傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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8-7.祭りと不良

 ミアと合流したスヴェンとラウルは一先ず宿部屋を確保した後、改めてジルニアで開催されている祭りを見て回ることに。

 その背後で気配を隠しながら付いて歩くアシュナも伴って。

 スヴェンは先程の二人組の邪神教団を気に留めながらも、先頭するミアに付いて歩く。

 やがて芳ばしい香りに惹かれたミアが屋台の前で足を止め、スヴェンとラウルは露店の看板に視線を向けた。

 一本で銅貨五枚の浮遊魚の串焼き。それが炭火焼きで焼かれている真っ最中で、なんとも香料の香りが更に食欲を引き立てる。

 

「おじさ〜ん! 浮遊魚の串焼きを八本ください!」

 

 彼女が愛想笑いを浮かべれば、店主の男性が豪快な笑みを返す。

 

「おっ、お嬢ちゃんかわいいねぇ。そんなお嬢ちゃんには2本オマケだ!」

 

 焼き立ての浮遊魚の串焼き十本をミアが受け取り、それぞれ二本ずつ手渡される。

 メルリアの露店でも獣肉の串焼きを食べ歩いたが、祭りとは関係無く美味そうに見えて仕方ない。

 そもそも祭りという賑やかな雰囲気は不要なのでは? 他者が聴けば憤慨される可能性が有る独白にスヴェンは心の内に留め、浮遊魚の串焼きに齧り付く。

 

「っ!?」

 

 一口豪快に齧り付けば香料の塩味と辛味ーー極め付けは肉に近い分厚い赤身に乗った脂と引き締まった旨みが口内に一瞬で広がる。

 魚肉といえばさっぱりとした舌触り、中には淡白で羽獣に近い食感を持つ物の有るが、浮遊魚のそれはまるでステーキだ。

 魚肉に分類されているが、獣肉のような獣臭も魚特有の生臭を感じさせない。

 

「最高だ」

 

 味と満腹感に加えて歯応えも合わさった感想を漏らすと、

 

「もっと無いんですか? 肉厚の魚肉に対する感想が」

 

 ため息混じりでそんな事をミアに問われた。

 生憎と気の利いた食レポの類は苦手だ。

 

「悪いが俺にそれを求めたところで言葉が出ねえよ」

 

 正直に告げればミアがにんまりと笑みを浮かべた。

 

「言葉は出ないけど、笑顔は出てるよ」

 

 そんな指摘にスヴェンは疑問を浮かべ、ミアに視線を向ければ彼女は笑みを浮かべたままだ。

 美味い食べ物で自然と笑みが溢れていた。それは食事の力なのかは判らないが、一つやるべき事は決まっている。

 浮遊魚の串焼きを一本食べ切り拳を強く握り締めた。

 

「歯を食いしばるか? それとも拳を食うか?」

 

「どっちも殴るってことじゃない!」

 

 単なる冗談。これもミアと慣れたやり取りの一つだが、

 

「落ち着いて! アニキが殴ったらお姉さんのかわいい顔が大変なことになるから!」

 

「単なる冗談だ、本気で殴りはしねえよ」

 

「なんだぁ〜」

 

 陽気にラウルが笑うと様子を静観していた店主が考え込む様子で、ラウルを見つめていた。

 彼はジルニアの行商人も襲撃していた。ここでラウルの素性が発覚すれば面倒になる。

 店主の様子からミアも気付いたようで、

 

「あっ! あっちで的当てをやってるよ!」

 

 彼女に引っ張られる形でスヴェンとラウルは的当て屋に向かった。

 その背後で、

 

「うーむ。何処かで見たような……ガルドラ峠を襲う野盗はつい先日死体で発見された。なら勘違いかぁ?」

 

 勘違いで落ち着いたのか、それでもラウルに対する疑念は拭えない様子だ。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 スヴェンは物陰から感じる視線に警戒から視線を向けた。

 そこには何処かで見覚えが有る黒髪の少女が居たが、何処で見かけたのかそれとも単なる人違いか。

 少女が向ける視線は敵意を向ける訳でも単なる興味本意からの視線だ。

 そしてそんな少女の背後に位置する壁の隅から様子を監視するアシュナの姿も見える。

 少女が何かを起こせば即刻アシュナが悟られずに対処するだろうと判断したスヴェンは、的当ての店主と話すミアとラウルに近付く。

 

