Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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 今回の妄想アイキャッチは巫女衣装の千束・たきなと、狩衣を着た黄理。
 
 アーマードコアが発売されるより先にある程度のところまで纏めておきたい。今回のパートが終わったら、次にオリジナル回をまた挟みます。オリジナル回のアンケートを行いますが、最終的には全て書く予定、アンケート結果の順番に書いていく所存。どうか、気になるものがありましたらアンケートお願いします。



Nothing seek, nothing find【3】

 

 千束は幼子のように瞳をキラキラと輝かせ、浮かれた調子で口を開く。

 

 

「フランボワーズ&ギリシャヨーグルトリコッタダッチベイビーケークとホールグレインハニーカームバターwithジンジャーチップスで♪」

 

「「なんて?」」

 

 喫茶店の屋外席に腰を着いたわたしと黄理くんは千束が一息で言い切った呪文さながらの注文に目を剥いていた。分かることと言えば、やたらと長い注文名以上の熱量(カロリー)を叩き出すであろうこと。それだけは食べる前からして明白だ。

 

 正直、味の心配よりも完食できるのかどうかが気になって仕方ない。

 

「名前からして熱量(カロリー)高そうですね…」

 

「というか、本当に食べきれるのか?」

 

「野暮なこと言わな~い、女子は甘い物に貪欲でイイのだ☆」

 

「別に甘いものっていうなら寮でも食えなかった?」

 

 黄理くんがそう言ったのを聞いて、わたしはリコリスの寮で食べることのできた甘味、かりんとうのことを思い出す。

 

「ええ、支部での食事だって美味しかったですよ?ほら、あのかりんとうとか。……そういえば、リリベルでもかりんとうが支給されたんですか?」

 

「いや、リリベルだと黒糖飴だった。任務によっては、標的が出てくるまでじっと待機したりする必要があったし、そうなると持ち運べて保存が利く飴が良いって話で黒糖飴を携行してそれで一週間を乗り切ったりとか……」

 

「だぁぁ~、甘味に効率とか、利便性とか求めるのはナシだっての!それ野暮以前の話だかんね、二人とも!大体、DAはなんでせっかくの甘い物(スイーツ)を黒一色にしちゃうかな!」

 

「かりんとうだからでは?」

「黒糖だからだろ?」

 

「そう言う話じゃなーい!」

 

 ぺたり、とテーブルに吸着し怠慢な姿をさらす、“最強のリコリス”。わたしはテーブルに貼りついて文句を言ってる千束を見て、強さってなんなんだろうと答えのでないことをつい考え始めてしまう。

 

 しばらくして顔だけを上げた千束は思い出したように寮の食事を(つかさど)る者の出自について、上の空で呟いた。

 

「そういえば、寮の料理長って元宮内庁の総料理長だったっけ」

 

「それってすごいんですか?」

 

「別に誰がどう作ろうと、まずくなければ同じじゃないか?」

 

 確かに。

 

 黄理くんの言うことは極めて本質を捉えていた。いかに宮内庁、というのが素晴らしいネームバリューだとしても、実際の食事の栄養素に変化があるわけではない。あまりにも鋭い指摘に、思わず千束も瞑目して、怒ってる?

 

「とりあえず、黄理は全世界の料理人に土下座してくるがよい。あふ~、そういうんじゃなくて。もっと食生活ってのは華やかで(いろど)りがあって、なんというか~自由で、救われてなきゃダメなのだ」

 

「そんなん、食事に求める領域じゃないと思うんだけどな」

 

 ハイハイ、と黄理くんの風情に欠けた発言を袖にして千束は肩を落とす。

 

「でも、あの料理長さん。スイーツ作ってくれないからなぁ~。永久にかりんとうだから。これでもかってくらい、かりんとうは食べ尽くしたよ。もうかりんとう免許皆伝だって」

 

「皆伝の(くだり)は知りませんが、あのかりんとう私は好きですよ」

 

「えぇ~、十年あれはさすがに飽きる!いくら美味しくても、やっぱりあれだけってのはクるんだよ。こう心?というか、舌へダイレクトに」

 

 朗らかになんてことのない話題で盛り上がっていると会話の箸休めというようなタイミングで千束の注文がやってくる。

 

「わぁい!待ってましたぁ!美味しそう~☆」

 

「……デカいな」

 

