怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】   作:PureFighter00

78 / 151
今は昔、世界を二分にした最後の大戦あり。
その地獄の大戦で家族を失った詩人はある歌を残した。
それが不思議の縁により(しろがね)の髪持つ少女の胸に響いた時──

【彼】は、【彼の魂】 はこの世に雄々しく顕現した──


たとえむねのきずがいたんでも

トマトは旨味の宝庫である。

その少女はトマトが大好きだった。父が家庭菜園の朝露に輝くトマトをもぎ、母は様々な技法(アルテ)で食卓に供した。ひと玉当たり味の素換算で2〜3振り相当のグルタミン酸塩のダンス。彼女は畑のルビーに魅了された。実際朝取りトマトはめちゃくちゃ美味い。科学的にも論拠がある。

 

そしてもう一つ。彼女がまだ幼い頃に家族で荒廃する前のニホンを訪れ、何気なくつけたテレビの中で──彼女は初めて恋をした。彼は彼女のヒーローになった。丸顔に団子鼻、焼けた顔は朝黒くお世辞にも格好は良くなく必ずしも強くはない。しかしヒーローの心は焼きたてのパンの様に暖かく、何よりも(つよ)かった。

彼の名はアンパンマン。反転せざる正義として「お腹を減らした人に、自らの(あんぱん)を差し出す」──例えそれにより自分が弱ろうとも、危険に晒されようとも。

 

恵まれた環境の中で彼女はスクスクと育ち、彼女の中でふたつの概念が化学反応を起こした。美味しいものを皆に届ける仕事をしたい。それは奇しくも彼女の一族が何百年も続けて来た家業であり、彼女は包括的に農業、そして農村を作り上げるための植生エンジニアの道を選び、其々の地域に合致した原始的農村の構築の仕方を大学で学んだ。また同時に農学部で野菜の品種改良なども手がけた。

 

これが、ノートレット・マクミランという女が後にミス・ジェネラルと呼ばれる前の足跡である。

 

 

 

 

それは嵐の様なハーレー・ダビッドソンのエンジン音と共にやってくる。

最初期、彼らは誤解していた。糧食調達の為に地球で最大規模の穀物商社……穀物メジャーと【契約】し、現地の調整官として商社の主任が派遣されること。彼女は経営者一族の末席に連なるお嬢様で、何やら研究をしていた若い女性である事……

恐らく今この文章を読んでいる読者諸兄も前段を踏まえてアンパンマンとトマトが好きな、豪商の娘という少女漫画じみた線の細いたおやかな女性を思い浮かべた筈である。それは誤りだ。学者と言ったらヒョロいモヤシと思い込むのはやめた方がいい。理系でもフィールドワークを行わなくてはならない分野では、学者と言えども逞しくなければ研究を進められないのである。

 

彼女は植生エンジニアとして、必要であればジャングルでも急峻な山でも走り回った。それは整備された山道を行くトレッキングじみたものではなく、道なき道を野の獣の様に斜面を行くものである。その為彼女の(かいな)はアンデスの山々の様に隆起して、背中は台地の様に滑らかな法面(のりめん)を見せていた。腹はよく手入れされた畑の様に6つに割れている。その畑の背後にある二つの山は、まるで里山の様に豊かに盛り上がっていた。太腿はいく筋もの鉄筋を束ねたが如く、足首に連なる脹脛は子持ちのししゃもの様に躍動していた。

 

【挿絵表示】

 

テントの外でハーレーのブレーキ音がする。

鉄の悍馬(かんば)のドウドウという拍動が止まる。

ヘルメットを取ると美しい銀の長髪が乱れるも、彼女は気にしない。

警備の兵が銃を構えるも気にしない。

彼女には【契約】がある。安価に飯を提供する代わりに交わした【契約】が。

 

「契約の確認に来た、通せ」

「手荒な真似は……」

「貴様、所属と姓名を述べよ」

「いえ、その……」

「もう一度だけ言う。通せ。

軍本部(ほんしゃ)からの命令があるなら私を遮っても良いが……」

「サー、イエッサー!」

荒々しく連隊本部幕舎(ばくしゃ)の入り口を潜ると、彼女は筋張った拳を握り絶叫する。

 

「デリ公、歯ァ食いしばれ!」

 

まだ若い宇宙議会連合治安維持軍大佐、デリング・レンブランのタプタプとした左顎にノートレットの鉄拳(アン・パンチ)が飛ぶ。

 

──その頃、彼は太っていた──

 

ノートレットが持つ契約の内容はこうだ。糧食や軍が必要とする資材のサプライを安価かつオンデマンドで提供する見返りとして、治安維持連隊は展開地域におけるカーギルの商行為を保護し経済活動を助ける事……宇宙議会連合は地球の穀物メジャーが意地汚く自分たちの権益保護に動いたと嘲笑った。しかし後に彼らは自らの認識が誤っていた事を痛感する。

ノートレットが持ち込んだ「アンパンマン」は、カーギル経営者一族の子弟を虜にした。その歌(アンパンマンマーチ)は彼らの指針となった。

 

「私のトマトを美味い美味いと食う人間を殺すなアホゥ」

 

穀物メジャーのエンドカスタマーはあらゆる生き物である。彼らの経済活動は「生き物に飯を供給する事」であり、死人は飯を食わない。つまり死者を出す事は彼らの経済活動に対してネガティブな影響を与える──協力してやるから殺すな、という話である。

 

「何人殺した、何人傷付けた? 答えろ」足下に転がるデリングを冷酷な目が見下ろす。

「さ……3人ほど死者が……」

「宜しい、では今日から3人分責任者の摂取カロリーを増やす。死んだものの分もお前が食え」

 

これが、デリング・レンブランの質量及び体積が増した……肥えた理由である。この点についてカーギルは些かも引かなかった。むしろ食い切れないぐらい糧食提供して非難されるのはおかしい。軍隊なのだから食った分動けばいいではないか!

軍を統括する将たちはぐうの音も出ない。

連隊を率いる大佐クラスの士官は運動する様な暇な時間は無い。走り込みする様な暇のない大佐は肥満した。

 

当初宇宙から来た兵たちは、殺すとご褒美で飯が増えると喜んだ。こいつはご機嫌なミッションだぜと。それが1.4倍、1.6倍と増え続け、残飯として残すのは許されないと知ると彼らの顔はあおざめていった。今ではフォアグラに心からの哀悼を捧げる次第である。そもそも無駄に美味いのだ、カーギルが提供する飯たちが!

 

「こっ……これ以上は部隊運営に関わります、ご再考を……」

「食い過ぎで頭まで肥満したか、デリング大佐。頭を使え」

「──と、言いますと?」

「殺さず捕虜にして、そいつらに食わせれば良かろう。カーギルは誰が食うかなど感知せん」

 

この言葉は迅速に部隊内に伝達された。




胃を掴んで人心を掌握する。基本ですね。

ワイが萌えキャラ風の美人さん出す訳なかろうよ……本作のノートレットは迫撃砲撃ち込まれても怯まない筋属の魂を持つ美丈夫よ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。