お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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11.炙り行く悪意(2%)

 マイアラート公国は……なんというか、街並みは西洋における文明開化、文化は後宮とか大奥、裏を返せば奴隷商という……一言で言い表すなら、まぁ。

 

「クソみてーな国だろ?」

「身も蓋も無いのぅ」

「……お前、俺といる時くらいRP外せよ気色悪い」

「誰が見ておるか聞いておるかわからんからのぅ」

「ミニマップに赤点も青点も、なんなら緑枠表示もゼロ。安心したか?」

「なんだトランクラッファ、お前ハブられてんの?」

「馬鹿言え、平時までパーティ組んでる奴の方が珍しいっつーの」

 

 そりゃそう。

 

 トランクラッファはオロン_ccの所で買っているという酒を呷りながら、マイアラート公国を……そして少し離れた森や岩場を見る。酔えはしないが、味が良いのだそうで。

 

「こういうゲームもあったよな。放置ゲーだっけ? キャラを操作できるわけでもなく、ただキャラの装備だのスキルだの整えて探索行かせて、後は待つだけ、みたいなゲーム」

「あんまやってなかったなぁ、そういうの。つかお前こそ重課金中毒なんだからそういうの一番やっちゃだめだろ」

「ダハハハハ!! いやマジでそうでな、放置してるだけにイライラして課金して時短して、気付けば十万二十万飛んでるとかザラだったわ!」

「えっぐ……」

 

 トランクラッファはボンボンというわけではない。ちゃんとした会社員……というか出世街道まっしぐらなエリートマンだったけど、趣味と呼べるものがゲームしかなくて、そんでもって待つくらいなら自分で動く、って性格だったから……放置ゲーなんてやったらさもありなんだ。

 だけど、それが環境産業大臣なんて「果報は寝て待て」の権化みたいな仕事やってんのはよく我慢してんなー、とか思ってたらコレだもんな。

 

「NPCで死刑囚になる奴って、どういうのなんだ」

「んー、まぁ軽いモンなら殺人、王族あるいは親族の所有物に対する窃盗、破損。重いのだと……奴隷の不法所持や不法育成、不法取引……そっから飛んで国家転覆まで。色々だな」

「飛ばし過ぎだろ」

「マジで色々あんだよ。なまじっかNPCってのは繁殖が早い。お前興味ないから知らねーだろうが、NPCって14歳とかで結婚して20歳で産むとかザラなんだぜ?」

「あー……まぁ、寿命に比例して結婚適齢期が下がるのは普通だろ」

「まぁ拗らせた野郎はもっと幼くても嫁にとって産ませて歳食ったら捨てて、みたいなのもいる。これでいてロールプレイじゃないっていうんだ、ファンタジー原産はやっぱり違うね、ココが」

 

 ココ、と頭を指で突くトランクラッファ。

 ……ま、概ね同意。

 貞操観念だけじゃない、死生観や世界観だって……NPCは俺達プレイヤーとは違う。

 

 じゃなきゃ冒険者なんか憧れるもんかっての。

 

「それこそ今回ダンジョン探索を任せてんのはあっちにある娼館でオイタをした馬鹿共だよ」

「へえ。さっきの不法うんたらもだけど、法整備はしっかりしてんだな、この国」

「王族にとって都合のいい法整備だがなぁ。……ああまぁ、俺達とはしっかり癒着してるんでどーだっていい話さ」

 

 さいで。

 

「そうだ、ロリコンといえばクチリットウハコダッシュノは」

「アイツはここの奴隷市場に来て開口一番"違う……違うそうじゃない、そういうことじゃない!!"っつってどっか行ったプレイヤー第一号。俺達からしても戦力になるプレイヤーは一人くらい抱え込みたかったが、いずれ仲違いするのが目に見えてる奴を無理に縛り付ける理由もなし。今頃どこで何やってんだかね」

「……そうか」

「なんだ、アイツに用でもあったのか?」

「ああいや、行方のわからねえプレイヤーは心配でさ。……さっきも言ったように、オバンシーさんの件みてーに俺の知らないトコで誰かが……って思うと」

「……病気や怪我でない限り、親しい奴にこそ知らせたくないと思うがな、自分の死に際なんざ。最期に見る顔が心配顔なんてあの世にまで引き摺りそうで俺はお断りだ。だったら酒場だのダンジョン終わりだのでバカみてーに笑ってた記憶が最後の方が良い」

「そりゃ……まぁ……笑って送り出せるのが一番なのはわかってるけど」

 