「これ全部、糖質って考えるとすごいですよね」

 

 千束の注文したものは全体的に色彩豊かで、美しく、見るだけでもお腹いっぱいになりそうなほどの凄まじいボリュームをしていた。視覚的にも、香りからしても“甘い”というのが口に入れずとも分かってしまう。

 

 思わず千束の食べようとするスイーツに無粋な苦言を口にしてしまったが、ナイフとフォークをうきうきと持つ彼女はわたしと黄理くんの視線を真っ直ぐに見返し、美味しいモノについての解釈を述べた。

 

「ハイ、そこのグルメビギナーコンビ!あのね、人が一生の内に食べられる量ってのは決まってるの。だからこそ、全ての食事は幸せであれ~☆」

 

「美味しいのは良いことですがリコリスとして余分な脂肪はデメリットになります」

 

「太るぞ」

 

「ぜ~~ったい、太らん!食べた分、走る!その価値がこれにはあるのぉ、おいひぃ~」

 

 黄理くんのとてつもなく鋭利な指摘を食い気味に否と切り捨てる。

 

 そしてスイーツを口にした千束の顔は一瞬で緩み、幸せそうな笑みが零れる。そのまま、千束はわたしと黄理くんにもスイーツのお裾分けをしようとしてきたのだが、後ろの席にいたフランス人のカップル?いや夫婦らしき観光客がメニューを広げて困っているのを見て、隣の席へフラフラと行ってしまった。

 

「見ず知らずの相手に助け船を出すの、ホントに好きだよな。千束……」

 

 呆れた態度を隠そうともしないのに、黄理くんの目には確かな信頼の光が宿っている。淡く、ふと瞬きをすれば消えてしまいそうな微かな光。それはどういう感情の発露なのか、上手く言葉にできない。でも、なんとなく千束以外の人間が見てはいけないのかもと、わたしは無意識に視線をそらした。

 

 視線をそらした先には、テーブルの一角で存在感を放つスイーツが──

 

「食べていいんですよね?」

 

 

 

 “太るぞ”。

 

 先ほどの黄理くんの発した言葉が脳裏で鮮やかにリフレインされる。

 

 ぴたり、フォークの先端が凍り付いたように急停止。別に一食程度で太るほどの大雑把な栄養管理はしていない。けれど、なんというか千束だけならともかく、黄理くんに食事風景を見られるのは、ほんの僅かな抵抗があった。

 

 不自然にスイーツの真上で止まったわたしのフォークを見た黄理くんは、静かにスイーツを自分のフォークでとって、わたしの口元まで持ってくる。

 

 一瞬、“どういうことなのかな?”と思考が空回りするが、黄理くんが食べるようにと促しているのだと遅れて気づくことができた。

 

「食べた分以上に動かされるんだから、食べとかないと後々に響くぞ。ほら」

 

「──えっ?」

 

 差し出されたスイーツを前に視線をあちらこちらに迷わせてしまう。挙動不審なわたしを目にして、黄理くんは不思議そうにフォークの先端を見る。

 

「食べないのか?」

 

 澄んだ蒼黒の瞳の圧に負け、意を決して黄理くんが出してきたスイーツを口にする。

 

 味は……

 

 本当は甘かったのだろうけど、わたしにはそれを感じる余裕がなかった。

 

 コクリ、と音を出さないよう慎重に嚥下(えんげ)する。

 

「おいふぃ、です」

 

 味なんか、分かるはずもない。舌にじんわりと伝わる味覚よりも、カァッと頬に集まる熱で思考は支離滅裂としている。

 

 だけど、うん。

 

 千束の言う幸せの味は確かに感じ取れた。

 確かにこれは────

 

「あ~~~!!」

 

 キーン、と良く通る綺麗な高音が鳴り響く。観光客のヘルプをして戻ってきた千束が高らかに上げた声だった。むすりとふくれっ面で、瞳を潤ませた千束がこちらを見てくる。

 

「たきなだけズルい!」

 

「ずるいって……子供みたいな駄々を言わないでください」

 

 ご機嫌(かんば)しくない千束を見て、黄理くんはやれやれと頭を掻いた。

 

「千束、お前。そんなお腹が空いてたの?」

 

「まだ沢山あるので欲張る必要はありませんよ?」

 

「ちっがうわっ!」

 

 

