Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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推奨BGM リコリス・リコイルより“反撃開始”。空の境界より“M12+13”
スプリガンより“Seeking the Truth feat.YAHZARAH”


Dog fight

 

 

 

“銃で車を射撃する”

 

 

 

 

 迫る無人車、まず間違いなく爆弾内蔵の走る時限爆弾だ。もし、あの立体駐車場から見ているとすれば、起爆タイミングは目視によるもの。車と人間の追いかけっこなんて勝ち目のない無駄に付き合うことはない。

 

 

 打開策はたった一つ。

 

 銃で車を射撃するほか無い。

 

 手持ちの銃火器は拳銃に予備弾倉、スモークグレネード。

 

 市街戦を想定するリコリスに、大がかりな威力の武装は許可されていない。

 

 手持ちは片手で納まるサイズのちっぽけな火力だけ。

それでも車を全壊させる必要はない。無人車を完全に停止させる必要はなく、少しだけずらして行動不能にすればいいだけ。

 

 振り返り立ち止まった私は拳銃を両手でしっかりと構えて車を狙う。

 

「立ち止まるな!止まれば爆発に巻き込まれるぞ!」

 

「まだ距離が詰められていない今なら、チャンスはあります!距離が詰められるより先にあの車を片付けます!」

 

 意識はこれまでないくらいに明瞭で、迫る車を冷静に見つめられる。

 

 これなら外す方が難しい。

 

 

 タイヤを撃ちぬき、車の進路を変更させる。片車輪を撃ち、車の走行ルートを変えて爆弾を処理すればいい。必要なのは正確な射撃。訓練ではそこまでの精密な射撃に成功したことはない。でも、だからこそ此処で超精密射撃を行わなくては。

 

 過去の自分を凌駕し、未来に待ち伏せる爆弾魔を飛び越えろ。

 

 

 私の技能、それだけは相手の正確に予想できない事象。

 

 できるかどうか、と自問自答が自分の中に木霊する。

 

『私にできるでしょうか?私は単なるサードリコリスです。きっと私がいなくなっても、別の誰かがいる。代わりなんていくらでも』

 

 

 

 

 そうかもしれない。

 

 けど、そうじゃない。

 

「此処で黄理くんの隣にいるのは私です。今、この瞬間だけは私の代わりはいない」

 

 引き金は絞られ、拳銃が鉄火を噴く。

 

 放たれた弾丸は車の片前輪を破裂させ、バランスが崩れた。前進するためのフロントタイヤが能力喪失。傾いた車の後輪を次いで射撃。後輪のタイヤが走破性を失い、車の走行ルートが強制的に変更。そのまま爆弾車は転落防止の柵を破って川の真上、水上に躍り出た。

 

 

 行き先は川のどん底だ。

 

 ガードレールを破って無人の車が付近の川に水没する。そこで大きな水柱が大音量を轟かして二、三本上がった。明らかに車に積みこめる爆薬を越えた規模の爆発。まさか川の中にも爆薬を仕掛けていた?

 

 でも、車を排除できた。

 

「やった……」

 

 

 小声で、私が成し遂げた成果にちょっとだけ悦に浸る。いや、こんなことをしてる場合ではない。急がなくては。というか、子供っぽいところを出してしまった。黄理くんは見ていないかと、彼に目配せすると既に彼は立体駐車場に走っている。

 

 見られていないのは一安心だが、ちょっとは見てくれてもいいのに。

 

 前方の黄理くんが川の方を向いて無表情だがげんなりとしている。

 

「これ、迂闊に川方面に行っていたら、とんでもないことになってたな」

 

「たられば話してる余裕ないですよ。ほら急いで」

 

「ああ、そうだね。第二陣なんてのが来たらまずい。ありがとうたきな、助かった」

 

 なんの気負いもなく何気ない感謝。

 それを聞いて、私は胸の奥が熱く激しく鼓動する。

 先の廃ビルで黄理くんの戦闘を目の当たりにした時と同じ感覚。

 

 もしかして感動でもしているのか。こんなことで。

 

 言葉が、でない。軽く“どういたしまして”と言えばいいだけなのに、顔が熱くなってたった一言が喉を通らない。ようやく出たのは、思っていたモノと大分違う謙遜の言葉だった。

 

「別に……現場のリコリスなら当然の仕事です」

 

「すごいさ、たきなは」

 

 彼は前に視線を向けて走る、それを追いかける少し遅れた私。

 

 

 “助かった”か、それはこちらのセリフだ。

 もし、あのまま見つめられていたら、きっと戦闘に影響を及ぼしていただろう。

 

