怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】 作:PureFighter00
まぁ、説明やブリーフィングしても聞きませんし。
総人口300人クラスの自治体は現代日本にも実在する……っ!
まぁ、大体はとんでもない僻地や離島だ。産業があれば案外年寄りはいざという時に安心できる大病院のある都会に引っ越してしまうので、案外平均年齢は低い。産業があれば、だ。
水星圏もパーメット採掘が盛んだった頃には20代どころか10代でも年齢を詐称して鉱山夫をしたりしていたし、活気に溢れたフロンティアだったのだ。少なくともプロスペラが幼少の頃は小中学校もあったし、近所に5〜6件ほどのバーや飲み屋もあった。住人が2万人も居ればそれなりに町は活気付く。当時は最先端の技術が惜しげなく投下され、快適なフロントの一つとして知られていた……とんでもない僻地だが。
また、鉱山の町だから案外医療設備も整っている。怪我や病気の発生率が高ければ高いほど病院というものは経験値を積む……筆者が住む埼玉県川口市でも鋳物産業が盛んだった時期から暫くは、川口工業病院が地域最大の医療機関だった事がある。四肢欠損などの重大な怪我が多発していたからだ。
だから当時の水星圏には医療研究所もあったし、熟練の医師も多数いた。若き日のカルド・ナボも水星圏で高機能義肢の必要を強く感じ、この地で開発を進めたのだ。ドローン戦争の騒乱は余りにも地球圏から遠過ぎて全く気にならない。田舎ではあるが平穏な土地であった。
それが、今や……
「ねぇ、肉は無いの? お肉は……」かなりゲンナリしたソフィはサナトリウムの朝食として出されたコーンフレークをスプーンで執拗に混ぜていた。
「──かっ……加古川以下とは……」なんとびっくり、ノレアが齧ったサラダにはドレッシングもかかっていない。塩! まさかの塩!(ただし生意気にヒマラヤ岩塩であった)
「どうしましたかな? お嬢さんたち。当院の食事は選りすぐりの有機栽培ですよ? 身体にも大変いい……」
「あのさ、おじさん。必須栄養素って知ってる?」
「もちろんですとも! ああ、タンパク質が足りないと、こういう事ですな!」
「そうだよ! 牛や山羊じゃ無いんだから!」
「今揚げたての唐揚げが……来ましたな」
「──揚げたてとはやりますね」
「トリ唐ぁ……やればできるじゃん! いっただき……」
がぶり。
もそもそ……
「「代用肉じゃねーか!!」」
一応サナトリウム側の名誉のため申せば、そもそも「今の」水星では肉食は大変難しい。スレッタが10歳ぐらいの時に食肉流通商社が倒産したからだ。更に申せば水星圏に住む人々の血の滲むような努力で大豆で作った代用肉もかなり本物の味に近付いている。スレッタが食べたら「こんなにおいしくなった!」と驚く事だろう。
が、今2人はカーギルという美味いものを取り扱う超巨大企業で働いている。社食の飯すら全力投球のこの企業では社食のたぬき蕎麦すら絶品であった。トリ唐に似せようとしているものではトリ唐の頂点を目指すものには勝てはしない。
「嘘だ……嘘だよ……月面の繁華街で食べた小諸の鶏から蕎麦が恋しくなるなんて……」
「──我孫子の弥生軒までは望まないけど、せめて、せめてニチレイの冷食は超えて欲しかった……」
【我孫子の弥生軒】
アホほどデカい鳥の唐揚げを出す。我孫子駅使って弥生軒のトリ唐食わないのは失策と言える。ただし小諸の鶏からを予期して唐揚げ2つトッピングすると泣きをみる羽目に。
「AJINOMOTOの製品には思うところがありますがね、彼らの言にも一理ある。Eat well, Live wellは我々から見ても正しい。身体は食べたもので出来ているのです。狭いケージに詰め込まれて肥育したブロイラーが健康的な訳はない……そんなものより大豆肉です。原材料は100%オーガニック! これz「黙れジジイ!」ソフィのハイキックが炸裂!「ふごぉっ!」
「──選択肢は2つ、ステーキorトンカツ」ノレアはどこからか光線銃を取り出した。
「……そんな願いは……聞けんっ!」博士は膝を震わせながら立ち上がった。
「何故……何故分からんのだ! 君たちには聞こえないのか父なる神、子なる神、そして聖霊の囁きがっ!」
「げっ……」
「──案外タフ」
「私には使命がある! 皆を健康にして長寿を全うさせる! 私の半生はこの使命に捧げられたっ! なのに世間はエビデンスエビデンスとお前らタイかっ!」エビで鯛を釣る? いや、大体のお魚はオキアミ大好きなんだが……
「何故分からぬのだ愚物が! ワシが、ワシがどれだけ君らの事を思って……」髭を蓄えた老爺が泣いている。ボロボロ泣いている。
彼の言葉に偽りは無い。彼は正真に人々を健康に、幸せに導きたいと考え、誠心誠意サナトリウムを運営している。その真心が伝わったからこそ多数の入所者がこの地に集まった。案外誠意というものは伝わりやすいのである。
だがしかし、善人が誠心誠意尽くしたからと言って必ずしも善人の行為が良い結果をもたらすとは限らない。このサナトリウムで言えば、博士のプログラムで状況が改善した者もいる──もちろん悪化した者も居るし、大部分はあまり変化が無いのだが。この様な問題から医療というものは比較対象とエビデンスを重視して統計的・確率的に有効な治療法を選択して来た。その意味ではハイパー・ホリスティック医療の主張とは異なり科学的な「標準医療」は人類全体を視野に入れた包括的な医療であるし、個々人に着目するハイパー・ホリスティック医療は近視眼的な視野に留まっている。また、標準治療も患者の体質が特異的であるとか症例が極めて少ない病状に対しては効果的では無い事がある。
その「標準医療が効果的では無い」患者やその家族にとって──敢えて言おう。似非科学治療はどう見えるだろう? その多くは誠実で献身的な人間によって運営されており、自信に満ち溢れている。
──ただ、エビデンスに欠けて──愚かであるというだけなのだ。
この様にして善人で精力的な博士は世間から排斥された。付け加えるなら善人で精力的だからではなく、愚かでエビデンスに欠ける治療を選択しているからなのだが。
故に博士はこう呟く。「大衆は分かっちゃくれない」
割とカルト宗教も大部分の信者はコレ。