傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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6-3.嵐の貿易都市

 町の外は雷雨と嵐に見舞われているが、フェルシオンの町中は雨が降り続ける程度で外と比べれば穏やかなものだった。

 雨に濡れる石畳の道路を窓から眺めていたレヴィは、魔法の恩恵に一息を吐く。

 同時に町の外で降り続ける嵐を鋭く睨む。

 

 ーーあれは極致的な嵐を引き起こす魔法。

 

 何者かが意図的に唱えた魔法で極致的な嵐を引き起こしている。

 直ぐにでも術者を捕らえたいが、レヴィは背後に居るミアにため息を吐く。

 先から彼女はこちらから視線を外そうとしない。眼を離せば窓から飛び出すと理解してるからだ。

 レヴィはダメ元でミアに振り向き、苦笑を浮かべて見せる。

 

「そんなに見つめられると落ち着かないわ」

 

 正直に告げるとミアが笑みを浮かべて返す。

 

「あなたから絶対に眼を離すなってスヴェンさんに頼まれちゃったので!」

 

 そういえばスヴェンは去り際、ミアに小声で何かを告げていた。

 既にあの時からこちらが大人しく待っている筈がない。そうスヴェンには見抜かれていたのだろう。

 そしてミアに頼みながら天井裏に潜むアシュナにも同様の頼みをしていたーーアシュナは出掛けているのか気配が無いけれど。

 ミアは王族として命令を出せばこちらに従わざるおえない。しかしそれをしてしまえばレヴィとして居る意味が無い。

 此処に居るのはレヴィとしての偽名であり、レーナという王族は居ない。それを自らの正体と権力を使えば今後レヴィとして活動することは叶わない。

 邪神教団は何処に潜伏し、彼らの耳と目が有るのか分からないからこそ警戒すべきだ。

 その点で言えばスヴェンは本当に痛い所を的確に突いたと思う。 

 そう結論付けた時、自然とレヴィの頬が緩む。

 

「スヴェンは狡いわね」

 

 ミアはよく判らないと言いたげに小首を傾げ、

 

「狡いのかなぁ? 仕事のためならって感じがするけど」

 

 彼女の言葉にレヴィは黙り込みやがて考え込んだ。

 確かにミアの言う通り、彼は傭兵で護衛として雇った人物。彼の中に在るのは依頼を達成することにある。

 それに魔王救出という依頼を請けた彼は、護衛対象の死亡を何が何でも避けようとする。

 きっと自身が死ねばスヴェンを始めとした異界人の全員が消えるからだ。

 だからこそレヴィは自身の行動を可能な限り弁えなければならない。

 

「私は彼が依頼を達成出来るようにするべきね」

 

「依頼をしたのは姫様ですけど、でも流石にスヴェンさんもあの嵐には足止めかなぁ」

 

 本当に彼は嵐で足止めされるような男だろうか? 左肩を失っても撤退せずに戦い続けようとするような男だ。

 しかしだからこそ術者は見付け出すべきだ。彼は嵐で止まるような男では無いが、平原と荒野の空を覆う魔法陣に嫌な予感が拭えない。

 何の為に発動したのか、魔法の発動には必ず意味が有る。

 例えば退路を断つ為に発動させた。それはフェルシオンの地形を考えれば、必然的に敵襲が目的だと注意が向く。

 敵襲に備えるからこそ魔法騎士団とオールデン調査団は南東の遺跡に向かえない。

 

「敵の思惑通りかしら?」

 

「敵って、昨日のゴスペルのこと?」

 

「ゴスペルもそうだけど、まだ行動を起こしていない連中が気掛かりなのよね」

 

 そもそも嵐を起こしたとなれば、魔法騎士団とオールデン調査団は町に留まる。

 ゴスペルを囮に魔法騎士団を始めとした戦力を一網打尽に、そんな方法も思い浮かぶがーーそうなると嵐の存在が矛盾する。

 レヴィが頭悩ましげにあれこれ思考を巡らせると、ミアが頬に指を添えながら、

 

「案外仲間割れとか、ユーリ様がゴスペルの足留め目的だったり?」

 

 有り得なさそうで一番有り得る答えを告げた。

 同時に嵐の目的と未だ正体が判らない敵の思惑。正解が前者なら敵は用済みになったゴスペルを排除しようとしている。

 後者が正解ならやはり矛盾が邪魔をする。魔法騎士団とオールデン調査団が嵐を警戒して町に留まるからだ。

 なおさら二つの戦力は昨日の襲撃も合わさり、厳戒態勢で警戒しているはず。

 そもそもユーリとリリナには嵐を起こす魔法は使えない。

 それにフェルシオンに限定すれば国民の中に、嵐を起こす魔法を使える者は居ない。だからこそ自然と思考が仲間割れと結論付ける。

 

