競馬無知のTSウマ娘、なんか走るのが速いモブ達に絡まれる 作:だすと
またいくつかの月日が流れた。
自分が小型重機のようなパワーを持っているのが面白くて、疲れるまでトレーニングルームで筋トレしまくり、その後は飽きるまで練習場を走り回るという夏休みのガキみたいな毎日を過ごしていた俺だったが、その脇で学園では空前の本格化ブームが起こっていた。
俺のクラスからも二桁近く。先輩も後輩も多数。そして本格化した後輩達の中には、あのウオッカとダイワスカーレットもいるらしい。
世はまさに大本格化時代。
前日譚が終わり、ついに物語が動き出したといったところだろうか。
「やあサラ。今日は随分と機嫌が良さそうだね。いつもの仏頂面が少し明るく見えるよ」
なんだァ? てめェ……
最近知ったがどうやら生徒会長だったらしい先輩モブが気安く話しかけてくる。どことなく棘のある物言いだが、これは数日前の野良レース(闇)で1着を取られたのがよほど悔しいと見た。
オリキャラだからって随分と設定を盛られているようだが、連日の書類仕事で目の下に隈を作ったバッドコンディションで俺に勝とうだなんて百年早い(ハナ差)。モブはモブらしく、チート能力の前にひれ伏しているのがお似合いなのだ(全身筋肉痛)(翌日欠席)。
生徒会室へ かえるんだな おまえにも なかまがいるだろう。
「あぁ、そうするよ。ついでに君も一緒にどうだい? 美味しい珈琲をご馳走しよう。それに、紹介したいウマ娘がいるんだ」
オイオイオイ、珈琲で俺が釣れると思ってるわコイツ。
ついでに生徒会に行くって何だよ(哲学)。放課後に暇を持て余してる生徒なんかこの学園にいる訳がない。俺だって今からトレーニングルームに行くところだし、今日は胸の日なのでテンションも最高潮なのだ。その代案が珈琲とは笑わせる。
どうやら彼女は事務仕事が得意なようたが、交渉術に関しては俺に一日の長があるらしい。八時間睡眠してから出直して来るんだな。
生徒会長といっても所詮は子供(?)。俺にとっては美人で巨乳で仕事ができて話しやすいだけの先輩モブである。最高やん。俺の体が男なら惚れてたね。
「ここだ。少し散らかっているが、好きに寛いで欲しい」
生徒会室は思ったより狭かった。大体教室の半分くらいだろうか。これだけ巨大な学園を取り仕切っている司令部なのだから、せめて教室二つ分くらいの面積があるものだと思っていた。
先輩モブが珈琲を淹れるのを観察する。てっきりコーヒーマシンを使うものだと思っていたが、意外にもハンドドリップらしい。お手並み拝見といこうか(後方保護者面)。
「はい、どうぞ。置いてある茶菓子は好きに食べてくれて構わない。海外に行った時に食べたものが気に入ってね。今でもこうして取り寄せているんだ」
ド直球にペーパーフィルターで抽出された珈琲が出てきたので香りと味を楽しみつつ、言われるままに木製のカゴに入れてあった見慣れない銘柄のクッキーを開封して一口食べてみる。甘い。そして漂うシナモンの香り。海外の中級菓子ってこういうの多いよな。
珈琲を飲む。苦い。
クッキーを齧る。甘い。
珈琲を飲む。苦い。
クッキーを齧る。甘い。
甘いと苦いの永久コンボを完成させて満足しながらも、後輩に海外マウントを取るという情けない事をしてきた相手を鼻で笑う。何を隠そう、こう見えて俺は成人男性時代に渡航経験があるのだ。
行ったのはヨーロッパ。各国の世界遺産を見て回って感動したものだが、最も印象に残っているのは道行く女性の胸の大きさである。その胸は豊かであった。
行く前は「日本人にも巨乳はいるし海外も大差ないだろう」と思っていたのだが、平均サイズがデカい事がこんなにも幸福度に貢献するとは思いませんでしたね(最低)。
回想するだけでうまだっち不可避の記憶なのだが、残念ながら今の俺は童貞と思春期少女の面倒な要素を寄せ集めた改造キメラ。それも叶わぬ夢である。
「カイチョー? もう入っていーい?」
なんだこの個性的な声……(困惑)
廊下から飛び込んできた子供の声につい眉をひそめてしまう。
タダ珈琲という言葉にまんまと釣られてしまったが、そういえば最初にウマ娘を紹介したいと言われていたのだった。
面倒事の予感に足を組み替えつつ、俺は追加で開封したクッキーを口に含んで噛み砕いた。
「噂は色々聞いてるよ! ボクはトウカイテイオー! 無敗の三冠ウマ娘になる逸材なんだ〜。よろしくね!」
モブAは仲間を呼んだ!
モブBが現れた!
モブCが現れた!
モブDが現れた!
