Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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毒にも薬にもならない平凡な日常をどうぞ。
 三章の短編集を一話にしようとしたら、一万八千字を超えたので三話に分解してお届けします。




番外編・短編集1

 

 

“喫茶リコリコ、初めてのお客様”

 

 

 

 黄色がかった白髪を肩口まで伸ばした赤眼の少女、錦木千束は、ぱたぱたと新しい自分の居場所へ向かって錦糸町の街並みを駆けていく。電波塔事件を終え、その結果として行きついた所へ向かう足取りはやたらと軽い。リコリスという居場所を失っても、それに代わる新しい居場所に辿り着いたこと、先生やミズキがついてきてくれたことは間違いなく幸運なことで、ほんと恵まれている。

 

 そういった幸運に感謝しながら、朝日の照らす錦糸町の街並みを千束は柔らかく眺めて目的地であるお店へと急ぐ。

 

 

しばらく走って、目的地に着いたことでようやく足を止める。

 

下町の街並みに潜むような洒落た木造建築の喫茶店がそこにあった。喫茶リコリコ、千束の新しい居場所。和洋折衷の内装と、それに合わせた和菓子、コーヒーを“売りにしたい”お店。

 

 

 そう、“したい”という願望系。リコリコは開店したばかりで、未だに初めてのお客さんも来ていない状況。なんらかの宣伝をすれば、お客さんも手っ取り早く増えるのだろうが、DAの支部としての活動が本業である以上、目立つ真似は大人二人に却下されている。

 

 そうなると、自然と常連が増える流れに期待するほかない。

 

 

 からん、と店の正面側の扉を開けると軽やかなベルが鳴った。その音は心地よく、耳を抜けて気分を爽やかに整えてくれる。

 

「おまちどう、千束さんのご入場で~す」

 

 

 彼女が店に入ると、カウンターのところでは先生がカップを磨いているのを見つける。

 

「おはよう、千束。今日も早いな、引っ越しを済ませたばかりだろうに、もう荷ほどきが終わったのか?」

 

「ん~、まだ終わってない。けど、私が遅れて来る間にお客さんが来ちゃうかもしれないからさ!だったら、早いとこお店に急行しなければと思ったわけなんですよ。……走ってきたら喉渇いちゃった、せんせー、コーヒーちょうだ~い」

 

 千束がカウンターの客側に座ると、ミカは苦笑を浮かべてコーヒーを淹れ始めた。コーヒーは温かな湯気を上げ、芳醇な香りを店内に漂わせている。千束は、そっとカップに口を付ける。淹れ立てのコーヒーは、その苦みと酸味、そして香りを体の中で循環させる。

 

 飲み終え、カップの中が空になる。千束はフッと息をついてミカに笑いかけながら、パチン、と指をスナップさせた。

 

「これ、確かすっごいお高めの豆だよね。せんせの弾と同じくらいの」

 

「……その、はずだな」

 

「う~ん、言っちゃなんだがベリーノットデリシャス。っかしーいなぁ、豪勢な豆使えば、良い味だせると思ったのに」

 

「もう少しオブラートに包んでくれ。淹れてる私の方が痛感してるんだ」

 

「まずい、って言わなかった私の愛が伝わらない?」

 

「今、言っちゃってるじゃないか」

 

「おっと、口が滑った♪」

 

 

 

 深く、ため息を零して先生は私が飲み終えたカップを片付ける。その間に店の裏手側、店員用の更衣室で給仕服に手早く着替える。和風の店内に合わせ、和服の給仕服を仕立ててもらったが、店の雰囲気と合致しているためか自分が此処にいるという実感が深まって楽しくなってしまう。

 

 

 

 赤の給仕服を着た千束は、身をひるがえして姿見の前でポーズをしてみる。

 

 

やがて、満足したのか、足早に店内の方に千束が移動する。店内はやっぱりガラガラで閑古鳥が鳴いていた。千束は給仕服のまま、フロアの座敷席に座ってミカのコーヒーを淹れる様子を嬉しそうに見つめる。

 

「千束、一応は営業中だぞ。きちんと接客が出来るようにしていなさい」

 

