怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】 作:PureFighter00
彼はこの話の時点で生姜湯を啜りつつ草加煎餅を齧っていた。
「えー、あー──」
ジョン・スミス(偽名)は心底困っていた。確かその話は12年前に8年かけて丹念に解析して説明した筈……現在スレッタ・マーキュリーを名乗る少女は間違い無くエリクト・サマヤちゃんである。改名を説明する際にプロスペラが「元服って言うのよ」とサラッと説明して「幼名、エリクト・サマヤ。元服してスレッタ・マーキュリー」……感心したものだった。よくまぁそんな説明を思いついたなと。あの頃から只者ではないと睨んでいたが、まさかこのベクトルで只者ではないとは……
ジョンの認識ではこうなっている。突如「エリーが記憶を失っている! ヴァナディース事変で宇宙漂流したり戦闘でガンドと繋がったからよ!」などと言い出した時には緊張した。我々のミスによりそんな事が起きていたなんて! 我々は勿論自分たちが提供できる最高の医療を惜しげもなく投入してエリクトちゃんの治療に当たろうとした。そして──
「残念ながら、治療は不可能です」
何が科学だ! 何が医療だ!
「なんも異常はありませんからなぁ(呆) 健康なんだから治療も何も……」
「は?」
「子供が昔のこと忘れるのは正常です、大体反復して思い出したり経験積まないと脳は【一時記憶】として記憶するだけで、記憶を定着させんのです」
「はぁ」
「逆にいつまでも余計なこと記憶してたら生きづらいでしょう? 貴方、最後におねしょして叱られた日の事覚えてます?」
「いや、しかし彼女は父親の事も……」
「残念ですが、彼女はそれを「忘れてもいい物事」と分類したんです。当然忘れます。忘れさせたくないならお父さんの事を繰り返し繰り返し、写真でも見ながら何度も何度も話すべきでしたなぁ」
「いや、でも父親の事ぐらい……」
「そう考えるのは親の願望であって子供たちの意思ではない。案外忘れられますよ、私も息子に「いらっしゃいませー」と迎えられた日には……」
医者の目にも涙、であろうか。
「マクミランさん、お子さんは?」
「え、ええ……息子と娘が……」
「ちゃんと『お父さん』、出来ていますか?」
「いや──ちょっと重責なもので……」
「仕事なんて他人に振ってしまう事ですな。貴方にしか出来ない事だけやればいい。大体の仕事は他人でもこなせるものです。
だが、親は違う。親は他人には出来ない……やらせたくもないでしょ?」
「そんな事ない! ルブリスの中にはエリクトの生体コードがある! 飲み込まれてしまったのよ!」
と、主張されたが【生体コード】とは何ぞや? ガンド周りの技術的な話なんだろうが、
「私の娘を返してよ! 返してよ!」
と、申されましても……隣でキャッキャとゲームに興じるそのお嬢さんが、正真正銘エリクト・サマヤちゃんなんですが。8年に渡る長期解析でそう結論が……
「落ち着きましょうエルノラさん。ルブリスが生体コードを持っているとして、それはどうやって持つ事になったのでしょう?」
「コールバック試験は、私の生体コードを……」
またガンドの話、なのだろうか。専門外の私には何がどう繋がるのか見当も付かない。ただ、分かるのはガンド技術者の目から見て、その様な事が起こり得るという事なのだろう。私は考えた。
「果たして、入れ替わったのでしょうか? ガンダムにその生体コードがコピーされただけで、彼女自身はそのまま……」
「じゃあ何でエリーはナディムを忘れたの! 辻褄が合わないわ!」
激昂する若い未亡人に「そりゃ、忘れますよ。ナディムさんちゃんとお父さんしてました?」と言ったら血を見るのは間違いない。辻褄が合う話は出来るが「してはいけない」話であった。殺してしまったのは義弟だし。
いくら誠意を尽くしても、私が語るとそれは言い訳になってしまう。これは困った、解決方法が無い!
私は、刻が全てを解決してくれる事に一縷の望みを託した。
──
ジョン(偽名)は往時に想いを馳せたが……今は違う。
我々は過去には無かった新たなピースを見つけ出している。我々が感知しない暗闇から躍り出て、エアリアル周辺で踊る影。キャリバン・メルクリウス。又の名をガンド天狗!
我々の調べでは彼には生体由来部品が一切無い。シン・セーに潜り込ませた健康診断車でこっそり全て調べ上げた。経歴や戸籍も偽造されている!
私の勘……非論理的な発想の飛躍が「おかしい」と叫んでいる。
危うしガンド天狗。厄介ごとスルーパスの術が来るぞ(迫真)
流石に仕事忙しいからもう……