金を盗んだ。ひもじいひもじい生活に耐えられなかったから。寺の仲間に責められて、ここで生活できなくなった。一時の快楽のために安定をぶち壊したのだと、気づいたころには遅かった。
だから、これは。
「ガキはなあ…美味いんだけど少ないよなあ。こんなんじゃろくに腹も満たされない。」
当然の報い。
「ヒッ!」
行く当てもなく歩いていた。初撃を躱せたのはただの偶然だ。それでも着物には爪に引き裂かれた痕が残ってた。そしてきっと運が味方しなければ俺の腹は着物のように引き裂かれていたのだと直感した。死を前にしたとき、その生存本能に逆らって動ける人間がどれだけいるのだろうか。少なくとも俺はそんな出来た人間じゃない。自分が生きるための方法がどんな手段であれあるのなら、それがどのような行為だろうとやる。生きてさえいればその罪を注ぐ機会もあるだろう。死んだら終わりなのだから。
「助けてください。」
命乞いのために頭を地面にこすりつける。その動きが偶然、頭を裂こうとした攻撃を避けることになった。
「アァ?」
機嫌の悪そうな声、きっと偶然とはいえ二度も俺がこの化け物の攻撃をかわしてしまったから。生半可な条件では生かしてもらえないだろう。そこまで考えた時、悪魔の声が脳内にささやかれた。唾を飲み込む。これを言えばもう戻れなくなるだろうと。でもこれ以外に方法はないと覚悟を決めた。
「子供八人に大人一人、見逃してくだされば代わりに差し出します。」
「ハッ!そんなことをしないでも、俺はいつでも好きなように人を喰える。お前のいうことを聞く必要なんてないな!」
それが嘘だと俺は知ってる。先生がいつも藤の花のお香をたくのは鬼を近づけさせないためだと言ってたから。くだらないことだとその時は思ったけど、大切なことだったんだと今にして思う。もう遅いけど。
「この近くの町で人を殺せばすぐに大きな騒ぎになります。でも俺が住んでた場所は街の外れの寺。一晩のうちに何かあっても誰も気づかない。」
そう言うと鬼の顔が邪悪に歪んだ。
*
「どうぞ」
藤のお香を全て消して鬼が入れるようにする。そうして悲鳴が聞こえたところで俺は一目散に逃げだした。鬼が約束を守ってくれる保証なんてないし、少しでも早く安全なところにと全力で走った。その願いが届いたのだろう。俺はその日生き残り、日雇いで命を繋いだ。あれから何をしても満たされることはなく、寺から盗んだ金で豪遊したときはなにもかもが満たされたようなそんな気さえしたのに、あいつを殺して寺の仲間たちの仇を取らないと、俺はこの幸せを溜める箱の底にできた穴を閉じることができないのだろう。
「わしのところで修業してみないか?」
幸せの箱を治せないことを知りながら、あんな化け物に立ち向かう気になるはずもなく、のうのうと日々を過ごしていた日のこと。突然老人に声をかけられた。後の恩師である先生がどうして俺なんかに声をかけてくれたのか、才能があると言っていたがきっとそんなのが理由ではなかったと今にして確信できる。
*
「えっと、我妻善逸って言います、これから俺もここでお世話になります。」
修業をして半年経った頃、俺は本当の才能に出会う。当時ようやく肉体が技を覚えるレベルまで引きあがったというお墨付きを得て、雷の呼吸の六つある型の練習をしていた。この時俺はこいつのことを気にも留めていなかった。当時俺には才能があると思っていたし。
「弐の型から陸の型まで、立った半年でこのレベルまで引き上げられるとは、流石獪岳だ。」
相性が良くなかったのか、どんなに修練を積んでも壱の型だけはなかなか上達しなかった。それでも俺はまあ満足していた。辛い修業の果てに自分の体と技は磨きあげられていたし、先生もその努力と成果を都度認めてくれてたから。いつかは壱の型も極めて先生に誇れるような鬼殺の剣士になると思っていた。この時には幸せの箱だって治せる気でいたんだ。
