カルデアに探索者が召喚されました   作:POTROT

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対人最強技『【言いくるめ】ロール』

「あら? そちらのは……お人形さんかしら?」

 

 目の前で幼女が見た目相応な、可愛らしい仕草で首を傾げている。

 物凄い勢いで可愛いと思うのだが、正直今の俺に見惚れている暇など一切無い。

 

 いや、冗談だろ? ヨグさんって実在するの? 

 ってか今サラッと言ったが俺【クトゥルフ神話不感症】なの? 

 今までの6年ちょっとで一回も見たことないぞ【クトゥルフ神話不感症】にかかったキャラ。

 

 しかしこの子が可愛い。

 なんか……なんかこう……猫的なオーラっていうか?

 そんな感じになるの………かな?

 

 いや、違うって。ソレどころじゃないって。

 今問題なのはこの美少女が『ヨグ=ソトースそのもの』或いは『ヨグ=ソトースに近しい存在』であるということであって、そんな可愛さ云々なんて別にどうでもよ……くはないが、優先順位の低いことに思考リソースを割くワケにはいかない。

 まぁ、とりあえずさっき上げた二つの現状への仮説が正しかったとすれば、どちらにせよ俺は『詰み』だ。それ以外の何でも無い。

 

 ヨグ=ソトースはラヴクラフトの設定通りならば『時空そのもの』で、俺がいるこの場所もヨグ=ソトースの一部だということ。

 つまるところ俺はヨグ=ソトースを知覚した時点で、向こうにも俺が知覚したことを知覚されている。

「深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という言葉があるが、その言葉が最も適当な状況だろう。

 確かこの言葉を提唱したのは……フリードリヒだったか?実に的確に真理を捉えていると言える。

 

 が、しかし、だ。

 実はこの状況、まだ希望が見え隠れしたりしている。

 理由としては『ヨグ=ソトースが勘違いしている可能性』と『この少女が割と無知な可能性』の2点が挙げられる。

 

 まずヨグ=ソトース云々について説明するが、これは俺が今発狂していないという事に起因する。

 クトゥルフ神話TRPGにおいて神話生物、とりわけヨグ=ソトース含む『外なる神々』を知覚した際、強制的に起こるSAN、つまるところ正気度の減少。

 ヨグ=ソトースのその値は1d100、つまり『100面ダイスか、10面ダイスor乱数賽を二つ振った値』を減らすということだ。

 クトゥルフ神話TRPGにおける発狂はこれが5以上になって、尚且つ【アイデア】に成功すると起こるデバフであり、まぁアイデアの値が低ければ助かる可能性もあるが、SANの5分の1以上が削られた場合も発狂状態に陥るので、1d100ならばほぼ確実に起こるだろう。

 

 で、狂気を発症してしまったキャラは一定の指標を持った『発狂ロール』を行わなくてはならない。

 現実においては恐らくランダムになっているのだろうが、発狂は共通してこの『発狂ロール』のせいでどれも超わかりやすい。

 どれくらいかというと小学校の体育の授業の時、紅白帽を忘れた子くらいわかりやすい。

 

 分かりやすい例を挙げるのならばまず「金切り声」。あまりの恐怖に叫んでしまう。他だと「ヒステリー」や「恐慌」などなど……まぁ結構種類はあるんだがどれも見れば一目瞭然だ。

 

 で、そんな発狂を俺は今現在、発症していない。

【クトゥルフ神話不感症】は本来、神話生物遭遇時のSAN減少を抑えるものだが、俺がその辺弄って0になるようにした……んだと思う。

 まぁ、偶然以外の何でもないんだけどね? 

 だがしかし、だ。これはヨグさんにとっても異常なはず。TRPGの世界であったのならばワンチャン発狂しない可能性もあるが、この世界は現実。知覚したら確実に発狂するだろう。なので発狂していない俺に、もしかしたら「アイツそもそも俺に気づいてないんじゃないの?」と錯覚してくれているかもしれない。

 

 で、次の理由についてだが、この美少女、GM(ゲームマスター)の台詞にそこまで反応していなかった。

 彼女がどんな存在であれ、ヨグ=ソトースが『全にして〜』とか、『次元の〜』とか、そう呼ばれていることを知らない可能性がある。

 だが、ヨグ=ソトースがそんなことを知らないわけがない。だからこの少女にこんな仮説を立てることができる。

『この少女はヨグ=ソトースの感覚器官、もしくは化身に過ぎない存在であり、更にヨグ=ソトースとそこまで強い繋がりはない』と。

 

 もし彼女が本人ならば俺は即座に消されていただろうし。

 ヨグさんはニャルさんと違って絶対に殺しにくる。というかニャルさんが異常なだけなんだが。

 あとGMがヨグさんの本名を呼んでいなくてよかった。呼んでいたなら今頃俺は肉塊かそれ以下になってただろう。まともに死ねるかどうかすら怪しい。

 

 まぁ兎に角、だ。これら以上の2点から導き出せる結論は「ヨグさん、そもそも俺を気にかけていない説」。

 だって外なる神々だし。人間をその辺の蟻くらいにしか認識してない存在たちだし。

 こっちが深淵を覗いても深淵の方はこっちに無関心でいてくれてるかもしれない。

 フリードリヒは間違っていると証明するのだ。

 

 これが正しいのならば俺はまだ生き延びる事が出来る。

 そのためにまず行うべきことは……これだ。

 

「あの、大丈夫かしら?」

「あ、はい。大丈夫ですよ。……【言いくるめ】……で、えー……コイツはペットみたいなものです。所謂AIB────ああ、すいません、わかりませんか」

 

 どうだ? 英霊っていうのはつまり『過去の偉人』なのだから、『現代』を押し出せば多分いける……はず。

 え? 大丈夫だよね? この子現代人じゃないよね? 