 よく分からない理由でむすっとした千束を、黄理くんとわたしの二人がかりで(なだ)(すか)す。最終的に、黄理くんとわたしが千束にスイーツを食べさせるという意味不明な状況の末にどうにかこうにか千束の機嫌は回復したのだった。調子の良いことにご機嫌になった千束は、こちらに周知していない次の予定を楽しそうに立て始める。

 

「さてっ、これ食べたら良いとこに行きま~す☆」

 

 満面の笑みでスイーツを美味しそうに口にする千束を見て、心にさわさわと涼やかな風が吹き抜けたような気になり思わず口角が緩んでしまう。そういえば、先ほどはスイーツをちゃんと味わうことができなかったのを思い出し、わたしはフォークをそっと手に取った。

 

「千束。わたしにも、もう一口わけてください」

 

 

 

 

 

 リコリコの奥座敷ではVRゴーグルを被って、畳の上を彷徨うようにちょこちょこ歩くクルミの姿があった。今、クルミの目には3Dモデル化された銃取引の現場が映っている。廃墟と化したビルのワンフロアに集まっているツナギの男たち、そして、その中で唯一異なる色彩を纏った人影。

 

 黒いロングコートにピンク色のやたらと目立つシャツを着た男。

 

 この男こそが事件の鍵だと直感するのに時間はかからなかった。

 

 クルミは男の側へと寄っていく。だが、高度な3Dモデリングの裏目が此処に現れた。要するにゴーグルを付けたクルミの視野に大きく左右されるというポイント。明らかに他のツナギ連中とは異なる存在感を放つ男の顔は、クルミの背丈だと視認することが出来ずにいた。

 

 クルミは足りない視野角を補うために、持ってきた椅子に乗って男の面相を確認しようとする。椅子に乗って、さて男の顔でも見てやろうとして──

 

 ぴこん、とVRゴーグルの通知を報せるアイコンが飛び出てくる。

 

「おわっ!?」

 

 急に出てきたアイコンに面食らったクルミは、後ろからひっくり返るように椅子を転げ落ちた。幸いなことにクルミの体躯は小柄であったことと、背面から落ちたために少し背中に鈍痛が滲む以外の支障はない。

 

 それでも、落ちたことや痛みがあるのは腹立たしいと頬を膨らませ、クルミは出てきたアイコンからデータを開く。アイコンのタグには“ベイビーマグナム”とだけ書かれている。ウサギのマスコットを象徴とする“ベイビーマグナム”。ダークウェブ、アメリカ方面におけるウォールナットの同類、すなわちウィザード級のハッカーからの情報提供。

 

 クルミはそれを見て、手慣れた所作で送られたデータ内のウイルスチェックを済ませ、安全なことを確認すると情報を閲覧する。先日、蒼崎橙子より依頼された黒い未知の金属で作製されたナイフの材質、及び製造元の捜査。手がかりとなる黒の金属のデータを幾人かの腕の立つ同類たちへと送り、情報提供を募ったのだが、これほど早く情報が見つかるとは。

 

「どれどれっと……」

 

 情報は黒の金属が持つ特殊な元素構造と“人工的”な痕跡を纏めたもの。また、それに類似するMIT(マサチューセッツ工科大学)に残っていたある論文のデータが纏められていた。論文は冒頭からして、非常に専門性が高い数式や元素式が書かれている。本格的に調べるとすれば一晩はかかりそうだと軽く目を閉じてから、クルミは論文の作成者の名前を視線でなぞる。

 

「Sumire……Muroto。日系、いや日本人か?」

 

 

 

 

 

 千束の後について行ってみると、ついていった先は都内の水族館。券売所を抜けて、たきなは水族館内と外との隔絶した空気感に圧倒される。水族館の中は、ゆらゆらと煌めく青い光に照らされて海の底のようだった。しかし、水中での息苦しさは当然のことなく、ただ蒼い静謐(せいひつ)揺蕩(たゆた)っていた。

 

「此処が千束のいう良いところ?」

 

「そのとーり!綺麗なところでしょ?わたし、すき~」

 

「まぁ、季節ごとに展示されてる魚が変わるから飽きはしない感じだな」

 

 黄理くんと千束はスムーズに入館していたことから、一度か二度、あるいはもっと来たことでもあるのかとふと思った。

 

「二人とも、よく来るんですか?」

 