「雷の呼吸壱の型、霹靂一閃」
善逸の存在はそんな俺にとってまさに青天の霹靂だ。あいつの壱の型を視た瞬間俺は激しく嫉妬した。俺が理想とする壱の型を軽く凌駕するレベルに研ぎ澄まされた技だった。俺が練習していたのは本当に霹靂一閃だったのかと、そう考えてしまうほどにあいつの霹靂一閃は完璧で完成されていた。俺がこの先どんなに努力して時間を費やしてもやつの霹靂に届きはしないと断言出来た。
「おお、善逸、お前は…」
この時の先生の顔を俺は一生忘れないだろう。
*
「肆ノ型、遠雷!」
離れたところから切り込み、次々と攻撃をつなげていく。鬼同士は群れることがなく、それゆえに藤襲山という狭い環境下でまれに来る試験を受けに来た隊士をめぐって頻繁に同士討ちが起こっていた。いがみ合う鬼を殺すことは容易かった。
「弐ノ型、稲魂」
半円を描くように切り込んで鬼の頸を切り落とす。初めて鬼を殺した。あの時地面に額をこすりつけるしかなかった自分が、今や鬼を殺す側に回った。あの時の贖罪は果たされ始める。だというのに、全く心は満たされない。あの頃は仇を殺せば幸せの箱は治ると信じていたのに、その第一歩を踏み出しているというのに幸せの箱に空いた穴はあの頃よりむしろ大きくなっているような気さえした。
「陸ノ型、電轟雷轟」
だんだんと鬼の殺し方が過激になっていった。頸を落とせば鬼は死ぬのに全身を切り刻んで、そして最後に止めを刺す。どうしてそんな殺し方をするようになったのか、自分でもよくわからなかったが七日目に知ることになった。
「た、助けてください…」
もうすぐ試験が終わる。これが選別で最後の鬼殺しだろうとそれまでにまして苛烈に攻め立てて、日光にでもあぶって殺そうかと木に突き刺した瞬間のことだった。
「お、俺、死にたくない!」
当時の自分はこんなに惨めだったのかと、益体もない感慨が思考を支配する。と、同時に俺がどうして
「弐ノ型、稲魂」
それを知ってしまった時、自分の醜さに吐き気すら覚えた。突き刺していた剣を引き抜き、稲魂で止めを刺す。
*
「よく、無事で帰ってきた、獪岳。」
帰ってきてすぐに先生に抱きしめられた。でもそれに激しい拒否感が沸き上がってきてしまった。
「疲れてるんです。今日はもう休ませてください。」
醜い自分に触れてほしくない。だから拒絶した。そしてそれは善逸にも
「あ、あに…獪岳、おめで…」
「うるせえよ!疲れてるっつてんだろが。前にも言ったろ、お前みたいなやつに割く時間がもったいないってな。」
「そ、そうだよね。ごめん」
「ハハッ!これで先生もお前に時間を割く必要もなくなったな、これからは俺が先生の後継者となるんだからよお。」
本当は分かってる。俺が打てるレベルの壱ノ型は善逸の足元にも及ばないし及ぶこともないって。だから俺が後継として認められる日は来ない。善逸には才能がある。今は壱ノ型しか使えないけれど、あと半年もするころには弐ノ型から陸ノ型を使いこなしてきっと俺はいらない人間になる。でもそんなのを俺は認められなかった。だからこうして暴言を吐くことでしか俺を保っていられなかった。俺は愚図だから。
*
「応援に来た、階級
「辛の稲玉獪岳って、あの獪岳かよ!ようやく応援が来て楽になるかと思えばこんなやつがきたとこで意味ねえじゃねえか!」
いくつかの任務をこなして、合同任務も経験し、階級を上げてその実力を見込まれて合同任務の応援に呼ばれるくらいに評価された。それでも雷の呼吸の基本である壱ノ型が使えないという話はどこに行っても自分の評判についてきた。
「な、応援に来てくれた隊士になんてこと言ってるのよ。いくらあなたが古参の隊員だからって。ごめんなさい、私から説明するわ。」
