スミスを訪れたスヴェン達を出迎えたエリシェが、
「待ってたよ!」
相変わらず元気の良い声で笑みを浮かべる。
「アンタは相変わらず元気だな」
「元気と鍛治があたしの取り柄だからね! それで今日は写真を撮るって聴いたけど」
「ああ、それとアンタとの専属契約について話も有る」
専属契約な話しを持ち出した途端にエリシェの表情が陰る。
前々から元の世界に帰ることは伝えていたが、まだ彼女は知らないのだ。契約を継続する事を。
それに専属契約を結ぶ際にスヴェンはブラックから提示された条件が有る。
エリシェを悲しませないこと。それが契約を結ぶ際に彼女の父親から提示された条件だ。
専属契約の破棄も必然的にエリシェを悲しませることは避けられなかったが、ラウル達がボディガード・セキリュティを継ぐのだから契約を破棄する必要性も無くなった。
「そう焦るな。実はボディガード・セキリュティをラウル達が継ぐことになってな。それでアンタとの専属契約を継続してぇんだ」
「えっ!? それはあたしも願ってもないことだけど……やっぱりスヴェンは居ないんだよね」
別れを悲しむエリシェにエルナが笑みを浮かべて告げた。
「実はお兄さんはやり残しを片付けたから帰って来てくれるんだって」
「ほんと!? それならミアとレーナ姫が喜ぶよ!」
自分のことの様に喜ぶエリシェにスヴェンは肩を竦めつつ、
「あー、姫さんには俺から後で伝えておく」
全員にそう告げるとラウルがにんまりと口元を緩めた。
「じゃあ今日姫様も来るからその時にか?」
「いや、彼女とは酒を呑む約束をしてんだ。そん時に酒を呑みながら伝えるさ」
「速い方が良いと思うけど?」
「勘弁してくれ。万が一姫さんが泣いちまったらファンクラブに刺されるのは俺なんだぞ」
どこで写真撮影をするかにもよるが、人通りの多い場所でレーナが涙を流せばどうなるか。
それは全員も容易に想像出来た様で深いため息を吐いた。
「人気なのも考えものなのかもな」
変装していないレーナと城下町を歩くだけで通行人はたちまち監視員になるのだから、ロイの言う通り人気過ぎるのも考えものだ。
以前レーナに視察の護衛を頼まれた際に生じた問題を思い出していると魔法時計に視線を向けたエリシェがエルナに訊ねる。
「あっ、もうそろそろみんな来る時間だけど何処で撮影するの?」
「うーん、色々考えたけどお兄さんって実はまだ死亡扱いのままなんだよね」
「あ〜異界居住区の人達はスヴェンが生きてること知らないもんね」
今更生存が露呈しようが最早問題は無いが、最近大人しい異界人を刺激することは避けたい。
それにもうすぐレーナの魔力が回復する時に面倒な騒ぎは起こしたく無いというのも本音だ。
いや、それなりに活動していながらなぜ未だに生存が発覚してないのかも疑問だがーー恐らく彼らの中ではスヴェンという名のボディガード・セキリュティのオーナーは同性同名の他人扱いなのだろう。
スヴェンが推測混じりで結論付けると。
「うん! やっぱりうちの庭で撮影だね。庭でバーベキューもするんだし」
「……聴いて無いが?」
「え? お兄さんにはサプライズで黙ってたに決まってるじゃん」
「スヴェンにバレずに食材を用意するの大変だったよ」
保存庫の食材が増えてようが、ラウル達が何かの料理に使うための物だとしか思わないのだが。
それよりも人数が人数だ。用意する量も決して少なくはなかっただろう。
「結構な量になったと思うが、よく保存できたな」
「そりゃあアニキが絶対に行かない地下室に置いたからな」
確かに地下室なら食糧保存庫としても使えるし、ミントも文句は言えない。
スヴェンは保存場所に得心しているとスミスのドアが開かれ、ミア達が顔を覗かせた。
「スヴェン、今日は写真撮影するんですって?」
「スヴェンさんが遂に写真を……くぅ! この日をどんなに待ち侘びたか!」
レーナとミアにスヴェンは適当に相槌を打ち、フィルシス、ラオ、レイ、カノンに視線を移す。
「愛弟子とツーショットが撮れると聴いて予定を空けておいて良かったよ」
「うむ、団長も張り切って書類を片付けておりましたからな」
「あの量の書類を……スヴェン、定期的に撮影会を開かないか?」
「定期的は大変じゃないかしら?」
またスヴェンは彼らに相槌を打ち、次はアシュナとリノンに視線を移した。
「ん、久しぶり。写真撮影楽しみ」
「昨日ぶりになるけど、まさか写真嫌いのスヴェンが許可するなんて……ふふっ変わったわね」
「……家族の頼みは断れねぇだろ」
写真を撮られることは嫌いだが、エルナ達の頼みなら断る理由も無い。
それを素直に告げるとミア達は笑みを浮かべ、背後から照れ臭そうな視線を背中に向けられる。
正直に言えば鬱陶しいが、今はそれを言っても単なる照れ隠しにしか思われない。
スヴェンがぬぅっと表情を顰めるとエルナが手を挙げて言う。
「それじゃあ全員揃ったことだし、うちの庭に行くよ!」
全員でスミスを後にし、自宅の庭でエルナの魔道念写器で写真撮影が始まった。
最初はエルナ達と保護者のカノン部隊長を交えた写真撮影。
思えばカノン部隊長にもエルナ達の事で随分と助けられたものだ。
続いてエリシェをカメラマンにクロとミントを交えた家族写真を撮り、その後スヴェンが全員とツーショット写真を撮ることに。
漸く終えた撮影、そして始まる庭でのバーベキューに集まった全員は笑みを浮かべながら楽しむ。
戦場で生きて来たスヴェンが見られなかった光景が目の前に有る。
外道の自身を受け入れ、ありのままに接する彼らと彼女らの存在がスヴェンにとっていつの日か得難い存在になっていた。
心境の変化を新たに感じたスヴェンは隣で微笑むレーナとミアに視線を移す。
「楽しかったか?」
「ええ、貴方との写真は大切な宝物にするわ。それに……やっぱり好きな人との写真は嬉しいものよ」
「えへへ、スヴェンさんが珍しく笑顔だぁ」
嬉しそうに語る二人にスヴェンは肩を竦め、改めて現像された写真に視線を落とした。
確かに写真に写る自分は自然体で笑っている。基本的に表情の変化が薄いと自覚しているが、まさか撮影時に自然と笑える日が来ようとわ。
「人生ってのは判らねえもんだな……ああ、悪くねぇ」
家族と友人達との写真に笑みを浮かべたスヴェンは、皿に用意された焼き肉に舌鼓するのだった。