 わたしの疑問を聞いた千束はややもったいぶった動作で小型のバッグから一枚のカードを取り出した。

 

「年パス~。気に入ったら、たきなもどうぞ~☆」

 

「まぁ、見てるだけで色々と面白いから、たきなも興味が湧いたら試してくれ」

 

 黄理くんもまた千束と同じく水族館の年間パスポートを無造作に取り出し見せてくる。二人とも持っているのに、私だけ無いということが妙に引っかかり、わたしは券売機の方へと戻っていく。

 

「今すぐ買ってきます。少し待っていてください」

 

「決断はっや!」

 

「……たきなってあんな行動力あったっけ?」

 

 たきなの即断即決を前に、千束と黄理たちも券売機の方へとんぼ返りする事となる。

 

 

 

 

 

 

 わたしたち一同は券売機方向にUターンしてから、水族館を楽しみ始める。

 

 水槽の向こうに住まう魚たちは、どれもそれを鑑賞すること自体が非日常。それも、血と硝煙が絡まない非日常なのだ。普段はピシッと気を引き締めているたきなも、なんだか雰囲気が普段より柔らかい。

 

 そんなご機嫌のたきなは淡い水の色を放つ水槽等を見て夢中で目を輝かせている。黄理とわたしも、入れ替わった展示に心を躍らせながら、先行するたきなに付いていく。

 

 しばらくしてタツノオトシゴが展示された水槽の正面で、たきなは真剣な表情のままタツノオトシゴの生態を調べていた。

 

「どしたの~?」

 

「これ、魚なんですって」

 

 意外な話を聞いた。てっきり、普通の魚類とはまた違った種かなんかだと思っていたけど、この小さな竜っぽい子も立派な魚だったのか。

 

「へぇ~、ウオだったのかコイツ~」

 

「……味は?」

 

「観賞用ですよ、黄理くん」

 

「てゆ~か、これに可食部ある?」

 

 いつも通り過ぎて、もはや何も言えないが黄理もいつも通りの調子らしい。というか、こんなの綺麗なところに住んでいるおさかな見て、美味しそうなんてことふつう考えるかね!

 

 真っ先に食べられるかというところから、思考がスタートしてしまう黄理の脇腹に軽く肘を入れる。触れるか、つつかれる程度の衝撃に、黄理はなんで叱られたのかと眉根をひそめて、やれやれと首を振る。

 

「それは兎も角。この姿になった合理的な理由はあるんでしょうか」

 

「ご、合理?理由?え~っと……」

 

「なんかあるでしょう」

 

「そうだな、でないとこんな面白いカタチにならないか」

 

 熱心にタツノオトシゴの生態を調べるたきなを微笑ましそうに黄理が見つめている。なんだか、黄理がお兄さんぶりたいように見えてしまって、思わず笑ってしまう。急にクスクスと笑う千束とタツノオトシゴに視線を行き来させ、たきなと黄理は笑うほどに面白いのかなと同時に首を傾げた。

 

 

 

 

 しばらく進むとまた色物、というか特殊な形をしたチンアナゴの展示水槽にたどり着く。ゆらゆらと水中をゆらめく姿は形状だけなら陸上のつくしに類似する。水流にあおられて、ふらりと揺れ続ける生態は言葉をなくして、じっと見てしまう不思議な魅力があった。

 

「これも魚ですか、んぅ?」

 

 訝しげな声をたきなは上げ、横にいる千束の奇妙な動作を視界に捉えた。

 

「なにしてるんですか?」

 

 両手を挙げ、全身を揺らめかすチンアナゴの真似にたきなは不思議そうな目でこっちを見てくる。あれ~、面白くないかな~?

 

「え、チンアナゴだけど?」

 

「人が見てますよ、目立つ行動は……」

 

「なんで?」

 

 だって、面白いし楽しいのだから、特に問題はナシッ!

 

 のはずだけど、たきなは呆れた目を隠すことなく、わたしたちが何者なのかというところから追及を始めてきた。

 

「なんでって、私たちはリコリスですよ」

 

「制服着てないときは、リコリスじゃありませぇん~」

 

「……もう、黄理くんからも何か言ってください」

 

 そういうと黄理は神妙に考え込んで、普段の緩んだ調子とはかけ離れた真面目な様子で口を開く。

 

 

 

 チンアナゴの方を見ながら。

 

「言うこと?……じゃあ、こいつらって煮るの?焼くの?」

 

「食べないでよ?」

「食べないでください」

 

 

 お腹すいたんか、黄理?

