乾いた大地でたった一人に対して行われる集中砲火。
愉悦と狂愛に歪んだ笑みを浮かべるリサラと彼女に従って銃火器を掃射する機械人と傭兵の混成部隊。
スヴェンは銃声と爆音が鳴り響く戦場で遮蔽物を盾にしながら戦場を駆ける。
一度でも足を止めれば集中砲火による即死、一度でも集中を切らせば敵陣の奥に位置するビル廃墟群に潜むスナイパーによる狙撃が待つ。
己の身を護るのは戦場に転がる遮蔽物と魔力の鎧だけだ。
スヴェンはアサルトブレードを片手に接近する若い傭兵に口元を歪めた。
ーー熟練の傭兵は徹底してるが功を焦った若い奴は接近して来る。そいつは俺にとって補充のタイミングだ!
大振りに構えられるアサルトブレードと口元を歓喜に歪める若い傭兵の隙を見逃さず、彼からナイフを奪い取りついでに頸動脈をナイフで撫で斬る。
戦場に舞う血飛沫と絶えず飛来する銃弾。スヴェンは死んだ若い傭兵を盾に腰のハンドガンを引き抜く。
死体が銃弾を防ぎハンドガンを引き鉄を引くことで手短な傭兵の頭を次々と撃ち抜く。
これでも気休め程度だ。まだ機械人と傭兵は大量に居る。
背中のバックパックを吹かせ宙を駆ける機械人の機銃掃射も厄介だ。
ーーデウス・ウェポンの状況は判らねえが、戦場にシャルナとジンの姿はねぇか。
爆弾魔とその彼氏は戦場で相対するだけでも厄介だが、それ以上にこの場には歴戦の傭兵が多い。
相変わらず冷徹で無表情を浮かべているが、彼らの瞳から感じるのは様子はまるで最後の宴を前にしたかのように歓喜に満ちている。
おまけに通常では運用しない大量の銃火器を傾向している。
覇王エルデが統一を成し遂げたなら此処は傭兵にとって最後の戦場。
それはスヴェンにも同じく最後の戦場だ。ここでリサラを殺し決着を付ける。
そのために自分はこの世界に戻って来たのだ。
スヴェンは死体を盾にしたがらポーチを漁るが目的の.600GWマグナム弾は出て来ない。
代わりにハンドグレネードとスモークグレネードを三個ほど取り出し、手早く宙に放り投げる。
そしてハンドガンで投げたハンドグレネードとスモークグレネードを同時に撃ち抜く。
混成部隊を襲う爆破と煙幕が若い傭兵に混乱を齎し、宙を駆ける機械人のバックパックが火の手を挙げ地面に墜落する。
「慌てるな、奴は気配でこちらの居場所を察知している。それはこちらも同じだという事を教えてやれ」
熟練の傭兵が冷静に指示を飛ばす。
流石に自身に出来ることは彼らにも可能だ。
だがスヴェンにはテルカ・アトラスで修得した技術が有る。
煙幕はそのためのもの。リサラの視界を遮断しこちらの手札を最小限に隠すためのブラフ。
スヴェンはガンバスターに練り込んだ魔力を纏わせ、素早く魔力の刃を形成する。
魔力の刃を巨大化させ、煙幕から弾幕と砲撃が飛ぶ。
そのまま盾にしていた死体を蹴り飛ばすこと銃弾と砲撃を防ぐ。
相変わらずこのガンバスターでは魔力伝導率が極端に悪いが、それでもスヴェンの身体は既に魔力を扱うには最適な肉体に成長している。
三年前のように急激な疲労に襲われることもなく、魔力の刃が傭兵部隊を薙ぎ払う。
「なんだこの攻撃わ!? 奴の新装備かっ!」
魔力の刃で斬り裂かれた若い傭兵達と迫る刃を咄嗟に避けた熟練の傭兵達。
経験の差は大きいが動揺を与えるには充分だ。何よりも煙幕で遮られた視界の中ではこちらが何から攻撃したのか連中にはまだ判らないだろう。
それでも混成部隊はこちらに対して集中砲火の手を緩めることは無い。
機械人の脳に埋め込まれた演算処理補助装置がより精密な制圧射撃を、熟練の傭兵による偏光射撃がスヴェンの身体を掠める。
全身に纏った魔力の鎧が銃弾や爆風を弾く。
