Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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Nothing seek, nothing find【4】

 

 黄理の手中にあったのは千束が取り出したものと同じフクロウのチャーム。

 

 たきなと黄理にとって予想外と思われるタイミングで千束は自身の秘密を曝露した。……したはずなのだが、それとまったく同時に、同様の秘密をなんでもないかのごとく曝露し返された千束は堪忍袋の緒が爆散していた。

 

「なにそれ!?わたし聞いてない!聞いたこともない!」

 

 七夜黄理と錦木千束はいわゆる幼馴染の関係だ。七歳の頃に生きるか死ぬかの瀬戸際を共有し、それからはDAと離れた喫茶店と興信所もどきでお互いの仕事の手伝いや生活に関わっていたりする。

 

 千束は黄理の好きな色とか誕生日、識別番号など、洋服や装飾品が苦手とか色んなことを知っているつもりだった。

 

 だというのに千束が知りもしなかった黄理の情報、しかも自身にとっても重大な意味を持つ情報の開示には流石に黙っていられなかったらしい。

 

「聞いてないって、これそんなすごい話に繋がるものなのか?」

 

「一応聞いておきますが……黄理くん、そのチャームがどういうものか、知ってます?」

 

「──ただの首飾りじゃないの?」

 

 感情が飽和し言語化できなかった激情のあまり、クラっときた千束は黄理とたきなの手を取って、近くの椅子がある休憩スペースに身を寄せる。

 

 

 たきなと黄理が対面に座ったところで、千束はスマホを操作してフクロウのチャームが何を表すのか、それが掲載されたネットニュースを二人に見せる。

 

「ええと、あらん機関?“貧困や環境に苦しむ天才を見つけ出し、匿名のもとに無償の支援を行う”とされる謎の支援機関…………なんだこれ、胡散臭いな」

 

「そのアラン機関と関係するチャーム(証拠品)を持っていて、言うようなセリフじゃないですよ。黄理くん」

 

 “ふーん”とどうでも良さそうに、黄理はチャームを人差し指にかけ、くるくると指先で遊び半分にいじっている。とてもじゃないが、世界的に活躍できる才能を持つ人物の証明ともいえる物品に対する扱いではない。

 

 たきなも千束も何とも言えない態度でハラハラとチャームを見つめている。

 

 そんな二人の視線をものともせず、脱力した姿勢で黄理は首を傾げた。

 

「そんな大層なものってのは知らなかったけど、俺に関しては支援とかされた覚えがないぞ?七歳のころからずっとリリベルの寮で過ごして、電波塔の事件で“伽藍の堂”に飛ばされてから、衣食住に困ってもないし……」

 

「じゃあ、それいつ頃もらったわけ?」

 

 そう、わたしが気になるのはそこだ。確かに黄理がアラン・チルドレンということは知らなかったし、教えてもらってないのも腹が立つ。けれど、それは黄理にわたしもアラン・チルドレンだと言っていれば済んだ話なのだ。だから、思うところはあるが此処はグッと我慢して時系列を整理しなくては。

 

「確か、七歳のとき。たきなと初めて会った京都の事件が終わってリリベルの寮に戻ってからだな。気が付いたら、部屋に置いてあった」

 

「えっ、まさかこのチャームって、京都土産?アラン機関って京都にあるの?」

「無いです。冷静になってください、千束」

 

 慌てふためいている千束は、そこで黄理とたきなの初めて会った事件というのに思考の焦点を合わせることにした。

 

「そうだ。京都の事件って、なに?」

 

「“そうだ、京都行こう”みたいなノリで聞かれると、調子が狂うな」

 

 黄理の場違いな発言に思わず内心で頷きかけてしまいそうになるが、今はそっと話の続きを促す。真剣な眼差しを受け、黄理の横に座っていたたきなは瞑目してから数年前の事件についてのデブリーフィングを滔々と話し始めた。

 

「わたしがまだ京都のリコリスだったとき、京都市街で連続爆破事件がありました。その事件は被害の隠蔽ができていたのですが事前に死傷者や被害などをあまりにも正確に予告する異様な手口から、未来予知の爆弾魔と呼ばれていた、らしいです」

 

「らしいって、んな他人事な……んっと、ちょっと待った?あれ、なんかそれどっかで聞いた覚えが……」

 