 

 

 その理由は、どうしてか分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立体駐車場に着く。黄理くんの話を信じるなら、ここに爆弾魔がいるはず。

 

「上だ、爆弾魔はまだ此処を離れていない」

 

「了解、手早く済ませましょう」

 

 黄理くんはまたもや、なんの実証もないのに確信を持って爆弾魔の存在を断言する。

 

 

 もう、彼の言葉に対する不信はない。

 

 立体駐車場の中に入る。光は差し込んでいるが全体的に暗い。剥き出しのコンクリ壁と車の駐車状況を告げるランプの点滅が鬱陶しい。銃を構えたまま油断無く、奥へ進んでいく。立体駐車場の二階部分まで来たところで黄理くんが私の手を引いて近くにあった柱の影に飛び込んだ。

 

 何故と、疑問を声にするより早く銃の制射が襲い来る。

 

 

 五秒ほどの制射の後、足音が近づいてくる。武装した傭兵か、何かがまだ残っていた?

 

 爆弾魔本人を守る、近衛たち。

 

 武装の質、量、士気ともに廃ビルのそれとは比べものにならない。

 

「ここまでか」

 

「黄理くんっ、諦める気ですか?」

 

「待った待った。違うよ、二人一緒で動くのがって意味さ。……二手に分かれよう、あいつらは俺が片を付ける。その隙にたきな、君は爆弾魔のところへ向かえ。君がヤツを仕留めるんだ」

 

 七夜黄理の浄眼は、この立体駐車場において爆弾魔のいるフロアには他に後詰めの兵がいないことを予期していた。となると、一番の危険地帯は武装した者たちがいる此処になる。爆弾魔のいるフロアも罠があるため安全とは言い難いが、一対一なら危険度は此処より低いだろう。

 

 

 そして何より、爆弾魔はリリベル最強、という看板を持つ人間を殺すことに大変執心している。たきなの存在など彼は正しく認識していないだろう。彼の怒りと悪意は、全て七夜黄理に向けられている。

 

 井ノ上たきなというサードリコリスなど相手にとっては路傍の石ころ同然なのだ。

 

 

 そこに勝機がある。観ることで正しく未来を予知する人間が視ようともしない“敵”。

 

 

 まさに天の配剤。彼女こそ未来予知を為す爆弾魔の天敵になり得る唯一のカード。

 

 ここまでの戦闘で七夜黄理は観察され尽くしている。死にはしないが、七夜黄理は爆弾魔との戦闘を避けた。死に近いゆえ誰よりも死を避けるのに七夜黄理は長けている。より勝利の確率の高いたきなを送り出すことに全霊を尽くす。

 

 

 

「俺が出たら五秒後に行け……振り返るな」

 

 黄理くんが袖から何時出したかも気取らせずに二本の棍を抜いた。獰猛さなど無い室内犬が急に野生の狼を思わせる臨戦態勢に入る。彼が行ってしまう、その前に聞きたいことがあった。

 

 

「待って、ください。どうして私にそんな大事な役目を任せるんですか。廃ビルの時だって、襲撃犯から私を守ってくれた。いったい、どうして……」

 

「女の子を助けるのに理由が必要かな」

 

 こんな時に気障なセリフで煙に巻こうというのか。

 

「ふざけないでください。私は黄理くんに銃を向け発砲までしたんですよ。そんな相手、途中で置いて行っても……」

 

「いや、理由がないってのまでは嘘になるか。たきな、今年できみは何歳になる?」

 

「えっと、六、今年の八月で六歳になりました。というか、これ路地裏の時話しましたよね?」

 

「俺は七歳、これが理由だよ」

 

 大事な点の説明がない、年齢がいったいどんな理由に繋がるというのか。

 

 

「それがどんな理由に──」

 

「俺は少しだけ、たきなよりお兄ちゃんだからな……行け、爆弾魔は任せるぞ」

 

 

 たった一歳しか違わないのに、お兄ちゃんだなんて……。いや、そんな感情論で命を懸けるなんてどうかしてる。そう思ったのに、なぜか笑う気になれなかった。だって……そうだ。どんな理由であれ、彼が“井ノ上たきな”という個人を特別に見てくれる、それが嬉しくてたまらない。子供扱いは嫌だった、彼と対等ではない気がしたから。年下扱いだって、嫌にならないとおかしいのに……なんで、こんな嬉しく感じるのだろうか……?