「クロスボウで景品を撃ち落とすんですか? 弓矢じゃない辺りが独自性がありますね」

 

 ミアの指摘に煙草を咥えたシスターの格好をした女性店主がクロスボウを片手に、凄みを利かせた笑みを宿す。

 

「アトラス教会も資金難だからね。出店できる時に出店するのさ……時に聴くが、異教徒の気配と悍ましい気配を感じるのだが」

 

「うーん、ちょっと身に覚えがないですけど……一回いくらです?」

 

「一プレイで銅貨10枚、ボルトは五発だ……ところで隠し立てすると碌な目に遭わないよ」

 

 接客と同時に本職を忘れない彼女にスヴェンはどうでも良さげな眼差しを向けつつ、クロスボウにボルトを装填するミアに視線を移した。

 彼女は狼のぬいぐるみに向けてクロスボウを構える。その構えは一般的な構え方だった。

 ただ何処か様になっているのは何故なのか?

 スヴェンとラウルが見守る中、ミアは一呼吸整えてから狼のぬいぐるみ目掛け引き金を引く。

 引き絞られたクロスボウの弦から放たれたボルトは真っ直ぐ狼のぬいぐるみのーー頭部に直撃し、狼のぬいぐるみの頭だけが虚しく地面に落ちた。

 狼のぬいぐるみがよほど欲しかったのか、ミアの背中から重い空気が漂う。

 スヴェンはそんな彼女の背中に眼も向けず台に置かれた四本のボルトに視線を向ける。

 

 ーーよく見りゃあ鏃を潰してねえのか。

 

「一発で撃ち落とすなんてやるじゃん。おめでとう、これが景品だ」

 

 煙草の煙を口から出しながら笑う女性店主ーーその手には狼のぬいぐるみの千切れた頭だけ。

 それを手渡されたミアが彼女に食ってかかる。

 

「ちょっと! こんな景品はあんまりですよ! というかこれでお祭りの屋台として成り立つと思ってるんですか!?」

 

「しっかり場所代を払ってるんだ。成り立つに決まってるだろ」

 

「景品の問題です! というかあなたは教会のシスターですよね!? 聖職者がそれで良いんですかっ!」

 

「ふむ、お連れの小娘は何が問題と言うんだね?」

 

 詫びれる様子を一切見せない店主にスヴェンはため息を吐く。

 我の強い手合いほど交渉ごととなれば手強い。特にボルトの鏃に関しては事前に確認しないミアに非が有るとも言えるだろう。

 いや、金を受け取って尖った鏃を渡す方が不義理もいいところなのだがーー質問に答えりゃあ鏃を変えんのか?

 しかし答えたところで鏃を交換するとも限らない。

 

「質問には身に覚えがねぇと答えた筈だ、それとも望まない答えに鏃を取り違えたとでも?」

 

「私はこれでもアトラス神の聖職者だ。偉大なる神に仕える清潔清らかな私がそんな小さな事で不義理を果たすとでも?」

 

 何処の聖職者に煙草の煙を排出しながら清潔清らかなと謳う者が居るのか。

 スヴェンとラウルは白んだ眼で戯言を語った女性店主に視線を向けた。

 

「ふむ、鏃の交換は原則しない主義なんだ。それにその鏃はアトラス教会の神秘で鍛えられた対吸血鬼系モンスター用の聖装備だぞ?」

 

 吸血鬼系モンスターは気になるが、聞き間違えで無ければ彼女は聖装と語った。

 聞き間違えかとラウルと眼を合わせれば、彼もしっかりと耳にしたのか呆れた眼差しを浮かべている。

 同時にミアが怒りから肩を震わせ、

 

「一体何処の世界で! 普通の祭りの屋台で! 対吸血鬼系モンスター用の聖装を的当て用に使う人が居るんですかぁ!!」

 

「目の前に居るだろ? 細かい事を気にするから処女なんだよ」

 

「なっ!? そ、それは関係ないですよ!」

 

 なぜ女は性経験の有無を引き合いに出し合うのか。それは男も同じだが、スヴェンは赤面しながらいよいよ台に身を乗り出すミアのローブの襟を掴む。

 

「ぐえっ!」

 

