傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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6-5.崩壊全滅

 船内を駆けるスヴェンは内心で拍子抜けしていた。

 もうすぐブリッジに到達するというのに敵が居ない。最後に敵と遭遇したのは出入り口のあの時ぐらいだ。

 

「また扉ですよ!」

 

 並走するアラタの呼び声にスヴェンは前方の道を塞ぐ鋼鉄の扉にガンバスターを振り抜く。

 振り抜かれた一閃が鋼鉄の扉を容易く砕き散らす。

 轟音を奏で崩れ去る鋼鉄の扉ーーこうやって進むのももう何度目か。

 そして轟音に敵が誘き寄せられないのもこれで何度目だろうか?

 

「ブリッジに集まってんなら良いんだがなぁ」

 

「うーん、ここまで遭遇しないとなると……昨日の襲撃で大半の戦力が捕えられたんですかね?」

 

 アラタの述べた可能性の方が高い。そうなるとコロシアムの廊下に居た連中が該当する。そしてそれを制圧したのはレヴィ達だ。

 武器を持てば性別など関係ないが、たった三人で魔法も使わずに制圧するのだがらやはり強いと思えた。

 ならここには大した敵戦力は残されていないのでは? そんな結論が出るが、やはり傭兵としての経験が警戒を緩めない。

 

「まあ、敵が残りわずかだとしても警戒は怠んなよ。窮地に立たされた奴らほど何をしでかすか読めねえからな」

 

「スヴェンさんは用心深いんですね。ただの異界人とは思えません」

 

 それは質問なのか単なる疑問なのか。どらちとも取れる言葉にスヴェンは無視を決め込み、足を進める。

 やがて見えた梯子を登り上げ、嵐に曝される甲板に出た。

 激しい豪雨がブリッジの窓を水滴で覆い尽くす様子に、スヴェンは入り口へ駆け抜ける。

 そして扉に到着したところで様子を窺うアラタに合図を出す。

 それに応じて梯子からアラタが飛び出し、こちらに駆け付けようとするもーーアラタの表情に警戒心が顕になる。

 スヴェンは壁の影に隠れナイフを取り出す。

 勝手にゆっくりと開かれる鋼鉄の扉。そこから煙草を口に咥えた一人の人物が姿を見せーーアラタに気付いた男の背後をスヴェンが取る。

 男が敵に知らせるよりも早くスヴェンは男の口元を塞ぎ、ナイフを首筋に当てた。

 雨と共に滲む汗がスヴェンのグローブに伝う。

 

「ブリッジに何人居る?」

 

 質問と脅しの意味を込め、男の首筋にナイフの刃を数ミリ程度食い込ませる。

 そのまま黙りを決め込めば、刃が頸動脈を斬る。

 男はスヴェンに眼を向け、こちらが容赦なく人を殺せる。そう判断したようで、

 

「ご、5人だ。ボスを含めた5人が居る」

 

「他には?」

 

「船内……唯一の出入り口に見張りが10人、すぐ近くの通路に13人の見張りが居る筈だ」

 

 彼の証言が正しいなら最初の奇襲で殆ど死んだ。

 スヴェンは敢えてその事実を告げず質問を重ねる。

 

「ユーリの屋敷になぜリリナを返した?」

 

「わ、分からねえ……理由はボスが知ってるが、ボスも納得していなかったのは間違いない」

 

「質問を変える……港で発見された水死体、全身の皮膚を剥がし、頭部を潰してから流したのはお前達か?」

 

 スヴェンの低い声に男の表情が青ざめ、同時にアラタも一つの疑念に辿り着くいた様子で顔を青ざめさせる。

 

「い、いや……俺達は用意された死体を流したんだ」

 

「それは誰の指示だ? 邪神教団か?」

 

 そう質問を重ねると男の瞳に疑問が浮かぶ。

 

「いや、それは違う筈だ。その指示を出して来たのは取引先だ。ただ連中も邪神教団と繋がりが有るのか、届かなかった商品の替わりに封印の鍵を要求してきたんだ」

 

 一連の取引は間接的に邪神教団が関与しているが、どちらも下請けの立場に過ぎないのか。

 

「ならアンタらの取引相手は? ゴスペルの規模はなんだ?」

 

「そ、それは言えない。ゴスペルとしてのプライドが俺にも有るんだ」

 

 取引相手だけは隠す。商売人として顧客の情報は護るが、味方の情報は売る。

 明らかな矛盾にスヴェンは瞳に魔力を集中させ、男に眼を向けた。

 すると頭部に何らかの魔法陣が刻まれ、怪しげな光を放っている。

 情報漏洩を防ぐための暗示系統の魔法か。コイツを回収し、魔法を解呪すれば幾つも情報が手に入りそうだが、スヴェンは静かなアラタに視線を向ける。

 

「何らかの魔法を受けてるコイツから取引相手は聞き出せそうにねえな」

 