理解を示してくれたり頼ってくれる隊士ももちろんいた。けれどそんなものでは到底満足できないほどに俺の幸せの箱の穴は肥大化していた。
「日の出まであと一時間とちょっと。日光さえ出てくれれば私達の勝ち。無理に切り込まなくてもいいわ。確実に勝ちましょう。」
「うるせえよ。そんな弱腰な奴等だから、この程度の鬼に苦戦するんだよ雑魚。せいぜい一般人でも守ってろ。俺の戦いに入ってくんな。」
気づけば敵対心をむき出しにした関わり方以外を忘れてしまっていた。
「雷の呼吸、肆ノ型、遠雷」
間合いの外から一気に切り込む。それを鬼は血鬼術によって防いだ。
「俺を殺そうとするやつらは皆そうだ。俺の血鬼術の前に誰も頸を切れない。」
舌打ちを一つ、鬼から放たれる蹴りを呼吸により強化された身体機能で躱す。
「遠雷・六連」
壱ノ型を使えないからと代替替わりに編み出した肆ノ型の連続技。同じ場所を狙って六回切りかかる。それもまだ精度が悪く、未完成だ。
「はっははあ、俺の血鬼術はなあ、体をしならせて伸ばす。ただ体をしならせるだけで、お前等お得意の斬撃の威力が殺される。剣が効かないとお前等はなんにもできないんだ。」
そもそも完成していたとしても無駄だとあざ笑うかのように、その頸にはほとんど傷がつかなかった。人の見かけをしていながらその血鬼術で人では到底届かない距離からの攻撃を仕掛けてくる鬼の攻撃を何とかかわす。それもいつまでもつか分からない。あいつは疲れを知らない鬼で、俺はどこまで行ってもただの人間だから。
「さて、いつまで避けられるかな?」
こんな時、俺に壱ノ型が使えたらとそう思う。しならせる隙すら与えない、しならせてもそれ以上の速度で切り込む雷の呼吸の基本にして最強の型。それがあればこいつなんてわけない。
「くっそがああああ!」
雄々しい雄たけび一閃、俺に寄るなと参ノ型、聚蚊成雷を放つ。その斬撃は鬼を留める程度だ。
「お前はしぶとくて生き汚いなあ。そんな奴を壊すのが、俺は大好きだっ!」
陸ノ型、電轟雷轟、参ノ型、聚蚊成雷、伍ノ型、熱界雷
技を連続で出す。そうしていなければ留めて置けない。この程度と大見得きって実際には時間稼ぎをしなければならないほどに苦戦してる。
「霹靂一閃!」
打ち上げたところに壱ノ型を使って切り込む。善逸をイメージして放った壱ノ型はまだ鬼殺隊ですらない善逸に遠く及ばぬ精度。こんな未完成で不完全な壱の型でも俺が使うどの型よりも早い。それがたまらなく悔しい。
「ははっざんねーん!そんな速度じゃ切れないなあ」
うるせえ、そんなことわかってんだよ。だけどお前が俺に首ったけじゃねえと他の奴等が巻き込まれ始めるだろうが。飛び上がって隙を晒す。そのタイミングで攻撃してくることは読めてたし、その隙に他の隊士が援護してくれてることも見えてた。
「やっぱお前如きじゃこんな程度だよなあ。」
「あんたよりは頑張ってるでしょ!」
二人がそれぞれの呼吸を使った攻撃で俺が空中にいる間の隙を補ってくれた。疲れで鈍る体を呼吸で賦活させ、悲鳴を上げる肺に鞭を打つ。
「雷の呼吸、肆ノ型、遠雷・二連」
右足と左足に一撃ずつ打ち込んで、ダメージは与えられない。攻撃を受け流すように血鬼術を発動させたから。でもしならせた足では地面に立っていられずバランスを崩す。
「うらぁっ!」
剣を使って鬼を地面に突き刺す。どこまで有効か分からないが人間であれば心臓がある部分を貫いて地面に縫い付けた。
「ハアッ!」
「そらよっと!」
援護してくれた二人もそれぞれに刀を鬼に突き刺す。それを見て獪岳は自分の剣を引き抜いた。
「ハッ!こんなのすぐに…」
鬼が脱出する。でもそれは致命的な隙だ。鬼は群れないから援護してくれるような奴は誰もいない。
「伍ノ型、熱界雷」
打ち上げる。それで任務は完了だ。
「だからそんなのきかな…うぎゃっ!」