「あぁ、そういえば旧電波塔事件で犯人側が立てた計画も、京都の事件と関わってたな」

 

 黄理の何気ない言葉に、二人の少女が無言でおっかない視線を向けてくる。

 

 穴が開きそうなほど鋭くとがった視線を受け、黄理は腰を引かせながら事情の説明を始めた。

 

「…えっと、京都の未来予知をする爆弾魔の事件も、電波塔の事件も結局はラプラスって機械が関わっていた、はずだけど」

 

 ラプラス、たきなも千束もその単語には非常に聞き覚えというやつがある。ラジアータと正式運用されるかどうかを争ったとされる高精度の予測演算機器。テロ、事件や違法な薬物、銃器の取引など数々の問題をデータさえ揃えることができれば、完璧な予測をするという画期的なデバイス。

 

 わたしは反応から見て、たきなもラプラスについて知っていることが分かった。

 

 と、いうか……

 

「電波塔の事件と京都の事件って、繋がりがあったの!?」

 

「まさか、あのときの事件が旧電波塔事件に関係してるなんて」

 

「びっくりだな」

 

「……なら、もうちょいびっくりした声量出せ~い」

 

 リコリコに来る前から、たきなも黄理も、わたしもへんてこな縁で結ばれていたのか。まったく、事実って本当に奇妙な成り行きの上にあるなぁ。

 

 こめかみを抑え、わたしは目線で黄理に話の続きを求める。

 

 たきなも京都から戻った黄理がどういう経緯でアラン機関のチャームを手にしたのか、詳細を聞きたがっていた。

 

「……期待されてるとこ悪いけど、事件の後からは特に話せそうなことはないぞ。さっきも言ったけど、京都から戻ってみれば寮に置いてあった。こう、机の上に無造作に。誰が渡したかも分からない始末だったんだぞ?」

 

「……そのとき、黄理って何かすっごい困ってたことあった?」

 

「困ってたことかぁ。……京都に上着とか鞄を置いてきちまったこと?」

 

「いやいや、そういうミニスケールのことじゃなくて…あれ、たきな~?」

 

 黄理が忘れ物リストを指折りで数えだしたとこで、たきなの身体がビクッとわずかに跳ねるのが見えた。

 

「あっ、はい。何かありましたか?」

 

「うんにゃ、なんか急に考え込んでたから、どしたのかなーって」

 

「…京都にいた当時のことを考えていたのですが、チャームとは無関係ですので気にしないでください」

 

 たきなは大丈夫だというので、敢えて深掘りをせず此処らで引き下がる。さて、肝心の黄理の話だが、“京都から戻ってみたら、チャームが手に入った”という渡してくれた人に結び付きそうな情報が一切ない。同じチャームを持っているから、もう少し救世主さんに繋がる話でもゲットできるかと思ったが簡単にはいかないようだ。

 

「あ~、映画なら、ここから一気にラストに向かって諸々の謎がドミノ倒しになるパターンだと思ったのにぃ~」

 

流石(さすが)に無理だと思う」

 

「そんな都合よくはいきませんよ」

 

「ちぇ~」

 

 まっ、そうだよねぇ。

 

そんな都合よく見つかってれば苦労はないし。本格的に手詰まりかなー、と考えだしたところで、たきながわたしの顔を覗き込んでくる。

 

「千束、黄理くんの方の情報整理が終わったなら、千束のときはどうだったんです?どういった時期にそのチャームを?」

 

「え、わたし?……そうだなー、あ~わたしも似た感じ。昔ね、わたしってそんな身体が強くなかったの」

 

「千束、冗談はいいですから」

「冗談ちゃうわい」

 

「たきな、とりあえず最後まで聞いてみような」

 

「……また子供扱いを」

 

 わたしの話に疑わしそうな目線を向けるたきなだが、黄理はわたしの“心臓”のことを知っているから素直に話を聞いてくれた。

 

「ともかく、昔に手術したときに、このチャームとかもらったのです。そんで、そのときわたしを助けてくれた救世主さんに会ったんだ。ずっと探してる大事な──」

 

「その人の当時の服装、顔立ちは?」

 

 服?顔?あらためて聞かれると…………えっと、覚えてるはず。そう、大事な恩人なんだし、いくら子供のときとはいえ、そう簡単に……

 

「スーツ着てて、かっこよくて────」

 

 …………。

 

 …………。

 

 沈黙、わたしたちの会話はそこで記憶を想起するフェーズに入った。そう、決してわたしが救世主さんのことを記憶(ストレージ)から一時的にロストしたわけではないのだ。必ず、千束さんの頭の中、どっかにデータがあるはず……

 

 あるんだよ、ホントだよ?

