傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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8-9.祭りと別れ

 ミアがアンドウエリカから聴いた良い情報というのは、ジルニアから北西に続く守護結界領域内の山道に温泉が湧き出たと。

 ジルニアの人々はそこに温泉宿を建て、一週間の間は宿泊費と入浴料を無料にしていると。

 そんな話をミアは歩きながら熱心に語った。

 温泉と無料、そんなワードを聴いて寄らないという選択は無い。

 

「無料なら立ち寄らねえ理由がねえな」

 

「そうでしょう! 温泉で旅の疲れを癒すのって最高だよ!」

 

「温泉かぁ〜混浴ならいいなぁ!」

 

 期待に胸を膨らませるラウルに二人は足を止める。

 彼とはジルニアまでという話しだった。だからラウルを温泉宿に連れて行く事は無い。

 

「ラウル君、残念ながら君とはこの町までですよ?」

 

「あっ、そうだけど……も、もう少しだけ一緒にってのはダメ?」

 

「あのねラウル君? そんなに鼻の下を延ばされたら頷けないよ? というか混浴とは限らないんだよ?」

 

「うーん、やっぱり新しい生き方をこの町で模索した方がいいのかなぁ……罪滅ぼしもしたいし」

 

 まだ彼なりの新しい生き方は見付かって無いが、幸か不幸か邪神教団の二人組も別の生き方を模索していた。

 

「ラウル、一度魔法騎士団の詰所に行ってみるか?」

 

「行ってすぐに逮捕されないよね?」

 

 ラウルはガルドラ峠に出没する野盗の一人として手配されているだろう。

 同時に子供ということも有り魔法騎士団は積極的に討伐しなかっただけで彼から向かうなら逮捕はする。

 ただそれはラウルの新しい生き方を模索するには好都合にも思えた。

 罪人という前科は当たり前に付き纏うが、それでも十歳の子供には大人の支援と保護が必要になる。

 そういった環境も必要な居場所を自分とミアでは提供することも叶わない--なんとも力不足だが、危険な旅に同行させるよりは遥かにマシだ。

 

「行くだけ行ってみりゃあいいだろ。いずれ行くんだからよ」

 

「ラウル君、遅くなれば遅くなるほど行き辛くなって罪も重くなるんですよ?」

 

「二人がそう言うなら……善は急げだ!」

 

 ラウルは祭りで賑わう通過人の大衆に駆け出した。

 流石にラウルを生かした身としてこのまま一人で行かせる訳にも行かず、スヴェンとミア急ぎ彼の後を追う。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 ラウルを追い魔法騎士団の詰所に到着すると、数人の騎士に取り囲まれたラウルと二人組の邪神教団にスヴェンとミアは唖然とした。

 確か信徒の二人は町を巡回する騎士に駆け出したが、素性から即拘束されたのだろう。

 

 ーーあー、三人とも前科持ちだからな。いや、あの二人組は罪を犯したとも限らねえか。

 

 さてどう説明したものか。スヴェンが僅かに頭を悩ませるとミアが数人の騎士に向けて話しかける。

 

「えっと、そこのラウル君は私達が連れて来た子ですけど」

 

「む? キミは……ああ! 治療師のミアか! 特徴的な容姿と聴いていたからすぐに分かったぞ」

 

 一人の騎士の言葉に他の騎士は釣られるように頷いた。

 ミアは自身の容姿に自信を持っているのか、何処か納得した様子で頷きながら笑みを浮かべる。

 

「私ってそんなに一眼で判る美少女なんですねぇ〜」

 

「「「え? ……あ、あぁ! そうなんだよ!」」」

 

 騎士の様子から悪意の有る特徴として伝えられたが、対する本人は気付いた様子が無い。

 知らぬが花とはまさにこの事を言うのかもしれない。

 スヴェンは相変わらず取り囲まれた三人に近付き、本題に入る。

 フードを外しこちらに視線を向ける紫の髪の少年と銀髪の少女を無視し、助けを求めるラウルに視線を向ける。

 

「そこの二人組は兎も角、なんだってラウルまで取り囲まれてんだ?」

 

「……まさかあの人がこの町の部隊長だったなんて」

 

「騎士団相手にやらかしやがったな」

 

 訓練を受けた魔法騎士団、その部隊長を務める相手となれば少なくともレイに近いかそれ以上の実力を有しているはず。

 そこで捕縛されていない辺り、ラウルは中々やり手だったのか。

 

「あの〜私達が取り囲まれてる状況も不服なんだけど?」

 

 邪神教団の異端とはいえ、現在進行形で多方面に戦いを挑むのは何処の組織だったか。

 不本意な形とは言えその組織に所属していたのは誰だったか。

 

「鏡と服装を見てたから言え」

 

 冷たく遇らえば背後から騎士の手が伸ばされ、スヴェンは伸ばされた手を避ける。

 

「邪神教団の信徒と知り合いらしいから詳しい話しを聴きたいのだが?」

 

 誤解されている。そう判断したのは一瞬で同時にどう対処すべきかも結論が出る。

 

