Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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So far, so good【5】

 

 護衛対象がもとより存在しないという仰天の結末。それぞれ思う所はあるが、現場からの撤退を最優先。クリーナーへ連絡を入れたのち、千束たち一同は捕縛したジンを連れ、東京駅を後にする。

 

 護衛依頼を受けたリコリコ、暗殺依頼を受けたジン、どちらにとっても不可解すぎる終わり方。互いに情報が必要だというのは認識を共有するところ。交渉の結果、捕縛したジンと面識のあるミカで今回の一件に関する情報交換と確認が行われることとなった。

 

 

「……あの子たちはお前の部下か、良い腕をしている」

 

「久しいな、ジン。まさか、こんな形で会うことになるとは驚いたよ」

 

「驚かされたのは俺もだ。お前とまた会ったのも、あれほどの罠を張る凄腕と日本で出くわす羽目になったのも。……お前の教え子か?」

 

 ジンの問いかけを笑って受け流し、ミカは本題を切り出した。

 

「そちらの依頼人は誰なんだ?」

 

「……三週間前に女が直接、会いに来た。気前のいいことに現金先払いでな。ふぅ、依頼者のプライバシーは聞かない主義だったが、今回の一件で考えさせられたよ」

 

「……ジン、二十年前に松下の家族を殺したのか?」

 

「その頃はお前といただろう?あと資産家本人ではなく、その家族を標的とするような仕事はお前と別れた後もやってない」

 

 ジンの話に嘘がないことを確認し、ミカは深く安堵の息を吐いた。ミカもリコリコ側の依頼内容のことを説明。ジンは、知らぬうちに松下などという関わりがない資産家の仇になっていたことを驚きすらできず、聞き終えると深く考え込んでしまう。

 

 ふと、ジンは古い戦友の変化に気が付く。

 

「ミカ、おまえその足は?」

 

「この国で少しな、日常生活を過ごすのに支障はないさ」

 

 “しかし、それでは戦場に出ることは”。ジンは出かかった思いを口にせず、ミカへ自分の連絡先を教え、バイクで走り去っていった。ミカの教え子たちとすれ違う直前、ヘルメット越しに見えた青年の瞳は冷徹を宿した蒼眼ではなく、ひどく怠けきった蒼黒の色合いになっている。

 

 戦場でみた畏怖、恐怖は気の迷いだったのか……。

 

 しかし、振り返って確認することも、思い出しもせず、サイレント・ジンは“何か”に駆り立てられるようにバイクを加速させ続けるのだった。

 

 

 

 

 とっぷりと日が暮れ、護衛用に防弾防爆を備えたバンで、千束たちはリコリコへ帰っていく。後部座席の真ん中、千束とたきなに挟まれた黄理は、両隣から何かを言いたげな目で表情を伺われている。

 

 千束たち三人の読み合いというか、無駄に高度な心理戦が勃発している状況。それに我関せずとミズキは新たに分かった情報を提示してきた。

 

「クリーナーから連絡があったわ~。指紋から身元が判明したんだけど、三週間前から姿を消した末期の薬物中毒者だって。もう自分で動いたり、考えたりなんてできないらしいわよ。おまけに資産家でもなければ、松下って名前ですら無いときた」

 

「そんなっ!みんなと喋って、今日いっしょに観光してたんだよ?」

 

『ネット経由で千束たちと話してたんだよ。周囲の情報をゴーグルのカメラで確認し、車椅子の移動はリモート操作。音声は……言わずもがなスピーカー。ボクとしたことが、真っ先に気づくべきことなのに思いもしなかった。まったく随分と手の込んだお芝居だ』

 

 “芝居”という単語をきっかけに、たきなは鋭い眼差しで黄理の瞳を覗き込む。

 

「では、黄理くん。なぜ、出会ったときに松下さんがそこにいないと分かっていて、それを黙っていたんですか?それに、どうやって気づいて──」

 

「…気づいた理由は目が良いからとしか。それと、言わなかった理由?いつぞやのリスの件みたいに影武者を連れまわしているのかと思ったんだよ。寝てる人間の代わりに機械が話しかけるもんだから、気味が悪くて仕方ないのを我慢してたんだぞ」

 

