“LB2808”
急に識別番号を聞かれても、教えてもらっていない以上、答えがあるわけがない。
まずい、どうしよう。分からないと正直に言うか、いいやそれはまずい。単独で無茶苦茶をしている以上、司令部の命令に反するのは本当にまずい。けど知らないモノは本当に知らないし。
何か、適当な数字を言ってお茶を濁す?いいや、近くに彼がいるのだ。
黄理くんに直接、言ってもらった方が良い。
でも確か黄理くんは自分の識別番号の時、LBの2000番台と言っていたような。
「協力してくれたリリベルが付近にいるはずです。彼に直接、聞い」
『たきなさん、貴方の口から彼の識別番号を言うのです。早くしなさい』
四桁目だけが分かっている。なら、あとの下三桁は当てずっぽうだ。
そう、えっと識別番号は?
「LB……2808、ですか?」
五秒ほど時間が流れ、ようやく司令部からの返答が返ってくる。
『爆弾魔の件、ならび痕跡の事後処理は既に開始されています。……たきなさん、ご苦労様でした』
「はい、ありがとうございま」
その時、耳元で果物かナニカが粉々に砕けるような異音が聞こえた。
グシャ、あるいはブシャ。
水気の帯びた何かが破裂、もしくは地面に叩きつけられるような音。
あれ?と疑問を持つより先に私は倒れていった、目線の先には黄理くんがちょうどこちらへと走ってくるのが見える。そんなに急いで、怪我はしていないだろうか。いいや、それより黄理くんの識別番号とか、血液型、好きな食べ物、好きな場所、もっといっぱい情報収集をしたかった。
そんなたきなの思考は、破裂した脳漿からこぼれ彼女は帰らぬ人となった。
倒れ伏したたきながいた。立体駐車場を脳髄と頭蓋骨、血で染めている彼女は彼岸花の花畑で眠っているようだった。七夜黄理はそれをじっと無表情のまま見下ろしている。思えば、京都に来て三日目に出会った彼女こそ、この京都における望外の幸運だったのだと思い返す。
人は喪ってからでなくては、かけがえのないモノの価値に思いを馳せることはできない。
井ノ上たきなという少女も、七夜黄理にとってはまさしくそのかけがえのないものに分類できていたのだ。
でも、そんな彼女は死んだ。下手人は敵ではない、遠方より見える思念の色合いは秩序の側に立つ人間。十代かそこらの少女のような思念、つまり相手はリコリス。たきなの同胞だった。
何故、彼女が殺されたかと思考を巡らせてあっという間に事実に気づいた。
そう、理由なんてただ一つ。
国家という大きな枠組みの守護者であり、極めて重大な責務を担う殺し屋だ。
だから、こんな末路もありえるはずだ。
だから、心を動かす必要さえない。
自分は自分のできることをやればいい。
そう、だから──。
「殺すか」
冷静に自分のしたいことに手を染める。
しかし、その前に七夜黄理は立ち止まって跪いた。もう、生の鼓動を鳴らすことのない胸元へたきなの両手を乗せ、そっと撫でるように彼女の
これは意味のない感傷だ。この行いに意味が生じることは決してない。
それを理解しながら七夜黄理はリリベルの最高位であることを示す上着を脱いでたきなの遺骸の上に隠すように被せた。せめて、つらい世界をこれ以上見なくて済みますようにと願いながら。同時にDAへの“決別”を誓う意味で。
制服に隠されている鉄棍は捨てたが、下の階に転がっている男たちの亡骸から武器は手に入る。もう、何も意味はないかもしれない。全て、終わってしまっていてこれからすることで、たきなは喜ばないだろう。
でも、初めて“やりたいこと”が見つかった。
七夜黄理は持てる分だけの武器を拾い上げ、京都という都市の闇の中に消える。途中で見覚えのある緑髪の男と遭遇し、彼と共に日本を終わらせる事件を起こすのだが、それは遠い未来。起こるかもしれないあやふやな可能性の一つに過ぎない。
こうしてDAも日本という国自体も、滅ぼし尽くす最悪にして
END
『教えて!喫茶リコリコ』
錦糸町のとある一角に店を構える喫茶店、リコリコ。その扉を開けるとそこには、シックなグレー調の和風給仕服に身を包んだ緑髪の男性が憎たらしい笑顔を浮かべて、来客を歓迎していた。やたらとツヤのある良い声で。
