拝啓、拾った龍の愛が存ぜぬ間に重くなりまして   作:(全略)敬具

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付け焼き刃
そのうち修正加えるかもしれぬ


旧バージョン、取り置き
家族、あるいは彼女について


 実のところ、我が家には私の他にも一風変わった者がいる。

 世帯主のリビングデッド以上に変わってるやつがそう何人もいるものなのかって、当然疑問に思うかもしれないがまあ聞いて欲しい。

 

「起きた」

「ああ、おはよう」

 

 そろそろだろうと思っていたが、丁度いいところに本人が寝室から出てきたな。

 開ききらない目を軽く擦りながら、ふらふらと危なっかしい足取りで食卓に着く。

 湯気立つスクランブルエッグとカリカリベーコンの皿を寝ぼけ眼で認め、隣の空いた皿に視線を滑らせながら私へと寄越すのは、もしやトーストがないという抗議のつもりか?

 だとするなら、本格化する前に私の言い分も聞いてもらった方がよさそうだ。

 

「食パンなら今、トースターで焼いているところだ」

「わかった。……ん」

「お望みのままに、お嬢さん」

 

 読んでいた新聞を途中で半分に折って小脇に挟み、寝癖のついた黒い髪をブラシで梳かしてやる。

 そうこうしている間に、テーブルの脇に置いてあるポップアップトースターからカシャリ──とキツネ色の食パンが跳ねた。

 バターケースとジャム瓶を並べ、さっと作り置きのサラダも加えれば、これだけで立派な我が家の朝食だ。

 

「いただきます」

「どうぞ」

 

 我々にとっての食事とは、娯楽の割合が大部分を占めるものだ。

 それは人間性を獲得するためであったり、心を豊かにする狙いがあっての行為で必ずしも毎日、三食きっちり摂らなければならないわけではない。

 それでも我々がこうして朝昼晩と欠かさず彩りのある食卓を囲んでいるのは、お互いにこの時間を気に入っているからなんだろう。

 

「ヴィク。そこのジャム瓶を取ってほしい」

「塗ろうか」

「いい、我が自分でやる」

 

 最初は食事という行為に不慣れだった彼女も、今ではこの通りだ。

 当人に自覚こそないものの、少しずつ自分なりの好みというものを見つけつつある。

 早い内から間食にも意欲的になっていたし、ある程度のマナーに理解があるのもいい傾向だろう。

 ただ惜しむらくは、私の同族ではないのだよな……。

 

「食後のココアはいかがかね?」

「飲む。我、今日は甘めのがいい」

「よろしい。なら、砂糖を多めにいれるとしようか」

 

 オーフィス、率直に言うと彼女はドラゴンだ。

 今は人間の少女という態でいるが、その可憐な見た目に騙されることなかれ。

 ぶっちゃけ彼女がその気になれば、私のような死なないだけの存在なんざ、文字通り吹けば飛ぶぞ。

 それこそ、街一つほどの土地を丸ごと巻き込んで……な。

 カナダの某所に突如現れた謎のクレーターについて考えると、今でも頭が痛い。

 

 ともかく、そんな世にも不思議な組み合わせ(ドラゴンとリビングデッド)がここにあるわけだ。

 我々の付き合いはかれこれ十年単位で、記憶にやや朧気な部分もあるが、出会いと一悶着はよく覚えている。

 あれはたしか、私が悪魔祓いとの因縁にいい加減決着をつけようとしている頃だった。

 もちろん排除だとか暴力に訴えるのではなく、そもそも鬼ごっこに発展しないようエンカウントを避ける方向での決着、つまり人への完璧な擬態だ。

 

 これは詳細を省くが結論から言うと、能動的に周囲の認識を歪ませる(すべ)を完成させた。

 元より私は『死んでいる(腐ったお肉だ)が同時に生きている(新鮮ピチピチだ)』という矛盾の塊を地で行く存在、かつ本来この世の者でない特質(この世界の法則に縛られない)ゆえに欺く、あるいは歪ませるといった行為と相性がずば抜けていいようだ。

 適当な指輪なりに呪いの方陣を彫り込んで装着することで、私という人外の者を周囲から人間と完璧に誤認させられる、とまあここまでは単純な話だろう。

 実際にこの術は期待通りの力を発揮し、悪魔祓いどころか天使や悪魔の目も完全に誤魔化せている。

 

 問題は元から目をつけられていた場合を考慮に入れていなかったことだ。

 完成した術式はあくまで人間であるかのように誤認させるだけで、姿が変わるわけじゃない。

 つまり人であるなしにかかわらず、私そのものに用のある相手にはまるで意味がなかった。

 そんなこんなで、ある日突然私の前に現れたのがオーフィスだ。

 

