怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】 作:PureFighter00
「ガンさん! エランさんは?」
ファラクト(だったもの)とエアリアルの回収を済ませると、スレッタ姉さんは僕に走り寄ってきた。既にエラン・ケレス(強化人士4号)はペイルの高速艇に乗せられて……病院には行かないだろう。
僕はこの先の展開を知っている。彼は「必要であるから」救い出す。そしてプロスペラ母さんの息子として「一度も会った事がない」スレッタ・マーキュリーの兄として彼に引き合わされるのだ。
姉さんはもう二度と、彼の瞳を見る事はない。彼は治療を受けて別の顔、別の人間となりスレッタ姉さんを守る盾になる。彼の声を聞くこともない。あの強化人士4号は近い将来に消える。別の人間を演じる事になる。
「……寮の人が……迎えに来たんだ……でもすぐに会えるよね? ちゃんとエアリアルは手加減してくれたし、エランさんも約束してくれたから! 私、いっぱいエランさんのこと教えてもらうんだ!」
ごめん、姉さん。実はちょっとだけ本気出した。専務の胃がヤバいんだ。それに……迂闊なポンポコムーブで「エランさんのこと教えてくださいっ!」とか言ったのが裏目に出て、多分妖怪4婆婆ぁは姉さんのこと「強化人士に勘付いた敵組織のヒットマン」ぐらいに考えてるよ。これは委細を話してない僕たちの痛恨のミスではあるけれど、あんな事言ったらペイルは確実に4号抹殺しちゃうよ……今、貴方の爆弾発言の裏でみんな必死に打開策考えて動いてるからね。でも……ちょっと姉さんの約束は果たされそうにない……
やるか……まだ実証試験前だが……試す価値はある。
「スレッタ。今日はお疲れ。よく眠れるように飲み物をあげよう。今日寝る前に飲んでね」
渡したのは80%パーメット液が入った小瓶だ。アルコール換算で大体40度ぐらいのキッつい奴。寝酒にしては強過ぎるが……
「ありがとうガンさん!」
ひっくり返らなければいいが……いや、酩酊して寝ないと術が使えないのだが。
「首尾はどうか?」
「……ガンさん何渡したんですか! 寮は禁酒ですよ!」(小声)
「パーメットはアルコールじゃないからセーフ。で、寝た?」
「ご機嫌でニッコニコしながら倒れましたよ!」
「ではやるか。後で様子を聞かせて欲しい。ニカちゃん」
パーメットには情報を共有すると言う不思議の性質がある。ガンド技術やガンドアーム……更に言えばこのパーメットはアドステラ122年段階で各種工業分野で利用されているありふれたものではある。そして……現在都市伝説ではあるが、ある効能があるのではないかと疑われているのである。
パーメットリンク4を酷使した強化人士4号は酔いこそしていないが高濃度パーメットが抜け切ってはいまい。僕はパーメット液をあおって瞑目した。
「
僕はシェルユニット内にある強化人士4号のガンド接続データと姉さんのデータを接続して、両者の意識を僕経由でガンドフォーマット接続するよう意識を集中した──
「……これは……」
「これは、夢じゃ」ガンド天狗フォーム姿の僕は答える。
「夢……?」
「そうだ、夢だ。天狗の国じゃ。故にこの中では何も現実に影響を与えぬ。覚めれば消え去る儚い夢。だから気にせず約束を果たしてくるが良い。そこの石段は13段ある。目を瞑り【ゼロから数えて石段を13段まで登れ】ある筈のない14段目を踏み締めた時、お前は他の夢に足を踏み入れるであろう」
「そんな馬鹿な……」
「侮るな小僧、天狗の神通力、験力を」(倒置法)
◆
「スレッタ……さん?」
「……? でぃぇぇええっ! エッ! エランさん?!」
「可愛い私服だね。待たせてごめん」
「ゔぇっ……ゔぇぇぇえ? 10:00? なんでぇ?!」
ちょっと落ち着きなよお姉ちゃん。デートなんだからもうちょっとこー、何とかならんかな! 何ともならんな! 僕のシェルユニットで作り出せるの、2人が見てる景色だけだしっ! あーもーっ! 焦ったい! 早く、早く話進めてっ!
「(察し)ちょっと喉が渇いたかな? 喫茶店行こう。さぁ、後ろ乗って」
エラン……いや、強化人士4号クン、君は出来る子だね……ちょうど良いタイミングでスクーターじみた乗り物を出す。僕が全面バックアップするから後は任せた!
シェルユニットはその演算能力を全開にして現実と見まごうばかりの仮想空間を作り出している。これぞ秘術……異なる場所に居ようとも同じ夢を見せる
「夢みたいです……エランさんと話せて、ほっほんとに嬉しいです」
「夢なら覚めなきゃ良いんだけどね。折角のデートが喫茶店で終わりじゃ興醒めだ」
無茶をいうな(涙) これやるのに僕がどれだけ苦労してるか……
「わっ……私、なんか変ですか? いきなり歌歌ったり、エアリアルを家族と言い出したり……」
「決闘の時にようやく分かったよ。エアリアルは本当に君の妹だったんだね。随分なお転婆さんだ(笑)」
「そっ……そうなんです! 私も困ってて……(デヘヘ顔)」
意義あり!(真顔)
その後2人は街でウィンドウショッピングしたり、エランの新しいイヤリングを見たり、クレープ食べたりと、一通り学生のデートらしいデートを満喫した。恐らく読者諸兄の頭の中に浮かぶ「クレープのクリームで口の周りが汚れたスレッタ」「それを優しく拭き取るエラン」「迷子を見つけて親を探す間、まるで家族のように振る舞う2人」「子供もいいね、で勝手に想像力が暴走機関車になり顔を真っ赤にするスレッタ」「わぁ、綺麗な夕焼け……シーン」──好きなだけこの辺で「読者諸兄が望む2人の仲睦まじいシーン(ただし、本作はR15設定なのでそこまでにすること)」を想像すると良い。なぁにこれは夢だ。伏線や物語の整合性に悩む必要はない。
「エランさん、今日は本当にありがとうございましたっ!」
「僕こそありがとう。楽しかったよ」
「あの……また、デート……出来ますか?」
流石に強化人士4号でもこの言葉には胸を痛めた。悲しげで儚げに沈み行く夕日を見つめ……「うん、また」
例えそれが夢であれ、温かな思い出は悲しい現実を乗り越えて行く際の杖になる。
Open your eyes
Look up to the skies and see
I’m just a poor boy
I need no sympathy
◆
同情は要らない。いつの日か自分の顔をとりもどして、またスレッタ・マーキュリーと会おう。またクレープを食べて、またスクーターの後ろに乗せて……
ボヘミアン・ラプソディを挿入歌にしてみました。