「だいじょーぶ、こんだけガラガラなら何処でも好きなとこに座ってもらえるよぅ」

 

 千束は、お座敷で拗ねたように足をぱたぱたと振って表口の方に体を向けている。やがて、暇が限度を越したのか千束はミカへ向かって目を輝かせて提案を行う。

 

 

「やっぱり、此処はドカンと一発派手な宣伝とかしてみない、せんせー」

 

「DAから許可が降りない可能性が高い。落ち着け、此処はぐっと我慢だ。こつこつやれば、必ず事は良い方向に進んでいくさ」

 

「うぅむ、ドカンと大逆転……。ハァ、そう都合よくはいかないか。地道にこつこつと、ゆっくり行くのが最短なの分かってるんだけど。……そういや、せんせー、ミズキってまだシャバに出られないの~」

 

「シャバ言うな、もう少しDA側の審査や手続きがあるから、リコリコに来れるのは一週間後からだ」

 

「出てこれるまで一週間、長い!もっと早く手続きやっとけばいいのに」

 

「ミズキは私と違って、司令部で色々と業務をしていたからその分手続きが煩雑なんだろう。他にも引き継ぎなどを考えれば、一週間など短いというべきだ」

 

「短い、一週間が?」

 

「色々とやるべきことに押しつぶされていくうちに短く感じてしまうのかもな」

 

 

 ミカは一週間を短いと言うが、千束にとっては長く感じられた。子供の体感でいう一週間はとても長いもの。けれど、リコリコに来てから千束は時間の流れを早く感じている。それはきっとやるべきこと、なんて堅苦しいことに押しつぶされたからではない。

 

「せんせい、楽しくても時間は早く流れていっちゃうぜ。だから、そんな時間に乗り遅れないように、もっと色々なことに挑戦していこう!」

 

 

 千束の言葉に、ミカは息を呑む。そう、彼女の残された時間は成人するまで。そういった限界が、彼女の場合は人よりも明確になっている。老い先短い、などというのはマイナスの要素を多く孕んだ言葉だ。

 

 しかし、千束はその短い生涯を悲観していない。やりたいことをやりきるために一分一秒を惜しんで、最大限に楽しみ尽くして生きている。千束のそんな姿と日々の生き方を、ミカは純粋に尊いと感じたのだ。

 

 

「挑戦か、そうだな。できないことをできるように、そうして世界を広げていくというのは、きっと素晴らしいことなんだから」

 

「そうだよ、上手くいかないってことでも、上手くいくようになれば絶対楽しい。そういう楽しいことが増えていくって、幸せなことだと思うんだ。ほら、今はこんなガラガラでもお客さん増えたら、楽しくなるよぉ?」

 

「宣伝はダメだぞ。……しかし、そうだな。千束の言う通りだよ。ふむ、差し当たっては、コーヒーを美味く淹れられるようにもう少し練習するか」

 

「そうそう♪継続イコールパワァ。そして、下手な鉄砲も数撃ちゃ、ってね」

 

「千束、銃の訓練と同じ事だ。漫然と数だけをこなすのではなく、明確に目的を果たす瞬間をイメージし、結果をその目的に近づけていく。そうして成長していくことを多くの人は継続と言う」

 

 

 先生は笑って、コーヒーの準備を始めながら私へ講義を始める。さて、これで美味しいコーヒーが淹れられていたのなら、説得力が生まれるのだが。

 

 まぁ、飲んでみてのお楽しみと座敷を立って、カウンターの客席に行こうとすると、カランコロンと扉の開く音が聞こえる。錦糸町の住宅地にひっそりと佇んでいるこの店にやってきた、初めての来客。

 

 千束は素早く、給仕服のしわを整えて先生へ目配せを送る。

 

 来客の店員を呼ぶ声より先に千束は満面の笑みで、歓迎の言葉を繰り出した。

 

 

「いっらっしゃいまえ、喫茶リコリコへようこそ~」

 

 

