を任せるオーナーを決めるべきだ。
エルナ達からボディガード・セキリュティの経営を続けると言われた時から考えていたことだが、やはり事務や社員の事を任せられるのは一人しかいない。
「エルナ、アンタに次のオーナーを任せる」
スヴェンがエルナに告げると彼女は笑みを浮かべた。
「嫌だよ」
断れてしまっては無理強いはできない。
「そうかぁ」
「やっ! 諦めが早すぎじゃないかアニキ!?」
「エルナも何で断ったんだ? 日頃だらだらしながら人をこき使いたいって言ってたじゃないか」
エルナはふぅっと一息吐くとこちらに向かって真剣な眼差しを向ける。
「私がオーナーを引き継いだらお兄さんは此処に帰って来る選択を排除しちゃうかなぁって。それも嫌だからあくまでもオーナー代理なら引き受けても良いよ」
彼女なりに考えが有ってのことは判る。
何よりもエルナは心から帰って来る事を望んでいる。
それを改めて実感したスヴェンは改めてロイとラウルにも視線を向ければ、二人も帰って来てっと言わんばかりの哀しげな眼差しを向けていた。
「こればかりは確約できねえが、姫さんと召喚契約が残っている限り俺は自分の意志で姫さんの元に自身を召喚できるらしい」
「じゃあ姫様がアニキをまた召喚しなくても済むのか」
「だが、向こうの状況次第で帰れねえかもしれねえし……やり残しで何年かかるかも判らん」
当初の自分なら想像も及ばなかっただろう。
偶然再会し、最初は単なるボランティアとして雇った三人の子供が自身の事を家族と呼びーー家族を得た事を。
そしてテルカ・アトラスで出来た縁が捨て難い貴重な物に変わっていたことなど当時の自分なら想像もできなかったことだ。
「まあそれでも得ちまった縁を捨てるなんざできねえからなぁ。何年かけようがこの家にまた帰って来るさ」
「やったぁっ!! お兄さんが帰って来てくれるなら家族全員でまた暮らせるねっ!」
「ああ! スヴェンさえ帰って来るならそれ以上の望みは要らない!」
「おれもまだまだアニキから学ぶことが多いからなっ!」
喜ぶ三人を他所にミントが徐に呟く。
「あれ? ぼくのことは無視なの?」
「ミントはクロと同じペットみたいなものだからねぇ〜」
「あっ他人扱いじゃないだけ良いかも」
時の悪魔がそれで良いのか? 出掛けた言葉をグッと飲み込んだスヴェンは息を吐く。
「まあともかくこれからもエリシェとは契約継続になるか」
「ミアお姉さんともだね。契約更新の手続きは私でやっておく?」
「いや、まだ帰還まで日は有る。今日にでも更新に行くさ」
「それなら都合が良いんじゃないかエルナ?」
ラウルの言葉にエルナは懐から魔道念写器を取り出し、勢いよく立ち上がる。
「さっき言った家族写真とエリシェお姉さん達とお兄さんのツーショット写真も撮るよ!」
「いや、家族写真だけで充分だろ。ってかそれぞれ予定ってもんがあんだろうが」
「甘いなスヴェン。エルナはこの日を見越して全員と予定を既に合わせてるんだ」
「あー、俺が戻って来ることも織り込み済みってことか」
「ううん、それは本当に予想外だったよ。ただお兄さんと思い出を個々で持って置きたいと思ってさ、ほらレーナ姫とミアお姉さんなんかは特にね」
本来写真を撮られることは苦手だが、三年も世話になった者達に対する責めての礼としては一つの形でアリなのかもしれない。
そんな事を考えながら朝食を食べ終えたスヴェンは早速出掛ける準備に移り、留守をミントに任せて四人でエリシェの所へ。