傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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7-2.スヴェンとエリシェ

 貿易都市フェルシオンに来たなら先ずは港のシオン大市場に迎え。

 そこには各国の特産品を始め、様々な商品が集まり訪れた物に素敵な出会いを与えるだろう。

 路上で唄うように宣伝を奏でる詩人の姿にスヴェンは歩きながら、

 

「町の入り口でやるもんじゃねえのか?」

 

「あたしとレヴィが来た時には聴いたよ。たまたまじゃないのかな?」

 

 間が悪く宣伝を聴き逃したか、そもそもその日は宣伝されない日だったのか。

 少なくともスヴェンが町に訪れた時には気の利いた宣伝は聴こえなかった。

 詩人の唄う宣伝に今更感が拭えないが、七日の滞在期間を設けた以上は旅行者らしい振る舞いを心掛けるべきだと改めて自身に言い聞かせる。

 

「四国の交易品が集まる大市場ってのも見ておくべきか」

 

「そうだよ〜観光案内はミアの仕事だけど、今日はあたしが紹介してあげる」

 

 スヴェンは任せたと頷くことで答える。

 ふと上機嫌に鼻歌を奏でるエリシェに視線を向ける。

 そういえばまだ彼女の口から目的をまだ聴いていなかった。

 推測通りなら竜血石の購入だとは思うが、実際は別の代物かもしれない。そう考えたスヴェンは彼女に訊ねた。

 

「アンタの目的は竜血石ってヤツか?」

 

 質問にエリシェは驚いた様子で鼻歌を止め、じっとこちらを見つめていた。

 

「男女で出掛けるって普通なら勘違いしちゃうらしいけど、スヴェンはあたしの目的がよく分かったね」

 

「食堂の噂話が聴こえた時、アンタの眼は欲しい物を目の前にした子供のように輝いてたからな」

 

 エリシェは気恥ずかしそうに笑う中、スヴェンは背後から感じるアシュナの気配にため息が漏れる。

 レヴィの護衛は一旦の終わりを迎えたが彼女は王族だ。

 アシュナはスヴェンの影の護衛だが、彼女の本業は密かに要人の護衛を務まる特殊作戦部隊の隊員だ。

 例え安全な町中だろうとも何が起こるかは予想が付かない。

 だからこそアシュナにはレヴィに付いて欲しいのだが、スヴェンが考え込むとエリシェは不審に感じた様子で訊ねてくる。

 

「どったの? もしかして誰かに着けられてるとか?」

 

「いや、勘違いだ」

 

 敢えてアシュナの存在を隠すように答えた。

 

「……昨日の後だと神経が張り詰めちゃうか」

 

「ああ、気を抜いた時が一番恐ろしいからな……いや、そんな話よりも竜血石ってのはどんな素材なんだ?」

 

 話しを戻すためにエリシェに質問した瞬間、彼女の眼が輝く。

 

「竜血石っていうのはね! 竜の血に混ざった膨大な魔力が長い年月を得て結晶化して排出された物なの!」

 

「それで竜血石は鉱石素材と一緒に鍛えると、素材の強度と魔力伝導率を増大させる性質を秘めてるんだ! 竜血石を使うだけで鉄鉱石が鋼を超える強度になるんだよ!」

 

 饒舌に語るエリシェにスヴェンはたじろぎながら、竜血石の性質に思考を傾けた。

 産出率の高い鉄鉱石に竜血石が加わるだけで鋼を超えるなら、メテオニス合金に加えればどうなるのか。

 そこまで思考を浮かべたスヴェンは、エリシェにガンバスターの改造を依頼した意味が全て無意味になると思い直す。

 特に設計段階からエリシェの仕事の様子や武器にかける情熱を見て起きながら、彼女の努力を無意味にする行為だ。

 それは今後の信頼関係を大きく損なう最低最悪の裏切りに他ならない。

 

「竜の血か……希少価値が高そうだな」

 

「う〜ん、姫様が竜王と契約召喚を結んでから希少性は無くなったかな」

 

 レーナが竜王を召喚している。その情報は以前にミアの口から聴いたことが有ったが、なんだかんだ質問の機会を逃したままだった。

 これもいい機会と考えたスヴェンは改めて竜王に付いて訊ねる。

 