 噛んだ、けど言い切った。始めの一番大事な“いらっしゃいませ”というところを噛んだが、何食わぬ顔で接客業の人間、定番の第一声を口にする。満面の笑みで歓迎した人間は、どこか見覚えがあった。具体的に言うとあの電波塔の時、模擬戦の時、七夜黄理の近くにいたのを千束は記憶していた。

 

 いいや、眼前の男からすると認識が逆なのかもしれない。自分の近くに七夜黄理がいる、とするのが彼にとっては自然なこと。そう、“リリベルの司令”である彼にとってはその認識こそが正道だ。

 

 

 リリベルの司令官である男性、虎杖司令がなんとリコリコの最初のお客様。

 

 驚きを通り越し、もはや現状が把握できない。そんな千束やミカを置いて、虎杖司令は護衛もなしにリコリコへ入店し、折り目良く仕立てられたスーツを靡かせて店内へ。

 

 

「ふむ、席は空いているようだ。カウンターに座っても?」

 

「はい、だいじょぶ、ですけど。どうして此処にいるんですか?虎杖司令」

 

「コラっ、千束!」

 

 慌てた様子でミカはカウンターを出て不作法な千束の態度に釘を刺そうとするが、虎杖司令はそれより早くカウンター席に座り、メニューを開いている。

 

「顔なじみが新たな道を踏み出した。その門出を祝いに来るくらいの度量というものは私にもあるさ。毎日、しかめっ面で指揮下のリリベルに命令するだけの毎日を過ごしているとでも思ったかな?」

 

「いえ、そのようなことは。ただ、虎杖司令が自ら来られるというのは正直、予想外でした」

 

「私もだ。ミカくん、君と錦木千束が外の支部に行ったというのを聞いてから、不思議と行ってみたくなってね。こうして直接、足を運んでしまった。……ああ、今の私はオフの身だ。司令などという役職の呼びかけは不要、虎杖で構わない」

 

 

 無表情ながら声音だけは柔らかく、虎杖さんはメニューをめくって注文を考え込んでいる。私がおそるおそる虎杖さんの側に近づくと、虎杖さんは薄く笑いかけてくれた。

 

 

「虎杖、さん?」

 

「なにかな、錦木くん」

 

 そこで千束はようやく、唖然とした心境から脱して何時もの自分を取り戻す。具体的には人なつっこくて、凄い勢いで距離をつめてくる状態に入った。

 

「私も千束でいいですよ!ほら、フレンドリィが一番!」

 

「……そうか、ではそのように呼ばせてもらうとしよう。はて、そうするとミカくんはどう呼ぶべきか」

 

「名前のままで構いませんよ。そちらの方が慣れているでしょうし、この場に来て変えるというのも気遣いをしてもらっているようで心苦しい。此処は肩肘張らずにのんびりと落ち着ける場所を目指していますから。虎杖さんもそのように過ごしてもらえれば、私たちとしても喜ばしいというものです」

 

 先生の口ぶりに虎杖さんはメニューを置いて、先生を熱い視線で見つめる。

 

「そうか、ありがとう。……ミカくん」

 

「なんでしょう、注文ですか?“虎杖さん”」

 

「いいや、親しい者に名を呼ばれるというのは、存外良いものだと思ってね」

 

 

 そういって、急に満面の笑みを零して先生を真っ直ぐに見る虎杖さん。その変わり様はあまりにギャップというものに溢れ、先生が顔を赤くする。早朝で透き通るような雰囲気が、途端に夕暮れ時のような妖しいものに変わった気がした。

 

「──からかわないでください」

 

「からかってなどいないさ」

 

 

 あれ、これひょっとして私、邪魔者か?

 

 

 

 

 

 不思議な雰囲気が薄れてきたところで、ようやく虎杖さんは注文が決まったのかメニュー表を閉じる。

 

「では、ブレンドを一杯、頼むよ」

 

「はいっ、せんせいブレンド一丁!」

「千束、居酒屋スタイルはやめなさい」

 

 千束の応対を聞いた虎杖司令は、少し考えこんでからそっと腕を組んで注文の微妙な変更を告げる。

 

「ブレンド、ロックで」

 

「虎杖さん!?」

 

「……冗談だ」

 

