12月の午前5時。
夏には明るい時間だが、今日の夜はまだ暗黒に満ちていた。
これから朝のニュース番組が始まるであろうその瞬間に、テレビの画面が一瞬のノイズの後に、スマートフォンで撮影したような映像に切り替わる。
画面の目の前には、何も無い暗い部屋の中に、1つのオレンジの照明に照らされる少年が立っていた。
少年は息をふっと吸い上げた後、淀みなく言葉を喋る。
「みなさんこんにちは、いや、今は朝ですから、おはよう。ですね」
少年は手を広げて満面の笑みで次の言葉を口にする。
「突然ですが、これからは僕はこの国を破壊します。」
そう語ると、髪が目に隠れている少年は自分の前髪を頭の動きでクイ。と目が見えるように調整し、その続きを喋る。
「僕はありとあらゆる金融システムに関する施設に爆弾を仕掛けたのです。金融が終われば国家も終わるのは常識です」
「それもこれも、あのお姉さんがやってくれた事です」
そういうと彼は左を見る。
カメラには映らないが、その左にはサングラスをかけたスーツに身を包んだ女性がいた。
ブロンドでロングヘアーの、セクシーな。スパイ映画のヒロインのような美しい女性。
少年が女の方を向くと、女はにっこりと微笑みを浮かべる。
「彼女、僕に尽くしてくれて。服とかも僕にいっぱい買ってくれたんです。それにこのシルバーのチョーカー。すごいかっこいいでしょ。えへへ・・・」
そう語る少年は、淀みない言葉を放った時の大人びた感覚より幼い印象を受けた。
見た目は19歳程に見えるが、そう語る時の彼は14歳の中学生のような質感だった。
「それで、日本を壊そうと思う理由なんですけど、日本が沈没船だって事にみんなに気づいて欲しいからなんです」
「だってそうでしょ?年金問題も少子高齢化も、明らかに”誰か”がなんとかしなきゃいけない時限爆弾なんです。なのに政治家の人たちはどうですか?50年後の事を彼らが考えてますか?」
「考えてないでしょう?あの人達は自分の死後の日本なんて知ったこっちゃないと本気で思ってる。そういう人達が国を動かしてるのが日本という国なんです」
「だから沈没船である日本に、一石を投じる。というワケなんです」
彼は学校で文化祭のプレゼンをするかのように手を動かしながら喜々として語っていた。
それから彼は、棒状の先端に赤いボタンが付いているモノを手に取る。
「それじゃあみなさん。さようなら。これから世界は、僕の手によって変わっていくのです!」
そういって彼は恍惚とした万能感に満たされたスマイルで、顔を上を向けてボタンを押した。
その瞬間、首に付けていたチョーカーから古い携帯電話の呼び出しのような電子音が一瞬鳴った後、小さな小さな爆発が起きた。
刹那。飛び散る鮮血。
爆発は爆竹のような非常に小さいモノであったが、彼の致命傷となるにはあまりにも十分すぎた。
起きている事のあまりの意味不明さに呆然としながら、少年は受け身も取れず、マネキンが倒れるように自分の体を床に叩きつけた。
かすかに出せる口を動かして、横にいるブロンドの女を見つめ「どうして・・・?」とつぶやく。
「それは貴方がボーヤだからよ」
タバコに火を付けながら、ウイスキーをグラスで飲み干すと、彼女は少年の目を見ながらニヤニヤとした声色で言葉を続ける。
「社会を憎んで、正義で万能感に満たされて、暴力で革命を起こそうとする。貴方みたいな典型的なヒーロー気取りのボーヤって、日本にはいっぱいいるの。」
「さしづけ正義依存症って所ね。救いどころゼロ。それに最近ヒマだったから。君と付き合えて楽しかったわ。」
「そもそも、出会ったばかりのオトナを根拠もなしに信じた時点で貴方の負け。大人はずるいって早めに気づけばこうはならなかったのよ」
「そうそう。それとこれはテレビ放映なんてされてないから。テレビ放映されているって話の正面のモニターは完全なフェイクよ」
自分が完全に他人に掌握されていたと理解した少年は、血と涙で出来た透明と赤のカクテルの中で、意識が遠くなっていくのを感じた。
あぁ。退屈。
まるでライブの会場でアーティストの生演奏に体が痺れるほど感動しても、家路に付く時に押し寄せる虚無感のような。そんな退屈感。
「今回のボーヤはまぁまぁだったわね。まぁいいわ。次なんていくらでも見つかるから」
そう言うと女は、吸っていたタバコを少年だったものへと投げ、部屋の外に消えていった。
じゅ。という火の消える音とコツコツというハイヒールの音。そして最後に重い扉の閉まる音を最後に、その場所には永遠の静寂が訪れた。
「今日の気温は12度です。本当に寒いですね~。でも日の光はとっても温かいです。昼には洗濯日和となる1日でしょう。それでは本日のスポーツのコーナーです。足立アナ。どうぞ!」
テレビでは熱愛報道や野球の見どころが映っていた。
今日も明日もあさっても。日本は、平和な1日を迎える事だろう。