 

 

 たきなの葛藤を余所に死神は動き出す。

 

 

 彼が柱の影から飛び出る。出た瞬間にそこに弾丸が放たれるが黄理くんの瞬発力が弾幕を上回り彼らに接近する。

 

 ──五、

 

 距離を詰めた黄理くんはそのまま手近な四人の男の膝とくるぶしを黒の棍で破砕し、痛みと損傷で跪いた敵手の頸骨を次々と叩き折る。

 

 ──四、

 

 七夜黄理という死の風は、存在さえ疑わせる隠行で敵を攪乱し、新たに二人の男を脳天から顎まで鉄棍で串刺して次の獲物に向かう。その姿は流麗であまりにも恐ろしい。だが、恐怖だけではなく、いっそ美麗とまで言わせるほど卓抜たる殺人技巧。無関係の観客がいれば、恐怖しながら拍手喝采でもしただろう。

 

 ──三、

 

 敵の陣形が崩れ去る。恐慌状態に陥らず悲鳴さえあげなかった精神性は評価に値する。だが、殺人と暗殺の究極、暗黒の天賦に満ちた七夜黄理を相手取るには、総じて未熟。

 

 

「天からの才能(ギフト)をまも──」

 

 余分な会話に勤しむより、逃げるべきだったのだ。死が追いつくより先に。

 

──二、一、

 

 

 たきなは拳銃をモディファイド・アイソセレスに構えて吶喊。

 

 複数ターゲット、突発的な事態に対応可能な構えで敵の陣形を突破する。

 弾倉の弾薬を全て撃ちきり、黄理くんがこじ開けた敵集団を突破する。振り返るな、黄理くんがこじ開けた隙間を縫って上に行く。

 

 たきなが敵の包囲を抜ける。

 

 

 

 武装集団のリーダー格が銃を向けて、七夜黄理に戦慄を隠しきれないまま対峙した。『アラン機関』……その最精鋭エージェントであり、命令さえ受ければ、たった数人で厳重警備の刑務所だろうが警察署だろうが、すみやかに占拠する戦闘のプロフェッショナル。

 

 天才への奉仕者であり、戦闘面で言えば国家の正式な特殊部隊に比肩する実力者たち。

 

 そのプロの戦士を瞬く間に蹂躙する七歳の少年。

 

 

 恐れ、慄き、畏怖、絶望、部下の前にも関わらず、あらゆる負の感情で顔を染め上げた指揮官の男は、目の前の少年のカタチをした“死”に問いかけた。怯えるようにおそるおそる、断崖絶壁から奈落を見るかのごとき形相を以て。

 

「君は一体、何者だ?」

 

「答える義理があるか?そんな余分、お互い要らないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 たきなは拳銃を携えながら、立体駐車場の三階部へやってくる。京都は景観保護のため建築物の高さに制限がある。そのため三階といっても京都の広範囲を俯瞰することができた。吹き込む風が髪を撫でる。上から見る京都の景色に心が動いた。

 

 朝、バスの中から京都の景色を楽しそうに見ていたサードリコリスの少女の気持ちがようやく分かった。なるほど、これは見惚れてしまうほど素晴らしい。七夜黄理の血塗られた圧倒的技巧の時と違う感動が身を震わせる。

 

 

 だが、そんな感動に水を差す者が此処にいる。

 

 いいや、元々の本命はそっちのはずだ。

 

「爆弾魔」

 

 発砲するも、爆弾魔はそれを平然と避けた。いつ、どこにそれが来るのかを予期していたように。だが、驚きはしない。相手が未来視の爆弾魔という大袈裟な肩書きの敵であるなら、この程度は想定のうちに入れている。

 

 

 

「この結末は見覚えがない。いいや、かつての私なら視えていたのか。それとも視る価値がないから視なかったのか。どちらだったか?」

 

 

「どちらでも結果は変わりません……貴方の負けです」

 

 ようやく、ここまで追いついた。もう爆弾魔と私を妨げる存在はない。あとは眼前に立つ男を仕留めるだけだ。爆弾魔は壮年の男だった、気配が薄いと言えばいいのか。気配が恐ろしく不鮮明だ。七夜黄理が夜闇に霞むような冷たく静かな気配だとするなら、眼前の爆弾魔は無機質な残骸ゆえの気配の希薄さだった。

 

 遠い年月を経て朽ち果てた残骸。雨風も雷、雪も、ただあるがままに無抵抗に受けた残骸。未来を視ると言うことの結末はこんな有り様を生むのかと恐れを抱く。同時に失望も。人より正確に、より多くの未来を視るということ。今に焦点が合っていないから、この時点における気配がひどく虚ろなのだ。