 彼女の望みは次元の狭間で真の静寂を得ること。

 その為にも、厄介者のグレートレッドなるドラゴンを次元の狭間から共に追い出す協力者を求めていた、らしい。

 人外魔境の中から私を指して、その気になればグレートレッドとも渡り合えると彼女は言うが、こちらからすればとんでもない無理難題だ。

 ドラゴンと戦えだなんて、動く死体に過分な期待を寄せられても困る。

 

 わざわざ尋ねてもらったところ悪いが、グレートレッドを排除する力にはなれない。

 そう私が返すと、彼女は露骨に落ち込んだ。

 表情なんて皆無なのに、あからさまにガッカリしているのが初対面の私でもわかるほどで……。

 最初は随分器用な真似をするものだと驚きが先行し、やがて気の毒に思えた。

 

「はいお待たせ。熱いから、気をつけて飲むように」

「わかってる。それに、我は少し熱いくらい平気」

「それでもさ」

 

 ふーふーと冷ましながらマグカップを傾けるオーフィスは、どこにでもいる普通の女の子にしか見えない。

 だからこそ、私はどうにかして彼女の助けになってやれないものかと思案した。

 ……もちろん、それはグレートレッドと戦う以外の方法で。

 

 結局妙案は思いつかず、半ばやけくそ気味に提案したのが今の関係だった。

 つまり、なにもそうまでして次元の狭間にこだわる必要はないだろう、もしよければ私の同族を探す旅に着いてくる気はないか、と。

 まあちょっとした賭けみたいなものではあったが、オーフィスが静寂以外の道を拓ければ全て解決、という投げやりな考えに至ったわけである。

 そんなこんなで誘いに乗った彼女を(今にして思えばあんな怪しい提案によく乗ってきたものだ)連れ、私は旅を再開させた。

 

 ドラゴンの力をある程度封じ、私のように人として認識されるようあれこれ手を尽くし、旅の中で人間の文化や中卒程度の知識を教える。

 彼女は今となっては娘のようなもので……未だ同族の見つからない私にとっての、唯一の家族だ。

 ドラゴンを自分の子供扱いするという自惚れが許されるなら、もう暫くこの家族ごっこを続けさせてほしい。

 それが私の望みだ。

 

 数十年、いや数百年。

 長く目を閉じている期間もあったので実際はもっと短いのだろうが、それだけ探しても同族は、理解者は見つからなかった。

 なんだかんだ言って、私も寂しかったんだ。

 

「ごちそうさま。ヴィク、今朝も美味しかった」

「それはよかった。いつも通り、少し休んでから学校に行く準備をしたらいい」

「そうする」

 

 現在、我々は日本を訪れ滞在している。

 各地を転々としながら、今回は駒王町という土地を訪れた。

 少し長めの滞在になりそうなので、ホテルではなくアパートの一室を借りている。

 やけに死者の魂の残りカスが多いこの町を丸ごとクリーンアップする為に長期滞在せざるを得ないのと、前々からオーフィスがテレビドラマの影響を受けて学校に興味を示していたのもちょうど都合よく噛み合ったので、これ幸いと五年ほど仮の根を張る予定だ。

 

 以前あったら何かと便利だろうと取得した個人情報の設定上、オーフィスは最寄りの高校で二年次からの転入生扱いとなってしまったが、無事クラスメイトから受け入れられ友達もできたようだ。

 ちょっと一般常識からズレてるところもあるが、一応不思議ちゃんの範囲に収まる程度だろう。

 こういう時、見た目のよさは有利に働くものだな。

 あと、最初は個人情報を偽造し直すことも考えたが、オーフィス本人が別にそこまでしなくていいと言ったので、やめた。

 

「そろそろ時間。我、着替えてくる」

「襖はちゃんと閉めること」

「わかってる。でも、我はヴィクなら、別にいい」

「私がよくない」

「そう。それは残念。とても、残念」

 

 とてて、となにごとか呟きながら寝室に向かうオーフィスの背を見送りながら、私は深いため息をつく。

 

「弁当、用意してやらなきゃな」

 

 娘に女の子がみだりに肌を異性に見せるものではないと、最低限の常識を教えるまではよかったものの。

 この様子だと、彼女が羞恥心を覚えるのはまだまだ先になりそうだ……。




なんか知らんけど
速攻で☆1評価だけ付けられてるのは
さすがに傷つくわァ……
人間だもの
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