怪傑! ガンド天狗!!!【一回完結】【アディショナルタイム】 作:PureFighter00
「こんな大規模なドッキリ仕掛けてクワイエット・ゼロの邪魔をして! 総裁肝入りのプロジェクトなのよこれ!」
「……で、私の肝入りプロジェクトでお前は何勝手に自分のやりたい事をやり始めていたのだ? 説明して貰おうか、レディ・プロスペラ」
プロスペラがぎこちなく振り返る。
「いや、そんな事は無いんですよ、クワイエット・ゼロは……」
「一兆宇宙ドルをもう超えているんだぞ」
「た……たった一兆……ですよ」
【たった一兆】
アイザック・アシモフの科学エッセイのタイトル。日本語版はハヤカワから出ている。
「たった一兆。アシモフか。しかしその一兆で何が出来るか、何が起こるか考えてみろレディ・プロスペラ」
簡単に言えば、一兆宇宙ドルだからGoサインが出た、つまり採算が取れると予測されたから始まったプロジェクトだった。そしてその稼働を予定に入れてグループ内のリストラを開始したが、ヒューミント担当の人員整理したらその人材が他社に流れてしまった。そしてその諜報能力のアンバランスさがヴィムの暗躍やクエタ襲撃を許してしまった。
言ってしまえば、クワイエット・ゼロの遅延が様々な事件の起点である。そしてその遅延が極めて私的な理由で発生していたのであれば……
「もう、巨大化やスペックアップは不要なのだろう。エリクト・サマヤを見つけ出した様だしな」
「はい……」
「私が総裁としてこの茶番に付き合ったのは何故だと思う? お前を翻心させなければまた愛に狂い浪費を続けるだろうからだ。もう私は一つの決断をした……私はベネットグループの総裁を辞任する。シン・セー社長を解任してからな!」
「何言ってるのよクソ親父!」
「いーっ、ウチ、収入無くなっちゃう!」
「覚えておけミオリネ、一兆の投資失敗はこのベネリットグループ総裁の首を以てしても許されざる負債だ、責任は取らねばならぬ」
「──そして、何の権力も持たない元総裁の小娘なら、好きな相手と結婚出来るわね、何の障害もなく……でしょ? お父さん」
「そうだ、マーキュリー家の家計が掛かっている。責任重大だぞミオリネ」
「筆頭出資者さんの生活も掛かってますしねー」リリッケは空気を読んだ。流石モテる女は違う。
「積年の恨みは晴れたか、プロスペラ。再び世界を愛せそうか?」
「
「お母さんだって間違っていいんだよ、だって私のお母さんなんだもの!」
小柄な銀髪の女性が強い日差しの中、サングラスを掛けてシン・セーのマークが入った巨大な農業機械に乗り込む。電源を入れると自動的にガンド接続が開始され、彼女は農業機械と一体化する……のだが、相変わらずその挙動はヨタヨタしていた。こればかりは何年経っても変わらない。
プルを除く11の「エアリアルの中の個性」は最終的にクワイエット・ゼロのコアにされる前にサルベージされた。つまりガンドロイドとして受肉したのだ。これはカーギルの主席分析官からのご厚意である。そしてここに重大な問題が……何故かは知らないが、僕らの出た後のエアリアルの処理性能が劇的に低下してしまったのだ。本当にどうしてそうなったかは僕たちにも分からないが、僕たちが僕たちの本体をガンダムエアリアルと認識しなくなった辺りに問題があるのかもしれない。
仕方なしに、僕たちは交代でクワイエット・ゼロのオペレーターをする事にした。お給金は割と良かった。偶には実家に顔を出すのも悪く無い。
ガンダム社は開発系企業として躍進した。ミオリネ氏の経営方針は「他社との協業で市場に商品ではなくソリューションを提供する」というもの。簡単に言えばガンド義肢を売るのではなく、ガンド義肢を用いた再生医療による障害者の社会復帰をパッケージにして売り込んだのだ。障害者を社会が保護すべき弱者から労働力に作り変えた……と言ってもいい。この労働力に先行投資する様に社会に対して働きかけた。
