傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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6-13.町の様子

 地下水路から歓楽街に戻ったスヴェンは、町中から響き渡る怒声とアンノウンの鳴き声。そして魔法陣と武器を片手にアンノウンを追い回す魔法騎士団と住民の姿に呆然と立ち尽くした。

 

「……俺の眼はイカれちまったか?」

 

 一般人が魔法騎士団と一緒になってモンスターを追い回すなど有り得ない光景に眼を疑う他になかった。

 デウス・ウェポンの国境線で行われた市街地戦。傭兵部隊の戦争に巻き込まれた市民ですら逃げ惑うのがやっとなのだが。

 

「うーん、スヴェンさんの眼は正常だよ。私にも異常な光景が見えるもん」

 

「そうか、これは異常か……」

 

 スヴェンはアンノウンを囲い込み魔法による集中攻撃で討伐する一般人達の姿にため息を吐く。

 モンスターの討伐は魔法騎士団の領分だ。確かに洗脳解除時に町中にモンスターが入り込めば、反撃に出るのも頷けるがーーそれにしちゃあ殺意が高すぎねえか?

 アイラの洗脳の影響か、それとも元々ミアに対して向けられた殺意による副作用か。

 スヴェンは内心で一つの推測を出しながら、満足顔で歩く一人の少年に声をかける。

 

「ちょっといいか?」

 

「なんだい? 町の状況なら……気が付いたらモンスターが大量に入り込んでたぐらいしか答えられないけど」

 

「いや、コイツを見て何も感じねえか?」

 

 スヴェンは杖を握り締めるミアに親指を向けると、少年は訝しげな眼差しでミアをじっくりと観察する。

 

「青髪絶壁の美少女」

 

 少年は自身の口から発せられた言葉に驚愕していた。

 どうやら洗脳時に受けた命令とアイラに伝えられたミアの印象が根強く残っているらしい。

 だからスヴェンは今もに少年に対して殴り掛かりそうなミアを止める。

 

「落ち着け、そいつに悪意は感じられねえ」

 

「悪意が無くても! 私はその人を殴らなきゃ気が治らない!」

 

「お、落ち着きなさいミア! 胸なんて成長期で急に大きくなるらしいから!」

 

 レヴィがミアを宥めるように論すると、ミアは絶望に染まった眼差しをレヴィに向け、

 

「……私、第二次成長期からずっとなの」

 

 悲痛な声が三人の耳に小玉する。

 そんなミアに対して少年は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ごめん! 如何して無意識に侮辱的な言葉が出たのかは理解してるんだ……」

 

「青髪ぜ……青髪絶世の美少女を殺せと。如何してリリナお嬢様がそんな命令を出したのかは判らないけど、彼女の眼を見てから記憶が酷く酸味なんだ」

 

 既にリリナは死亡しており、住民に命令を与えたリリナは邪神教団のアイラ司祭が変身した姿だった。

 それを真実として伝えるのは簡単な事だが、彼らには洗脳を施された直前の記憶が有る。

 いま真相を話さなくとも彼らは自然と真相に辿り着くだろう。

 アイラの洗脳は違和感を強く残し過ぎた。洗脳時に施した命令に関する記憶が残る時点でアイラが思い描いた結果とは随分異なる。

 

「なるほど、町の現状を含めて色々と判ったが……よくもまあモンスターに挑めたな」

 

「最初は驚いたさ。気が付いたらモンスターが町中に大量に居たら誰だって驚くだろ? でもラピス魔法学院でモンスターとの戦闘方法は習っていたからそれでなんとか出来たんだ」

 

 実戦を踏まえた授業。確かに有事の際に自身の命を守るのは自分自身だ。

 誰かにタダ助けを求めるより、自身の手で打開を計ることも一つの手段になり得る。

 

「へぇ、それなら邪神教団が攻めたとしても安心か?」

 

「それは……モンスターと人が相手だと訳が違う。邪神教団と言えども同じ人間、彼らが外道だって頭で判っても怖くて魔法なんか向けられないよ」

 

 常人の一般的な感性にスヴェンは眩しい物を見るような視線を向け、自身の身を守るのは自分だ。そんな内心で浮かぶ言葉を口にはしなかった。

 殺しに畏怖や嫌悪感を感じる者に告げるべき言葉は無いからだ。

 

「そうか……最後に一つ訊ねるが、アルセム商会の会長を見掛けたか?」

 

「アルセム商会の……さあ? 歓楽街は大量のモンスターの死骸と無惨に殺された人々の死体も多いけど、ヴェイグさんは見てないかもしれない」

 

 混乱した状況で目撃したか自信がないと語る少年にスヴェンは礼を告げてから彼と別れた。

 そして少年が立ち去り、町中に静かさが戻った頃。人目を忍んでスヴェン達は路地裏に向かい、

 

「……洗脳は解除されたようだな。町中に入り込んだアンノウンも討伐完了か」

 

