推奨導入歌、カトゥーンの楽曲、ドラマ、レッドアイズより“Roar”。
リコリス・リコイルより“ALIVE”。ドロヘドロより“Welcome トゥ 混沌”
二次創作らしく滅茶苦茶していきますので、お楽しみ頂ければ幸いです。
そこは立方体の形状をした奇怪な一部屋だった。
窓も扉もない完全な密室。椅子や机、調度品は単調極まりない作りで作り物よりもそれらしい。それも無理からぬことだ。この部屋は電脳空間の中で構築された仮想の
二進数で織りなされたデータが創り出す泡沫の仮想空間で、二つのデフォルメされた影が重なる。対面して鎮座するは目に光のない無愛想なリス、それと頭部にサイレンを付けたロボット。どちらも人気の出そうにないデザインからするとマスコットとしては及第点以下というべきか。
突如として、ロボットのアバターが演劇よろしく大見得を切る。
『アラン機関とは!世界的に展開する謎の支援機関だっ。実際、個人か組織かもよく分からんが貧困や障碍などを抱える天才を捜し出し、無償の支援を施している!!スポーツ、芸能、医療に科学、とにかく才能と呼べるモノなら幅広く……いや節操なく手を伸ばしている』
ロボットの如何にも楽しいと言わんばかりに跳ねる声は、無邪気さと幼さ故の悪意が覗いていた。その言葉をくだらないと切って捨てるようにリスのアバターが合いの手を入れる。
『そんな子供でも知ってるようなことを聞きに来たわけじゃない。それとも、お前もその程度の情報しか手にすることはできなかったか?』
『はいはい、とどのつまり殺しをやるような連中では無いってこと──』
『ヤツがボクを消そうとしたことは確実だ』
ダークウェブ、現代の社会基盤を支えるインターネットの裏側に広がる広大な
ウィザードと謳われるほどのハッカーは、その腕に比例して多数の裏社会の情報を持っている。秘匿性の高い技術、何者かの思惑でなかったことにされた事件、知るだけで命を奪われるような情報。したがってハッカーは腕が良いほど、自分の身を守ることに重点を置く。
最高峰のハッカーと目されるウォールナットが手ずから編み上げた鉄壁の守り。
だが、その防衛機構を突破されたという異常と緊急事態。
『問題はどうして、ボクのマンションを特定できたかだ。ただの支援団体が裏の人間の手も借りず、ボクの居場所を特定出来るとは考えにくい』
『ボッカーン!!!』
ロボットのふざけた声と共に壁一面に映し出されるマンションの爆破シーン。
そのアングルは見事なもので、できのいいアクション映画のワンシーンのようだ。
『……良く撮れているな』
元より犯人は限定していたが、まさかその中でも一等厄介な存在が敵に回るとは……。リスは面倒なことになったと機械音声ごしでも分かるほど明確に不愉快そうな声音を作る。
『そうだろう?このためにドローンを新調したからなぁ』
ロボットは嗜虐心と歪んだ優越感を見せた。悪戯っぽく上げられた声に混じる勝利の確信。そう、既にチェックメイトの一手は打たれている。先の爆弾による不確かな一手などではなく、確実に居所を掴み命を奪う王手。
『今いる場所は
その呼びかけは邪悪というには、まだ甘くただそこには子供の悪戯じみた悪意と幼稚な愚かさだけがあった。
『やはり、お前か…………お前がヤツにボクを売ったのか』
ネット黎明期から存在を確認されているウォールナット。その正体は隠され続け、知られているのは世界最高峰と謳われるハッキングの技能のみ。電脳世界において一つの伝説、古豪にして恐れるべきウィザードと呼ばれる域のハッカー。
現実での居場所というハッカーにとって、致命傷の情報を掴んだロボットの被りものをした少年は歓喜の声を上げる。ふんぞり返って笑い続けた彼は椅子から落ちるも、その鈍痛さえ今は笑い飛ばせる。
「特定したぁ!!この国のトップハッカーが入れ替わるときが
ロボ太は遂に目の上のたんこぶであるウォールナットを下し、自分こそが最高峰のハッカーに登り詰めたという実感に酔いしれる。彼は椅子から倒れたまま暗い部屋で一人、自分が頂点に立った喜びを騒がしく噛みしめた。