「状況を考えれば仲間割れの線が濃厚ね……」

 

「うーん、それならゴスペルは誰に裏切られたのかな?」

 

 そこが未だ判らない。今回の件に邪神教団が動いているという証拠が無い。

 実際には邪神教団はアウリオンとリンにゴスペルを守らせていた程度だ。

 問題は邪神教団がなんの目的でアウリオンとリンを派遣し、その後撤退させたのかだ。

 そもそも今回のゴスペルの取引相手と邪神教団ーーエルロイ司祭が個人的な交友関係から二人の魔族を派遣させた事も充分に考えられる。

 

「やっぱり怪しいのは最初の疑念よね」

 

「リリナ様が偽者っていう疑い……確かに一番怪しいかな」

 

 もしも彼女が偽者で嵐を起こしたなら説明が付く。

 しかし未だ正体が判らない水死体、加えて禁術書庫で調べた情報が疑いの域程度に留まらせる。

 最初から敵と仮定して疑い、調べれば水死体は単なる偶然の重なりに過ぎずーー禁術が誰にも知られていない未登録の魔法だとすれば現状で調べる方法が無い。

 だからこそレヴィの中で消えかけた疑いが再び浮上する。

 屋敷に居るリリナは全くの別人の可能性が。

 

「リリナと接触するべきかしら」

 

「それは危険だよ。正体を疑ったら消される可能性だって」

 

 慎重に動くべきか大胆に動くべきか。レヴィが二択の間で揺れていると、アシュナが部屋に降り立つ。

 

「れ……レヴィ、リリナが此処に向かってる」

 

 疑念の相手が此処に来る。だからこそレヴィは冷静にアシュナに訊ねる。

 

「リリナが? 理由は何か判るかしら?」

 

「ミアをスカウトしに」

 

 無表情で告げられる報告にレヴィは顔を顰める。

 

「いやぁ、才能が注目されちゃったかぁ〜って、私に!?」

 

 照れ笑いを浮かべては急に青褪める。なんとも忙しい子だと笑みが溢れた。

 同時にこれは好奇と捉えるべきか、それともスヴェンを信じて危険から遠ざかるべきか。

 いや、此処は慎重に動くべきだ。そう結論付けたレヴィはミアとアシュナに指示を出す。

 

「アシュナは天井裏に待機、ミアは私と一緒にリリナを迎えるわよ」

 

「む、迎えてどうするの?」

 

「ただ口裏を合わせるだけよ。私達は貴女を疑ってません、スヴェンは休養中とね」

 

 こちらの指示にミアとアシュナは頷き、レヴィは確認の為にスヴェンの宿部屋に駆け出す。

 そして部屋に訪れると既に起きて居たエリシェと不自然に膨らんだベッドに目が行く。

 

「もう起きたのね……それで、そのベッドは一体?」

 

「えっと、スヴェンだよ。休養中のスヴェン……って無理があるよね? 一応彼から誰か訊ねてきたらベッドに人が寝てるように装えって言われたけど」

 

 まさかスヴェンはリリナの行動を予見していた? いや、もしもそうなら彼はリリナが来た後に動く可能性の方が高い。

 つまりエリシェに伝えた事はあらゆる方面に対するスヴェンの保険だ。

 レヴィは用心深く疑い深いスヴェンに頼もしさを感じては、

 

「そう、それなら誰かが来ても絶対にスヴェンが居るように振る舞ってね」

 

「それはいいけど……あっ、あたしが立ち入れない仕事の話かぁ」

 

 最初は蚊帳の外に置かれていることに不満を抱いたのか、不満気なら眼差しを向けていたがーーすぐに察する辺り、彼女も利口だ。

 

「そうよ。けれど危なくなったから迷わず逃げるように」

 

 今から危険が訪れるかもしれない。そう告げるとエリシェは一瞬だけ迷った様子を見せ、視線がクローゼットに向いたのを見逃さなかった。

 

「……クローゼットに何か有るの?」

 

「えっ? そ、それは……スヴェンの着替えとか」

 

 確かにクローゼットにスヴェンの着替えが仕舞い込まれてもおかしくはない。

 エリシェが慌てたのもきっと、彼がクローゼットに仕舞う様子を目撃したからだ。

 レヴィは特に疑わず、エリシェに視線を向けると宿屋の前に停まる獣車の車輪の音が外から響く。

 一瞬だけ心臓が高鳴り、それでも態度に出さないように平静を装う。

 

「それじゃあ私は部屋に戻るわ……もし貴女の仕事がひと段落したら女子会というものを開きたいわね」

 

「設計図は完成したので今晩にでも!」

 

 レヴィは今晩はミア達と女子会、そんな予定を頭に入れてから自身の宿部屋に戻りーーリリナが訪れるのをミアと共に待つ。

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