それとは別に大変、過大な評価ありがとうございます。
え、ヒロインがコンビニ行く程度の頻度で死ぬのになんで評価されているんですかね?
“合流を優先する”
聞くべき事は聞けた。もうこれで彼は立ち去ってしまう。別れの時だ。
これからサードリコリスの人たちと合流して情報共有を行わなくてはならない。
ああ、でも聞きたいことはまだまだあった。
それがどうしてか心残りだ。
爆弾事件の情報は得た、もう彼とこうして会話を続ける必要性はない。背後に去っていく少年。立ち尽くす私。互いの立ち位置は最初からこうだった。重なり合ったことが異例だっただけ、だから別れることの方が自然のはず。
井ノ上たきなと七夜黄理は別々の道を行く。
この路地裏の邂逅は、きっと望外の幸運によるものだったのだろう。
彼と出会い、ただのサードリコリスでは知ることのない情報を手に入れることが出来た。予知爆弾事件の情報が役に立つかは司令部の人に相談しないといけないが単独行動の失点が響くだろう、いいや黄理くんの話では東京支部から京都支部の方へ話が通るらしい。
そう考えると自分の待遇はそう極端に悪くなりそうにはなかった。
でも自分の待遇のことも今はどうでもいいと感じてしまう。
もう、あの不思議と大人びた彼と会うことはない。そんな空虚な実感だけが私の思考を埋めていく。路地裏の影が色濃く延びる、ここにいたら私も闇に溶け落ちていきそうだ。陰気な場所からはいち早く撤退するべきだろう。
でも、その前にせめて、最後に。
別れの言葉くらいは言おうと振り返る。
「黄理くん、さよな──」
振り返った先には誰もいない。最初から暗い路地裏には底なしの闇しかなかったように。
彼の姿は都市の真っ暗なところへ消えていった。
誰の目に止まることもなく、路地裏の会合は気づくとなし崩し的に終わっていた。
彼のいなくなった路地裏は、ひどく
誰もいなくなってしまった路地裏に用はない。闇の深まった路地裏とは反対の日差しが照らす大通りへ歩き出す。明るい町並みの見える大通りへ、もう振り返ることはない。そして、彼と出会うこともきっと……もう二度とないのだから。
戻ろう、リコリスとして過ごすべき場所へ。
そう、心に決めて路地裏から一歩、足を踏み出して表の通りへ出て──。
ドォン、水っぽい何かと金属質な物体の衝突音が近くで聞こえた。
何の前触れもない衝撃が全身を襲う。全身をねじられて、その後で薄く引き延ばされたような感触。おかしい、足下の感覚がない、下の方を見ると私は宙を浮いている。次の瞬間、地面を見ていたはずなのに、私は“青空を見下ろしていた”。
上下の視界がおかしい。
それに全身が痛い、いたくてたまらない。
あまりの痛みに叫び声が出そうになったが、“降ってきた地面”に全身をもう一度叩かれて、悲鳴がナニカの破砕音に巻き込まれ消えた。先ほどまでいた路地裏の出口の方を見据えると、そこには大きなバンがブレーキ痕と共に止まっていた。私はあれと接触したらしい。
辺りが赤い、夕焼けの太陽に照らされたみたいに辺りは真っ赤に輝いている。
違う、赤く輝いて見えるのは血が太陽の光を反射している所為だ。
衝突してきた車の中から大勢の男たちが現れる。
その手には銃火器が握られ、平和な日本に相応しくない容貌をした者たちの姿が。緑色の髪をしたサングラスの男が私を見下ろす。冷酷で無機質、昆虫のような感情を排した眼光。全身が灼熱の痛みに晒されているのに、あの目に見られただけで悪寒がする。
「おい、これがDAのエージェントだって?まだガキじゃねぇか」
「油断するなよ真島、そいつの背負ってる鞄、中には拳銃が入ってるって話だ。ってか、ターゲットは男だろ、なんだって女のエージェントが?」
「知るか、ボマーの旦那お得意の未来予知が外れでもしたんじゃねぇか?」
「そりゃいい、あのしみったれたツラに皮肉たっぷりの野次を飛ばしてやろうぜ」