一時間稼いだ。打ち上げれば山からこぼれだす朝日が直撃する。鬼は一瞬で塵になった。朝になって脅威が去ったことでようやく気を抜ける。座り込んであたりを見回せばいつの間に来たのか隠がわらわらと湧いていた。地べたに座り込んで胡坐をかいていると肩をたたかれる。
「報告では俺の援護が大きかったってちゃんと書いとけよ。」
息を切らせた様子もなく、前髪をそろえた隊士がそんな風に言って去っていった。
「あの人の言葉は気にしなくていいからね。安全に出世したいとか言ってろくに戦わないくせに言葉だけは一丁前なんだから。」
隠から治療を受けていると一足先に治療を終えた尾崎と名乗る隊士から声をかけられる。階級は庚で一応先輩で、既に去った隊員とは同期に当たるそうで彼も庚で先輩だったようだ。だからと言ってあいつに対しては対応を柔らかくする気などないしそもそも、仲間とどんな風に話していたのかなんてもう思い出せない。
「お前もさっきの奴も才能ないぜ。あんな鬼一人に二人も犠牲者を出してんだからよ。死なないうちにやめちまえ。」
だから結局こうして憎まれ口を叩くことでしかコミュニケーションを取れない。
「そうね。もう鬼殺隊に入って七年くらいたってるもの。きっとあなたの言う通りだわ。この仕事に私は向いてないのよ。」
七年前、俺が隊士になったのが半年前で、この人は俺よりも十倍以上も長い間、鬼殺隊にいることになる。
「私の時は最終選別に一人凄い人がいて、その人のおかげでたくさん生き残れちゃったの。」
だから隊員として分不相応なんだよね。そう悲しそうに笑う尾崎に俺は言葉をかけられなかった。才能がないと自覚しながらそれでも人を守り続けるために命を危険に晒す彼女の強さに言葉を失っていた。
「でもそのすごい人ね、結局最終選別を生き残れなかったの。だからその人の分まで頑張らないとって。他の助けられた同期もおんなじ風に思ったんじゃないかな。といってももう同期はほとんど残ってないんだけどね。まあそう言うことだからさ。」
だからやめない。そう言う彼女の顔はまぶしくて、俺には見てられなかった。俺には絶対にもてないような強さだから。
「まっ、心配してくれてありがと。君もそんな憎まれ口ばっかり叩いてないで、もっと仲間と仲良くするんだよ。あなたに必要なのは信頼できる仲間だよきっと。」
そう言って尾崎は去っていった。やがて治療が終わり、次の任務の場所が鎹烏から伝えられる。
*
さらにあれから一年が経とうという頃、善逸から手紙が定期的に来るようになった。ちょうど俺に一年遅れて鬼殺隊になった善逸は色変わりの刀が俺と同じ黄色になれたこと、何とか初任務をこなせたこと、俺に並べるように頑張りたいということなど今の俺の神経を逆なでするようなものばかり書いてあった。俺より才能に恵まれていて、俺より先生に愛されていて、なのに泣いてばかりで努力も俺には及ばない。ああ、善逸、本当にむかつくよ。でも一番むかつくのは俺より才能があるのに俺より弱い立場に甘んじていること。その才能が俺にあれば、今すぐにでも歴代最強の鳴柱にだってなれるのに。そんな才能をどうして腐らせてるんだ。なあ、お前は何で未だに壱ノ型以外使わないんだよ。
「おい!お前の弟弟子に殴られたぞ、どういう教育してんだよ、兄弟子なんだから面倒くらい見とけよ。まったくあの桑島って元柱は自分は強くても教えるのはからっきしらしいな。」
ぎりぎりと歯茎から血が出るほどに歯噛みする。先生は凄い人だ、教え方だって上手かったしもちろん礼儀だって教えてくれた。悪いのは手を出した善逸で先生じゃない。ああくそ、なんでそんな奴が先生の弟子になっちまってんだよ。なんでお前が、俺より才能があんだよ。
「上の階級の奴を殴ったって?問題起こすなよカスが」