 少しだけ現状に付いて話し合う。

 

「問題は誰がアンノウンを町中に放ったのかね。あの人は戦闘の最中にモンスターを召喚しなかった」

 

 レヴィの提示する疑問にスヴェンは頷いて答える。

 

「いや、そもそも存在事態知らね様子だった」

 

「そう。それじゃあ一体誰が……」

 

 ゴスペルの右足を束ねるグランはスヴェンの目の前でアンノウンを召喚して見せた。

 だが彼はスヴェン、レイ、アラタの目の前で魔法によって死んだ。

 だから一先ずモンスターが召喚される事は無いと踏んでいたが、フェルシオンでモンスターを放った何者かがまだ居る。

 

「まだ事件は終わりじゃないってこと? でも召喚魔法は元々難度が高い魔法だし、それにモンスターを従えるなんて可能なの?」

 

「授業でもモンスターは星が産み出す自浄作用、星に流れる魔力より産まれた生物って習ったけど……モンスターも星の魔力と同質だから支配したりは無理だと思う」

 

 しかし理論上不可能とされた現象がフェルシオンで行われた。

 デウス・ウェポンの技術ですらモンスターの支配は不可能として断念した経緯を知識として知ってるスヴェンから見ても、モンスターを従える術を持つ何者が相当厄介な存在なのは理解が及ぶ。

 そして同時に禁術書庫で書いたタイラントの件にも引っかかりを覚える。

 

「なあ、タイラントは連中に従ったと思うか?」

 

「……視界に映る全てを襲う暴虐性を利用した計画だと思うわ」

 

 確かにレヴィは邪神教団はタイラントを操ると推測していたが、実際には完璧な支配下に置けずーー生態と特性を利用した操るに過ぎない。

 だがアンノウンを従って見せたゴスペルの右足は全滅。そんな状況で一体誰がアンノウンを操れたのか。

 地下水路でアイラと居た筈の誰かが町中にアンノウンを解き放った。

 だが、アイラとの戦闘時に救援に駆け付けることも無く、ましてや戦闘時から現在に至るまで監視の眼が無い。

 そもそもアイラはアンノウンの存在を知らなかった。メルリアで戦闘した邪神教団の信徒は同胞意識が強いのか、仲間の死に対して強い怒りを見せていた。

 そんな連中を指揮する司祭同士が情報共有を怠るとは考え難い。

 尤も組織内の派閥争いから眼を背ければの話だが。

 

「……アイツと居た何者かか、ゴスペルの取引相手か」

 

「アンノウンに付いては遺骨から調べることになるでしょうけど……はぁ〜、こんな時に所長が居てくれたら」

 

 レヴィが項垂れるように漏らした所長なる人物。

 スヴェンとエリシェは誰のことか判らず疑問に感じると、

 

「……技術開発研究所の所長のことだよ。今は、というかこの時間軸には居ないけど」

 

 曇った眼差しで答えるミアにスヴェンは鋭い眼孔を彼女に向ける。

 

「あ? 時間軸に居ねえだと? 過去か未来に居るって言いてぇのか?」

 

「そ、そんなに怖い眼で睨まないでよ……でもこの話は、その私の個人的な事情にも繋がる話だから」

 

 刻獄という単語が出た時、ミアは青ざめていた。恐らく時間や空間に関係した事件が過去に有ったのだろう。

 そこに所長が巻き込まれたか。スヴェンはそんな推測を浮かべ、冷めた眼差しをミアに向けた。

 

「アンタの個人的な事情に興味はねえな」

 

「……そう、だよね。でもその個人的な事情にあなたをいつか巻き込むかもよ」

 

 ミアには一度命を救われた。それに彼女は何かとこの世界の知識を教えてくれる。

 恩返しとは違うが、少なく無い借りが彼女には有る。

 

「旅行が終わったあと……アンタが報酬を出すなら考えてやる」

 

「うん、その時は私の方から改めて頼るから」

 

 少し安堵した様子を見せるミアに、スヴェンは気が付く。

 彼女が異界人の同行に志願した理由を。わずかにレヴィに視線を向けると、彼女は片目を瞑り『その時は頼むわ』そんな言葉を視線で訴えかけてきた。

 スヴェンはその視線に敢えて何も言わず、脱線した話を戻す。

 

「話が逸れたが、魔法騎士団に報告に行くか」

 

「モンスターの件とゴスペルの取引相手の情報が少な過ぎるけれど、あの二人をあのままにして置く訳にもいかないものね」

 

 それにと思う。フェルシオンを任された領主のユーリがあの状態では代理人を立てる必要性が急務だ。

 特に貿易都市として機能するフェルシオンを円滑に運営するには、優秀な人材を派遣しなければならない。

 その辺りの細かい事後処理はレーナとオルゼア王達の領分だ。

 そんな思考を頭の隅に追い遣っては、スヴェンはレヴィ達と共に魔法騎士団の詰所に足を向ける。

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