「そっちのガキ二人はこの町で遭遇したが、魔法騎士団に寄ると聴いてな。勝手に自首なりなんなりすんなら祭りに水を差す訳にもいかねえだろう?」

 

「確かに折角の祭りをナメクジ共に邪魔されたくないよなぁ」

 

 騎士の発言に二人組はただ苦笑するばかりで、別段否定することもせず、

 

「その恐い顔の人の言う通りだ。俺達は組織から異端の烙印を押されてるし、抜けられるなら可能な範囲で何でもする」

 

 堂々と真っ直ぐとした眼差しを持って騎士にハッキリと告げた。

 二人組の本物の眼差しに騎士達は互いに顔を見合わせ、

 

「覚悟は本物と見受けたが、一隊員でしかない我々には直接的な判断はできない。だから二人組に関してはカノン部隊長が巡回から戻るまで拘束させてもらう」

 

 そう言って一人の騎士が警戒心を顕に周囲を見渡す。

 魔法騎士団の詰所周辺にはアシュナを除いた不審な気配も無く、また屋台の出店も無いため人の往来は皆無だ。

 しかし彼らの警戒心も何故わざわざ三人を複数人で取り囲んで居たのかも理解が及ぶ。

 他の邪神教団の信徒に二人組に対する拘束を見られては、それを口実に面倒な事態に発展しかねない。

 例え異端の烙印者であろうとも使い捨てを効率よく使い捨てる。それが組織として末端に対する処理の仕方だ。

 スヴェンとミアが見守る中、二人組は大人しく魔法陣が刻まれた手錠に拘束される。

 

 そして全員がラウルに視線を向け、

 

「ガルドラ峠で行商人を襲っていた野盗の一人がおれなんだ。他の生き方を見付ける前に罪を清算したい」

 

 彼は全員にはっきりと告げた。

 

「野盗に堕ちた理由も我々の計り知れない苦労が有ってこそ。しかし未成年とはいえ、野盗として犯した罪に同情の余地は無い。故に魔法騎士団は未成年犯罪法の適応を持って貴殿を拘束しよう」

 

 自首したラウルを子供ではなく、罪を償う一人の男として騎士は扱った。

 

「アニキ、姉さん……罪を償い終えたら二人の旅におれも付いて行っていいか?」

 

 旅の目的は魔王救出だ。依頼の完了は旅の終わりを意味する。それが魔王救出のための建前と偽りの情報の為だろうと旅は終点に行き着く。

 旅の終点はまだ先に思えるが、峡谷の町ジルニアから北西に進めばエルリア北西部に到着する。

 そこから幾つか小さな村を通り抜け、国境線の関所を通過すれば小国パルミドに。

 その後が少々苦労を強いられる予感も有るが、ラウルの罪の清算は如何あっても間に合わない。

 

「俺達の旅は長くは続かねえ。少なくとも8月中には終わる……アンタは身の振り方を考えておけ、判らなければ騎士に訪ねればいいさ」

 

「そうですよラウル君、頼りになる大人はずっと多いんですから」

 

 そう言えば自分達は結局ラウルに対して別の道を示してやる事などできなかった。

 教えるべき大人の一人である自身が他の生き方を知らないから、誰かを導くことなど不可能だ。

 同時に今回の依頼完了後、どう生計を立てるのか考えておく必要も有る。

 ある意味でラウルの事は決して他人事ではない。

 

「アニキ、姉さん。おれ、自分のやりたい事を見付けて見せるよ!」

 

 そう言ってラウルは二人組の邪神教団と魔法騎士団と共に詰所に歩き出した。

 ふとラウルの荷物は宿部屋に置いたままの事を思い出し、それはミアも同じだったようで、

 

「ラウル君の荷物は後で私が情報交換ついでに渡して来るよ」

 

 彼女の提案にスヴェンは頷いた。

 

「面倒をかけるが頼んだぞ」

 

「任されたよ! でも今日はまだ祭りが続いてるし、アシュナに美味しい物を食べさせないとね」

 

 確かにラウルが同行している間、アシュナは徹底して存在を隠した。その影響で彼女は自由に姿を見せる事もままらなず、食事はラウルが見ていない隙に差し入れることに。

 そんな扱いに当然アシュナに不満が溜まらない筈がない。

 現にスヴェンの背中にはアシュナの強い視線を感じる。

 

「アンタにケアを任せていいか?」

 

 同性同士なら互いに気楽だろう。そう判断して提案すれば、

 

「うーん、そうしたいけどね。たぶんスヴェンさんが向き合うべきだと思うんだ」

 

 彼女の言う事も一理あるのは確かだ。

 しかし一体なにと向き合えば良いのか。そこが問題で慎重に事を運ばなければ地雷原をタップダンスで踏み抜く可能性が高い。

 

「……やれるだけのことはやるが、期待すんなよ」

 

「分かってるよ、スヴェンさんは不器用だから」

 

 そこは理解していると言わんばかりに微笑むミアにスヴェンは何も言えなかった。

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