最高のハッカーという称号。それは余人からすれば、なんとも漠然としたものかもしれない。けれど、今のロボ太にとって全身を駆け抜けるこの歓喜と達成感だけは、何よりも明確に実在するものだった。
例え、それが虚構に過ぎずとも。
千束は非殺傷という主義、信条ゆえ恨みを買った相手に襲撃されるリスクが非常に高い。そのため彼女は都内に幾つかセーフハウスを所有している。
リコリコに通える程度の近さ、アクセスなどで選ばれた拠点の一つ。そこでは、あられもない格好でソファーに寝転がる乙女、というか家主である千束の姿があった。かろうじて、“リリベル”の赤い制服を羽織っているため、上半身に限って言うならば血色の良いピンク色の素肌を隠せてはいる。だが下半身はそうはいかない。スカートもズボンも着ていない下半身は、その蠱惑的で見事な脚線美をした肢体が大胆にも晒されていた。
寝ている千束のソファーから垂れた手は、横で座りながら寝ている作務衣姿の黄理の手をしかと握っている。やがて、朝日が彼女の目蓋を照らす時間になったことで、ようやく千束が目を覚ます。時刻はゆうに普段、リコリコへ向かう出勤時間を超えている。
「やばいやばい!!寝過ごしたぁ!黄理も起きてってば、リコリコまで送ってもらわないと!」
「……ぁあ?スクーターもう直ってるよな?なら、それで」
「知りませーん。ほら、早起きは三文の得っていうでしょ。はよ目覚めなさい」
「じゃあ、千束はとっくに三文損をしてることになるな」
握った手を引き、寝起きゆえに思考の纏まっていない黄理を千束が起こす。蒼崎橙子所有のハーレーをしばらく千束の送迎用に使っていた黄理だったが、スクーターが直ったあともすっかり送迎の味をしめられ、リコリコまでの送り迎えを春先から続けている。
作務衣を着ている黄理は、あっという間にリコリスの制服に着替えていた千束を尻目に、湯飲みに緑茶を入れてホッと一息を入れた。慌てた様子で準備をしている千束と対称的に黄理はのんびりと彼女の支度を待っている。
のんびりと寛いでいた黄理は、千束が脱ぎ捨てた
「──別に代えがないわけじゃないんだが……そろそろ俺の制服、返してくれない?」
「え~、洗濯もしてない千束さんの着た制服の上着、返して欲しいってぇ~?」
「洗濯までは当然だろ、借りたモノはさっさと返せバカ女」
「朝一番にバカ女はひどくないっ!?というか、黄理だって、洗濯してない私の着た服が返ってきた方が嬉しいんじゃないかなぁ~?」
千束は慌てつつもバカ女と言われた意趣返しに、割りと品性のない冗談を投げてくる。黄理の相変わらずの無表情を千束は楽しそうに見ながら、朝の支度を済ませていく。
どうやら、黄理の制服が返ってくる見込みは薄いらしい。
「そーだな。うれしいうれしい。洗濯してくれればもっと嬉しい。というか、時間は?」
壁にかけてある時計は、既にデッドヒートの時間帯を指し示した。
赤い制服を着た千束が慌てている中、作務衣を着たままの黄理はどこ吹く風だ。
リコリコのバイト、それと裏の仕事が控えている千束と違って、今日の黄理は予定がない。橙子の口座に入金が入ったことで給金も無事に支給され、半日のんびりと散歩でもしてからリコリコに向かう予定を彼は既に立てている。
だが、そんな予定もまずは千束を送ってからのこと。
黄理は緑茶を飲み終え、サッチェルバックを掴み飛び出そうとする千束を呼び止めた。
「机の上の紙袋、いいのか?」
「あっ!?そーだそーだ、これを忘れちゃうとこだった!」
「昨日、巻き込まれて選んだ苦労が泡とならなくて良かったよ」
千束が掴んでいるのは“厳選、千束セレクション”と書かれた紙袋。中身は彼女が厳選したおすすめのDVDがこれでもかと入っている。昨晩、夜なべして千束と黄理が選んだブツ、なのだが。
「何故か、俺の選んだものばかり不採用になったのは釈然としないけど──」
「いやぁ、どれも後味悪かったり罠とか血がいっぱい出てくるやつばっかじゃん」