ボマー、ああ、この男たちが爆弾事件の実行犯か。まずい、体が動かないときに犯人たちと遭遇するなんて。今の状況では犯人を処理できない、はやくこの場を離れて体勢を立て直さないと。
急がないと、急げいそげ急げ。
脚に力を入れようとして、脳髄が痛覚に焼かれ沸騰する。白く、あまり日焼けしていない脚は見たこともない角度にねじ曲がり、どう見ても歩行に適した形状では無くなっている。でも、腕はどうにか両方ともに、まだ動く。
なら、まだ間に合うはずだ。
かくれないと。
どこへ。
大通りには人気が無く、隠れるための障害物はない。
そうだ、路地裏に隠れよう。
あそこなら……この開けた場所より隠れられそうなところがいくつかあるはず。
地面を這いつくばって路地裏の方へ戻る。
だいじょうぶ、私はまだ助かるはずだ。
脚が動かなくても、腕はまだ動かせるのだから。
どうにか動く腕だけで地面を這って路地裏に行こうとすると、目の前の道を塞ぐように緑髪の男が立っている。
「わりぃな、嬢ちゃん。こっからは行き止まりだ。ついでにお前の道行きもな?」
男はサングラスをしているのにも関わらず、正確に私の脳天に銃口を押し当てる。
これで、終わりなのだ。そう感じて、私は目を閉じる。
バンッ。
最期の瞬間、私の頭にあったのは、死の恐怖でも、命を奪う発砲の音でも、リコリスの使命でもなかった。
闇に消えゆくあの不思議な少年の後ろ姿の思い出だけが私の最期に寄り添っていた。
END
『教えて!喫茶リコリコ』
喫茶リコリコの扉が開く。来店を告げるベルの音は軽やかに来客を歓迎していた。中に入ると、そこには青の和風給仕服に身を包んだ表情の乏しい黒髪ロングの少女が佇んでいる。
「いらっしゃいませ、喫茶リコリコへようこそ。今日も今日とて、バッドエンドの被害に遭われた方を助けるQ&Aコーナー、“教えて!喫茶リコリコ”のお時間です」
「朝の報道番組のキャスターか、というかたきな、バッドエンドになったばかりなのに切り替え早すぎないか」
リスの着ぐるみをきた少女、ウォールナットが何か言っているが、たきなはそれに触れずにレジの操作を始めた。
「別に本編の選択が終わってしまったことですし、ここで騒いでもどうにもならないじゃないですか。大体、Q&Aコーナーと言っても事後の対応がメインで事前に助けにならない以上、お助けコーナーというのは誇大広告なのでは?」
「そこに触れるな、みんな分かっちゃいるけど触れてこなかったタブーだぞ」
「はぁ、そういうものですか?」
どこか、気もそぞろなたきなはレジの操作をしながら、今回のエンディングについて解説を始める。
「今回、第二章の予知爆弾魔事件におかれまして、二度目となるバッドエンドです。一回目と同様、ある程度は事前にバッドエンドを回避するための判断材料があったので、物語の展開的にも回避は簡単だった選択肢ではないでしょうか」
言外になんでこの選択肢を選んだと言わんばかりにたきなはレジの操作の片手間に、バッドエンドについて話している。
「あちゃ~、たきなさんってば、すごい機嫌悪そうだぁ」
カウンター奥、リスの正面にはたきなと対称的な赤い和服給仕の少女、錦木千束がカップを拭いている。千束の呑気な言葉に思わずたきなも反論をせざるを得ない。
「別に理由もなく不機嫌なわけではありません。路地裏を出ていきなり車にはね飛ばされたんです。不機嫌にならない人間なんていないでしょ」
「ちょっと待った。その状況下だと、不機嫌どころか命そのものがないと思うんだが?というかサラッと流したが、たきな頑丈すぎだろターミネーターかお前は。なんだって車の正面衝突で息があるんだよ?」
ウォールナットの常識的なツッコミに千束とたきなは首を傾げる。
「え~、ちゃんと衝撃を殺せば、乗用車くらいなら無事に済むって。乙女は砂糖にスパイス、素敵なものでできているって言ってもそこまで柔じゃないんだゾ☆」