ーーいや、スナイパーの通信ですぐに伝わるか。
スヴェンが思考を改め、自身の手の内が全軍に伝わると考え動き出した時だ。
死体の通信機から声が響く。
「全軍に通達! 奴は魔力を使っている! 繰り返す奴は魔力を制御する術を身に付けているっ!」
「へぇ、私のスヴェンは何処で魔力制御なんて身に着けたのかしら? 彼と同じように魔力を扱える者は?」
「我々は武器に刻まれた魔法陣を起動させる程度だ。だが、必要あるまい? 敵は1人なのだぞ」
こちらに対する挑発を込めた通信。
そもそも連中にとって聞かれて困る会話や作戦など無いのだろう。
連中の狙いは耳にした作戦を逆手に取らせ罠に嵌ることだからだ。
おまけに絶え間ない集中砲火は常人から正常な判断力を奪う。
あの性悪女ならどちらを選択しようとも関係無いのだろうが。
スヴェンが体内に魔力を巡らせ、煙幕から飛び出す機械人達に殺意を放つ。
「スヴェン! 前の戦場では世話になったが死ねっ!」
いつの戦場のことか覚えが無い。
だが間違いなく目前に迫る機械人は顔見知りだ。
かつて戦場で重傷を負い機械化手術で機械人に成り果てた。
死ぬまで戦場で戦い続けるために。
スヴェンは機械人が振り抜くレーザーブレードをガンバスターで弾き返し、心臓部たるコアを斬り裂く。
機械と生身が融合した身体から電流とオイル混じりの鮮血が飛び、機械人が一人斃れる中ーー機械人の腕部ガトリング砲が火花を吹く。
地を駆け巡り弾幕の中を突き進む。
そしてガンバスターを一閃しその場で縮地で地を蹴る。
機械人部隊の背後からガンバスターを薙ぎ払う。
地面に崩れ斃れる機械人にスヴェンは次の獲物に駆ける。
同じくガンバスターを担ぐ傭兵に接近し、迫る刃をガンバスターで受け流す。
「コイツ! 6年の間に技術を身に付けたか!」
傭兵が発した情報を即座に頭に叩き込んだスヴェンは、唐竹を放ち傭兵を両断する。
迫る傭兵を袈裟斬りで斬り伏せ、返り血が身体にかかる。
味方の死に決して動じず、リサラの指揮で後方部隊がロケット弾を放つ。
スヴェンは素早く死体からポーチと腰の銃を奪い取り、ポーチから目当ての.600GWマグナム弾を取り出す。
ガンバスターの空のシリンダー弾倉に装填し、左手の銃でロケット弾を撃ち落とす。
そして左手に銃を構えたまま傭兵部隊に接近を仕掛け、魔力を纏った回転斬りを放つと同時に傭兵の頭部を撃ち抜く。
斬り刻まれる傭兵、撃たれる傭兵。だがそれでもスヴェンに銃弾と砲弾の嵐が襲う。
単独で全員を相手にするには無理が有る。第一魔力が保たないのだから魔力の鎧はあまり頼れないのが現状だ。
スヴェンは死体を盾に、時には死体を蹴り飛ばすことで銃弾の嵐を掻い潜り着実にリサラに迫る。
「おや、もうこんなところまで」
傭兵達が放つ剣撃を避け、ガンバスターで受け流し弾幕を斬り払う。
だがスヴェンの足元にハンドグレネードが転がり込む。
既に起爆寸前のハンドグレネードにスヴェンはその場から離脱を試るがライフル弾が目前に迫る。
ガンバスターで斬り落とし、地面に衝撃波を叩き込むことでハンドグレネードを飛ばすがーー比較的近い距離で爆破したハンドグレネードの衝撃がスヴェンを襲う。
「チッ」
爆破にスヴェンの身体が吹き飛ばされ地面を転がる。
そこに傭兵と機械人が畳み掛けるように己の刃を振り抜く。
スヴェンはガンバスターを盾にする事で刃を防ぐ。
しかしレーザーブレードがガンバスターの腹部分を焼く。このままではガンバスターが両断されてしまうだろう。
スヴェンはガンバスターに纏った魔力を解き放つことで群がる傭兵を弾き飛ばし、ガンバスターの銃口を構えた。
ーーズドォーンン!! 六発の銃声と傭兵の絶叫が戦場に響き渡る。