「むっ、さすがに橙子さんよりはマシだと自負してるぞ」
「橙子さん、ホラー一択だもんね。まっ今回は黄理のおすすめは却下ということで。もうちょい、女の子向けの映画でも見て精進するよーに。……そうだ、今日の仕事なんだけど、黄理も私たちの手伝いにこない?報酬いいって話だよ?」
「……護衛、か。いや、そっちにはたきながいるんだろ?だったら、俺の出る幕はないよ。それに護衛は何度やってみてもどうにも慣れない。今回は見送るさ」
「ぶー、どうせ暇ならこっち手伝いにくればいいのに」
「暇を楽しむという大事な用件があるんでね。……まぁ夕方にはリコリコに顔を出しに行くよ。詳しい話はその時にでも。そら、準備が出来たならさっさと行くぞ」
部屋を出て、千束と黄理は駐車場に急ぐ。駐車場には送迎用としてはや
握りしめたアクセルをひと思いに回すと、ハーレーは高らかにエンジン音を上げる。
そのまま、二人を乗せたハーレーは喫茶リコリコへ向けて、朝焼けに照らされた街並みの中を疾走していった。
喫茶リコリコの更衣室でたきなは店の給仕用の着物から、防弾仕様の紺色の制服に着替えた。ロッカーにしまっていたサッチェルバックに銃や予備弾薬を入れ、仕事の準備を整える。任務内容、護衛対象との合流場所、合い言葉を脳内で確認していると、表のフロアの方から脳天気で聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おっまたせぇ、千束が来ましたぁ!おぉ~ヨシさんいらっしゃい。一月ぶりじゃないですか?」
「おや覚えてくれていたんだね、嬉しいよ」
「んぅ、まぁお客さん少ないお店だからぁ、なーんて嘘ですよぉ。たきなの最初のお客さんだもん。忘れませんって。…今度はどんな国に行ってたんですか?アメリカ?ヨーロッパ?あっ分かった中国でしょ!」
たきなはフロアから聞こえてくる楽しそうな千束の声を聞きながら、あの吉松という男性が出て行くのをじっと待つ。此処で自分まで出れば彼女のことだ。より雑談に花を咲かせ、出発時刻が更に延びるに違いない。
ロッカーにもたれかかって、私はフロアの喧噪がいつ収まるかとぼんやりと考えた。
「ざ~んねんロシアだよ。はいこれお土産のクローチカ。なんだか日本っぽくてつい買っちゃったんだ」
「おっふふっ、ロシア土産でなして日本っぽいものチョイス?えへへっ──そうだ、ヨシさんって先生とはロシアで出会ったのっ!?」
まだしばらく話は続きそうだ。ふと更衣室に備え付けられた鏡を見ると、頬には痛々しそうに湿布が貼られている。腫れや鬱血のあとが引いた今では、もう必要はないだろうと一思いに湿布を剥がす。湿布の下は以前と同じような頬をしていた。私は完治したことを確認し、湿布を部屋の隅のゴミ箱に放り込む。
「千束、はやく支度しなさい」
店長の一声が千束さんをようやくたしなめ、ぼやく彼女と違って
千束さんはでんでん太鼓のようなロシア土産を挙げて、吉松氏を見送っている。
たきなは千束が持つロシア土産の形状を見て、思わず千束と同じ感想を抱いた。
“なるほど、確かにロシア土産らしからぬ形だ”。
吉松氏が店を出た後、座敷席で千束さんは非殺傷弾を
「ほいで、どれくらい急ぎ~?」
「現在、武装集団に追われている。我々が話している間にもな」
「ふむふむそれは大変。たきな、もう仕事の話聞いてる?」
「一通りは──」
むしろ、先ほどまで内容を再度、確認する余裕があったほどだが、これを言っても意味はないと自分をなだめる。千束さんが不意に指を指したので、つられてその方を見るとそこには見慣れた紙袋が。
「オッケー。あ、昨日話してたお勧めのブツ、そこに置いてあるから帰りに持って帰ってね☆」
「またこんなに」
今、自分が渋い顔をしているのが自覚できる。こう連日、DVDを渡されても全てに目を通すのは困難だ。おまけに時たま、戦闘や銃撃シーンのない映画も混ざっているため、日常における一般人の行動トレース訓練か、戦闘時における対処と行動のイメージ訓練なのか、私の中で掴み切れていないのが現状である。