大口を叩きながら現れたのはトウカイテイオーとかいうモブと、その後ろにいる性格キツそうなモブと、その隣で葉っぱを咥えてるモブ。
それを迎え撃つのはソファーで足を組んでクッキーを噛み砕いているモブと、珈琲を淹れるのが上手いモブ。
どこを見てもモブばかり。モブ率100%のモブ祭り。ウオッカとダイワスカーレット連れて来いよ。
「最近レースに出てないのにカイチョーに勝ったっていうからどんな怪物なのかと思ってたけど、近くで見るとなんか想像と違うな〜。すっごく美人なのは認めるけど、目つき悪いしウマドルっていうよりはグラビ……ひぃっ!? ごめんなさいごめんなさい!」
おい言うな。自分でも思ってるんだから言うな。俺がこの体でグラビア写真集を出したら天下取れるって事は言うな。レース賞金より儲かりそうな事は言うな。
俺の写真集……正直かなり欲しい。自分で自分を見ても何も感じないのが目下最大の悩みである。
でも、自撮りやってます。いつの日か男に戻れると信じて(わるあがき)。
「こらテイオー、相手がサラとはいえ失礼が過ぎるぞ。……すまない、普段は良い子なんだが、キミの容姿は間近で見ると少々刺激的に感じる者もいるようでね……」
謝りながら煽ってくるの草。
というかこの体、同性でも感じるものがあるのか(驚愕)。そらあの男トレーナーも脚くらい見るわ。同性として同情する。
まぁ、心ではそう理解していても、嫌悪感は本能からくるアレなので止めようがないんですけどね(思春期女子中学生)。これからも彼とは最大限の距離を取っていきたい所存である。
「彼女はトウカイテイオー。最近になって本格化してね、是非ともキミに知っておいて欲しかったんだ」
「う、うん。よろしくね、先輩」
最近本格化……あっ(察し)。
この後輩モブ、可哀想な事にウオッカとダイワスカーレットの同期になってしまったらしい。まさに運命の悪戯。同じレースを目標にしているのかは分からないが、世間の話題性は全て向こうに持っていかれる事だろう。この世代は早くも終了ですね。
こんな負け確モブを俺に紹介して生徒会長(コーヒーマシン)は一体どうするつもりなのだろうか。まさか練習に付き合えとか言うつもりなのだろうか。
ちょっとズレてるかな……(認識)。
俺にウマ娘のトレーニングなんてできない。俺は人間だった頃の感覚で筋トレを行い、ウマ娘の本能を満たすよう好きに走っているだけのチグハグ生物である。それでも根っからのウマ娘に勝てているのは、俺がファンタジックなチート能力を持っているからでしかない。
同じモブとして野良レースの相手くらいはしてやれるが……あんなものは所詮ストレス発散目的のかけっこである。本気でトウカイテイオーとやらが無敗を目指し、いつかウオッカやダイワスカーレットという実在馬と戦うつもりなのなら、こんなモブの吹き溜まりで遊んでないで今すぐトレーナーを探しに行くべきだろう。
トレーナーといえば、一人暇そうな奴を知っている。不躾に脚を見てくる男なんだけどいらない?(在庫処分)
「私はエアグルーヴ。よろしく頼む」
「……ナリタブライアンだ」
話が一段落したところで残った二人が名乗りを上げる。生徒会長と同様に聞いたことのない名前だったが、俺よりカッコいい名前である事だけは確かだ。モブのくせにズルいぞ。どうやら同じモブの中でも格差が存在するらしい。
「この二人は生徒会の仲間でね。私を含めた三人でいつも仕事をしているんだ」
そう……(無関心)。
なんだろう、今日一日だけで『ウマ娘プリティーなんとか』の裏設定にかなり詳しくなってしまった自分に驚いたんだよね。こんなの公式設定資料集にしか載ってないレベルの知識でしょ。
というか、学生が学園の仕事してるって何? 法律は? 給料は? 本人達の青春は? この世界の大人達は何をしている?
ウマ娘は走るのが仕事なんだから、事務仕事なんてヒトミミでも雇ってやらせとけばいいんだよ(ヘイトスピーチ)。
「今日の話はここまでにしようか。またいつでも来て欲しい」
その後も俺達モブ娘達は小一時間程度テーブルを囲んでいたが、生徒会長の鶴の一声によって解散となった。
自由を手に入れた俺は急いでトレーニングルームへと向かった……のだが、なんとパワーラックとスミスマシンは全て使われてしまっていた。まさかの事態に身が震える。
空前の筋トレブーム到来。世はまさに大本格化時代。この世の全てをトレーニングルームに置いてきた。
夏休み中の快適な通勤にすっかり慣れてしまった後、夏休み明けに学生が戻ってきた満員電車に揺られている時のような心境である。
人生の悲哀を感じますね。
■生徒会長
野良レースに度々参加してくる強モブ。
サンサーラブレッドが脳内でアホな事ばかり考えているのを見抜いており、自分を特別視しないウマ娘として親しみを覚えている。
■トウカイテイオー
夢見るモブ。
領域を身につけるためにサンサーラブレッドと交流するよう会長に勧められた。
■エアグルーヴ
目つきの悪いモブ。
実はちょっと緊張していた。
■ナリタブライアン
ナリタブライアン(欧字名:Narita Brian、1991年5月3日 - 1998年9月27日)は、日本の競走馬、種牡馬。中央競馬史上5頭目のクラシック三冠馬であり、そのトレードマークから「シャドーロールの怪物」という愛称で親しまれた。1993年8月にデビューし、同年11月から1995年3月にかけてクラシック三冠を含むGI5連勝、10連続連対を達成し、1993年JRA賞最優秀3歳牡馬[† 3]、1994年JRA賞年度代表馬および最優秀4歳牡馬[† 3]に選出された。1995年春に故障(股関節炎)を発症したあとは低迷し、6戦して重賞を1勝するにとどまったが(GIは5戦して未勝利)、第44回阪神大賞典におけるマヤノトップガンとのマッチレースや短距離戦である第26回高松宮杯への出走によってファンの話題を集めた。