 “それも無駄になったが”、と黄理はたきなから気まずそうに目を反らした。しかし、視線を反らした先にも彼を見据える朱の虹彩が存在した。千束の瞳は暗闇に映え、仄かに赤の眼光を揺らめかせる。

 

「じゃあ、誰が…なんで殺させようとしたの、なんのために?」

 

「分からないけど、やたらとアラン機関がどうのこうの言ってたよな?」

 

「では、今回の依頼はアラン機関が?」

 

「そんなことないでしょ~。だって、これをくれた救世主さんと同じ組織の人が、そんなわけわかんないことするはずが……」

 

『そうとも限らないんじゃないか、少なくともボクはアラン機関から後ろ暗い依頼を受けたし、その詮索をして命を狙われた。世間一般で言われているほど、アラン機関というのは清廉潔白な組織じゃない』

 

 

 クルミの言葉を聞き、千束は不安に揺れつつフクロウのチャームを信じるように強く握りしめる。不安に押しつぶされそうな千束をミカは心配そうに見てから、何処か後ろめたさを抱えて東京の夜景に視線を逃がすのだった、

 

 

 

 リコリコに戻るなり、千束は黙り込んだままお座敷席で横になる。

 

 考えを纏める時間が必要なのだと、ミカたち三名は早々に帰り支度を済ませて行ってしまった。残されたのは千束に腕を掴まれている黄理と、千束の横でちょこんと座るたきなの二人。

 

 

「いっぱい話して、良いガイドだねって……また、一緒に行こうって言ってくれたのに。ぜ~んぶ、うそか~」

 

「良いガイドなのは、本当のことですよ」

 

「そうだな、少なくとも楽しんでもらおうとした千束の頑張りに嘘はなかった。今日は楽しかったんだ、全部が全部、嘘ってわけじゃない」

 

「……ありがと~」

 

 たきなと黄理の気遣いの言葉に、千束の表情も少しだけ穏やかなものとなる。でも、未だに物憂げな表情で千束は寝転んだまま。心ここにあらず、ぼんやりとした調子。そんな隙だらけな千束の姿を見て、たきなの中で昼間に感じた好奇心がふつふつと思い出された。千束の胸元に頭を乗せて、左胸部に耳を当てる。

 

「……ちょ~いちょいちょいちょい」

 

「公衆の面前ではありませんよ」

 

「いや、黄理がいるでしょ」

 

「黄理くんは心臓の事を知っているから問題ないのでは?」

 

「いや、あるて。き~り~」

 

「じゃあ、俺はこの辺で帰らせてもら……」

 

「それはダメ」

 

 自然に離脱しようとした黄理は千束に手を掴まれ、逃走に失敗。千束は“仕方ないな”と言う表情で天井を改めて見上げる。

 

「本当に鼓動、ないんですね」

 

「そーなの、すごいだろ」

 

 たきなの正直な感心による感想を受け、千束はおどけた調子で自慢げに微笑む。二人の純真で、どこか幼げなやり取りの横にいた黄理は、親しい者でないと分からないくらい微かに、ほんの小さな笑みを浮かべた。

 

 もっとも、その笑みはすぐさま引っ込めさせられることとなる。

 

「──黄理くんもどうです?」

 

 “飲み物のお代わりはいかが?”くらいの気軽さで胸に触ることを当然のように話すたきなの下で、千束が目に見えて分かるほど動揺する。

 

「ぶっふ!?いやいや、さすがに!?」

 

 千束の慌て方を見てから、たきなも失言をしたと気づいたらしい。一方、何を言っても叱られたり、怒られたりする状況に追い込まれた七夜黄理。彼は絶望的な窮地に立たされていることにも関わらず、平常心を保ったまま失言によって返事を行った。

 

「謹んで遠慮しとく。棚から落っこちてきた牡丹餅とか、据え膳には“興味ない”んでね」

 

 

 

 ほ、ホホウ……興味、ないとか言っちゃう感じですかね?

 

 分かっている、これは黄理なりの照れ隠……いや微塵も照れてないな、コイツ。かれこれ、七歳から今まで十年近くの付き合い。表情や態度から感情の機微は予想できるけど、この反応は本気でなんとも思ってない感じのヤツですやん。まぁ、たきなの無意識な失言に乗っかって、胸を触ろうとしないことは千束さん的にポイント高めなリアクションだ。

 

 い~や、やっぱしトータルでマイナスポイント。

 

 まったく興味ないとか言われて黙ってるとか、こっちのプライドが許さない!