 寿命は存在する。

 キャラを作る時に長命種以外を選んでしまえば、千年など保たない。デスゲーム開始時にそこまで育成していないキャラを使っていた、あるいはそもそもが初心者だったとすれば、生存という意味でも難しいかもしれない。

 ゲームの時に俺が把握していたプレイヤーは七千人ちょい。

 そしてデスゲームになってからは。……今は。

 

「お前が抱え込む話じゃねーっつってんだよ」

「……わかってんだけどな、それくらい。割り切ってるさ。天命ばっかは仕方ねえって。でも……」

「そうじゃねえのは許せねえ。だろ? 俺達だってわかってる。んでもって、俺達はお前の秘密とやらを詮索しない。じゃあそれでいいじゃねえか、このクソみてーな国で甘い蜜吸ってるプレイヤーって立場で、昔みてーにどんちゃんしようぜ。俯いてるから暗い景色ばっか映るんだ、顔上げりゃ綺麗な国だろ、マイアラート公国はよ」

「それ、臭い物に蓋を──……」

「ん、どした」

 

 ……キキッシュに聞き出した、公国の王族御用達の秘密通路。地下水道に沿って作られたソレは、滅多なことでは使われないという。

 でもそういう場所って大抵子供の遊び場になるから、なんて理由で「怪しい老人ロールプレイ」をするために色々仕掛けてたんだけど……。

 

「サーチマジックが起動した。トランクラッファ。あの……あれ、名称わからんけどあの紫屋根の建物はなんだ」

「あれはNPCがやってるポーション屋だな」

「あそこから直で地下に……王族の地下通路へ続く道はあるか?」

「知らねえが……調べさせるか?」

「頼む」

 

 トランクラッファが指笛を吹く。

 すると上空より何羽かの……いや、何人かのハーピィだろうNPCが降りて来た。……コイツら、気のせいじゃなけりゃ。

 

「あの紫屋根のポーション屋。俺の名前を出してでもいい、地下に繋がる通路が無いか調べろ」

「はっ!」

 

 飛び立っていくハーピィたち。

 それが充分に離れたことを確認し、問う。

 

「子か?」

「母親はわからんがな。ま、若気の至りって奴だ。とはいえ俺の血筋、他とは待遇も違おうさ」

「プレイヤーの子孫は大切に保護しているとキキッシュの奴に聞いてたんだが」

「だから待遇が違うっての。俺の直属部隊だぜ? 信用してる、って箔がある」

 

 成程。

 こいつらにとっちゃプレイヤーの子孫はその程度か。

 俺にとっても「その程度」だけど、「人間牧場」の奴らのその程度とは深度が違うな。

 

 ……ま、旧友との仲を壊してまで同情できるほど俺にはNPCへの愛が無いけど。

 

「で、何があった。サーチマジックを勝手に仕込んどいたのも問題だが、その程度じゃお前はそんな焦り見せねえだろ」

「二か所同時起動したんだよ。一個はあのポーション屋の地下。もう一個は公国の城壁の外へ続いていた地下通路」

「……()()()()、か?」

「流石だなエリートマン」

 

 サーチマジックやサーチスキル、サーチトラップらは全て放射状にセンサーがある。火災報知器みたいなものだ。壁でも床でも天井でもくっつけられる、だけど。

 だから、例えば地下通路……というか水路の全体を監視したい場合、人の通る部分を挟んで両側から効果範囲を敷く必要がある。雑なプレイヤーは天井で済ませるけど、それだと天井付近に穴ができるからな。

 

 んで、それが内側と外側それぞれ片方ずつ反応した。全く同時に。

 考えられることは色々あるが──現状起きていることだけを当てはめるなら。

 

「地下通路にパッチが当てられた、か。だがよ、お前の推測じゃプレイヤーのいる場所にはやってこないんじゃなかったのか?」

「そりゃ今までの少ないサンプルケースから見た統計だ。ただ今までやってなかっただけって可能性もあるし、地上と地下は別って可能性もある。……だが、俺の直感を言わせてもらうなら、そうじゃねえ」

「話せ。お前の直感はかなり当たる。俺が保証する」

「同じ属性になった可能性が高い」

「……ってーと?」

「だから、属性だよ。フィールドに属性があるのは知ってるだろ。ああ氷とか炎じゃないぞ。安全属性とかクラン属性とかそういうのの話」

 

