傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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1-4.異世界の戦闘

 エルリア城の中庭に設けられた訓練場に案内されたスヴェンはさっそく周囲を見渡す。

 訓練に励む兵士ーーこの国では騎士と呼ばれる者達。

 土の足場、地面に残る何かで破壊された痕跡。

 訓練場の奥に閉ざされた分厚い木製の大扉、そして中から聴こえる唸り声ーー人を殺したくて仕方ない感覚にスヴェンは眉を歪める。

 

「モンスターでも飼育してんのか?」

 

 呟いた疑問にミアが頷く。

 

「えぇ、捕獲した訓練用のモンスターがね。異界人も此処で訓練して行くけど……あっ、ちょうどあそこで先日召喚された子がやってるよ」

 

 言われて視線を向ければ、騎士に剣の手解きを受ける若い少年の姿が有った。

 少年の身体は剣を振り回すには筋力が足りず、剣を一度振れば身体が振り回される始末。

 随分とお粗末で何処か焦っている印象を受けるが、そもそも武器を手に戦う事を必要としない世界から召喚されたのならそれも合点が行くことで、お粗末と称するには畑違いだと考えを改めた。

 

「何であっちのガキは戦うことを選んだ?」

 

「さあ? 召喚直後に『異世界召喚キター!!』なんてすごい喜んでて自分には秘められた力が有るとかなんとか?」

 

「へぇ? そういや魔力を有するのは当たり前な感覚だが、魔力が無い世界も有るんだよな」

 

「それがそうでも無いみたいよ? 魔法技術は無いけど誰しもが魔力を持ってる。ただ、魔力が眠ってる状態で引き出せないだけでね」

 

 どの世界にも共通点として魔力が有ることにスヴェンは少しだけ驚く。

 ただ、その世界の状況や成り立ち、文化の違いで魔法技術が発展するかどうかの違いなのだろうか?

 スヴェンはごちゃごちゃ考えても仕方ないと判断して、訓練場を歩き出す。

 

「そんで俺の相手は誰になるんだ? 全員訓練中みてぇだが」

 

「それなら……」

 

 ミアが言いかけると、顔に大傷を負った大柄の騎士がスヴェンに近付く。

 腰に差した大剣と隙のない足運びから、そこら辺の騎士とは遥かに違うのだと理解できる。

 

「スヴェン殿だな? 話は姫様から聴いてる。自分はラオ、魔法騎士団の副団長をしている者だ」

 

 ラオの差し伸べられた握手にスヴェンは応じた。

 グローブ越しから感じる手甲と握り締められる握力ーー軋む腕、コイツは試されている。

 悪くない筋力だ。スヴェンも強めに握り返し、握手を交わした両者の腕の骨が軋む。

 

「ほう? 細身と思えば中々の力、流石はデカブツを扱うだけはありますな」

 

「傭兵は身体が資本だからな。それで俺の訓練相手は誰だ? アンタか?」

 

「貴殿との訓練も面白そうでは有るが、貴殿のお相手はあの者が担当しよう」

 

 ラオの視線の先に居る人物にスヴェンは視線を向ける。

 細身ながら鋭く素早い剣戟を繰り出す金髪の整った顔立ちの若い騎士。

 スヴェンから見ても訓練相手の騎士に対し、素早い切返しが見事としか言えなかった。

 中々の手練れ、異世界の戦闘を明確に実感するには申し分ない相手だ。

 

「アイツは?」

 

「彼はレイ。先月入隊したばかりの新米では有るが、魔法学院を首席で卒業した英才だ」

 

「あー、レイかぁ。私、彼が苦手なんだよね」

 

 ミアはそう言って苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。

 

「そう言えばミア殿は同級生でしたな」

 

「話は後にしてくんね? 文字の学習も有るんでな」

 

 さっさと確認を済ませ、次に移りたいスヴェンにミアが苦笑を浮かべる。

 

「そんなに焦らなくともゆっくりで良いじゃん」

 

「こっちは大事な商談が控えてんだ。そうそう待たせてられるかよ」

 

 そう伝えるとラオがいい笑みを浮かべ、レイの元に駆け寄った。

 すると訓練相手が剣を納め退がると、ラオがこちらを手招き。

 スヴェンはガンバスターの柄に手を掛け、レイの前に立った。

 

「キミが次の相手かい? 随分と物騒な得物を扱うんだね」

 

 不敵な笑みを浮かべるレイから自身の腕前に対する自信が強く伝わる。

 こちらも彼に対して油断する気は一切無い。

 まだ彼がどんな魔法を扱うのか判らない。そもそも魔力をどれほど有しているのか、デウス・ウェポン出身のスヴェンが知る術など無いのだから。

 

「ま、一つ手合わせを頼む。こっちは本気で挑むからよ」

 

 スヴェンはガンバスターを引き抜き、片腕で構えを取る。

 それを見たレイも長剣を構える。

 二人が互いの得物を構えた時、

 

「両者、尋常に勝負!」

 

 ラオの合図に真っ先にスヴェンが動く。

 地を蹴り、縮地でレイの背後に回り込む。

 同時にガンバスターを振り抜く。

 ガキィーンっ! レイは振り向かず長剣でガンバスターの刃を受け流し、スヴェンはすぐさま距離を取る。

 スヴェンが離れてから僅かに遅れて、先程まで居た場所に一閃が走った。

 

「なるほど、英才と呼ばれるだけはあんだな」

 

 受け流しから反撃までの判断が速い。

 瞬時の判断力、観察眼、相手が誰であろうとも油断しない姿勢。レイは間違いなく強い分類に入るだろう。

 

