傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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1-5.異世界モンスターの脅威

 扉から飛び出す影にスヴェンは冷静に観察眼を向けた。

 赤黒い大猪のモンスターーーデウス・ウェポンのラオフェンに姿形は似ているが、違いが有るとすれば体格と重火器を纏っていないことだろうか。

 ラオフェンの特徴的な鼻と口から伸びた凶々しく鋭利な四本の牙。

 あれに貫かれれば容易く千切られるだろう。

 おまけに屈強な四本の脚から駆り出される突進が厄介か。

 スヴェンはガンバスターを引き抜いたまま、ラオフェンの出方を窺う。

 

「動きませんね」

 

「様子見しておるのだろう。あのブルータスの牙は強固ゆえ魔法を弾くからな」

 

 ミアとラオの会話にスヴェンは、ラオフェンをブルータスと再認識しーーガンバスターの銃口をブルータスに向け安全装置を外し、引き金に指を掛ける。

 するとブルータスが後脚で蹴り始めた。

 

 ーー突進の合図か、そこは変わらねえのか?

 

 スヴェンはブルータスを注意深く観察し、いつでも避けられるように足腰に力を入れる。

 ブルータスは突進と同時に風を纏いスヴェンに迫った!

 風圧と突進の速度にスヴェンは驚きこそするものの、大きく右に跳ぶことでブルータスの突進を避ける。

 そしてスヴェンが振り向き様に銃口を向け、彼はギョッと眼を見開く。

 

「おい! そっちに行ってるぞ!」

 

 ブルータスはそのまま見物人の集団に直進していたのだ。

 止まることを知らない猪突猛進……だが、ブルータスが見物人の集団を弾き飛ばすことは無かった。

 魔法陣による障壁がブルータスの突進を防いだのだ。

 

「あー、なるほどなぁ。だから余裕だったのか」

 

「うむ! こちらの心配はせず、スヴェン殿は思いっ切り戦うとよいぞ!」

 

 ラオのしてやったりと言いたげな表情に、スヴェンは動きを止めたブルータスに照準を定める。

 そしてブルータスがこちらを振り向いた瞬間を狙って彼は引き金を引く。同時に内部に備わった反動抑制モジュールが作動しーーガンバスターの銃口から火が吹き、同時にズガァァンーー1発の銃声が訓練所に響き渡る。

 放たれた.600GWマグナム弾の弾丸がブルータスの胴体を目前に障壁に阻まれーーポロリっと虚しく地面に落ちた。

 それは非情であり、同時にスヴェンに虚しさと悲しみを与えるには十分過ぎる結果だ。

 

「マジかよ、人体なら軽く風穴は空くんだがなぁ」

 

 銃弾が通用しない。ましてや荷電粒子モジュールが破損した状態ではこれ以上の火力は望めない。

 そう理解したスヴェンは、ブルータスの真正面に立たないように距離を詰める。

 先程纏うように見せた風に対する警戒も含め、スヴェンはガンバスターをブルータスの横腹目掛け横薙ぎに払う。

 そしてガキィーンっと障壁に弾かれる。

 その手応えは、例えるなら柔らかなクッションを殴り付けたような感触だった。

 これが魔力による感触なのか、障壁の感触なのかは判らないが、スヴェンは更にガンバスターを左右に斬り払う。

 その度に障壁に弾かれ、その都度スヴェンが周り込みながら障壁を斬り付ける。

 対するブルータスは魔力障壁による余裕からか、鼻で笑い始めた。

 

「あっ? こっちのモンスターは随分と感情豊かじゃねえか」

 

 スヴェンは冷静のまま何度もガンバスターによる斬撃を繰り返す。

 それが数分と続くと、ブルータスは突如身体を暴れるように振り回し始めたのだ。

 跳躍して避けるスヴェンに、ブルータスが突進を繰り出した。

 先程とは違って風を纏わない普通の突進。

 これにスヴェンはようやく魔力切れが訪れたのだと理解し、ブルータスを睨む。

 そして足腰に力を入れ、地面を踏み抜くとスヴェンは迫るブルータスを跳ぶことで避け……動きを止めたブルータスの背中に上空から刃を突き刺す。

 重量を乗せた一撃に腹部を貫かれ血飛沫が舞い、地面が鮮血に染まる。

 ブルータスは弱々しい鼻息を荒げーー身体から魔力が粒子状に離散して行く。

 そして数秒も経たない内にブルータスは骨だけを残して消滅した。

 何方の世界も共通のモンスターの死を意味する現象。違いが有るとすれば骨か重火器の違いか。

 スヴェンはガンバスターを背中の鞘に納め、額の汗を拭う。

 

「ふぅ、面倒臭え」

 

 それがスヴェンのこの世界におけるモンスター戦の感想だった。

 そんな彼にミアが駆け寄り、

 

「平原でそこそこ強いブルータスを一人で倒し切るなんて、すごいね!」

 

 笑みを浮かべていた。

 しかしスヴェンから見て、彼女の笑みは何処か作為的で何か意図が有るように感じられた。

 そもそもスヴェンの知るラオフェンは複数で縄張りを動くモンスターだ。

 似た存在のブルータスもそうなら、群れと戦闘すればどうなるのかは明白だった。

 それでも魔法が扱えるテルカ・アトラスの人間なら苦戦もしないのだろう。

 

「そうかぁ? 魔法がありゃあ楽勝なんだろ」

 

「うん……実際はかなり弱い分類」

 

 ーーコイツ、褒めて調子付かせようとしたのか?

 

 スヴェンはミアの言動と態度に呆れた視線を向ける。

 

「次は勉強の時間、スヴェンさんは分からないことだらけだから私が丁寧に教えてあげるよ」

 

 ドヤ顔を浮かべるミアから視線を外し、

 

「なあレイ、後で読み書きを教えてくんね?」

 

「そうしてあげたいのは山々だけど、僕はこれから副団長と調査に出向かなければならなくてね」

 

「ちょっと!?」

 

 隣で抗議を始めるミアを無視しつつ、スヴェンは調査に疑問を感じたが、気にしても仕方ないとして歩き出す。

 

「あっ! こっちは姫様から頼まれてるんだから!」

 

 なら最初からそう言えばいいものの。スヴェンはそう思いながらミアと訓練所を立ち去った。

 ……その際に敵意を宿した視線を感じたが、スヴェンにとってどうでもいいことだった。

 いま重要すべき事はレーナの依頼を請けるどうかだが、もうスヴェンは結論を出していた。

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