「……ゴスペルまでも利用されている? そういうことなんですか?」

 

「トカゲの尻尾切りだな。身の安全のためなら取引相手だろうが利用するってことだろう」

 

 そんな会話に男は狼狽えた様子を見せ、次第に混乱した様子で息を荒げる。

 

「そ、それじゃあ……俺達は何の為に国境を越えたんだ? ゴスペルの右足として……いや、与えられた役割を全うするため??」

 

 混乱から思考が乱れ、瞳を激しく彷徨わせる男にスヴェンは、発狂する前にナイフで頸動脈を斬り裂いた。

 声を発する間も無く、男は首筋の夥しい出血と共に崩れ落ちる。

 スヴェンは血糊が付いたナイフから血糊を払い、上着の鞘にしまう。

 

「殺してしまってよかったんですか?」

 

 殺人を躊躇なく実行できるスヴェンに対する恐れを顕にしたアラタの視線が突き刺さる。

 それに対してスヴェンは何も感じず、

 

「必要な情報は吐き出した。それにコイツに仕掛けられた魔法ってのが自爆もするようなもんなら、連れて行けねえだろ」

 

「それは考え過ぎじゃ……」

 

 確かに彼の言う通り過剰な行動だろう。

 しかしこうでもしなければ確かな安全を保証できない。傭兵として外道に染まりきったスヴェンは、自身の中で明確な安全を得るためならどんなことでもする。

 それがスヴェンという名と人の形を持ったーー戦場で育ったモンスターだ。

 

「残り5人だが、リーダー格だけは生きて連行してぇ」

 

「他は殺すんですね」

 

「目の前で殺されんのが嫌ならアンタが俺よりも先に無力化すりゃあ済む」

 

 そう告げるとすっかり復讐心が消えたアラタは、人命優先と言わんばかりに意を決した表情を浮かべた。

 彼の決意に何も言うことも無ければ、むしろ期待感が膨らむ。

 殺し意外の方法を見出せないスヴェンと一度は復讐を誓い、道を踏み外す前に戻れたアラタの決意。どちらにも正解などありはしないが、どちらが最良の結果を得られるのか。

 片方が失敗したとしても片方が成功すればいい。

 スヴェンはそんな保険に近い思考を浮かべながらブリッジに続く階段を登る。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 階段を登り終え、少し進めば鋼鉄の扉が行く手を阻む。

 先程の扉は開閉された。つまりブリッジとその周辺だけは動力が行き届いてる。

 スヴェンは一度扉の前で足を止め、ガンバスターを片手に開閉スイッチに近付く。

 さっき鋼鉄の扉は勝手に開いたーーつまりブリッジ周辺だけ一時的に電力が復旧されている。

 そう考えたスヴェンに何の躊躇いもなく開閉スイッチを押した。

 

「ちょ!?」

 

 アラタの悲鳴混じりの声が耳に響くが、同時に鋼鉄の扉が自動で開かれる。

 そして内部で集まっていたリーダーとその部下が一斉にこちらに敵意を剥き出しに視線を向けた。

 

「何者だ? いや、それよりも嵐の中をここまで来たのか?」

 

 禿頭の頭目が二振りの戦斧を両手に構える。

 

「嵐で足止めを喰らうほどお利口じゃねえんだよ」

 

 スヴェンがガンバスターを構えると、その横脇を雷電が通り抜ける。

 雷電が四人の部下を穿ち、音もなく硬い床に崩れ落ちた。

 視線を隣に向ければ、先手必勝と言わんばかりに魔法陣を向けるアラタの姿が映り込む。

 敵が武器を構え魔法を唱えるよりも先に無力化する。悪く無い判断にスヴェンはブリッジ内に駆け出す。

 コンソロールパネルを足場に跳躍し、頭目に向けてガンバスターを振り下ろした。

 体重と助走を乗せた一撃を、魔力を纏った双戦斧で刃を受け止める。

 ガンバスターの刃が受け止められたことにより、スヴェンの身体が宙に浮く。

 しかし彼はその体勢を利用し、頭目の顔に横から膝蹴りを放った。

 ゴシィンン!! 鈍い打撃音と共に頭目がコンソロールパネルに尻餅付く。

 

「オラァッ!!」

 

 そこにスヴェンは容赦なくガンバスターを一閃放つ。

 だが、頭目は咄嗟に横に転がることで刃を避ける。

 刃はコンソロールパネルを斬り裂き、損傷した回路から放電が流れた。

 スヴェンは放電をものともせず、

 

「この施設を一時的に復旧したのはテメェか?」

 

「へっ! 古代の遺跡って言うからどんな物かと思えば、叩けば動く単純な代物だ!」

 

