あるところに、とある1匹のシジュウカラがいました。
雪のように白いほっぺに、ぴんと伸びた黒いネクタイをしたおしゃべり好きな小鳥です。
彼女は人間の生活にあこがれていました。
すてきな絵。すてきな言葉。すてきな生活。すてきな仲間。
住んでいる森から少し離れた、とある街にはその全てがありました。
だから彼女は毎日、街までえんやこらと出かけては人間達の生活をながめて羨ましそうにしていました。
特に気に入ってるのは人間達が書く絵でした。
画家が描いた美しい油絵。お店に掲げられた目を惹く看板。TVに映る色とりどりのイメージ。
そのどれもが彼女にとって新鮮で、見てるだけでわくわくしたものでした。
「私も人間になったら、あんなに素敵な絵が描けるのかな?」
あこがれのあまり人間になりたいと願った彼女は、その方法を考え始めました。
他の動物に聞いたり、枝で人間になった自分を描いたり、はてはまん丸なお月様に願ってみたり。
熱心に考え、行動したおかげでしょうか。不思議なこともあるもので、気が付けば彼女は人間になれていました。
「やったぁ! 私も人間になれたんだ!」
池に写った自分の姿を見て彼女は大喜びです。
これで色んな絵が描ける! みんなとお喋りしながらたっぷりと!
こおどりするシジュウカラの喜びの歌は、森中に高く高く響き渡りました。
§ § §
またあるところに、とある1匹のモモンガがいました。
白くてさらさらした毛並に、くりくりとした目が可愛らしい、ちょっとだけ空を飛ぶのが苦手なねずみです。
彼女は人間の生活にあこがれていました。
すてきな料理。すてきな洋服。すてきな生活。すてきな仲間。
住んでいる森から少し離れた、とある街にはその全てがありました。
だから彼女は毎日、街までえんやこらと出かけては人間達の生活をながめて羨ましそうにしていました。
彼女が特に気に入ってるのは人間達が作る料理でした。
街に近づくだけで香ってくる美味しそうな匂い。どんなものを作ってるのか興味を引き立てる調理の音。見るだけでお腹が空いてくる、様々な品々……。
そのどれもが彼女にとって新鮮で、近くにいるだけでわくわくしたものでした。
「私も人間になったら、あんなに素敵な料理が作れるのかな?」
あこがれを抱いて過ごしていたある日、彼女は高らかに歌うシジュウカラに気が付きます。
毎日ああでもないこうでもないと誰にでも聞こえる呟きをこぼしていた彼女が、人間になった瞬間を見てしまいました!
すごい! どうやったんだろう? モモンガは慌てて彼女の元へと近づこうとし……地面に不時着してしまいます。
「大丈夫?」
気付いたシジュウカラが声をかけます。
「ねえ、どうやって人間になれたの!?」
落っこちた事も忘れて問いかけたねずみに小鳥はきょとんとして、すぐにケラケラと笑いました。
「あなたも人間になりたかったんだね」
手のひらに乗せた彼女のために、シジュウカラは地面に絵を描いてあげました。
すると、モモンガもまた人間になれたのです。
「やったぁ! 私も人間になれたんだ!」
池に写った自分の姿を見て彼女は大喜びです。
これで色んな料理が作れる! みんなとお喋りしながらたっぷりと!
シジュウカラの手を取って、モモンガは踊り出しました。
二人の楽しそうな喜びの声は、森中に広く広く響き渡りました。
§ § §
人間になったら何をしたい?
二人はさっそく話し合いました。
「私は絵を描いてみたいんだ!」
「私は料理をしてみたい!」
……お互いにしたい事は決まっていましたが、考えてみるとあれやこれやとやりたいことがどんどん浮かんできます。
なので、とりあえず実物を見てみよう、という話になりました。
二人はうきうきした気持ちを抑えきれずに街へと繰り出します。
「ねずみさんや、キミのお耳が出てるよ」
「うん」
「うんじゃなくて。私達が動物だってバレちゃだめなんだよ!」
「でも鳥さんも尻尾出てるよ?」
「ウソ!」
ただし気を引き締めないと、すぐに元に戻ってしまうので注意が必要でした。
けれども、二人の心はウキウキです。
いつもは飛んで向かっていた場所に歩いていくのも新鮮で。
いつも訪れていた場所を、他ならぬ人間として行くのも新鮮で。
きっとステキなことが起こるだろうと予感していました。
そして……いざ街を人間になって歩いてみるとどうでしょう。
予想以上に何もかもが輝いて見えたのです!