 

 

「意外だな、君は私と会話さえしないと視えていたんだが」

 

「撃つ気はあります。ただ聞きたいことに(おぼ)えがあっただけです。何故、DAを敵に回したのですか。未来が見えるなら、もっと賢明な選択があったでしょうに」

 

「……かつて、私の視界には未来が二重に見えていた。今とこれより先に起こる未来、結末から見える世界は何もかもが単純で全ての事柄は単純明快だった。そんな才能が私にはあった。……そう、()()()()()。今の私にはそれがない。未来をなぞるだけの生から解放されたことを最初は喜びすらした……」

 

 爆弾魔は夢を見るように、ぼんやりとこちらに視線をやる。

 

 視線はこちらに向けているのに、こちらを認識していない。

 

「……だが、行きついたところは絶望だ。人間というヤツは勝手なものでね。あるはずだった機能の喪失に耐えられない。システムによる補完さえ行ったが、それでもかつての未来に届かない。そして、システムの進歩による可能性もDAに奪われた。ああ、DAを敵にする理由など簡単だよ」

 

 男はようやく、真の意味でこちらを視た。

 

「自己の防衛だ、私は私の持つ才能を守るために秩序に仇為す」

 

 

 もはや言葉にすることさえ億劫だ。下らないと一様に弾劾することは簡単で、価値がないと笑うのは容易くて。もうこの男の全てがどうでも良かった。自分のためだけに、それだけのために多くの命を奪った。

 

 ならば、殺し返されることも覚悟しているということだろう。

 

 爆弾魔が動く、無言のまま手元から手榴弾が取り出された。

 

 背筋に氷塊が刺さる想像を幻視する。

 

 これが最後の難関だ。越えるべきは一手のみ。相手は情報を積み上げて、精度を増していく未来予知者。長々と銃撃戦をすれば手の内を読み切られ爆死する。一撃で決める、先ほど試したが間違いなく普通に撃とうとも相手には当たらないだろう。だから、撃つべき場所は零距離、密着状態。銃口を当てている状態でなければ、爆弾魔には届かない。

 

 そのためには相手の想定を越える行動を取らないといけない。

 

 爆弾魔は静かに手榴弾のピンを抜こうとする。同時にサッチェルバッグを手に持ち、隠し紐を引いた。リコリスの技術開発部門が創った戦術武装鞄。年々、後付けの改造や機能の撤廃を繰り返し、リコリス標準装備として支給されたこの鞄には、防弾エアバッグという特殊機能がある。

 

 

 その機能は一瞬しか持たないが、それで十分だった。最初から高火力の爆弾ではなく手榴弾で仕留めに来た。おそらく、あの爆弾魔が視ている相手は自分ではなく、最強と呼ばれていた黄理くんなのだ。

 

 私は前座で、消耗を少なめにして勝つという相手。

 

 その油断こそ、彼の最悪の選択ミスである。

 

 

 

 

 侮るのではなかった。七夜黄理が信じて、それに答えようとする女性の意地を軽んじるべきではなかったのだ。

 

 隠し紐が引かれたことで防弾エアバッグが急膨張を起こす。しかし、爆弾魔には未来が見えていた。たきなが防弾エアバッグのしぼむタイミングで手榴弾の爆発に吹き飛ばされるシーン。エアバッグの防御性能の高さは知っている、そしてそれが無力になるタイミングも。

 

 爆弾魔はピンを引き抜くのを止め、タイミングを見計らう。防弾エアバッグが萎み始める時間。その時に爆弾を投げれば、あの少女は爆風に呑み込まれ──。

 

 展開された防弾エアバッグの下から凛とした黒影が駆ける。黒髪を勇ましく靡かせて、自分を守るはずの盾の正面に出るという馬鹿げた行為を選択した幼きリコリスがそこにいた。

 

「なんだとっ?」

 

 

 急に膨らんだ防弾エアバッグを目隠しにして、たきなは一か八かの蛮勇に手を染めた。

 

 こんな馬鹿な真似は二度としないし、できないだろう。それでも未来が何でも見えるという愚か者相手にはちょうどいい愚行だ。相手の未来予知は最も効率の良い最善を選んでいる。そうでなければ意味が無いし、最善以下の選択なんて失敗するに決まっている。

 

 だが、この瞬間だけは違った。

 

 視ることで相手の未来を手繰る爆弾魔の掌から逃れるためには視線を切るしか道はない。

 

 そのための機能は戦術武装鞄に内蔵されていた。防弾エアバッグを目隠しにしたのである。

 