 

 

 千束は掴んでいた黄理の手を引いてよろめかせる。だらけていた黄理は千束の蛮行にあらがうことすらできず、彼女の左胸に頭部を不時着させた。ポスリ、と先に頭を乗せていたたきなと口づけができてしまうほどの間近で目を合わせる。

 

 呆然としていた黄理と違い、たきなは飛び上がって身体ごとそっぽを向いてしまった。紅潮した顔を押さえてるたきなと違い、千束は黄理の頭部を抱きしめて(ホールド)、いじめっ子みたいな高笑いをしながら得意げに、その豊かな胸を張る。

 

「うりうり~!どうだ、参ったかぁ~!!」

 

「──分かった、柔らかいのは分かったからすぐに離せ。いますぐ離せ。慎みってのを知らないのか、バカ女!」

 

「柔らかいかどうかではなく、心音がするかが問題のはずでしたが?」

 

 ドタバタと、喧しくて騒々しいありふれた日常が流れていく。

 

 どれだけ暗く、不安なことがあっても、彼女たちが挫けることはない。

 

 心からの笑みと温かく、楽しい雰囲気に包まれ三人で過ごす夜はゆるゆると穏やかに更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 同日、深夜。東京の街並みから明かりの大半が消えた丑三つ時。夜のとばりが落ち、街は死に絶えたような静寂に眠る。光指す日常から離れた暗闇の中、夜陰に紛れて二人の男が何らかの取引を行った。

 

 ツナギを着たサングラスの男は、黒のロングコートに緑色の髪をした男へ札束の入った紙袋を渡して深く頭を下げる。受け取った緑髪の男、真島とだけ呼ばれる無頼の男は鷹揚に手を振り、背を向けた。

 

「ご苦労さん、あとは打ち合わせ通りにやっておけよ」

 

「了解しました、コンテナの中身は?」

 

「必要になるのはもうちょい先だ。今はあの信用ならねぇハッカーの計画と並行して、こっちの思惑でも段取りを進める」

 

「……では、“この後”は?」

 

「俺だけで十分だろ」

 

 ひらひらとコートの裾を靡かせ、真島はゆっくりと歩き去っていく。横のツナギを着た男は、近くに止めていた“黄色の乗用車”に乗り込んで姿を晦ました。明らかに違法性が高く、危険な香りのする取引現場。

 

 真っ当なものとは思えない金銭のやり取りを暗がりから静かに観察する人影。

 

取引が終わり、ステップを踏んで夜道を歩く真島の後を気づかれない程度の距離を維持して華奢な影が追跡する。

 

 

 

 ベージュ色の制服、その肩口にある彼岸花を模した徽章。彼女がDAの女系エージェント、リコリスであることの証明。いくら治安がいいとはいえ、女子高生が出歩くにはそぐわない都会の夜道をゆくリコリスの片手には拳銃という危険物が握られ、物騒な気配をした真島を追いかける。

 

 サードリコリスの彼女は、人気が完全に無くなった交差点で主犯格と思しき真島の背中に迫り、拳銃の安全装置を外して引き金を引く。大げさな挙動は必要ない、表情すら変えず流れ作業に身を任せるように標的の排除を行った。

 

 背中を向け、油断しきった相手への銃撃。敵の死亡を確信したのも束の間、眼前に紙袋が迫り来る。顔にそこそこ重さのある紙袋をぶつけられ、中身が飛散した。顔にモノを当てられ、へたり込むサードリコリスの少女。彼女の眼前にはひらひらと季節外れの雪めいて、札束が降り注ぐ。

 

「よう、三途の川の渡し賃くらいにはなりそうかい?」

 

 心臓が嫌な鼓動を立て、身体が震える。気づかれた?いつから?いいや、それよりも、背中を向けていたというのに、この男はその状態で“銃弾を避けた”?

