傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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7-4.鍛治師として

 スヴェンに荷物運びを任せたエリシェは軽やかな足取りでフェルシオンの中央区に位置するバイクン・スミスへ足を運ぶ。

 そして鍛治工房に到着したエリシェは店の入り口で軽快に来訪を告げた。

 

「バイクン叔父さん〜! 工房を借りに来たよ〜!!」

 

 そう告げると奥の工房からやって来た叔父ーー作業着に槌を片手に、左眼に眼帯を着けたバイクンがおおらかな笑みを浮かべ、

 

「エリシェ! 卒業祝い以来じゃ……あっ? テメェはエリシェの何だ?」

 

 それは一瞬だけで背後に鉱石が積み込まれた荷物を持ったスヴェンに恐ろしい形相で凄んでいた。

 相変わらず叔父は一緒に居る男性にたいして勝手に早とちりしてしまう。

 職人としての腕前は尊敬できる人物だが、短気な性格が玉に瑕だ。

 それにしても叔父の形相は相変わらず人を殺してしまえるほど恐ろしいが、それを受けているスヴェンは平然としている。

 彼にとってこんな状況は馴れているのか、こんな時にスヴェンが口を開けば叔父は耳を貸さない。

 此処は自身が叔父に対して確認を含めて事実を伝えるのが一番無難な対策だ。

 

「叔父さんは手紙を読んでないの? 私が武器のオーダーメイドを請けた話をさ」

 

 手紙を読んだかどうか訊ねると叔父は薄い髪の毛を撫でながら、

 

「読んだが、男を連れて来るとは聴いてねえな」

 

「何か勘違いしるようだけど彼はあたしの客人だって。此処に来たのは荷物運びを手伝って貰ったからだよ」

 

 そう事実を告げると叔父はようやく理解が及んだのかスヴェンに申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「す、すまねぇ。異界人は随分と女遊びが激しいと聴いてたもんだからよ、てっきりかわいい姪に悪い虫が付いたとばかりなぁ?」

 

 そこでスヴェンに同意を求めるように語るのは如何とは思うが、叔父が言う通り異界人の女遊びが激しいのは周知の事実だ。

 魔法学院の同級生三人がストーカー被害を救われ、惚れたとかで異界人に同行してるなんて話も文通で聴いたことが有る。 

 そう言った理由から叔父の早とちりを半ば納得すると、スヴェンがなんとも言えない眼差しを浮かべながらため息を吐く。

 

「フェルシオンで噂になる程なのか?」

 

「実際に目撃者は多数だからよ。っつても4月頃の話だがな」

 

 スヴェンはどうでもいい存在と認識したのか、それ以上異界人に対して訊ねようとはしなかった。

 同じ異界人同士でも争うことが有るーー最悪殺し合うことが有ることは理解しているけど、異界人同士が協力し合えば少しは結果も違うように思えてくる。

 実際にレーナの依頼を請けた異界人が真面目に取り組むのは、一人握りで十人中に一人程度の割合で同行者との言い争いも絶えない程だ。

 あとはレーナから受け取った支援金で豪遊、女遊びなどは常。

 その点を踏まえればスヴェンは殺人に対して躊躇しない点を除けば異界人の中でも頼りになる大人だ。

 二人の会話からこれまで見て接して来た異界人とスヴェンを比較していると、

 

「ところでコイツを何処に運べばいいんだ?」

 

 荷物に視線を落とすスヴェンにエリシェは叔父に向き直る。

 工房を借りることに付いては同意を得ているが、何処の作業場所が割り当てられているのかは判らない。

 何せ叔父は父とは違い数多くの弟子が居る。そんな彼らの作業場所を誤って使うことは避けたい。

 

「叔父さん、奥の空いているスペースを借りても良いんだよね?」

 

「おう、エリシェのために用意しておいた作業スペースに案内するぞ」

 

 そう言って付いて来るように顎で合図を出す叔父にエリシェとスヴェンは付いて行く。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 店の入り口から誰も使っていない最奥の炉と金床が設けられた作業場所に案内されたエリシェは、スヴェンに作業台の側に鉱石と竜血石が入った箱を置くように伝えた。

 

「これで俺の用は終わりだな」

 

 そう言って早速帰ろうと背中を向けるスヴェンにエリシェは、すぐに行ってしまう淡白な彼に不思議と名残り惜しさを感じた。

 なぜそう感じてしまうのかは判らないが、此処は一つ自身の職人としての腕を少しでも彼に見学してもらうべきだ。

 そう思った時には自然とスヴェンの右手を握り口から、

 

「良かったら見学して行かない?」

 

 そんな提案を告げるとスヴェンは一瞬だけ考え込む。

 彼はレヴィの護衛依頼を請けてる立場だ。だから彼女と長く離れるわけにもいかないのは判っている。

 ただ、『アンタのような専属が居たらどんなに気楽か』あの不意に言われた言葉がエリシェの頭から離れられないのだ。

 あの時はつい半人前だからと誤魔化したが、ガンバスターの製造に携わる以上はその後のメンテナンスに専門の職人が必要になる。

 しかしスヴェン自身に何か有るのか、彼は専属契約を結ぶことに消極的だ。

 

「見学してたらスヴェンの悩みを吹っ切れるかもよ?」

 

 そう言って判断を促すと彼は一つ結論を出したのか、

 

「なら見学させて貰う。正直に言えやぁデウス・ウェポンの工房は機械による製造だったからな。職人の手作業ってのは見たことがねえんだ」

 