「キミこそあれだけ早く動けるとは予想外だったよ、まだその武器には仕掛けが有りそうだけど?」

 

「あー、こいつは人間に使うもんじゃねえよ」

 

 スヴェンはそう言いながら、今度は真っ正面から斬り込む。

 レイは再び刃を弾こうと長剣を振るうが、ガキィーンーー訓練場に鈍い音が響き渡る。

 ガンバスターと長剣の間に火花が散る。

 レイは受け流せなかったことに僅かに眉を歪めた。

 受け流しをされては埒があかない。だからスヴェンはガンバスターを受け流し難い角度から斬り込んだのだ。

 ガンバスターの重みと押しかかる重圧にレイの表情が歪み長剣の刃が軋む。

 スヴェンはそのまま一歩踏込み、レイを長剣ごと打ち上げた。

 宙に飛ばされたレイは受け身を取りながら。

 

「炎の刃よ!」

 

 レイの詠唱に呼応し、彼の周囲に魔法陣が浮かび上がる。

 不味い! 空気の変化から危険と判断したスヴェンはその場から大きく飛び退く。

 瞬間、スヴェンの居た場所から手前にずれた位置に爆炎が襲う!

 炎の熱量と轟音、爆風と舞い上がる土煙。深く抉り取られるように破壊された地面にスヴェンの眉が歪む。

 ロケット弾並みの火力。レイはそれを瞬時に発動して見せたのだ。

 おまけに魔法を放ったレイは涼しい顔でこちらの出方を窺っている。

 此処ではじめてスヴェンはこの世界の魔法技術が高度で驚異的な物だと実感した。

 

「おいおい、俺が使う武器の方がまだ可愛げ有るじゃねえか」

 

「そうかい? 初歩的な攻撃魔法なんだけどね」

 

「今ので初歩かよ!」

 

「けれど、中には治療魔法に才能を全振りした人も居るんだよ」

 

 レイの視線の先にミアが居た。

 面白くなったのかミアはすかさず噛み付く。

 

「なによぉ! あなたがケガしても治療してあげないからね!」

 

「自分の傷ぐらい治療できるさ」

 

 余裕の笑みで返すレイにミアが杖を片手に青筋を浮かべる。

 どうにも二人の相性はあまり良くないようだ。

 

「魔法を見れたのは儲けだが、もうちょい付き合ってくれるよな?」

 

「いいとも!」

 

 スヴェンとレイ同時に駆け出す。

 ガンバスターによる重い剣戟をレイは巧みに捌くが、突如放たれる拳に殴り飛ばされる。

 彼は負け時と攻撃魔法による反撃を行い、スヴェンを吹き飛ばす。

 魔法により吹き飛ばされたスヴェンは着地と同時に、ガンバスターを振り回し地面に突き刺す。

 純粋な力技による衝撃波が地面を走り、レイは横転することで避けた。

 

「おらよ!」

 

 スヴェンはレイの両側に向け衝撃波を飛ばし、レイの退路を塞ぐ。

 そのまま直進するスヴェン。

 対するレイは長剣を構え直し、彼を迎え撃つ姿勢を取る。

 ガンバスターを縦に振り抜くスヴェンと長剣に魔力宿し、薙ぎ払うレイ。

 両者の一撃が重なりーー二人の武器が弾かれ宙を舞う。

 すかさず拳を構えるスヴェンに、

 

「両者そこまで!」

 

 ラオの静止の声にスヴェンは構えを解く。

 

「あー、終わりか」

 

「まさか引き分けるとはね」

 

「魔法と立ち回りに関して勉強になった」

 

 スヴェンが素直に礼を告げると、レイは小さく笑って。

 

「こちらこそ。まさか魔力を使わずあんな動きができるなんて驚かされたよ、特に衝撃波には驚いたね」

 

 戦闘中ずっと真顔だったレイに対して、スヴェンとミアは疑惑の視線を向けた。

 本当に彼は驚いたのだろうか? 確かに眉を歪めることは有ったが、その割には表情の変化が薄い。

 

「ふむ、スヴェン殿。次はモンスターと戦闘するか?」

 

「頼む」

 

「あっ! 一応説明するけど、モンスターは常に魔力を障壁に利用してるからまともにダメージを与えるには魔力を消耗させるか、魔法が有効だよ」

 

 つまりモンスターは魔力を消耗させない限りまともなダメージを与えられないと。

 デウス・ウェポンのモンスターは普通に物理攻撃が通じるが、こちらの世界はどうにも勝手が違うらしい。

 デウス・ウェポンのモンスターは障壁が無い代わりに人類から取り込んだ兵器や銃火器による火力制圧を行なって来るが……。

 モンスターと戦闘を始める前にスヴェンは、ミアに大切なことを伝える。

 

「……魔法や魔力を武器に流す方法も使えねえが?」

 

 すると彼女は笑顔を浮かべ、親指を立ててこう言った。

 

「かんばれ! 私も治療魔法以外は一切使えないから!」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 スヴェンはミアを巻き込み、彼女をモンスターの囮にしようかと一瞬思案するがまだ銃弾が通用しないとは限らないっと思い直す。

 

「……一人で挑戦すっから怪我したら治療頼む」

 

「そこは死なない程度に頑張って!」

 

 あくまでも他人事のように語る彼女に、実際他人事なのだからスヴェンは何も言えず木製の扉まで近付く。

 そしてガンバスターを構えると、ラオの合図で重々しい扉が独りでに開く!




はじめて戦闘描写に擬音を入れてみたけど、意外と武器ごとよって生じる擬音考えるのが大変。
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