 

 恐怖に思考が凍るも、指先は訓練で染み込まされた殺人動作をトレースする。

 

 座り込んだまま照準、発砲。都会の暗闇が一瞬の発砲炎に退けられた。

 

 一瞬の残光に照らされた真島は、至近距離の弾丸を軽々と避けて彼女が持っていた拳銃を蹴り飛ばす。唯一の武器である拳銃は、あらぬ方向に蹴飛ばされていった。

 

 武器が無くなった危機感よりも先に浮かぶ“ありえない”という思考。銃弾を避けるという常識はずれな挙動もそうだが、“見えない位置からの発砲を視ないまま回避する”などあってはならない異常だ。

 

 リコリスたちが噂する電波塔の英雄でさえ、銃弾の回避には視覚を必要とすると伝え聞くのに──。

 

 この男は見ることもせず、銃弾を避けた?

 

 

 武器を失い、座り込んだサードリコリスを真島は黙って見下ろしている。

 

 追い詰められたサードリコリスは一か八か、この場からの離脱を試みた。背負っていたサッチェルバッグを真島の顔面に投擲、当然のごとく避けられたが、今は何よりも逃げることを──。

 

 

 衝撃が全身を貫く。あれほど回転し続けていた思考が、トんで空白に染まる。見下ろす先には自分を追い詰めた緑髪の男、それと“黄色の乗用車”。自分が空中に撥ね飛ばされている自覚さえなく、痛みという感覚の意味を知ることもなく、彼女の思考は地面に叩きつけられたところから再び回り出した。

 

 

 果実が地べたに落ちて弾け潰れるように、体の中身が不均等に圧し潰される。思考と瞳孔は朦朧とした状態で焦点が合っていない。

 

 彼女を轢いた車、周囲の暗がりからツナギ姿の男たちが無言のまま近づいてくる。墜落した蝶を捕食しようと群がる蟻の群体。だが、死に体の獲物を前にして、男たちは緑髪の男の方に注目していた。

 

 真島は懐からコインを取り出し、それを宙に弾いた。回るコインの表裏、生き死にを占う気まぐれ。降ってきたコインをキャッチする。周囲の取り巻きたちは真島の一挙一動を伺う。コインを受け止めた真島は首を横に振った。

 

 途端、霧散していく殺気と戦意。

 

 襤褸切れとなったリコリスの傍にまで近づいた真島は、彼女の懐からスマホを奪い指先でクルクルと回し遊び始めた。

 

 

「……な…ぃ」

 

「あぁ?」

 

「……ぁに、さわっぇるん、だよ…………へぇんたいが」

 

 サードリコリスの少女が必死で口走った悪態を聞き届けた真島は笑みとは言いがたい凶相を浮かべ、サードリコリスの頭部を軽く蹴飛ばした。

 

「吠えんなよ、んな死にぞこなったまま煽られてもつまんねぇわ」

 

 全身に重度の打撲を負った少女は、真島の無造作な蹴りでとうとう意識を失う。まだ、息はあるにせよ、急ぎ応急措置をしなければ危険な状況は脱せないのは明白。

 

 

「聞こえちゃいねぇだろうが覚えとけ。崇高な理念だか正義で動くお前らが、それと正反対な理念と意志に潰されるってこと。長生きしたきゃ忘れんな」

 

 

 真島とその部下たちは速やかにその場から離脱し、バラバラに彼らがいま根城としている場所に移動していった。

 

 散開した彼らが合流したのは、都内の大学病院。その中でも特に人の気配が少ない地下区画。深夜であることを差し引いても人の気配がまったく存在しない。それもそのはず、真島たちが集まった場所は法医学研究室の地下霊安室。

 

 恐ろしいほどの寒気が蔓延する中を真島は自宅同然にすたすたと無遠慮に入っていく。嗅ぎなれた線香の香り、そしてそれでも誤魔化しきれない死臭に真島はうんざりしながら、“帰ってきた”とか思ってしまう。

 

 

 

「お~や、お帰り真島く~ん。ちょっとこっちに来て見てくれ、今朝届いたこの死体なんだが、どうやらドーナッツの食べ過ぎで死んでいてね。この平和で安全な日本で大した死因だと思わないかい?」

 

「やぁ、わが友よ。今夜も狂気の発露と弱者の蹂躙を思うがまま、心ゆくまで愉しんだと見える。素晴らしき哉、あぁ、なんと甘美なことか!!」

 