せめて、意図するところを教えてほしいが、千束さんにそれを求めてもどうせはぐらかされるのが目に見えている。なら粛々とノルマをこなすだけだ。
「え~、これでもちゃんと厳選したり異物混入を防いだりしたんよ。主に黄理セレクションとか橙子さんセレクションとか」
「?…黄理くんも選んだのは初耳ですが……橙子?確か黄理くんが配属されている支部の……」
その名前には聞き覚えがあった。“蒼崎橙子”、黄理くんが所属する支部の管理人であり、建築デザインだったり、アートも手がけている人だと。リコリコで働き始め、はや一月。確かにそれらしい美人の女性を見かけた記憶がある。
「あ~たきなも会ったでしょ?あのすっごい綺麗でインパクトある人」
「そうですね、とても綺麗な方でした」
「まぁ違う意味でも衝撃的なんだけど……あれっ、ミズキは?」
千束に言われ、私もリコリコの店内を見渡す。おや、いつもはこの辺りで千束の暴走に釣られる形で、文句を言い出すミズキがどこにもいない。行き先を知っていた店長は、鷹揚に彼女が今、担当している任務内容を共有してくれた。
「ミズキは先に出て、逃走ルート確保に動いてくれている」
「張り切ってるぅ。めっずらしい」
「報酬が相場の三倍、一括前払いとあってはな」
「どーりで」「それだけ危機的状況に陥っているということだ」
危機的な状況とあれば、出し惜しみをしないということか。わたしはサッチェルバックを背負い直し、店長が得た情報を無言のまま拝聴する。
「敵は五人から十人程度。プロよりのアマが揃っている。こういう連中は下手なプロよりも面倒だぞ。
店長の警句を聞いた私たちは、依頼者が待つ合流地点へ向かうべくリコリコを出て行く。平穏でゆったりとしたリコリコを出ると、私は意識が戦闘に即したものに切り替わるのを感じる。平穏の中で通っていた血の巡りが凍り付き、私という存在が鋭く尖った
しかし、私の相方はどうやらそういうものとは無縁のようだ。店を出るなり、お腹がすいた、美味しい駅弁は、などと任務に無関係なことを語るとすぐに駆けだしていった。どうせ、一駅で降りて合流場所に向かうのに、なぜそのような無駄をするのか。
まだまだ錦木千束という存在は私にとって謎過ぎる。
そういう謎めいたところが黄理くんと重なり、千束さんがどういった存在なのかと測りかねている自分がいることに最近、気が付いたわけだが……本当に困ったものだ。
そう思い店の前で立ち止まっていると、あっという間に離れた千束さんがこっちを見て手を振っていた。はやく付いて来るようにという合図だろう。
まったく、人の気も知らないで……。
私は怪訝な顔を取り繕うともせず千束さんの後を追って走り出した。
DA東京支部、その司令室にて。
東京のリコリスたちを指揮する楠木司令は秘書である女性の言った内容が信じ切れず、あえて反復して事実関係を確認する。
「ウォールナットが死んだ?……情報の出所は?」
「ダークネットの噂です。正直、何処まで信じていいものか測りかねています。過去、30年で何度もヤツは死んだという情報が流れていますから」
何度も死を騙った存在の死亡情報。死んだというのが事実ならそれでいいが、楠木は腕を組んだまま鋭く光る双眸を窓へ向けた。
「気に食わんな……」
「と、申されますと」
「情報の流れたタイミングがこちらにとって都合が良すぎる」
DAの誇る情報処理AIラジアータ。その侵入に関与したと思しき存在がこちらの手を下すまでもなくあっさりと死んだ。あまりにも都合が良すぎる。情報戦において、この手の都合が良すぎるものは迂闊に信じていいものではない。
楠木は気味の悪い悪寒が背筋に這い寄るのを感じた。そう、情報戦は確信と疑念のバランスが崩れるときが最も恐ろしい。信じるべきか、と浮き足立ちそうになる自我を抑え、楠木司令は愚痴とも言えぬ戯れ言を繰り、ため息を吐いた。
「得体のしれんヤツだ。抜かれた情報もろとも消えてくれたなら大助かりだが、
「……司令、リコリコから提出された写真の解析結果が出ました」