善逸はわけもなく殴るような奴じゃあない。俺の弟弟子をやれてるんだ。そんなことは当然だ。きっと事情があったのだろう。でもそんなことを気にかけてやれるほど俺はお前に対して優しくなれない。お前にだけは絶対に気を遣ってやれない。
「お前みたいなのがいるのは本当に恥だぜ」
お前が嫌いだよ。善逸、本当に大嫌いだ。俺が得られなかったものを全部持ってる。お前が本当に羨ましい。なあ、何がいけなかった?俺はお前にどうやったらなれたんだ。
*
「カァ!隊士ガ既ニ、五名ヤラレテイル!応援ヲ待テ」
「うるせえよ。俺に指図すんな」
任務をこなして、鬼を殺して、階級を上げて、でも俺の努力なんて才能の前に敗北した。善逸が
「目が足りない、俺はまだ四つ。あいつは六つあるというのに、人間をもっと人間を喰う!」
武器を使う鬼は存在自体が珍しい。剣を使う鬼と会うのは初めてだった。だからと言って気にするほどのことでもない。こいつがやってるのは呼吸の真似事で、先生に教わった呼吸術とは程遠い。
肆ノ型、遠雷、陸ノ型、電轟雷轟、伍ノ型、熱界雷
接近し、切り刻んで打ち上げる。一撃で決められないから型をつなげるのばかり上手くなった。
肆ノ型、遠雷、弐ノ型、稲魂
再び跳躍をかねて遠雷を打ち、稲魂で止めを刺す。壱ノ型が使えれば、一撃で決まるのに、鬼を一匹殺すのに五撃用いた。そのことに舌打ちを打つ。
「これほどまでに…型を…上手くつなげる…剣士は…久しぶりに…見た。」
その声を聞いた瞬間体中の細胞が悲鳴を上げた。絶叫して泣き叫ぶほどの恐怖に支配されて動けなくなった。
「鬼でありながら…呼吸を身に付けたがる…鬼がいると…聞いてきたのだが…お前は…柱か?」
「かっ、階級をっ…示せ」
何とかそれだけ言って階級を手の甲に浮き上がらせる。浮き上がる文字は
「柱は…その手に使う呼吸が浮かぶ。四百年前と…変わっていなければ…だが。お前は…隊士にしては…強いな…」
遠雷・八連
わずかばかり恐怖をかき消してくれても大半は恐怖に支配されたまま、戦うなんて選択は一ミリも出てこなくて、敵との距離を詰めるための型で逃げ出した。
「型自体は凡庸…だが、八連か…もっとつなげられるか…それとも…さらに上があるのか」
「ッッ!」
んなもんねえよ。そんなことができるなら、俺はこんなことになってない。あいつみたいに神速に昇華できたなら、
「鬼に、鬼にしてください。そしてどうか、命だけは。」
ここにきて、必死に努力して結局そうだ。どうしようもなくなった時最後にするのは命乞い。俺はあの時幸せの箱に穴をあけた時から全く変わってない。全く強くなってない。
「ふむ…鬼となり…さらなる強さが欲しいか…」
でも一つだけ変わることがある。俺は、俺は…
「お前も…あの方に…認められれば…我らの…仲間と…なるだろう」
鬼になれれば才能が足される。もう口だけじゃない、事実として俺は善逸の上になれる。
「有り難き血だ…一滴たりとて零すこと罷り成らぬ…」
俺は善逸よりも優れた、特別になれる。愚図はお前になるんだ、善逸。
「零した時には……お前の首と胴は泣き別れだ」
さよならだ先生、俺はもうお前のような耄碌した爺の特別にはならない。俺はこっちで特別になるんだからな。
震える両手で血を飲み下す。その震えは目の前の鬼への恐怖か、それとも恩師や弟弟子を裏切ることへの拒絶感か、それはもう誰にも分からない。
善逸が六連とかしだしたのは獪岳の真似だったりしたら嬉しいなって思ったり、獪岳も才能にあふれてるのに、善逸だけが才能にまみれてると勘違いしてたらいいなあと考えたり、善逸は弐ノ型以降もすぐ習得できると獪岳が思ってたりしてたらいいなあと書きなぐる。そんな話でした。幸せの箱の穴をふさぐために特別になりたがってたのに、鬼になる時に思うことが特別になれるで手段が目的になってる感。