 ミカは思わず、虎杖司令の方を見て驚きの声をあげる。居酒屋というかバー風に行う注文なんて茶目っ気を見せたが、顔を赤くしているためにそれなりに恥ずかしかったらしい。千束もミカも、意外な一面に驚きと困惑を隠せない。

 

 

 

 

 注文を受けたミカは、個人的な事情で提供に少し躊躇いを持つ。

 

「……虎杖さん、今の私のコーヒーはお金を頂いてまで提供できるものでは」

 

 俯いて沈痛そうな顔つきのミカに、瞳を閉じた虎杖司令はメニューを千束に渡す。それから静かに目を開けた虎杖司令はミカへ向き直る。虎杖司令は柔和で優しげな表情をして、真っ正面からミカの戸惑いに向かい合っていた。

 

「私はどこかの美味いコーヒーより、今の君のコーヒーを飲みたいのさ」

 

「虎杖さん……承りました、今の私の精一杯になりますがご賞味のほどを」

 

 

 

 

 

 

 

 先生が丁寧に淹れたコーヒーをゆったりと飲んでいる虎杖さんは、面白がっているような表情でコーヒーに舌鼓を打ってる。不味そうな様子は一切見せず、純粋にコーヒーを楽しんでいる風情だ。

 

 

 カップが空になったところで、私はおずおずと虎杖さんに声をかける。

 

「あの、虎杖さん」

 

「なにかな、千束くん」

 

「どうしても聞きたいことがあるんです」

 

 こっちの聞きたい事に心当たりのあった虎杖さんは、特に駆け引きなんてこともせず直球で疑問の中身に切り込んできた。

 

「黄理のことかな……」

 

「……あ~、ご名答。楠木さんから上層部の決定って、私と黄理の二人が受けたって話を聞いたんです。じゃあ、ひょっとして黄理もリリベルを──」

 

「そうだな、彼もまた君と同じようにリリベルを去り、野に下った。DAの紐付きでこそあれ、以前のようには行かないだろう。上層部の話では、君と彼を同じ支部で一括管理をしようとする意見もあったようだが、結局別々の支部に送られることになった」

 

 黄理と自分が一括管理されなかった理由について、なぜ、という疑問も浮かんだが、それは本当に聞きたい事ではない。

 

「黄理がどこの支部に行ったか、虎杖さんなら知ってるんですよね?」

 

「千束、あまり詮索をしては」

 

「問題ないとも、ミカくん。私が黄理の現在所属する支部について語ることに否やはない」

 

「……虎杖さん、お願い。黄理がどこにいるのか、教えてください」

 

強い意志と共に深々と礼を尽くして下げられた頭。その姿を見て、虎杖司令はなぜ七夜黄理が変わったのかという理由の根源を見出した気がした。誰かのために、懸命に動くことの出来る人だからこそ、ああも七夜黄理という空虚な男の在り方を錦木千束だけが変える事が出来た。

 

単純な、けどとても難しいこと。それを千束という少女はやってのけた。ならば、そんな彼女に敬意を込めて求めに応じよう。口をつぐんだ虎杖司令は腕時計を眺めた。指定した時間はまもなくやってくる。

 

 

 

虎杖司令は静かにもう一杯、コーヒーをお代わりして千束に微笑んだ。

 

「なに、彼を語るというなら私よりも相応しい者が来るさ」

 

 

 

 

 

虎杖さんの言葉の後、鈴の音が軽やかに鳴り、店内に二番目の来客が来たことを報せる。開いた扉の先には、赤の制服と黒髪でクセッ毛の少年が佇んでいた。ファースト・リリベルの少年、電波塔で私が命運と背中を預けた相棒。

 

私が初めて恋をした相手。

 

七夜黄理は朝日を背に、リコリコという日常の中へ立っていた。

 

模擬戦、殺し合いなんて非日常でしか黄理の姿を見てこなかった千束は、彼が日常の平穏の中にいるのを見て少し涙ぐむ。千束は潤んだ瞳のまま涙をどうにかこらえた。再会に涙は似合わない、看板娘はとびっきりの笑顔を浮かべ黄理という少年を歓迎する。

 

「いらっしゃいませ!喫茶リコリコにようこそ~!」

 