 一応戦艦は精密機械と緻密な設計により建造された代物なのだが、そんな原始的な方法で一部の施設を復旧させたことにスヴェンは驚きを隠せなかった。

 そんなスヴェンに頭目が双戦斧を突進しながら構える。

 突進と同時に刃を振り抜く。動きを読んだスヴェンがガンバスターを構えると、真横を雷刃が駆け抜けた。

 頭目は一度足を止め、雷刃を双戦斧の刃で弾く。

 

「完全に不意を付いたつもりだったんですけどね」

 

「あ? 今更だがなんだって使用人がこんな所に居る?」

 

「お嬢様の命令で偵察に来たんですけどね、彼と協力して制圧した方が早いと判断したんです」

 

「……そういや、昨日のコロシアムにも居たな」

 

 悠長に始まる会話。スヴェンはそんな隙を見逃す筈も無く、ガンバスターの腹部分で頭目の腹部を振り抜いた。

 くの字に身体を曲げ、またコンソロールパネルに身体を叩き付けられる。

 頭目は衝撃により血反吐を吐き、容赦無い一撃に豪快な笑い声を上げた。

 

「容赦ねえなチクショぉぉ! だが、兄ちゃんのその姿勢は嫌いじゃねえぜ? 偽善と正義感を剥き出しの青臭い連中よか好感が持てる!」

 

「今から殺す相手から好感を得てもなぁ」

 

「へぇ? オレを殺すか。ゴスペルの右足を任されたオレを舐めんな!」

 

 頭目は叫ぶが、彼の眼差しからは冷静さを欠いていない。

 言動こそ荒々しく、とても冷静ではない。一見そんな感想が芽生えるが改めて対峙すれば目の前の敵は、ずっと冷静で戦闘を楽しむ余裕を持っている。

 それは殺し慣れた手合いだ。故に彼が次に出る行動も予想が付く。

 スヴェンは頭目が切り札を出すと予想しながら動き出した。

 

「合成獣ども餌の時間だ!」

 

 魔力を宿した叫びに呼応するように、ブリッジの天井に魔法陣が現れる。

 その魔法陣から二頭のアンノウンが出現し、スヴェンとアラタの前に立ち塞がった。

 魔法が使えないスヴェンにとって障壁を展開できるモンスター、それが二頭とならば厄介な敵でしかない。

 だがスヴェンはそれでも脚を止めず、二頭のアンノウンの頭上を跳び抜ける。

 こちらの行動に対して頭目は驚愕を顕にーースヴェンがガンバスターを振り抜くべく構えた瞬間、窓から差す真紅の光にその場に居る全員が静止した。

 すっかり止んだ嵐。窓から空を見上げれば、燦爛と輝く紅い魔法陣が遺跡の頭上に展開されている光景が映り込む。

 いつ発動してもおかしくない魔法陣の出現に緊張感が漂う。

 状況を確認したスヴェンは再びガンバスターを構えると、

 

「ぜ、全員ストップだ! 合成獣共もお座り!」

 

 頭目の指示にアンノウンは大人しくその場に座り込み、やがて頭目は焦りを滲ませながら武器を納める。

 どうやら戦闘している状態ではない。それは空に浮かぶ魔法陣が危険だと証明している。

 同時にスヴェンはこれが何者かによる証拠隠滅による行動だと判断した。

 ゴスペルの取引相手か、それとも最初の疑念が仕掛けたものか。

 

「あの空の魔法陣は何だ?」

 

「……局地的に業火が降り注ぐ魔法だ。そいつの規模はここら一帯を焦土に変える」

 

 遺跡から離脱して離れるにも時間が足りない。そもそも証拠隠滅を目的にしてるならそんな猶予を与える筈がない。

 

「今から逃げたところで間に合わねえな」

 

 冷静に判断したスヴェンは、焦りを滲ませるアラタに視線を向け、

 

「落ち着け。慌てたところでどうこうなる状況でもねえ」

 

「いや、このままだと死ぬんですよ!?」

 

「兄ちゃんよぉ、そいつの言う通りだ。……恐らくあの魔法は事実を知るオレを消す為に展開された魔法だろうよ」

 

「事実か。アンタはまだ助かりてえと思ってるか?」

 

「そりゃあ命あればなんとやらだ。それとも兄ちゃんはアレをどうにかできる魔法があんのか?」

 

「俺は魔法が使えねえ」

 

「「ダメじゃねえか!!」」

 

 二人のツッコミにスヴェンは眉を歪める。

 

 ーー危機的な状況だから息が合うのか? 

 

 内心でツッコミを入れると、同時に空の魔法陣がより一層激しく輝き出した。

 もう助からないと叫ぶアラタと諦め切れず悔む頭目に、スヴェンはサイドポーチからとある物を取り出しながら駆け出す。

 床に転がる者達はもう無理だ。なら手が届く範囲に動くまで。

 そしてとある物を放り投げ、同時に二人の首根っこを掴みながら投げた物に向けて駆け出すーーそれと時を同じくして業火の光が南東の遺跡を無慈悲にも呑み込む。

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