「前に耳にしたことが有ったが、竜王ってのはどんな存在なんだ?」

 

「ごく稀に竜の中から一頭だけ産まれる存在で、竜王が放つブレスは大陸を一つ消滅させるとか」

 

 エルリアが在る大陸だけでもかなり広いが、ブレス一つで広大な大陸を消してしまえる存在に嫌な汗が滲む。

 同時に戦略面で考えれば魔王アルディアの凍結封印による人質は正しい選択に思えた。

 その気になれば大陸一つを消滅させる竜王を召喚可能なレーナを無力化する最適解にして破滅を齎す諸刃の剣。

 だが、はレーナの性格から竜王に大陸を滅ぼさせるような真似はしないだろう。

 せいぜいが世界地図が書き換わる程度の事象で済むだろう。

 同時にスヴェンは一つ思い出す。ミアから聴いたあの話を。

 

「そういや、ミアから聴いたが竜王はエルリアの空を飛び回ってるだとか」

 

「うん、かなり自由に飛んでるよ。年に数回はエルリア城に来るしね」

 

「……騒ぎになんねえのか?」

 

「姫様が竜王と召喚契約を結んでもう11年になるから、慣れたかなぁ〜」

 

 笑みを浮かべるエリシェに逞しいと笑えばいいのか、少なくともスヴェンには理解が難しいことだった。

 同時にレーナが竜王を召喚したことに疑問が湧く。

 

「なんだって姫さんは竜王を召喚したんだ?」

 

「理由までは判らないけど、スヴェンなら姫様と話す機会も有るからその時に聴いてみたら?」

 

 レーナが竜王を召喚したのが十一年前となると、当時の彼女は五歳だ。

 そしてエルリアの国民は五歳を迎えるとラピス魔法学院に入学する。

 そこまで知識を呼び起こしたスヴェンはユーリの屋敷の廊下で聴いた事実を思い出した。

 

 ーーそういや、学院に入学してねえとか言ってたな。

 

 何か理由が有るのは明白だが、その話は日を改めて召喚の事実確認を交えて聴いた方がいいとスヴェンは密かに判断した。

 

「そん時までに興味が残ってりゃあ聴いてみるか」

 

「そうしてあげて。スヴェンみたいに頼れる大人は姫様に必要だからさ」

 

 レーナの周りには頼るべき大人が居る。オルゼア王やラオ副団長が頼るべき大人に該当するだろう。

 だが自分はレーナが頼るべき大人ではない。自身の立場はレーナによって召喚された異界人に過ぎない部外者だ。

 だからスヴェンは否定的にエリシェの頼みを断った。

 

「姫さんには頼れる大人が周りに居んだろ……それに外道は頼るべきじゃねえ」

 

「スヴェンが異界人なのは分かってるけどね……姫様は王族で彼女の周りに居るのは友達でも他人でもないんだよ」

 

 レーナの周りに居る大人は彼女が守るべき国民でしかない。

 むろん魔法騎士団のラオ副団長は彼女を護る騎士だが、そこに職務と立場を抜きにした気安い態度で気軽に相談できるかと問われれば難しい。

 そう考えたスヴェンはようやくエリシェの言葉の真意に気が付く。

 確かに父親のオルゼア王を抜きにすればレーナが気軽に頼れる人物は多くは居ないのかもしれない。

 しかし身分を偽ったレヴィの姿なら気軽に相談もできるだろうーー現にエリシェは正体に気付かないまま友人のように接している。

 逆に正体に気付きながら立場と重責を考慮したミアは、一人の友人としてレーナに接していた。

 相談するなら歳の近い同性の方が何かと気楽だとスヴェンは結論付けた。

 だがまだレヴィの正体を知らないエリシェにこの事を告げても意味が無い。

 むしろの人の往来で告げるべき事実じゃない。

 

「……まあ、考えておく」

 

 スヴェンは周囲の聞き耳を考慮して曖昧に答えると、エリシェも周囲の反応に気が付いたのか、申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 それから程なくして二人はシオン大市場に到着し、一通り観光を楽しんだあと目的の鉱石屋に向かうのだった。

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