 属性魔法が存在するからこの呼び名は混乱を招くことは承知しているけれど、それ以外の呼び方がわからんので仕方がない。

 俺風に言うなら、IDだ。

 

 そしてトランクラッファは馬鹿じゃない。

 

「……地下水路が外のダンジョンと繋がった、ってことか?」

「どっちが先かはまだわからん。アイネの村の外側みたいにフィールドとフィールドを入れ替えた……それを公国地下でやって、ダンジョン属性があの家の真下に来た結果地下通路全体がダンジョンになったのか、お前の言う通りどっかからか地下水路がダンジョンと繋がって入れ替えが可能になったのか」

「どっちでもいいが、だとしたら……やべぇな」

「ああ。どのダンジョンと繋がったのかは知らんが、水路の至る所からモンスターが溢れ出して来かねん」

 

 先の話に繋げるなら、俺は地下水路全部がダンジョン扱いになったと睨んでいる。

 もし……地下水路に簡単に入れるのだとしたら。

 出ることだって当然簡単だ。

 

「『拡声+++』とか持ってるか?」

「今作る。能力付与(スキルエンチャント):拡声+++」

 

 いつも使ってる木片にそれをエンチャントしてトランクラッファに渡し、耳を塞ぐ。

 

 ──直後、響き渡る轟音。

 言っていた。環境産業大臣以外にも使える立場と肩書を幾つか有している、と。

 

 処刑執行担当官以外にも……色々あるんだろう。有能だからな、コイツ。

 

 もう良さそうなので指を抜く。

 

「代金は後で払う。俺はちょいとNPC達に指示を入れて来る。プレイヤーにも俺が話すから、お前は安全なトコにいろ」

「必要なエンチャは?」

「都度言いにくる。妖怪ハーピィは飛ぶのがうめーんだ」

「あいよ」

 

 言葉通り飛び去って行くトランクラッファ。

 公国の方を見れば、恐らく水路に繋がるのであろう暗がりに格子の門と閂を渡すNPCの姿が。

 なるほどね。NPCの方がプレイヤーより詳しいか、その辺は。

 

 まおうもそうだけど、NPC動かすのがうめーな、こいつら。

 ……NPCの子孫だけを優遇して、けれどほとんど遊び惚けて……こいつらの営みになんざ見向きもしてこなかった俺とは大違い、ってことで。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 夜が明けて、俺はトランクラッファの同行のもと──なんか作戦立案室、みたいな場所に連れて来られていた。

 NPCの方が流石に多いけど、思ったよりプレイヤーもいる。なんで兵士なんかやってんだ、とは思いつつも、まぁ俺の真逆……戦うスキルしか取ってない奴らはそういう生活を望むのかね、なんて思ったり思わなかったり。

 できれば安全なトコにいてほしいんだけどなぁ。

 

「全員揃ったな。──では、参謀長殿、お願いいたします」

「ええ。昨日はわたくしの独断のもと皆に動いていただきましたこと、誠に」

 

 ──あっぶねぇ。

 そうだ、そうか。ずっと見てなかったから忘れてた。

 トランクラッファのロールプレイ、こっちだ! あんな酒焼け兄ちゃんじゃねぇ、冷静沈着一人称わたくしの秘書系ハーピィだ!

 

 先に言えよ噴き出すだろ!

 

「つきましては此度の件を未然に防がれました功労者であるセギ殿にこれからの方針への助言をいただきたく」

「ホホホホ……こんな枯れ木の老人に意見など求められてものぅ」

「どうかそう仰らずに。セギ殿──昨晩の内に、何か気付いたことがあるのでは?」

 

 隠すなよ、兄弟。

 そう聞こえた。

 

 ……ま、こっちは俺の秘密とは関係ないし、秘密主義を貫く意味も無いか。

 

「……良い良い。じゃがその前に、報告を聞かせておくれ。水路に出たモンスターの種類とレベル、可能ならばどのダンジョンかまでの」

「兵長殿」

「はっ! 昨日の内に水路へと溢れ出たモンスターはいずれもスパイダー、ワーム、バット系であり、レベルは40を超えない物です。しかし、そのようなダンジョンは確認されている限り公国周囲には存在せず……」

 

 つまり、新しくできたダンジョンか。

 俺達が死刑囚使って藪蛇突いたから起きた話、ってわけじゃなさそうだな。

 だとして現状は何も変わらんが。……これでそれこそ炎魔窟とか氷魔窟みたいなダンジョンと繋げられてみろ、地獄は丸見えだ。

 

 根本的な解決をする必要がある。

 