ウォールナットの件は現状だとあまりにも未確定要素が多すぎる。これ以上の進展を望めないと見るや、秘書は現状で進展のあった銃取引に関する写真を楠木司令へ渡した。
「取引は三時間前に行われていた……偽情報を掴まされるとは、我々も焼きが回ったな」
自虐と嘲笑の混ざった声に秘書は相づちも打てず、その場で背筋を正す。ああ、この状況では手の打ちようがないのは事実、しかして此処にいるのはDAより首都、東京の治安維持を任されたリコリスの長。
楠木は急に椅子から立ち上がると乱れてもいない襟を整えて、司令本部に向かう。そして、彼女は鋼鉄の女に相応しい鉄面皮のまま、己の覚悟を言の葉にして口を開く。
「取引は確かに行われていた。……だが事態はまだ動いていない。……ならば、ここから巻き返すまでだ」
桜が散りゆき季節は春とも夏ともとれない中途半端な時勢となった頃、黄理は近所の公園の木陰で眩しそうに日光を浴びる。刃物や罠の収集といった物騒な趣味を持つ黄理も、健康的な趣味、とまではいかずとも習慣としている行為があった。
それが、この日光浴もどきである。
日の光を浴びるのが目的というより、自然の中で“自分の認識”を微調整しているのが適切な表現といえる。最も本人はそれを意識しておらず、ただ落ち着ける環境でじっとしているのが黄理自身の認識だ。死という極大の異常を感じて崩れる認識を、自然の中で微調整、もしくは再構築を行う。
それはまるでアップデートを行うシステムじみた行為に近しい。
もっとも、やっている本人からすれば単に気持ちが良いから、そうしているだけに過ぎない。
無表情ながら、柔らかな表情をして黄理は春先の木漏れ日を気持ちよさそうに浴びている。木漏れ日は
リコリコでの騒々しさも結構なことだが時々、空虚さで身を満たしたくなる。
視界には、公園を利用する者たちの様々な思念が極彩色に
どの思念の色彩も命の危機を感じたときの濁り方をしていない。幼児のもの、その母親のもの、公園を走る若い男のもの。どれも平和を甘受し、自分が何者にも脅かされるという考えを持たず平和とやらを過ごしている。
仮初め、薄氷の上、そんな曖昧なものの上に作られた平和でも、そこで暮らす人々にとっては何の関係もない。当然、自分自身にとっても無関係なわけだが、今の思念の色彩はなんだか妙に落ち着くもので不思議と視ているだけで嬉しくなってくる。
傍目からだと感情の揺れ動きがほぼ見えない黄理は内心、上機嫌のまま眠りにつこうとする。その時、彼は視界の端に妙な思念の流れを見つけてしまった。暗色系の濁った思念、命の危険や攻撃的な思念の発生。
黄理は木陰から身を起こし、作務衣にできた寄りを軽く腕を伸ばして正す。そのまま彼は妙な思念の流れがある方に向かう。どう考えても荒事の予感がする方向、君子危うきに近寄らずというなら、間違いなく愚かな真似をしている。それでも、機嫌良く眺めていた公園内の思念の色彩を台無しにされ、黄理は言語化できない激情に駈られていた。
彼は認めないだろうし、そうとも捉えてはいない。
けど俗っぽく、そして有り体に言うなら、黄理は“苛立って”いたのだ。
作務衣の
黄理の視線は剣呑に細められ、急速に近づいてくる思念の持ち主を待った。“事と次第によってはたんこぶ程度では済まさない”。そう考えて彼は棍を逆手に持ち直す。
公園の木々が集まって生えてる場所は遊具もなければ、ベンチもない殺風景な場所。子供も大人も立ち寄らず、開発と予算の関係で隅に追いやられた樹木のためのスペース。そんなところで物騒な思念を漂わせて、“あの人”は誰と争っているのかと黄理は顔を上げた。
そうして、黄理は一生忘れられない出会いというものを“体感”する。これまでの18年の人生の中で最も衝撃的な出会いと断言できる
「はぁっ?いや待て待てっ!」
この日、七夜黄理はリスが運転する乗用車に
次回投稿は火曜日の夕方を目安にしていきます。なお、今週、とは明言しない作者のチキンっぷりをどうか笑って許してください。
なんとか、火曜までにはっ!