競馬無知のTSウマ娘、なんか走るのが速いモブ達に絡まれる   作:だすと

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『トウカイテイオー僅かに前に出た! トウカイテイオー先頭っ! この激戦を制したのはトウカイテイオー! ウオッカ一歩及ばず! トウカイテイオー、見事日本ダービーの栄冠を手にしましたッ!』

 

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「サラ先輩っ! ボクやったよ! 先輩のおかげでレース中に見えたんだ、青空を天まで繋ぐ雲の足場がっ!」

 

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「……あの日、キミにテイオーを紹介して良かったよ。ありがとう、サラ」

 

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 ウオッカが負けた。もう一人の主人公であるダイワスカーレットにではなく、端役のモブに負けた。

 下手人は最近よく野良レースに参加しに来ていた後輩――トウカイテイオー。

 

 俺は自覚あるモブだった。ウオッカとダイワスカーレットという実在馬モチーフの主人公達をサポートせず、邪魔もせず、自然体のまま見守った。たまに委員長設定のモブや剛脚アイドルのモブに絡まれて短距離やダートの公式レースに出たりはしたが、中距離以上には一切参加せず徹底してノータッチを貫いた。

 まるで推しとの接触をあえて望まない意識高い系のオタクみたいだぁ……(直喩)。

 

 なのに、ウオッカは負けてしまった。

 この世界にいるたった二頭の実在馬――主人公である彼女達は本格化して早々に適正の合ったチームを見つけ、適正なコーチングによって順当に実力を伸ばしていた筈だった。しかし今回、あと一歩のところでウオッカはトウカイテイオーに及ばなかった。

 

 理由は……ぜんぜん分からない。俺は雰囲気でレースをやっている。

 

 俺はウマ娘であってトレーナーではない。レースの戦術や戦略は勿論、競走馬の体についての知識さえ十分に持っておらず、同じウマ娘の力量だって何度か走ってみないと把握する事ができないチート持ちの面汚しである。レース分析など夢のまた夢だ。

 

「………………………………」

 

 ゴール後すぐに駆け寄ってきたトウカイテイオーの向こうで、ウオッカはただ静かに泣いていた。

 あの二万円スッた寒い日に友人が語っていた内容によると、ウオッカは数々の大きなレースで勝利経験があるらしい。もしかすると、この日本ダービーでも勝っていたかも知れない。それが、今は負けてしまい、ああして泣いている。

 なんというか……すごく悲しい。俺が今まで指針にしてきた『この世界の在り方』が崩れてしまったのもそうだし、単純にずっと応援してきた彼女が負けてしまったのも悲しい。これが親心……?

 

 とはいえ同じモブとしてトウカイテイオーが必死で努力してきたのも知っているので、「オイオイ、マジで主人公に勝っちゃってどうすんだよ(笑)」と茶化す事もできない。

 彼女は真剣に戦い、自らの力で結果を出したのだ。素直に祝福です。約束通り夕飯を奢ってあげよう。

 

 しかしこうなると次はダイワスカーレットが気になってくる。彼女は大丈夫だろうか。

 俺が同じレースに参加して他のモブの妨害をしまくれば勝率は上げられるだろうが、そんな事をやり始めたらもう人として終わりである。今まで意図的に見ないようにしてきたが、モブのウマ娘だって命を削ってトレーニングをしているのだ。そんな子供達の努力を大人のエゴで台無しにしちゃイカンでしょ。

 

 じゃあ、どうすれば良いのか。

 ……ぜんぜん分からない。俺は雰囲気でこの世界での身の振り方を決めている。

 

 こんな時、ウマ娘じゃなくて男のトレーナーになっていたら話は簡単だったのになぁと思ってしまう。

 俺がトレーナーだったらウオッカとダイワスカーレットを何も考えずにスカウトしていただろうし(契約できるかは別だが)、トレーニングに有利な能力を持っていれば二人は更に強くなるし、こうやって他のモブと知り合って複雑な心境になる事もないし、なにより俺が男とうまぴょいしなくて良くなる(重要)。

 うまぴょい問題だけは本当にどうにかしてほしい。現状、ウマ娘である俺の未来は真っ暗だ。救いはないんですか?

 

 誰でも良い。今すぐこの問題を解決できそうな相手を用意してくれ。

 それが無理なら、過去に戻ってウオッカとダイワスカーレットに意味深な助言をする謎の先輩みたいなポジションにならせてくれ。

 最近そういう接触ならアリなんじゃないかと思ってきている。なんか憧れるよな、最初の森を出た時に会うフクロウみたいで。

 

 あっ、そうだ。

 そういえばこの世界にぃ、三女神とかいう存在、いてるらしいっすよ。

 じゃけん頼んでおきましょうね~(都合の良い時だけ神に祈る屑)。

 

 

 

 * 一部能力を引き継いで育成をやり直しますか?

 

 

 

「……?」

「どうしたの、先輩? あっ、ボクそろそろ行かなきゃ! ライブもしっかり応援しててよね! カイチョーも、また後で!」

「ああ。楽しみにしている」

 

 頭の中に声が響いたような気がした。

 ……声が響いたような気がした? 俺は何をいっている。何を。

 

 俺が脳裏に疑問を浮かべている間にも、トウカイテイオーは大観衆の声援を受けながらターフを去って行った。

 レースが終わったのに彼女はどこに行こうというのか? 答えは簡単、ライブである。なんで競走馬が踊る必要なんかあるんですか(正論)。未成年の生足と乳揺れを国民の大半が齧り付いて観察するイベントとかヤバいでしょ。最高。

 

 実は俺もライブは楽しみにしていて、今日はウオッカの自作応援グッズ(うちわ)を持ってきていたりする。トウカイテイオーについては隣の先輩モブがガチ勢なので張り合う気にもならない。ハッピとハチマキとタオル装備は生徒会長のあるべき姿じゃないと思うの。

 

 ライブが終わるまでに何をトウカイテイオーに奢ってやるかも考えておかないといけない。前世(?)だったら居酒屋一択の状況だが、ウマ娘は未成年のアスリート。女の子らしい感性と馬っぽい好みが合わさって、どこに連れて行ってやると喜ぶのか予測不可能な領域に突入している。

 ちなみに俺の気分は寿司である。米だから日本酒……と思わせておいてからのビールだ。麦茶が合うんだから不思議な話ではない。この世界の酒には興味ありますねえ!(食い気味)

 

 あっそうだ、これも三女神様に頼めばいいじゃん。

 デメリット無しで酒が飲める体にして下さい!(屑)

 

 

 

 * それはダメです。

 

 

 

「……?」

「どうしたサラ、早く行くぞ。最前列でテイオーを応援しなければ」

 

 頭の中に声が響いたような気がした。

 ……声が響いたような気がした? 俺は何をいっている。何を。

 

 ああ、早くライブ会場に行かないと。

 

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