「失礼します、参謀長殿。魔鳥部隊からご報告が」

「はい? わたくしは」

「おお、やってくれたか。ほほ、参謀長殿、すまぬな。昨晩は多忙そうで許可を取れなんだが、丁度一人、あの時見かけた者と接触できたのでな、頼みごとを少々しておったのじゃよ」

「……成程。お見それいたしました。では入りなさい、報告を」

「はっ!」

 

 ピコン、とメールが届く。

 わざわざ役所行って開かなくても何かいてあるかわかる。つーか相変わらずタイピングはえーな。今の一瞬で文句書ききったのか。

 

「報告します。件の魔法薬店の地下にあった通路の先で、セギ殿より預かった木片を置いたところ、セギ殿の予測していた通り何も起きずにただ木片だけが割れて砕けました」

「本当に何も起きなかったのかの? 何かが切り替わるような感覚や、あるいは潮が引いていくような感覚に見舞われることは?」

「ありませんでした」

「ホホホホ……うむ、助かった」

「はい。これはお預かりしていた木片の残片です。直接手で触れることなどはしていません」

「ご苦労様じゃ。下がって良いぞ」

「はっ!」

 

 魔鳥部隊。まぁそのままトランクラッファ直属の部隊だ。半魔族のハーピィ部隊。

 俺は寝ないので、昨日の内にちょいと懐柔して、ちょいと試すこと試してもらった。俺とトランクラッファが共に居るのはばっちり見られてたしな。

 

「コホン。それで、セギ殿。それは?」

「……兵長殿と参謀長殿、そしてそこな赤い布を頭につけた少年と、そちらで槍を持つ二人。それ以外は一度出てくれぬかのぅ」

「──成程。お前達、セギ殿の言う通りに」

「……はい」

 

 ん。

 ……今返事したNPC、何か思う所アリ、って感じだな。

 トランクラッファに目配せすれば、わかっている、とでも言わんばかりの頷き。まぁそうか、こいつらの方がなげーだろうし。

 

「……」

「『ハウリングソート(内→外)』。……これでいいか、ガシラ」

「おー、便利なスキル持ってんな」

「あ? ガシラ? ……ああお前ガシラか! この爺さん誰だっけってずっと考えてたんだよ!」

「はぁ……無駄に緊張して損したー。ラッファっちの信用筋とか言うからどんだけやべー隠し玉なのかと思ったら」

「ガシラ……ガシラ……?」

「おいおい、俺を忘れるのは中々気骨がいるぞ、セージ」

「……あー、トラブルメーカーかお前。なつかし」

 

 まぁ、そういうことだ。

 ここに残ったのは全員プレイヤー。

 兵長がzenzaisan、赤い布を頭につけた少年があくる日丸、槍を持った二人はそれぞれ饅頭sageと万寿セージ。

 全員知り合いと。まぁ半ば忘れられかけてたみたいだけど。

 

「久しぶりの再会は後にしろ。何してた、ガシラ」

「昨日属性の話しただろ? だから属性調べてたんだよ、この辺の。んでそれを無理矢理変えようとしたらこの通りだ」

 

 指を指すのは割れて焦げるようにして壊れている木片。

 

「無理矢理変えようとした? そりゃ……ああいや、いい。それか、お前が逃げて来た理由」

「流石、察しが良くて助かる。というわけでまぁ俺は最有力の容疑者候補になるが、それ一旦置いといて俺の考え聞いてくれるか」

「そのためのNPC払いだろ。とっとと話せよ」

「ガシラ、あとで個人的に永遠エンチャくれねー?」

「やらん。──んじゃ明け透けに行くが、俺はフィールドの属性を変えたり調べたりする術を持ってる。フィールドにエンチャントをする術も身に着けてる。なんで、今回の事件の解決法を導ける」

 

 猜疑の目。

 ま、そうだろうな。どれだけ昔馴染みでも──隠し過ぎ、ってのは。

 ゼッケンがそうだったように、だ

 

「何が必要だ、ガシラ。トランクラッファとオレがいりゃこの国の大抵のモンは手に入る」

「へぇ、zenzaisan、そんなすんなり信用すんのか?」

「するわけねーだろ秘密主義。……が、オレはトランクラッファのことは信用してんだよ。お前が裏切りゃトランクラッファの顔に泥塗るって覚えとけよクソガキ」

「おー怖」

 

 いいね。

 同じ国のプレイヤー同士の仲が良いのはとても良い。

 