 

 わたしは顔を上にあげ、さっきの喫茶店でもっと黄理に食べさせておけばよかったなぁ、みたいなことを考え、たきなと顔を見合わせて同時に吹きだしちゃったのでした。

 

 

 

 

 チンアナゴコーナーを抜け、ゆっくりと流れゆく時間を堪能するように水族館内を歩いていると不意にたきながあることについての話を切り出す。

 

「千束…」

「ん~?」

 

「あの弾、いつから使ってるんです?」

 

 あの弾、というのは赤い粉塵を華と咲かす非殺傷弾のことだろう。そういえば、とわたしはあの弾の使用方法はたきなに話していても、使うようになった原点(オリジン)は話していなかったことに気づく。

 

「なーに?そんな急に」

 

「旧電波塔の時は?」

 

 たきなは大体のことを察しているようだった。けど、時系列はちょっと違う。“旧電波塔で何かあったから”ではなく、電波塔事件以前に生き方を変えるほど重大なことが二つほどあったために、わたしはあの非殺傷弾(赤い弾丸)を使っているのだ。

 

「────それよりちょっと前。黄理と模擬戦して、しばらく経ってからせんせいにお願いして作ってもらったの」

 

 そう言って、黄理の方に視線だけで水を向けると、黄理の方は電波塔であの非殺傷弾を初めて見たということに思考が追いついたらしい。たきなはそれを聞いて、黄理の方に目線を向ける。

 

「ということは、あの弾は黄理くんの仕業(しわざ)?」

 

「人聞きが悪いけど、あいにくと俺は知らないぞ。気が付いたら、もう千束はあの弾使っていたし……そういえば殺さない方の理由は聞いていても、あの弾を使う理由って聞いたことなかったな」

 

「……何か理由があるんですか?」

 

「なにぃ?わたしに興味あるのぉ~?」

 

「タツノオトシゴ以上には……」

「チンアナゴの味よりも?」

 

 茶化すような誤魔化しの言葉に、プイっと身体ごと方向転換。あっちゃ~、たきなが拗ねちゃった。そのまま黄理の服の裾、向日葵の柄を掴んで上目遣いをして質問の対象を変え、もう一度問いかけをする。

 

「茶化すならいいです。黄理くんはご存じなんですか?」

 

「えぇ~千束さんのことを知りたくて、なんで黄理にインタビューしちゃうの~」

 

 たきなの質問を受けた黄理は、神妙そうな顔のまま首を横に振る。

 

「……さっぱり分からない。まぁ、分かっていたとしても千束のことは千束の口から語ってもらわないと意味ないだろ?」

 

 黄理は裾を掴んでいるたきなの手をそっと手に取って、そのままたきなの頭の上に持っていく。あからさまな子供扱いに頬を膨らませるたきなだが、黄理の言うことももっともだとわたしの方に体を向け直した。

 

 黄理とたきなは黙って、わたしの次の言葉を待つ。

 

 こんな期待されたら、さすがに黙っているわけにもいかないか。

 

 

「……気分が良くない。誰かの時間を奪うのは気分が良くない。そんだけだよ」

「気分?」

 

「そ、悪人にそんな気持ちにさせられんのはも~っとムカつく。だから死なない程度にぶっ飛ばす。あれ、当たったら滅茶苦茶痛いのよ、死んだ方がマシってくらい」

 

 強い信念とは裏腹のあまりにも不真面目な理由にたきなはこらえきれず、くすくすと笑い出してしまう。相変わらずというか、いいやこの場合は予想通り過ぎたためか。

 

「なんだよ~、へん?」

 

「いえ、もっと博愛的な理由かと。それに当たったら死ぬほど痛いって、撃ってる本人じゃわからないでしょ?」

 

「…アー、うん。アルヨー、あるある。あの弾、当たったこと──」

 

 たきなとの話で思わず話してしまったが、あまりにも非現実的な状況と場面ゆえにどう説明しても、たきなに信じてもらえる気がしない。黄理もわたしが非殺傷弾を撃たれた、というか黄理が撃ったとこを思い返しているのが傍目からでも分かる。

 

 誰が地上100m以上の高所で落下中に非殺傷弾を食らったなどと信じるだろうか?