 

 まだ見つかってないだけで、きっと何処かに。

 

「忘れましたね?」

「忘れたな?」

 

 

 

「……ぐぅ」

 

 ぐうの音を振り絞っただけでも褒めてくんない?

 

 

 

 

 フクロウのチャームに関する話は特に大きな進展もないままに、千束と黄理がアラン・チルドレンだということだけを明らかにして終了とされた。それを踏まえての黄理の感想はと言うと。

 

「どうりで橙子さんが周りに見せないようにって言うわけだ。このフクロウ、要するに面倒の種じゃないか。まったく、飾りってのはやっぱり苦手だ」

 

 それだけ言うと黄理はフクロウのチャームをシャツの内側にしまい込む。それを見て、先ほどたきなと黄理のペアにいい様にされた千束が何かしらの含みある笑みを黄理に向けた。

 

「黄理、あとでネックレスと腕時計、ピアスに眼鏡買いに行くから」

 

「俺の話を聞いてた?大体、似合わないっての、たきなもそう思うだろ?」

 

「そうですね、まずは眼鏡から挑戦してみては?」

 

「よーし分かった。積もる話はあれど、まずは人の話をちゃんと聞くところからだ」

 

 

 

 たきながフクロウのチャームを見たがったので、わたしのをパスした。チャームを観察したたきなはふと、思いついたようにこれまで触れてなかった部分の質問を聞いてくれた。

 

「二人には何の才能があるんです?」

 

「──分からない」

 

 黄理はシンプル過ぎる返しをして、肩を竦めた。それはそうだ、そもそも黄理はチャームを渡してきた人と会ってさえいないのだ。そんな人がどんな才能を買ってくれていたかなど当事者である黄理でも分からないだろう。

 

 さて、一方の私はというと。

 

「わからなぁい?」

 

 パッと後ろにあった水着のグラビアポスターと同じポージングをしてみる。

 

 よし、たきなと黄理の反応は?

 

「まぁ、違うだろうな」

「それじゃないのは分かります」

 

「だぁ~、自分の才能が(なに)とか分かる~?」

 

 自分の何が才能と呼べるものなのか。そもそも才能ってなんなんだろう。

 

 わたしが項垂(うなだ)れていると、たきなも一緒に考え込む。

 

 Q:自分の才能って何かありますか?

 A:あるといいな。

 

「何か、あるといいですけど」

「そんな感じでしょ~」

 

 たきなからチャームを受け取ってもう一度、首にかける。目立たないよう、黄理と同じ服の内側にしまい込んで、わたしは胸元をポンと叩く。

 

「で、探し人は見つからないまま、と。」

 

 黄理の結びの言葉を聞き、探している救世主さんの背中が遠ざかっていく気がした。

 

「もう、会えないのかもね……」

 

 寂しいような、切ないような、悲しみにも似た思いが感情の大半を占めてくる。

 

「ありがとう、って言いたいだけなんだけど…」

 

 

 

 赤い虹彩に憂いを潜ませ、普段らしくない様子となった千束。物憂げな表情のまま、水槽を眺める千束の横顔は見るほどに切なく、苦しくなるほど言い様のない感情が彼女の心の奥底に沈殿しているのが見て取れた。

 

 たきなはそれを見かねて、言葉よりも行動でそれをどうにかしようと立ち上がった。

 

 そのまま、水槽の前に彼女が立つと──

 

「さかなーー」

 

 両手を前に出し、足を後方に伸ばした格好でたきなは照れと恥じらいを抱きながらも、魚のポーズを取る。それを見て、目をきらきらと光らせた千束は黄理の手を握って、水槽の前へと駆け出した。

 

「おぉ~、さかなかぁ~!じゃあ、こっちもチンアナゴ~☆」

 

 さかな(たきな)、チンアナゴ(千束)に挟まれた人、もとい黄理は少しだけ困った顔をしてから、片手を前、もう片方を上に、足は真っ直ぐ後ろに伸ばして、ある魚類のカタチを模すことに。