「あくる日丸。この木片の壊れ方見て何か気付くこと無いか?」

 

 赤い布を頭につけた少年……の姿をしている種族インプなガッツリ悪魔にそれを投げ渡す。ジョブは異常暗殺(エーテルマーダー)。Buffろうのもっと状態異常に寄った版のジョブな。

 

 彼は木片を受け取って、まじまじと見つめ……ポン、と手を叩いた。

 

「すげー馬鹿なこと言うけどいい?」

「構わん。それを期待してる」

()()()()()()()って感じ。しかも切れてからさらに無理に使おうとした? みたいな?」

「……木が?」

「ヒマル~、お前疲れてんじゃね? それどー見たって……鑑定しても『木片』としか出ないんだけど」

「んー、でもアレっぽいんだよな。『MP消費量アップ』みたいな呪いかけたボスNPCが一時的になるガス欠状態。アレにすげー似てる」

 

 良い答えだ。

 求めていた答えでもある。

 

「お前の感覚は正しいよ、あくる日丸。その通り、俺はこの木片にスキルを使わせたんだ。フィールドを変える、なんてバカみてーなMP消費量のスキルを」

「やり方はいい。お前が話したくないならそこを突いてまで関係壊す程愚かじゃねえ。聞きたいのは何が必要なのかと、この国で何が行われようとしてんのかについてのお前の考え、だ」

「急かすなよ。そんなにこの国が大切……なのか。へぇ、意外だな」

 

 思ったより愛国心がある、というか。

 

 ここ以外では満たせないからか、欲望を。

 そんなに大切か、って言おうとした時の目の温度の低い事低い事。

 

「必要なのは魔力があって自我の無いNPC百人くらい。この国で何が行われようとしてたかについてはすまんがわからん。俺は基本後手でしか動けん。だが、昨日の奴が何かしらの下準備なのだとすれば、俺の策で未然にぶっ潰せるはずだ」

「魔力持ってるNPCくらいいくらでも用意できるが、具体的なMP量はいくらだ」

「500もありゃいいよ」

「……種族は?」

「まぁ長命なほどいいんじゃね? 死んだら取り換えなきゃだし」

「なるほどな。ガシラ、てめーのやりてーことはわかったよ。お前、マイアラート公国向きの性格してんじゃねーか」

「ちょいとな、思う所があったってだけだよ」

 

 トランクラッファは……何も言わない。

 ほとほと呆れるくらいの悪友だな、コイツ。

 

「ヒマル、自我を消す必要のあるのが十何人かいる。手伝ってくれ」

「あいさ~」

「あたしらは~?」

「ガシラに直接聞け。適材を割り振ってくれるだろ」

「ん」

 

 出て行く兵長ことzenzaisanとあくる日丸。

 しかし、信用されてんじゃねーか、そっちに関しては。

 

 俺が暇人出さないよう考えてるって、そんなに仲良かったかね、俺達。

 

「お前の悪知恵が働くってことはみんな知ってんだよ」

「こんな極悪の国に住んでる奴らに言われちゃおしまいだな」

「そこ、仲良いのわかったから、早くあたしらに仕事くれ」

「別に……何も無ければそれで……」

「セージはそうらしいけど、饅頭は?」

「ぜぇーったいヤだ。つかガシラはあたしらが引き受けなきゃ他の手段使うだろ。そっちの方がおっそろしいわ」

「俺を黒幕かなんかみてーに言うのやめね? ま、時間もかけてらんねーし、言うけどさ」

 

 まぁなんだ、簡単なことさ。

 敵の手の内知りてェなら、まずは猿真似から、っつってな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 夕方。

 トランクラッファの執務室。

 

「オーバーエデンのゼッケン。楔が云々。その再現だよな、お前がやろうとしてんの」

「ああ。俺は全部の黒幕が能力付与術師(スキルエンチャンター)である可能性を睨んでる。まぁ上には魔神とか名乗ってる運営連中がいるんだろうけど、好き勝手()()()()()()()理由には、そいつらもこの世界のルール……ゲームシステムに縛られるってのが挙げられるんだろう」

「ジョブ制限、あるいはスキルポイント制限か」

「そ」

 

 魔神と名乗る運営連中。

 けれど、神を名乗る割に……理不尽過ぎないと言うか。

 勿論パッチを当ててくるのは理不尽なんだけど、直接出向いてきた魔神はかなり制限ある様子だった。ルクレツィアの時然り、アイネの時然り。

 

