傭兵、異世界に召喚される   作:藤咲晃

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8-10.スヴェンとアシュナ

 祭りを楽しんでる筈のスヴェンとミアに路地裏に呼び出されたアシュナは、

 

「ごはん?」

 

 彼らの目の前に姿を現した。

 二人はーー特にスヴェンは最初から気配で居場所を特定していた。いつか彼に気配を悟られないように技術を磨きたい。

 そんな事を考えているとミアが四本の浮遊魚の串焼きを差し出し、アシュナはそれを受け取り素早く完食しては脚力に力を入れた瞬間、

 

「あー、待て。今更だがアンタも祭りを回るか?」

 

 スヴェンに呼び止められた。

 確かにミアとラウルが祭りを楽しむ様子は影から見ていても羨ましいもので、同時に自分だけ除け者にされてる。仕事中と割り切ってはいるものの、不満や嫉妬に近いそんな感情も胸の中を刺激する。

 だからといって影の護衛として表向きに祭りを楽しむ訳にもいかず、しかし折角の祭りを逃すか。どうするべきか迷うとスヴェンが頭を掻く。

 

「楽しむべき時は仕事を忘れることも大事だ」

 

 そんな不器用にも思えるアドバイスにアシュナは素直に従うことにした。

 祭りに同行することを頷き、同時にスヴェンはメルリアでミアと恋人を装って町中を巡っていた事を思い出す。

 何処に敵の眼が有るのか分からないから二人と町中を回るには適した役が必要になる。

 祭りの中で自然体かつ変に疑われない役割り。

 

「じゃあ生き別れの兄妹設定で行く?」

 

 我ながら良い提案だと自負しているとスヴェンはなんとも言えない表情を浮かべ、

 

「あー、アンタが楽しめんならそれで良い……だが間違っても兄と呼ぶなよ?」

 

 そんな事を念押しされた。

 ラウルにはアニキと呼ばれる事を許していたが、何故自身に似た響きで呼ばれる事を嫌がるのか。

 それが不思議で首を傾げれば、

 

「それじゃあ私は報告が有るから! アシュナは存分に楽しんで来てね!」

 

 ミアが宿屋の方に駆け出して行く。

 スヴェンと二人だけで祭り巡りーー影の護衛としていい機会かも。

 以前から戦闘や偵察としてあまり頼られていないことに不満を感じれば、事実いつになったら彼は自身を頼るのかと問いたかった。

 モンスターとの戦闘時でも危険が及んでも頼らない。本来対象の異界人を危機から救うのが仕事だというのに。

 アシュナは歩き出すスヴェンの背中を追って、同時に隙のない背中に眼を細める。

 

 ーーどんな時でもずっと警戒してる。

 

 周囲の警戒も含めた護衛は自身の仕事なのだが、スヴェンは気配や敵意に敏感だ。

 それだけ彼の中で自分は頼りないのか。これも聴きたいことの一つだ。

 アシュナは隣りを駆け抜ける小さな女の子とその後を追う両親の姿に一瞬だけ目を向け、自身の両親はどんな顔だったのか。

 知らない両親の顔。物心付いた頃には既にオルゼア王が運営する孤児院で育っていた。

 親子の関係が特別羨ましい訳では無いが、

 

「スヴェンの両親ってどんな人?」

 

 何となく彼に質問してみれば、スヴェンは屋台の前で足を止めーー焼き上がりまで多少時間が掛かる浮遊魚のステーキを二つ分頼む。

 

「……アンタも食うだろ?」

 

「食べるけど」

 

 質問を食べ物ではぐらかされた気分だ。

 そんなに自分は単純では無いが、不意にブドウのジュラートが目に映る。

 エルリアの魔法技術によって生み出された瞬間冷凍箱で冷やされたジュラートは暑くなり始めた夏にはぴったりな食べ物に違いない。

 食べようか悩んでいると、

 

「店主、ブドウのジュラートを一つ」

 

「毎度!」

 

 代金を支払ったスヴェンがブドウのジュラートをこちらに差し出す。

 視線だけで感情を読み取ったのか。少なくともそんなに長く見詰めてはいないはずだ。

 そんな疑問が瞳に現れていたのか、スヴェンは無表情で答える。

 

「アンタの顔に書いてあった」

 

「顔に文字を書いた覚え無い」

 

「単なる揶揄だ。実際に書いてるわけがねえだろ」

 