「別に男性だろうと、女性だろうと人体を構成している成分は変わらないと思いますが。……そもそも、きちんと受け身を取ればダンプカーやタンクローリーと正面衝突しない限り即死なんて事はありませんよ」
「知ってるか二人とも?普通の女の子は受け身なんて取れないんだよ。まぁ、そこはいい。とりあえずバッドエンドの話だ。今回のエンドって事前に予想できるものって何かあったか?ひたすら、長い説明だけされて宇宙ネコになりそうだったぞ」
「物語の展開に必要な会話ですよ、ちゃんと聞いておいてください。いいですか、今回の黄理くんの会話ではところどころ、場所を変えようという提案がされていました。これがどういうことか、わかりますか?」
「もっとムードのあるところに行きたかったとか?さすがに路地裏じゃ、どう甘いトークしても意識がそっち方向に舵切れないって」
「あんな長話するんだ、誰だって路地裏じゃなくて喫茶店にでも行きたいって思うだろ。もっと日当たりよくて電波のいい場所に行こうとしない方がおかしい」
「そうじゃありません。そもそも、京都に到着した彼は駅で早速、爆弾魔の襲撃を受けています。それを回避しても、爆弾魔はしつこく彼を追ってくる。また追いかけてくるのは爆弾魔の手先である真島たち傭兵集団、それにアラン機関の武装した構成員までが襲撃してくるでしょう。あの場にとどまり長居していたことで、敵に追いつかれたことが今回のバッドエンドの主な原因ですね。あとインカムの調子が悪いのも伏線の一環でした」
たきなはふところから、DAの支給品であるインカムをそっと取り出した。
「いくら、距離が離れているといってもDAで正式採用されている支給品です。あんなノイズを出し続けるなんてありえませんよ。これは相手の電波妨害により、通信阻害をされていたことの証明でもあります」
たきなの説明が終わると店のテレビの電源が唐突に点いた。
テレビ画面の中ではデフォルメされた真島たちが悪そうな顔で路地裏に入っていく映像が流される。
「ん?そういや、この後ってどうなるんだ?真島たちが路地裏入っていったけど、これもしかして黄理もまずいんじゃないか?」
「あ~いやぁ、その心配はないよ。どう転んでも黄理がただの傭兵数人に苦戦するなんてありえないだろぉし。場所が有利すぎるからね。……黄理と暗がりの閉所、何も起きないはずはなく!」
「何言ってるんですか、千束は。──でも、そうですね。この後についてですが、真島たちは黄理くんを追跡していくと確実に殲滅されるでしょう。それも無惨に、圧倒的なまでに。これは私のバッドエンドルートであると同時に真島のバッドエンドでもあるのです」
画面の中の真島たちが、あっという間に真っ赤に染まる。暗がりには暗黒の冷気を纏う最強の暗殺者の影がほんの僅か映り込んでいた。漆黒に染まった蒼の眼光は、無慈悲に許しを請う襲撃者たちを丁寧に一人ずつ解体していく。最後に取り残された真島は、蒼の眼光に睨み付けられ、怯え絶叫しながら銃を構えたと同時に二秒未満で八等分に小分けされた。
どう足掻いてもゴア描写に引っかかる映像である。
「いや怖い怖い。え、ってか此処で真島が死んだら電波塔事件が無くなるだろ?そうなると、リコリコはどうなるんだ?ウォールナット事件のとき、逃げ込む場所ないとボク死ぬだろ?」
「あぁ、このルートだと電波塔事件がないからリコリコは開店してないね。ちゅーか、たきなが私と出会うことがないしリコリス・リコイルがはじまっとらんやん!?どーすんの、これ?」
慌ててその場で台本を開き出す千束とウォールナットを横目に、たきなは不敵な笑みを零す。それは憧れの少年によく似て年齢にそぐわない色気と大人っぽさを滲ませていた。
「まぁ、バッドエンドですから当然、大団円とはいきません。急ぎ、事前の二択に戻って、爆弾事件を無事に解決してください。さもないと物語がここで終わってしまいますから。それはみんな困るでしょう?」
Bad End Title
運命の