 ……デスゲームを引き起こした「神」は、もっと凄かった。文字通り全ジョブの全スキルを使って来てたし、モンスターのスキルや……みたことのないものも使って来ていた。

 それに比べて魔神は格が落ち過ぎる。ゲームをデスゲーム化した……「よく似た異世界に連れて来る」なんて真似をした「神」とは同格じゃないんだろう。

 

 その制限は、あるいはプレイヤーと同じくらいのもの……な、気がしている。ただ運営連中は俺達より知識があるから理不尽に見えるだけ。縛られているルールが同じなら、あいつらのできることを俺達が乗っとれる可能性も高い。

 

「俺にできることが敵にできないとは思えねえ。俺はプログラマーでもないからな、俺が思いつくことくらいあいつらもやってんだろ。だから、魔神は作ったかなったはずだ。俺と同じカンストの能力付与術師(スキルエンチャンター)に。そんで、ゼッケンに対して俺が今やろうとしてることと同じことをした」

 

 即ち──スキルを行使できる「生物」を一か所に縛り付け、その行使をさせ続けることで「楔」とする手法。フィールドにエンチャントする奴とはまた別口のグリッチだ。いや、あるいは……仕様、なのかもしれないけど。

 

 魔鳥部隊に置かせた木片にはアイネの村に置いてきたものと似たエンチャントを付与しておいた。正確にはそれをスキルとして使えるようにした木片に使わせた、が正しいけど、ややこしいので今は付与でいい。

 それが魔力切れを起こし、且つ魔鳥部隊が何も感じなかったということは、やはりNPCにパッチの当てられた瞬間やフィールドIDが変わった瞬間などは感知できない、ということだ。

 

 ──俺の秘密を突いてきたゼッケンだけど、なぜ自分が「楔」になっていたかについては頑なに口を割っていない。忍者なんだ、秘密主義はお互い様だろう。

 あの場にいたゼッケンの偽物もそうだけど、あいつはあいつで俺達に隠していることがある。それも魔神に関わる重要情報を。付け加えるなら……ドーヴァの死体が残ってないのも疑惑を加速させる。蘇生スキルがあるんだ、ドーヴァなんていう超有力容疑者を蘇らせない理由はない。

 だから俺はオーバーエデンに戻ったんだけどな。ラクサスはただ利用されてただけだろうけど、ゼッケンがまだあそこにいたのは……とか。

 

 俺だって嫌だよ、プレイヤーを疑うのは。

 でも……ちょいとな。

 

「つまり、この国でお前も実験しようとしてるわけだ」

「咎めるなら気付いた瞬間に言えば良かっただろ。作戦概要話してる内に全部わかってたクセによ」

「俺にゃあいつら程の愛国心が無いからな。ダッハハハハハ! 今思い出しても笑えるよ、あの時のあいつらのつめてー目! お前がこの国がそんなに大切か、って言った時の静かな怒り」

「お前、悪い癖だぞ。あんま煽んなよ。不和を生む」

「バレてねぇから千年仲良しこよししてんだよ」

「……ま、お前に限ってヘマはしないだろうけどさ」

 

 トランクラッファ。こいつとは旧友だ。別ゲーからのフレンドだ。エリートマンだ。

 だけど──まぁ、割と悪質な煽り厨というか、スーパートキシックというか。といってもバレるような立ち回りはしない……から、余計悪質なんだけど。

 サブ垢作り放題のゲームで、特にFPSやTPSだと煽り散らかすためだけのアカウントを持ってたくらいだ。普通に人として最悪だと思う。

 

「まー、あいつらにとっちゃここはオーバーエデンに並ぶ楽園だからな。NPCを好きにしていい、好きに遊んでいい。NPCつったって人間と同じ反応をして、同じような感情を抱いて、同じ行動を取ろうとする生き物だ。それで無限に遊んでいい、なんて……現実(あっち)じゃあり得ねえ。この国に残ってるプレイヤーは全員クソガキで、全員人格破綻者なんだよ」

「マンジュの二人とあくる日丸の趣味は知ってるけど、zenzaisanって何が趣味なんだ? 正直アイツがここに残ったの意外だったんだけど」

「何言ってんだ、アイツがなんなら一番悪趣味だぞ」

「へえ。お前が言うってことは相当だな。で、なんだよ」

 

 トランクラッファは肩を竦めて。

 

「お家騒動。財産やら遺産やらで争う血の繋がったNPCを眺めるのが最高に愉しいんだと」

 

 成程、最悪だな。

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