.600GWマグナム弾によって撃ち抜かれた傭兵の肉片が戦場の大地に転がる。
それでも敵の数は一向に減らない。
「迂闊に攻め込まず、奴を追い詰めろ」
「孤狼は強襲を得意としているが弾幕の中では動きを制限されるはずだ」
確かにこうも絶えず放たれる弾幕の中では速度を活かした攻めは制限されてしまう。
最初に見せた魔力の刃を警戒して迂闊に近付く者も少ない。
少ないがスヴェンにとってこの状況も想定範囲内だ。
スヴェンは弾幕の中を歩み出す。弾幕の弾道と軌道を見切り、避けようとも致命傷を与える.600GWマグナム弾だけを斬り払うことで着実に距離を縮める。
心の奥底から殺意を解放し、瞳に宿した殺意の眼光で敵を睨む。
熟練の傭兵相手には通じ難いが、スヴェンは素早く装填したガンバスターの銃口をスナイパーに向けた。
弾幕の中を歩きながら一発のライフル弾と気配から割り出したスナイパーの居場所。
そこにスヴェンは引き鉄を引くことで.600GWマグナム弾を撃つ。
飛来する銃弾がスナイパーの頭部を射抜き、観測者が双眼鏡を落とす。
「スナイパーが1人死んだ」
通信機から告げられる声に熟練の傭兵がスヴェンに問う。
「流石は伝説を殺しただけはあるな……だが、貴様は何処で何を得た?」
熟練の傭兵の純粋な問い掛けにスヴェンは答えない。
代わりに沈黙に乗せた殺意を解き放つ。
「以前よりも洗練された殺意と技術……血が覚醒したか?」
殺した親のことはどうでも良い。スヴェンにとっていま大切なのはこの場を生き抜きリサラを殺す。
そしてテルカ・アトラスの家族の元に帰る。例え血に汚れた戦場で人を沢山殺そうとも。
そんな血に汚れた自分を受け入れた家族とレーナ達の所へ。
スヴェンは魔力を纏ったガンバスターを構えた時だった。
「増援部隊が到着!」
「やっと来ましたか」
通信機越しに聴こえるリサラのため息と彼女が控える混成部隊の後方から巻き起こる砂塵。
そして上空を飛ぶ十機の輸送ヘリにスヴェンは口元を吊り上げる。
よくもまぁ一個人に対してこれだけの戦力を集めたものだ。
きっと覇王エルデもこんな気分だったのだろう。
だがスヴェンに有るのは一個人に向けられる数の暴力に対する呆れだ。
続々と輸送ヘリから降下を始める傭兵、機械人。そしてこちらを捉える機銃の銃口と対地ミサイルが矛先を向く。
「降伏して婚姻届にサインするなら貴方の凍結された資産も解放してあげますけど? まあその場合は私の所有物として一生尽くしてもらいますけど」
数の暴力を盾に通信機越しから語るリサラにスヴェンは地面に向けて唾を吐き出した。
糞食らえだ。あの女の奴隷に成り果てるなんぞゴミ以下の価値に成り下がるようなものだ。
スヴェンは返答として混成部隊に囲まれ護られるリサラを鋭く睨み銃弾を撃った。
だが.600GWマグナム弾は身を挺して庇う傭兵達に阻まれ、通信機からリサラの狂った嗤い声が響く。
「仕方ないですねえ。全軍本気でスヴェンを殺しなさい……ああ、極力死体の損壊は少なくにですよ」
彼女の指示に控えていた熟練の傭兵部隊と増援が一斉に動き出す。
周囲には遮蔽物も何も無い。いや、構えられた荷電粒子砲の前ではそんなものは無意味だ。
スヴェンは決して足を止めず、地を蹴って駆け出すと後方から輸送ヘリのプロペラ音が響く。
「あー、あー! これより覇王軍特務部隊は孤狼の援護に入る。繰り返すこれより覇王軍特務部隊は孤狼の援護に入る!」
聴き覚えの有る声が戦場に響き渡り、スヴェンの眉が嫌そうに歪む。
「あ〜兄貴、避けてね」
シャルナのその言葉を合図に戦場にグレネード弾が降り注ぐ。
スヴェンは爆風が傭兵部隊を吹き飛ばす中を走った!