 

「はぁ…………サメー」

 

 たきなのポーズから片手を上に上げて、大きな背びれっぽく見せようとした格好。それを千束とたきなは真剣に見て、評価を決定する。

 

「それ、イルカでも同じですよね」

 

「マンボウでも可っ!」

 

「なんで俺のときは判定、厳しめなんだ?」

 

 

  “さかな、チンアナゴ、サメ?”たちの愉快な共演は周囲の好奇の視線と水族館の職員さんの視線を受けて、自然消滅する運びとなった。

 

 そんな茶目っ気にあふれた一幕を挟んでから、たきなは二人にそっと耳打ちするような声でささやく。

 

それ(チャーム)、隠さない方がいいですよ」

 

「えっ、そう?」

「そうなのか?」

 

「──えぇ、“めっちゃ”かわいいですよ」

 

 一本取ったと言いたそうにたきなは二人に向かって悪戯っぽく笑いかける。

 

「可愛い、か?」

 

「あ~~、こーいーつー☆ホラッ、ペンギン島行くぞ~!」

 

 可愛いという評価に訝しげな黄理はさておき。たきなの不器用で、でもだからこそ胸に響いた心遣いを喜ぶ千束は、足取りも軽やかにペンギンショーが行われているフロアに向かう。

 

「ペンギン!」

 

「楽しみだな」

 

 ペンギンに心惹かれたたきなはうきうきと千束の背を追い、黄理もまたペンギンショーを心待ちにしていたらしく、楽しそうにくすりと笑った。ただ、その微笑みを何か別の意味に捉えたのか、たきなと千束が息もぴったりにツッコミを入れる。

 

「食べられませんよ?」

「食べられないよ?」

 

「いや、ペンギンは食べんって」

 

 

 

 

 

 

 禁制、禁忌を意味する店名を持つ会員制のBAR、“forbidden”。まだ、日も高いうちだというのに、そこは照明が薄く陰りを照らすムーディーな雰囲気を基調とした空間だった。中央のカウンター席で二人の男性が声をひそめて静かに語り合う。

 

 リコリコの店長であるミカは、横に座る男、吉松シンジに視線を合わせぬまま彼の行動の理由を問いただす。

 

「シンジ、何故、戻ってきた?」

 

「ミカに会いたかったからさ」

 

 深刻さが伝わってくるミカの問いに対し、シンジは軽やかと取れるほど気軽に親愛を込めた返答を行う。彼の言葉に浮きたつ心情もあるが、それを堪えてミカはシンジの目的を先んじて口走る。

 

「からかうんじゃあない。千束だろう?」

 

「……わたしを覚えていなかったよ」

 

「あの時に一度見ただけだ、無理もない」

 

 そこで一度、会話は途絶えた。二人の男は、まったく同じ過去の瞬間に思いを馳せる。錦木千束が救われた日。鼓動の鳴らぬ鋼の心臓が贈られた始まりの日(ビギンズ・デイ)。小さな暗殺者の失われるはずだった命運が覆された時。

 

 しかし古き思い出に後ろ髪を引かれることを、ミカは良しとしなかった。

 

「シンジ、何故言ってやらないんだ。千束はずっと君を捜しているんだぞ?」

 

「アラン機関は支援した対象に関わることを禁じている。話したろう?」

 

「矛盾しているじゃないか、それだったら店にも来るべきでは……」

 

 そう、今の吉松シンジは矛盾を内包していた。二度と会うことのないはずの救った千束の前に現れ、何か選択を迫ろうとしている。ミカはシンジとの再会を経て、不明瞭ながら確たる不吉な予感というものを感じ取っていた。

 

 ミカの訴追とも取れる言葉を聞いて、シンジはより笑みを深める。

 

「私の支援は未だ完了していない。……それにしても、ひどいな?君は、私に千束の前から消えろとでも?」

 

「……そういうわけじゃないが」

 

「ミカ、“約束”は守れているか?」

 

 そこでシンジは真っすぐにミカの瞳を強い信念と信仰を讃えて見つめる。その視線の持つ意図を知り、ミカは感情と思考を切り離して答えを紡ぐ。

 

「ああ、もちろんだ」

 