 

 創作にしたって、盛りすぎだと言われそうだ。

 

 

 説明をしていないたきなには事情が不明のため、不意にわたしや黄理が考え込むように黙ったとしか見えなかったようだ。

 

「?……まったく、千束は謎だらけです」

 

「おっ、Mysterious girl(ミィ~ステリアス、ガール)!?そっか~、そんな魅力もあったか、わたしぃ~」

 

 華麗にくるりとワンターンを入れると、テンション低い黄理が平熱のままツッコミを入れてきた。

 

「謎っていうか、単に閃きと気分で動くバカの(たぐ)いだと思うけど」

 

「バカゆーな。黄理だって、反射と直感で動くおばかさんでしょ~が」

「千束よりはマシだよ」

「似たもの同士というのでは?」

 

 たきなが切れ味のいい指摘をかましてくるが、いやいや黄理の方がひどいって。わたしはまだ、自分にできることと届かないことを知っている。それに実践だってしてるつもりだけど……黄理は違うのだ。

 

 いいや、これ以上はやめておこう。此処で深堀りし過ぎる話ではない。それにこれは黄理の、“迷い”の話にも繋がる。だとしたら、たきなの興味を別のところへ持っていかなくてならない。こういうのは騙しているようで気が引けるけど──

 

 仕方がないよね。

 

「実際、黄理の言う通りだよ」

「えっ千束、バカなんですか?」

 

 前言撤回、引けてた気が波のように戻ってきました。

 

「そこじゃね~ヨッ。ほら、私の信条ってヤツ」

 

「……“したいこと、最優先”?」

 

「おっ、覚えてた~?」

 

 その通り、やりたいことはいつだって最優先。だからこそ、わたしは今、こうしてリコリスでありながらリコリコという日常に生きている。

 

「では、黄理くんと千束がDAを出たのも──」

 

「ん?」

「おや?」

 

 黄理とわたしの不思議そうな声を聞いて、むしろたきなの方が不思議そうに尋ねる。

 

「だって殺さないというだけなら、二人ともDAでも出来たでしょう?」

 

「あ~~」

「まぁ、普通はそうなるよな」

 

「それも?そうしたいって、全部それだけ?」

 

「俺の方は成り行きなんだけど…」

 

 確かに黄理はDAに居たままでも支障はなかった。けれど、旧電波塔のときからわたしとの誓いをしたことで彼にDAでの立場がなくなったわけである。いや、虎杖さんの態度を見るに黄理が本人の意思で残ろうとすれば、残留は認められた気がしないでもないけど……

 

 でも、黄理とは違い、わたしにはDAを出奔する明確な理由があった。

 

 まぁ、DAを出ることになったのは黄理と同じ成り行きなんだけど。

 

「──人捜し」

 

「えっ……」

 

「会いたい人がいるの。大事な、大事な人なんだ。その人を捜したくて、さ」

 

 わたしは首にかけていた金色に鈍く光るフクロウのチャームを取り出す。

 

 それは世間に疎い、たきなにも心当たりがあるほどに有名なある機関の関与の象徴。

 

 “アラン機関”。

 

 才ある者たちへ不遇な環境、条件を覆すため支援を行う非営利の謎の組織。

 

 アラン機関に支援を受けたアラン・チルドレンの証明でもあるチャームだった。たきなはぱちりと信じられないような顔でチャームを見ている。そして、初めてこれを見た黄理はというと……

 

 

「あれ……千束のそれって俺のと似てるな?」

 

「へっ?」

 

 わたしがチャームを取り出すと、珍しく装飾品を身に着けてきた黄理もそれに倣うように首元の飾り紐を引いて、シャツの内側にしまっていたチャームを取り出す。それはわたしが首にかけていたものととてもよく似て、いいやまったく同じ形状のチャーム。

 

「えっ?」

 

「ちょっ!?」

 

 たきなとわたしは黄理が雑に持っているチャームを見て驚きの声を上げる。黄理がなんとなしな適当さで取り出したのは、わたしが持つチャームと全く同じアラン・チルドレンの証明。フクロウのチャームだったからだ。

 

 

オリジナル回のエピソードについて

  • 結婚式
  • パンダ捕獲作戦
  • 半額弁当争奪戦
  • ordinary days編
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