 なるほどと納得してはブドウのジュラートを受け取り、一口舐める。

 冷たい食感と甘酸っぱい味にアシュナは舌鼓を打つ。

 仕事は大事だが旅の醍醐味はなんとも言っても食事を置いて他にない。

 要人の護衛中なら絶対にできない贅沢だ。これはある意味でスヴェンの護衛だからこそ可能なのかもしれない。

 現にジルニアで再会した同僚は『アンドウエリカは眼を離すとすぐに居なくなる』と疲れ気味に語っていた。

 その点で言えばスヴェンはこちらの気配を確認したうえで行動してる節が有る。

 これは普通なのかと同僚に訊ねてみたが、

 

『なにそれ恐い。僕達の隠密魔法はそうそう気配を察知できないはず……』

 

 言われて気付いた事がある。スヴェンの影の護衛時に隠密魔法を一度も解いた事はない。

 少なくともメルリアの初日はこちらを見失っていたが、ふと気付けば気配を察知されていた。

 これも聴きたいことだが、そもそもスヴェンは最初の質問に答えていないのだ。

 アシュナはジュラートを舐めながらじと眼でスヴェンを見詰める。

 

「スヴェンの両親はどんな人?」

 

「祭り中にする話でもねえだろう」

 

 つまりそれはスヴェンにとっても話し難い事情が有る。そう察知したアシュナは仕方ないと肩を竦めた。

 

「分かった、じゃあいまは聞かない」

 

「……アンタは現状に不満はねえのか?」

 

 不満が有るとすれば、今回の件で言えばラウルの一時同行だ。そのおかげで自身は彼らと昼食は愚か夕飯さえも一緒に食べることは叶わなかった。

 一人で黙々と食べる食事とミアの手料理ほど不味いものはない。

 それに自身の居場所をラウルに取られたと感じることも有れば、彼なりに夜な夜な魘され悩んでいたことも知っている。

 だからアシュナはスヴェンに告げる。

 

「仕事の内容を考えれば妥当。なんたって切り札だから、ラウルに姿を見られる訳にもいかない」

 

「そうか、自制が効く分アンタは充分大人だな」

 

「最初から大人って言ってるよ?」

 

 何故かスヴェンに視線を逸らされた。

 彼が逸らした視線の先に回り込めば再び逸らされる。

 そうこうしている内に屋台の店主が、

 

「待たせたな!」

 

 渋い声で出来立ての二人前の浮遊魚のステーキをスヴェンに手渡した。

 それからスヴェンと特に会話も無いまま町を適当に回り、人気の無い路地のベンチで浮遊魚のステーキを堪能し、一つ彼に告げる。

 

「風の精霊にまたお願いできるようになったよ」

 

「そうか、必要になったら頼る」

 

 直ぐにでも頼って欲しいが精霊に一度お願いすると、再度お願いするには次に使える日は精霊の気紛れだ。

 特に風の精霊は自由奔放で気紛れと気分屋で困ったところが多い。

 だから安易に精霊を頼らないスヴェンの判断は妥当だ。

 

「そう。戦闘で身体を動かしたいなぁ〜」

 

 妥当なのだが、戦闘時にあまりにも頼られない。だからミアに教わった上目遣いで甘えるような声で告げれば、やはりスヴェンは顔色一つ変えず、

 

「……アンタは魔王救出時の要なんだよ」

 

 そんな事を告げた。

 

「どういうこと?」

 

「まだ邪神教団には俺達のことは認識されてねえが、そいつも時間の問題だ。だがアンタの存在を隠して置けば連中を欺けるだろ」

 

 だからスヴェンは今まで徹底して自身を積極的に頼らなかったのか。

 アシュナは納得したうえでスヴェンの方針に笑みを浮かべる。

 

「なんだ、本当に切り札として頼ってくれるんだね」

 

「あぁ、アンタにしか出来ねえことだ。それに今後はいくつか頼むことも有るだろ」

 

「例えば?」

 

「ヴェルハイム魔聖国内で連絡役だとかな」

 

 魔王救出を確実にする為に彼なりに策を考えていたのか。

 これは敬愛するレーナの為にも、恩人のオルゼア王の為にも何がなんでもやり遂げなければならない。

 同時にオルゼア王に報告する内容も増えた。

 

「任された」

 

 スヴェンにそう告げると気が早いと言わんばかりに苦笑を浮かべていた。

 彼と浮遊魚のステーキを堪能し、また祭りを巡り少しだけ胸に溜まっていた不満が晴れて行く。

 そして祭りを充分に楽しんだあと、宿屋で一日を終えーー翌日の朝にジルニアを出発するのだった。

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