 純粋な興味とこちらを観察するような眼差しでそう答えた。

 そこでエリシェは適当な椅子にスヴェンを座らせ、早速作業台に設計図を広げる。

 やがて荷物から自身の工具を取り出し、炉に魔力を注ぎ込み高熱の炎で満たす。

 最初に造るのは銃に必要なネジなど細かい部品だ。

 エリシェは鉄銀鉱石を炉に入れ、熱した鉄銀鉱石を一度取り出し魔力を込めた槌で叩く。

 何度も鉄銀鉱石の鍛造を繰り返しながら棒状に鍛え、竜血石を加え、最後に魔力を込めて打ち込む。

 すると元々灰色だった鉄銀の棒が赤黒い魔力を帯びた棒へと変質する。

 竜血石はどんな鉱石の色も赤黒へと変質させる性質を秘めていた。

 例えば翡翠鉱石で薄い緑の剣身を創りたいなら竜血石を加える必要はない。竜血石はどんな鉱石の色も赤黒に変質させるからだ。

 実際のところ鍛治職人も工芸家も竜血石の性質から素材して使うことは滅多に無い。

 だが竜血石を加えるだけで武器の強度も魔力伝導率も向上させるならーー些細なプライドで使用者を護れない武器なんて鉄屑と同じ! 鍛造に必要なのは職人の魂と魔力だけ!

 エリシェは工具箱から父が製造したネジ切りを取り出し、鍛え上げた棒をネジ切りに嵌め込む。

 そしてネジに切れ目を入れて一つ目のネジの完成だ。ただ、解析魔法で構造を把握した際に適切なサイズと形を模倣しただけの部品だ。

 これがスヴェンの望む部品となり得るのかは、エリシェにも判断が難しいところだった。

 

「スヴェン、はじめてネジを造ったんだけど……どうかな?」

 

 そう言って確認するようにスヴェンに完成したばかりのネジを手渡す。

 まだ熱が残ってるがスヴェンは気にした素振りも無く、真剣な眼差しでネジを観察した。

 やがてスヴェンはネジを軽く叩き、力を加えては魔力を流し込んだ。

 

「……強度も高えし魔力も流し易い、初めて造ったわりには相当な出来だな」

 

 相変わらず彼の瞳には底抜けに冷たい印象を受けるが、職人としての腕を褒められて喜ばない者は居ないだろう。

 エリシェは声に出さず内心でガッツポーズを浮かべては、早速次の作業に入るーー各種ネジとナットの製造だけで気が付けば夕暮れを迎えることに。

 

「エリシェ、今日はもう止めておきな」

 

 言われて周囲を見渡せば叔父の弟子達は片付けを済ませ、既に工房から姿を消していた。

 この場に残されたのは自身と叔父、そしてスヴェンの三人だけだった。

 

「もう夕方? 今日中に銃の部品までは漕ぎ着けたいのに……」

 

 七日の期間をスヴェンから貰ったが、試作品の銃が本来通りの作動をするのかどうかはまだ判らない。

 だからこそ期間内よりも速く試作品を仕上げ、調整を行いたいのだが、

 

「アンタの作業は見学させて貰ったが……この様子じゃあ随分余裕が出来そうだ。だから、まぁ焦る必要はねえだろう?」

 

 確かに彼の言う通りだ。焦っては余計な力と雑念が鍛造に影響を齎す。

 見た目の割に脆い銃身が完成しては、スヴェンの生命を脅かすことになる。

 

「確かにそうだね……七日の期間を設けたけど何処か不安が有ったみたい」

 

 汗ばんだ額を拭うと自然と頬が綻ぶ。

 

「静かに観察してると思ったが、エリシェのことをちゃんと見てたんだな」

 

 叔父の言う通りスヴェンは人に興味が無く見ていないようで、その実よく見ていると思う。

 

「作業もそうだが、俺はソイツの職人としての腕を観察してたんだよ」

 

「改めて思うけど、誰かに技量を観察されるのって照れるね」

 

 改めてスヴェンを真っ直ぐ見詰めれば、不意にあの日の失敗と光景が頭に浮かぶ。

 鍛え抜かれた逞しい肉体を誇り覆い被さるスヴェンに、エリシェは頬を赤く染めた。

 内心で間の悪いタイミングであの時の光景を思い出したのもだと思うが、時既に遅くスヴェンを鋭い形相で睨む叔父の姿が映り込む。

 

「やっぱ何かしやがったのか!?」

 

「思い当たる節は無いが、照れただけじゃねえのか?」

 

 あの時の事は彼にとって記憶に残っていないのか。それはそれで面白くないと思うがスヴェンは大人だ。

 それ相応の経験と大人の余裕が有るのだろう。

 これ以上叔父がスヴェンに突っ掛かる前に立ち去らねば。

 エリシェは手早く荷物に設計図と工具を仕舞い込み、

 

「スヴェン! そろそろ宿屋に戻らないとレヴィとミアが待ちくたびれてるかも!」

 

 そう言ってはスヴェンを引っ張り出すように工房を歩き出す。そして自身が出せる最大限の笑みを叔父に向け、

 

「バイクン叔父さん! あたしは明日も来るからね!」

 

 そう告げれば意外とチョロい叔父は照れ臭そうに煤で汚れた鼻を撫でていた。

 こうしてエリシェはスヴェンと宿屋フェルに戻ることに。

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