後方からのグレネード砲撃と輸送ヘリによる対地爆撃、そしてコンテナから射出される爆撃ドローンによる制圧攻撃ーー相変わらずの爆弾魔ぷりか。
おまけにこちらに爆撃に巻き込まれた敵の輸送ヘリまで堕ちる始末。
スヴェンはチラリと後方に視線を向ければ、輸送ヘリから降下した覇王軍がジンの指揮で混成部隊に弾幕を作りながら駆け出す。
思わぬ援軍にスヴェンは顔を顰めながら行く手を遮る傭兵を斬り捨て進む。
覇王軍の弾幕が混成部隊を撃ち抜き、輸送ヘリから放たれるシャルナの爆弾が敵部隊の陣形を崩す。
ーー覇王軍、エルデが援護を? ってことはこの事態を予測していたってことか。
なぜエルデが援護に部隊を派遣したのかは判らない。
だが苦渋と怒りに歪むリサラを殺すには絶好の好奇だ。
スヴェンは迫る傭兵を跳躍することで避け、傭兵の頭部を足場にリサラの下に着地する。
そしてこちらにプラズマガンを向ける彼女よりも速く、スヴェンは魔力を纏ったガンバスターで孤月の斬撃を放つ。
宙を飛んだ斬撃がリサラの肩から腰にかけて両断し、地面に斬り裂かれた胴体が落ちる。
戦場の鮮血が性悪女の血で汚れ、
「ゴホッ! あーあー、ここまでですかぁ」
血反吐をスヴェンに吐き仕方ないっとリサラが語り出す。
「スヴェンの手で殺される。これも貴方の愛情の一つとして悪くないですね」
彼女が語る愛情は間違っている。
「何が愛情だ、アンタに有るのは独善的で身勝手な狂気だけだろ」
「ふっ、それでも私は間違いなく貴方を愛してますよ? それは紛れもない真実です。これで貴方は愛情を与える存在を三度殺したことになりますねぇ」
致命傷を負いながら減らず口を叩くリサラにスヴェンはガンバスターを振り上げる。
だがそれでもリサラの口は止まらない。
「あー、そうだ! サプライズプレゼントをご用意させて頂きましたよ! 私が死ぬと貴方が居た異世界の座標データが私の所有する端末に一斉送信されるんです!」
面倒な置き土産を耳にスヴェンはリサラの頭部をガンバスターで斬り裂いた。
流石に脳を真っ二つにされてはリサラも死ぬ。
漸く死んだリサラにスヴェンは周囲の混成部隊を睨む。
だが混成部隊は抵抗することもなくあっさりと武器を地面に手放し、
「我々は降伏する」
両手を挙げて降伏する姿勢を見せたことにスヴェンは息を吐く。
雇主が死んだ時点で報酬は支払われない。傭兵とは金にならない仕事はしない主義だ。
特に熟練の傭兵ほど損失を理解しているため、リサラの死で降伏するのも頷ける。
スヴェンは彼らにこれ以上敵意が無いことを見抜いた上で決して警戒心を解かず、
「最後の戦場は楽しめたか?」
自身にとっても最後の戦場について訊ねた。
「最後の戦場としては物足りないが、そこの女狐の死は笑える」
熟練の傭兵がリサラの死体を笑い飛ばし、次々に傭兵から笑い声が上がる。
これが自身の野望のために他者を欺き利用し続けた女の末路か。
リサラのような女はそう多くは居ないだろう。いや、彼女は異常過ぎたのだ。
一個人に対する異常な執着、下手をすれば世界を破滅させかねない兵器の開発支援。
現に死してなおスヴェンが困ることを遺して逝った。
これからリサラの拠点を破壊してテルカ・アトラスの座標データ、ついでに彼女の研究施設も破壊しなければならない。
まだまだ後始末は始まったばかりだ。スヴェンは背後に近付くシャルナとジンに振り向き、
「混成部隊は拘束、エルデが適切な処置をすると思うけど……兄貴を連れて来るように言われてるのよね」
同行を求めるシャルナにスヴェンはガンバスターを背中の鞘にしまう。
「ジン、世界はどうだ?」
「悪くない方向に進んでるよ。いや、平和ってヤツが訪れてるかな」
「そうか……なら俺を覇王の所まで連れて行ってくれ」
「ふーん? 兄貴が珍しく素直じゃない。それとも性悪女を殺して気分が良いのかしら」
リサラを殺しても心は相変わらず冷めたままだ。
いや、正確には自身の心が感情を浮かべる対象は家族とレーナ達だけ。
リサラのような人間には空虚な心が妥当だ。
「何も感じねえさ」
「そう、アタシは気分が良いわよ。リノンお姉ちゃんの仇だもの」
リサラの死に晴れやかな笑顔を浮かべるシャルナをスヴェンは素通りし、輸送ヘリに乗り込む。
「6年前の戦場で消えた傭兵がまさか戻って来るなんてな」
輸送ヘリの覇王軍の兵士の皮肉にスヴェンは肩を竦める。
「6年か、あの時覇王を殺せなかったのは世界にとって正解だったな」
「はいはい、過ぎた話は移動中にでも存分にしてくださいよ」
「全軍、バベルタワーに帰投!」
シャルナの指示で輸送ヘリは離陸し、スヴェンを乗せてトルギスタワーに飛び立つ。