「落ち着け、ボルトはあと4発残ってんだ。なら狙うべき的は判るな?」

 

 スヴェンは女性店主をしっかりと見ながらミアの耳元で囁く。

 凶器を客に手渡すとどうなるか。身を持って体験して貰った方が話も早い。

 囁き声通りにミアはクロスボウを女性店主に向ける。

 だが引き金に掛かった指が動かない。

 いくら女性店主の横暴な態度に腹を立てていたとはいえ、人を撃つことを躊躇う。やがて冷静になったミアはこちらにクロスボウを手渡し、

 

「スヴェンさんは得意だよね?」

 

 代わりに撃てと語る彼女は中々良い性格をしているのだろう。

 しかしスヴェンは相手がアトラス教会のシスターであろうとも躊躇うことはない。

 スヴェンがクロスボウの引き金に指をかけ、彼女の心臓に狙いを定める。

 

「そういや、フェルシオンで人身売買を主導していた黒幕が未だ正体不明のままらしいが教会の情報網で何か知らねえのか?」

 

 引き金を引く前に確認しておきたいことを訊ねた。

 

「ん? アトラス教会でも調査は進めているがまだ正体には至っていない。しかし景品として私をご所望とは……では明日の朝まで愉しむとしよう。むろんベッドの上でな」

 

 彼女の言動にスヴェンは一気に不快感に襲われ、クロスボウを下げた。

 

 ーーコイツ、中々手強い。しかしアトラス教会も黒幕に関してはまだ何も得てねぇのか。

 

「おや、女性経験が豊富なキミなら激しいプレイも期待できると思ったのだが?」

 

「……戦場の殺し合いなら望むところなんだが、激しいプレイが望みならならそこら辺の異界人でも誘え。それか先から興奮してるそこのガキとかな」

 

「こ、興奮なんてしてないけど!?」

 

 ラウルが鼻息を荒げながら興奮した眼で否定したところで説得力は皆無だ。

 

「青臭い童貞を食べたところで面白味も無い……ふむ? なんの話だったか」

 

 スヴェンは顔を真っ赤に魚のように口をぱくぱくと開くミアに視線を移す。

 どんだけ純情なんだとツッコミたい衝動を堪え、

 

「はぁ〜如何あっても鏃を替えねえと?」

 

「うむ、最近はジルニアの守護結界を抜けた先……北西のモンスター生息地域でドラクルが確認されているからね」

 

「……あん? つまりアンタは的当て屋にカッコ付けて対吸血鬼系モンスター用の聖装を配ってるとでも?」

 

「最初からそう言ってるではないか」

 

 さも『何を言ってるんだ?』そんな憐れみも伴った舐め腐った表情に.600LRマグナム弾をぶち込んでやりたい。

 そんな殺意の衝動を必死に堪える中、

 

「最初からそう言ってくれれば良いんですよ。でも景品はちゃんとした物が欲しいです」

 

 ミアが女性店主に告げると彼女は景品の一つでもある、狼のぬいぐるみとボルトの束を手に取りそれらをミアに投げ渡した。

 改めて狼のぬいぐるみに視線を向ければ、どう見ても懐きそうにも無く可愛げの欠片も微塵に感じさせない代物だ。

 そんな狼のぬいぐるみとボルトの束を受け取ったミアはそれを愛おしいそうに抱き締め、

 

「わぁ〜! かわいいし抱き心地もすごい!」

 

「「かわいいのか?」」

 

 図らずともラウルと同じく感想が重なる。

 

「ふむ、私が夜鍋して作った甲斐が有ったな」

 

「えっ、不良シスターが作ったの? アニキ……女性って見かけに寄らないんだな」

 

「そんなもんだ。だいたい女の外見なんざ当てにならねえんだよ」

 

 ラウルに語ると彼はなるほどと頷いては、不意に背後の路地に振り返る。

 だがラウルが振り返った路地には誰も居らず、彼は首を傾げるばかりだった。

 

「なんか見られている気がしたんだけど」

 

「そりゃあ騒げば注目されんだろ」

 

 スヴェンはアシュナのことを誤魔化しながら、間違えなく女性店主との騒ぎで注目を集めた事実を二人に告げた。

 この場に留まり続けたところで何も得られないと判断したスヴェン達は次の場所へ向かう。

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