 頼む……頼むぞ【言いくるめ】先輩……! 

 幾度となく俺を助けてくれた君を俺は信じる!! 

 

『+補正20。73+20≧83……成功』

「あら、大丈夫よ。私たちはある程度の知識なら召喚の時に授けられるから……つまりその子は現代のペット、で大丈夫なのかしら?」

「はい。大丈夫ですよ。すみません。あまりにも急に環境が変わったものですから、どうにもストレス溜まっちゃったみたいでして……」

「気にしないで。イリヤちゃんも最初は同じ感じだった様だし」

 

 OK!! 突破ァ!! 

 +補正ナイスすぎだろマジで! ペットってことにしてよかったぁ! 

 

 ってかまた出てきたな。本当に誰なんだイリヤちゃん。

 俺と同じ境遇みたいだし、なるべく早くその子に遭遇できたらいいな。

 

<オ~イ! イチクリサーン!! 

 

「あ、呼ばれたみたいなので俺は行きますね」

 

 よし、ナイスタイミングだ立香ちゃん。

 これで違和感なくフェードアウトできる。

 グッバイ美少女ちゃん。また会いたいけど会いたくないので、付かず離れずの距離でいてくれると助かる。

 

「同じマスターを持つもの同士、仲良くしましょうね。……あ、伝え忘れてたわね。私の真名はアビゲイル・ウィリアムズよ」

「あ、そうだったんですか……では」

 

 おおう、アビゲイル・ウィリアムズか……また有名な……

 アレ? アビゲイルってあの……なんか、アメリカの魔女裁判で暴れた子だろ? 

 ヨグさんとの接点なんてカスほどにもないと思うんだけど……アレ? 

 

「【知識】【アイデア】」

『【知識】90/3≧53……失敗 【アイデア】自動失敗です』

 

 割る3って……全然知らないってことか、俺。

 ってかそれよりコッチに来てからことごとく無力だな【アイデア】先輩。

 しかもこの人普段は当たんないくせに発狂する時だけ妙に当たるんだよなぁ……

 でも無いとたまに詰む。

 面倒くさい技能だよ本当に。

 

 

 さて、まずは立香ちゃんのところに行くか────

 

 

 

 

 □□□□

 

 

 

 

 

 かの存在は見ていた。

 次元の狭間に住まうソレは、自らの触覚に感じたその矮小なる微生物ただ一匹に対し、その大いなる虹の瞳を幾つも向けていた。

 

 それは純粋なる興味故であった。

 だが、その興味も当然の事だろう。……まぁ、かの者こそが世界である為に、かの者がそうであるとすれば何もかもが当然であるのだが。

 

 兎に角、かの存在は興味を持った。

 何故なら、かの塵芥の一粒は自らの一端を知覚しながら不遜にもその命を絶たず、こともあろうに正気を保っているのだから。

 

 可笑しい。

 普通ならば自らに一片たりとも拝謁出来た事に狂喜し、その魂を献上するか、或いはあまりの喜び故に狂うかの二択の筈なのだ。

 

 そんな一瞬の思考が、偉大なる存在はその微生物に興味を持たせた。

 ただ、興味といえど浅い、浅い、紙一枚に満たない程度の深さのものでしかなかったのだが。

 が、それでもかの全能者。森羅万象一切合切世界に遍く全て知識を持ち、虚無やら虚空やらと言った表現が適当な文字通り自分以外の何も無い、暇で暇で堪らないような空間に閉じ込められているその存在にとっては丁度いい暇つぶしに他ならない。

 

 故にその存在は多少、いや砂粒一つ程度の期待を持った。この退屈に刺激を与えて欲しい、と。

 故にその傲岸不遜で厚顔無恥な圧倒的弱者の行く末を見届けてみることとした。

 

 視線の先にいる微生物がブルリとその体を大きく震わせたのは、余りにも大き過ぎる歓喜故だろう。

 全にして一、一にして全たる窮極の神の視線を一筋たりともその身に釘付ける権利を下賜されたというのは、矮小なる存在にとって至上の喜び以外の何物でもありはしないというのに、それが幾つもだ。

 そのくらいは仕方があるまい。と、かの神は尊大にも嗤った。

 

 

 

 □□□□

 

 

「……なんか寒気が」

「あ、大丈夫? 先に医務室行く?」

「いや、大丈夫大丈夫。……大丈夫なはず」

 

 






 主人公 は ヨグ=ソトース に魅入られて しまった!





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