義肢以外にもシン・セーやペイル、またベルメリアさんが持つ知識や技能、様々なものが視点を変える事で民生転用・商品化出来た。今進めているのは地球の大規模農場で活躍できる大型機械だ。ガンビットの組み替え技術やガンド接続による操作性の向上は大きなウリになる……マルチプルコンバイントラクターと名付けられた試作品は、アタッチメントをビットオンフォームの様に組み替えて多機能を実現して、更に総合的に言えば安価だ。名前は長いからマルコントとかマルチになるんだろうなぁ。
今、我が社が直面しているのは……ガンドの設計上、運動神経が鈍い人が乗った場合機械の動きももっさりするという致命的問題である。きっと
プロスペラとベルメリアはガンダム社のラボで相変わらずキャッキャと研究を進めている。倫理的にかなり問題がありそうなので元エラン4号、エリック・マーキュリーを監査に就けた。そうそう、エリックは6年かけてiPS細胞由来の自分の身体を取り戻し、データストームの影響を取り除くサンプルになった。ただ、エリックがガンド脳だけは受け入れなかったのでベルさんは「マイクロマシンをガンドで操り、ガンビットの様に群体制御して治療を行う」という荒技を開発した。小型化してナノマシン制御が出来たらまた医学は進歩するだろう。開発者2人は「ミクロの決死圏よねぇ」とご満悦だ。僕はちょっぴり、ナノマシン制御に使うシステムの雛形がガンビット
ベルメリアさんがガンビットを操っているのを見れば分かる通り、データストームが発生しないガンドアームは再現可能になった。ただしそれは量産性が頗る悪くて、ほぼ個人向けのオーダーメイドになる(対外的にはその様にされている)。その理論的裏付けは20余年かけて何とか仮説が立ったのだが、パーメットが我々の存在する3(時間軸を含めると4)次元から独立線形の10〜12次元空間内構造を持ち、唯一原点でのみ接する云々とやたら難解な話になっている様だ。そして自我や意識はこの独立線形10〜12次元の中にあり、パーメットを使う事でアクセス出来るのだむにゃむにゃ。ある意味ではこれが僕の生まれた理由だ。
【されている】
同じパーメットでもよく調べたら差があった、という事だ。幸いそれは大変めんどくさい所にあり、管理は簡単だからカーギルが抑えて管理下に置いた。僻地だしね……
もちろん偶には紛争も起きるし、悲しい事は海の真砂の様に尽きる事は無い。飛行機でひょいと理想郷に行けたら良かったんだが、人類皆が搭乗できる飛行機は流石に何処にもないし、チケットはHISで買えない様だ。Amazonなら取扱があるだろうか? 今度暇潰しに探してみよう。
だからと言って諦めず、仕方ないから僕らはトボトボ理想郷に向けて歩き続ける事にした。その昔三蔵法師玄奘もガンダーラまで歩いたのだ。僕らだっていつかは辿り着くだろう。案外皆で歩いて旅するのは楽しい。
そこに至るその日まで、祝福の旅は続く。
次回、ガンド天狗空を舞う!で終わります。本当ならまたペンネーム変えて文芸カラテ研鑽の日々に戻るんだけど、奈落落ちしたグエルの話(50話未満の予定)がもうちょっとだけ続くんじゃ。
【データストームの抑制】
何でエアリアルだけが特殊なガンドアームになったかを解き明かす鍵は、エアリアル(及びヴァナディースラボ産のガンダム)だけが「水星産のパーメットを使っていた」と言う部分にあった。勿論それだけが理由ではないのだが、決定的な要素としてはこれが最大で「良質なパーメット鉱床」から精製されたものを使わないと珪素生命体に【ならない】のである。
この情報を掴んだカーギルは水産資源(魚介類養殖プラント)を水星圏で運用すると言う
結果、水星にもカーギル系の会社がポツポツと増え、後々水星は漁師の星になる。板子一枚、下は地獄ってな!