 馬鹿げた使い方だ。

 

 でも、相手の思考の裏を取ることが出来た。防弾エアバッグ展開と共にその真下へ潜り込み、超低姿勢のままで爆弾魔へ接近。ピンを抜こうとする手を銃で射撃、当然避けられはするがピンを抜くこと自体は阻止する。

 

 そう、ピンさえ抜くのを遅らせられれば、接近までの時間が手に入る。幸いなことに私のいる場所は立体駐車場の下方面。進む先は登り勾配だ。平面、もしくは下り勾配なら、こんな超低姿勢のまま走るなんて芸当はできなかった。

 

 けれど、この登り勾配であれば姿勢を限界まで落としても体幹を崩すことなく敵に肉薄できる。

 

 相手の懐に飛び込んだ。あとはもう思考を捨てても何も変わらない。銃を握る手に力がこもる、グリップが軋むような音を出す。銃を振りかぶり、拳を叩きつけるように爆弾魔の胸元へ叩きつける。

 

 

 銃口が爆弾魔の胸元に食い込んだ。さぁ、爆弾魔、お前に未来は見えているか。引き金が引かれ、反動が片腕に反響する。じんじんと痺れるような反動が数度、弾丸が放たれた回数だけ響いた。

 

 爆弾魔は受けた銃弾と銃を叩きつけられた衝撃で後ろへと飛ばされて、地面に横たわる。胸を真紅に染め上げ、もう起き上がることはない。

 

 

「ま、さか…………」

 

 驚愕に震えていた爆弾魔は私を視て、未だに呆然としていた。

 

 おそらく、まともに戦えば彼が負ける道理はなかったのだ。けれど、彼は敗北した。黄理くんを確実に倒すため幾つかのトラップも仕掛けておいたのだろうが、出し惜しんだ。たかがサードリコリス相手ならば、使わずとも勝てる。

 

 勝負の趨勢は、何時を視ていたかにあった。

 

 

 少女は懸命に今この瞬間を見て、未来に希望を抱いていた。

 

 爆弾魔はまだ起こりえぬ未来を視て、未来へ絶望していた。

 

 

 

 爆弾魔は最後、今まで未来だけを見つめていた瞳を閉じる。それだけが彼の最期の選び取った道だった。

 

 今というものの積み重ねこそが未来だと、その視点がなかったことが爆弾魔の敗因だった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……勝った……?これで、爆弾事件は解決した……?」

 

 私は極限まで集中していたことで、この結末を認識するのに時間を要した。それでも、やり遂げることができた。事件の解決に貢献した。下の方に向かおうとするが、戦闘音がもうしていない。ということは黄理くんがもうすぐやってくる。

 

 京都支部へ報告をしないといけない。長い時間、報告無しの独断専行。

 

 一秒でも早く、司令部へ事件を追いかけていたこと、解決したことを報告しよう。

 

 黄理くんもじきにやってくるはずだ。

 

インカムの電源を点け、司令部への通信を行う。

 

「司令部、こちらサードリコリス、井ノ上たきな。爆弾事件の進捗報告があります」

 

 

 対応が返ってくるか不安だったが、幸いなことにインカムから司令部の声が聞こえる。

 

『たきなさん、報告を』

 

「……目標の爆弾魔は無事、処理に成功しました。駅で目撃したリリベルに属している少年の協力があり、爆弾魔が雇った傭兵や武装集団も撃退してあります。つきましては痕跡の処理をお願いします」

 

 そういえば、司令部にリリベルという単語が通じるのだろうか?

 

 此処まで来て、実はリリベルという組織の存在は東京支部でしか開示されていませんなどと言われたら、大問題なのだが。

 

『……協力いただいたリリベルの識別番号は?』

 

「──識別番号、ですか?」

 

『えぇ、識別番号を照合します』

 

 

 急に言われても困る。確か路地裏にいたとき、それらしい会話をしたような気がしたが、それでも識別番号なんて急に言われても。

 

『たきなさん?』

 

 

 思い出せ、確かリコリスの識別番号と違い前のアルファベットはLBと言っていた。

 

 そして、数字の桁数は2000番台だとも。あと三桁。

 

 それが分からない、此処まで独断行動をしてあげくに協力してくれた人間の識別番号など知らないと言えば、リコリスのライセンスさえ剥奪されかねない。

 

 考えろ、考えろ。彼の識別番号、識別番号。

 

 それは────

 

 

 

“LB2808”

 

 

 

“LB2778”

 

 

 

 

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