「ねえねえ見てみて! パン屋さんだよ! 美味しそう!」
「キミは毎日街で見てたんじゃないの?」
「そうだよ! でも誰かと一緒にいるからもっと美味しそうにみえるの!」
モモンガはパン屋に夢中です。
かぐわしいバターの香り。様々な形の焼きたてパン。
ソレらを間近で見て、そして試食してみて大興奮です!
一方でシジュウカラは弾みで飛び出した彼女の耳と尻尾を隠すのに大変でした。
「ねえねえ見てみて! 看板だよ! キレイだね!」
「キミは毎日街で見てたんじゃないの?」
「そうだよ! でも誰かと一緒にいるからもっとキレイにみえるの!」
シジュウカラは看板のデザインや、絵画に夢中です。
森にはない見たことのない色使い、表現。景色。
ソレらを間近でながめ、どんな意味があるのかを人に聞いて大興奮です!
一方でモモンガは興奮のあまり、彼女が弾みで産んだ卵をどうしたものかと悩みました。
夢中になって街を巡れば、あっという間に日は暮れてしまいます。
森に戻ってもまだまだワクワクは抜けきれません。
二人してベッドに寝転がったっていうのに、あれもしたい、これもしたいと想像がふくらんで眠る暇もありませんでした。
「風景……看板……人間……も~なんでも描きたいっ! それで色んな人に絵を見て欲しいな~」
「ケーキも、シチューも、パイも……色んな料理を作りたい! それで色んな人に食べて欲しい~」
シジュウカラは羽をペンに見立てて空に絵を描き続け、モモンガは尻尾をパン生地に見立ててこね続けます。二人がそれぞれの呟きに気が付けば、同時に声をあげていました。
「それなら私が一番最初に絵を見てあげる!」
「それなら私が一番最初に味見してあげる!」
そして、二人は同時に笑いだしました。
「ありがとう、じゃあお礼にキミの絵を最初に描いてあげる」
「えへへ。なら私はアナタが食べたい料理を作ってあげるね」
毛布をかぶって、くすくすと笑い合いながら語り続けます。
「ねえ、カフェもいいと思わない?」
「カフェ?」
「カフェだったらさ。色んな人に出会えるよね。それに私の絵も色んな人に見てもらえるかも」
「なるほど」
「看板とかもなんだったら自作したり、お茶を呑みながら見てもらったり!」
「だったら、私はパン屋さんにしようかな。焼き立てのパンを焼いてあげる。そしたらお茶を一緒に楽しめそうだよね」
「それいいねぇ!」
「いいでしょ~」
二人の夢はすくすくと成長していきます。
それは、とある小さな森にある、小さなカフェとパン屋さん。
おしゃべり好きな店長と、マイペースなシェフの二人で切り盛りする素敵なお店。
「「Welcome to bilingual Teatime!!」」
カフェ? ケーキ? 勿論ございます。
ですが、オススメは二人とのトークになります。
とっておきの料理に舌鼓を打ちながら、まったりと過ごしていきませんか?
店長自慢の絵も見れるし、気分で歌や音楽もおひろめしちゃいます。
毎日どたばた騒がしい。だけど気付けばまったりと落ち着いてる。
足を運んだら、もう一度訪れてるような、そんな不思議な場所です。
――二人とお茶とお客さんがつなぐ縁。
――そんなお茶縁な場所が、開ければいいな。
それこそパンをこねるように、そして絵を描くように、二人はふくらんだ夢を形にしていくのでした。
「……ねぇ。せっかくだし名前が欲しいよね」
「……うん?」
「たとえば、私は黄子とかどう?」
「……こっこ? にわとりみたい」
「こうこね。黄色が好きだから、黄子なの」
「ふーん……」
「モモンガさんはどういう名前がいいの?」
「うーん……パン?」
「パンが好きなのは知ってるけど……」
「パンセポンセ……」
「……何それ?」
「パンナコッタ……」
「パンから離れられないんだね……じゃあパンナは?」
「パンナ……うん。それはいいかも……」
そして尻尾を抱き枕がわりに眠ってしまったモモンガを見て、シジュウカラもまた眠りにつきました。
――夢を夢のままで終わらせない。
二人でなら、もっと面白い世界が待っていると信じながら。
「よーし、じゃあカフェを作るぞー! パンナ! 頑張ろうね?」
「……パンナって誰のこと?」
「キミの名前だよ!?」
「……あぁ!」