 

 

 

「へぇ、此処が千束の働いてる支部なんだ。こっちとはだいぶ雰囲気が違うな」

 

「ひっさしぶりぃ、黄理!そっちもリリベルをクビになったんでしょ~。虎杖さんから聞いたぞぅ。っていうか、早いとこ何処の支部にいるか教えるよーに!相棒なんだから、ホウ・レン・ソウはきちんとしないとね」

 

「俺のいま居る支部か?神保町にある伽藍の堂っていうとこなんだけど、説明が難しい。なんて言えばいいのか、形容しがたいというか、名状しがたいものな気が…………そうだ、千束。いまのうちに連絡先でも交換しとくか?」

 

 黄理の支部について話していると、言葉を連ねることが億劫になった彼はスマホを取り出した。それを見た千束は目を輝かせ、急加速で店の裏手側に突っ込んでいく。

 

「するする、いますぐやろう、ちょっと待ってて!スマホ持ってくる!あ、なんか頼んで一息ついててよ。おすすめは先生のコーヒー!」

 

 

「──まったく忙しない、けど相変わらず元気でなによりだよ」

 

 

 

 戻ってきた千束は、黄理と連絡先を交換して早速、色々と情報交換を行っていた。もっとも、黄理はあまり触れてもいないSNSをスマホに入れさせられ、凄まじい勢いに圧されてリコリコのフォロワーになっていた。他にも先生のコーヒーが上達してないから、今後に期待とか千束側の情報量だけで少年は満腹気味だ。

 

 彼もぽつりぽつりと、伽藍の堂という場所について説明をするのだが、元より口が達者な方ではない。結局、千束の楽しそうな笑顔のマシンガントークを受けとめる側へ、あっという間になってしまう。

 

 困ったものだと、カウンターに座っている黄理は何処か千束に似て楽しそうに肩を弾ませていた。

 

 

傍から見ているミカと虎杖司令の保護者たちは、彼女たちの初々しい交流を微笑ましそうに温かく見守っている。有り得ないと思っていた風景は、あっさりと自然な形で此処にあった。

 

それが、どうしてか喜ばしく感じてしまう。ミカは自分と似たように笑っている虎杖司令を見て、そっと店内の方からカメラを持ってやってくる。ミカは千束と黄理の方、それから虎杖司令を見て、カメラを軽く見せびらかすように掲げる。

 

「どうだろう、虎杖さんも黄理くんもリコリコの初めてのお客様だ。ここで一枚、記念撮影でもしてみないか?」

 

「いーねいーね!撮ろうよ、二人とも記念すべきリコリコ初のお客様一号二号なわけだし。此処に来た人がみんな、リコリコは楽しいところなんだって、一目でわかるくらい、良い写真を撮ろう!」

 

「ハードルが若干、高くないか?いやまぁ撮ることに文句はないけど。……虎杖さんはどうする?」

 

「写真写りは良い方ではないが……それでも良いかな?」

 

「ええ、私もあまり写真写りというのは良い方ではありませんから」

 

「ほらほら、せんせーこっち側で撮ろうよ~。虎杖さんは黄理の後ろで。あっ、せんせと虎杖さんは私たちの後ろに並んで撮る感じ!黄理は私の隣ね!」

 

「虎杖さんたちの後ろなんて言われたらどうしようかと思っていたよ」

 

 

 楽しそうに今、この瞬間を満喫している千束に先導され、男たち三人はお座敷の方に移動し全員で写真を撮る。大人たちは子供の後ろに、黄理は自分の腕を掴んで全身を使って喜びを表現する千束につられ不器用に笑い、写真の中央でピースをして黄理の腕をホールドする千束は、見ている者の心を楽しませるほどの綺麗な笑顔を浮かべていた。

 

 

 

全員が笑っているその時の写真は額縁に入れられ、リコリコで大事な思い出として飾られている。写真に写る四人は、誰も血縁ではないけれど、血の縁よりも確かな絆と共に写真の中で笑っていた。

 

 

 




明日の同じ時間に短編の二話を投稿します。
 次は橙子さんと千束のお話。
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