 ミカの重い意味と願いの詰まった一言は、彼と長い付き合いの千束すら騙しきるほどに卓越された偽りだった。ミカの返答を聞いて、シンジはグラスを軽く揺らし、カランと氷の鳴らした音に耳をすまして独り()ちる。

 

「天才とは神からのギフト、必ず世界へと届けねばならん」

 

 陶酔したように話すシンジと対照的に悲しみに耐えるように口元を引き締めるミカ。二人の価値観と在り方は重なり合うことなき平行線上にあった。

 

 それに気が付かないフリをしていたのは、果たしてどちらだったのか。

 

 ミカか、シンジか、それとも両者か────

 

 明確な答えはない。そして、吉松シンジは彼の信念と信仰に基づいた“錦木千束の才能”について、決定的な言及を行った。

 

「類い希なる、殺しの才能をな」

 

 

 シンジの確信を持った言葉を受け、ミカの瞳に宿る光が憂いと後悔の色を濃くし夜は一層の暗さを伴って更けていった。

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの頃合いになり、人気(ひとけ)のなくなった北押上駅。そこを悠々と闊歩する二人の人影がいた。一人はシルクハットを被り、仕立ての良い燕尾服を着こなす仮面の男。もう一人は黒のロングコートに似つかわしくないピンクのシャツを着こむ緑の髪をした男。どちらも異色、異形、日常の光景に弾かれるほどに強く撒き散らされる鬼気と尋常ならざる気配。

 

 

 牙をむく野生の獣、はたまた眼前で駆動する大型重機。近づけば、ただでは済まないという危険さを放出する両者は、互いに絶妙な間合いを保って駅のホームへと降りていく。二人の男たちの中間では、そこだけが黒い火花を散らすほどの凶烈な緊張感が存在した。

 

 

 やがて、ホームまで降りていくと、柱の陰や自販機の横から目元をサングラスで隠したツナギ姿の男たちが二人の魔人の麾下に続く。大型のショルダーバッグを肩にかけ、魔人たちの後を無言のまま歩む者らは、統率のとれた野生の狼の群れを彷彿とさせた。

 

 

「ハハッ──」

 

 いかにも愉快そうに身体をくるりと回転させた緑髪の男は、軽快なステップを踏んでホーム中央に辿り着いた。仮面を被った男も同時に立ち止まり、凶悪な気配を放つ群れの総員が停止。

 

 

 ツナギの男たちは肩にかけていたバッグを下ろし、群れの頭目たる緑髪の男の下知を待つ。

 

 “スゥーーー、ハァ”

 

 地下鉄の天井を仰ぎ見た緑髪の男は瞑目してから深く息を吸って吐く。何かを確かめるような深呼吸のあと、言い知れぬ脅威を醸しながら口角をあげ静かに笑った。

 

「匂うなぁ……漂白されて、除菌された、健康的で不健全な嘘の匂いだ」

 

 脈絡のない唐突な悪態。周囲の獣たちはサングラスで目元を隠しているためか、なんの感情のさざ波も見せない。だが、ツナギの者たちと同じく顔を隠した仮面の男は、くつくつと笑い肩を揺らす。

 

 

 敵とも相棒とも取れる間合いを保った仮面の魔人は、やや演技に寄った素振りで人間を堕落と破滅に(いざな)う悪魔さながらに諸手(もろて)を広げ、緑髪の男へ向かって表情も不確かに(わら)い掛けた。

 

 

(しか)らば如何(どう)するのかね、“真島くん”?」

 

 対する緑髪の男、いいや真島と呼ばれた男の返答は決まっていた。

 

「とーぜん……バランスを取らなくちゃなぁ!!」

 

 

 獲物を補足した狼、あるいは猟犬を彷彿とさせるほど牙をむいた笑みを浮かべた真島は腹の底からと狂喜にも似た、常人では形容できぬ異形の感情を携えて地下鉄のホームで獰猛に己の目的を宣言した。

 

 

 





 次回、真島さんメイン回。裏主人公である真島さんの無双シーンが出てきます。サードリコリスのリョナになりそうなので、苦手な方はご注意を。そして、アンケートにご協力いただきありがとうございます。とりあえず、今回の話が終わるまでアンケートは継続されますので、皆様好みのオリジナル回へ是非、投票していってください。

オリジナル回のエピソードについて

  • 結婚式
  • パンダ捕獲作戦
  • 半額弁当争奪戦
  • ordinary days編
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