「らっしゃいませ、お嬢様。バッドエンド相談コーナー、“教えて!喫茶リコリコ”にようこそ。尋ねたいこと、バッドエンドの回避方法など全ての疑問に、ずばっとお答えしてやるよ、そらなんか聞きてぇことはあんのか、ああ?」
「じゃあ一つだけ、なんでお前が店員ヅラしてんだぁぁ!!」
赤い制服を纏った彼女、錦木千束の構えたデトニクス・コンバットマスターが火を噴いた。発砲された非致死性ゴム弾を顔面に喰らい、店の床に倒れ伏す男。
いいや、真島は額から血を流して、不作法な少女へ悪態を洩らす。
「いきなりなにすんだよ、赤のリコリス。バッドエンド相談コーナーでいきなり銃をぶっぱなすとか常識がなってないんじゃねぇーか?」
「テロリストがいきなり自分の勤務してる喫茶店に現れた時の対応としちゃ常識的で、ドンピシャでしょ~よ!」
「くっ、違いねぇ、ところでもう一人の青い、いやあれ紺か。あっちはどーした」
「あっち言うな、あの子は外で別の仕事中、まぁ今回のバッドエンドはあんまたきなに見せらんないヤツだったし、ちょうどいいっていうべきなんかなぁ~」
リコリコの店内テレビが、バッドエンドの瞬間を映像に出した。
そこに映っていたのは、遠方から狙撃銃で頭を撃ち抜かれて倒れゆくたきなの映像だった。
「なんだこれ?リコリスって、普段から仲間も殺してんのか?」
「んなわけないでしょ。内部粛正で仲間を減らしていくとか、アタマ新撰組かよ。嫌な話だけど、そういうときのためにリリベルがいるはずだよ。まぁ、今回はたきながあんまりにも独断専行と長時間の連絡不備をしていたこと、あと本来は絶対機密の存在である東京支部のリリベル、黄理と組んでいたことが処罰の原因になったみたい──」
冷静に抑揚無く口にしていたが、千束は間違いなくキレていた。
たきなという自分の生活に関わっている少女の死を見て怒りに震えていた。
「なんだって、事件解決の立役者を殺すんだよ。アタマ湧いてんのかドちくしょう」
「へい、言葉遣いくらいオンナっぽくしろよ」
「おっと待てぃ。それはなんだ、千束さんは女らしくないってことですかな?ちゅーか、なんでリコリコにいるのさ!ここはリスのマスコットとヒロインだけが存在できる秘密の空間。テロリストの親玉が来れる時空なんかじゃ」
「それじゃあ、俺もそうだってことだろ?あれだ、マスコット、もしくはヒロイン」
「ハァァァァァ!!!?」
千束は絶叫した、この世のあらゆる理不尽を否定するように絶叫した。
「どこをどう過大評価、いや過剰に評価しても、あんたにヒロイン適正なんてないでしょーがよ!」
「ところがどっこい、今回のバッドエンドでは俺がヒロインだ!お前らばっかりにヒロインやらせていたら、バランスが悪いよなぁ!!」
「おっま!それ言いたいだけだろホントは-!」
銃を真島のこめかみに押しつけているが、真島は愉快そうに千束へ話の続きをする。
「今回のバッドエンドは、あのバケモノアサシン、七夜黄理がDAから離脱するルートだ。たきなとかいったな?あれが目の前で殺されるのを見たあいつは完全にDAを殺すべき獲物と見ることになった。その時、かつて殺し合った俺と!劇的な出逢いをして、俺たちはコンビで電波塔事件を成功させるってわけだ!」
「待ったぁ!え、電波塔には私が行くんだけど?電波塔事件、解決しないの?」
「お前、電波塔の薄暗くて障害物あり散らかっていて乱雑とした空間で七夜黄理をどうこうできるって思うか?」
「うわっ」
ここで否定も、感想も言わずにうめき声だけあげた時点で結末が千束にもくっきりと見えたらしい。
「──ここまで四の五のと言いはしたが、今回の選択肢はくだらねぇ語呂合わせだ。第零話か、もしくは登場人物の紹介のところでリリベルの識別番号について触れているから、そこを見に行くこったな」
コーナーの趣旨であるバッドエンドの回避法を真面目に解説するのを見て、千束は意外そうに感心した。
「真面目にコーナーの進行はするんだ?」
千束の心底、意外そうな声を聞き、真島は不敵にあくどい笑みを作って疑問に応える。
「そりゃそうだ、根は真面目な好青年でね」
「嘘つけテロリスト」
Bad End Title
誰が誰を裏切ったのか