「あ~、二人とも少し黙れ。いま、一仕事済ませてきたところで、ラリっぱなしなお前らのテンションに合わせるの面倒なんだよ」

 

「この天才を捕まえてラリってるだって?随分と失礼なセリフを吐くものだ、まぁ例えラリっていたとしても、この私のイかした天才性は微塵も曇らんがね」

 

「“イかれた”の間違いだろ」

 

「ハハハハ!?狂気の度合いならどちらもいい勝負だ」

 

「黙っとけ、見た目のインパクトならお前が一番だ。その恰好で東京を練り歩いてみろ、間違いなく三秒で通報される。影胤、お前もし職質されて、こっちの足を引っ張るようなことでもしたら、その仮面ごと頭蓋たたき割るからな」

 

 殺気交じりの罵倒に影胤と呼ばれた男は、含み笑いをしてシルクハットを被り直す。狂人二人の相手をした真島は死体用の寝台に寝転がると、壁に張ってあるホームシアター用スクリーンをリモコン操作で展開した。

 

 真島は手元のブルーレイディスクを眺めて、どれを見ようかと検討し始める。

 

 初めに手に取ったのはセガール作品、“沈黙の~~”系列。

 他にもワイルドなスピード自慢たちの映画も全作品用意済み。

 

 あとは王道のゾンビパニックもの。ホラーなのかアクションなのか測りかねるB級が多種多様。サメ映画もあるにはあるが今は気分ではないらしい。

 

 

 そんな、これから映画を見始めようとする真島へコーヒーが差し出された。なんか、薬品検査用ビーカーに入ってこそいるが、匂いはまともなコーヒーだ。

 

「真島くん、頼まれていた補充要員の件だが、規格外の凄腕が偶然にも手に入った。アメリカで馴らした突撃兵が十数名、そして彼らのまとめ役の神技スナイパーが一名」

 

「へぇ、仕事が早いな。いつもなら、仕事忘れてるんじゃねぇかって疑うくらい、時間をかける癖によ」

 

「なぁに、副職とは君の頼みだからねぇ。喜び勇んで、準備したとも」

 

「──なぁ、先生。裏がありそうだと思うのは俺だけか?」

 

 菫医師と周囲のツナギを着た部下たちへ真島は問いかける。サングラスをしていて表情は読みにくいが、真島の部下らもなんだか嫌な予感を抱いているのは間違いない。

 

「さぁて、気は早いが、まずは自己紹介といこう!この“子”が、君が依頼した凄腕の技量を持つスナイパー、“ティナ・スプラウト”ちゃんだ!」

 

 真島の疑いの視線と思考に応えるように、室戸菫は研究室の奥の扉を開いて話題に挙げていた傭兵を呼びつける。

 

 出てきたのは、近頃相手にしている“リコリス”という少女エージェントよりも遥かに小柄な金髪碧眼の少女、というか幼女(ロリ)

 

 見た目的に小学生程度であるにも関わらず、背負っているアンバランスなまでにデカい狙撃銃が一層、真島の思考を混乱させる。ツナギを着た男たちも吹き出しこそしなかったが、明らかに紹介された少女スナイパーを侮っている。

 

「こいつが?」

 

「あぁ、君の望んだとおりの凄腕だとも。腕が良くて何より若い、これ以上ない優良物件だろ?」

 

「若すぎんだろ」

 

 真島は寝台を降り、緩やかにリボルバーを抜き放った。部下たちに緊張が走り、近くにいた仮面の魔人、蛭子影胤も沈黙に徹する。

 

 ティナ・スプラウトは銃を抜いた真島を視界に捉えても、驚きもせず澄み切った碧眼で無垢に見返すのみだ。気味の悪い違和感、ちぐはぐな想像。真島の感覚は、眼前に立つ相手を尋常じゃない怪物と捉えている。だが、視覚から入ってくる情報は、ただの幼い少女。

 

 直感と視覚情報のズレがあまりに大きく据わりが悪い。

 

 真島は抜いていたリボルバーを構える姿を見せず瞬時に発砲。目にもとまらぬ早撃ち、突如として牙をむいた45口径の弾丸。ティナの柔らかな頬に一条の流血が引かれる。だが、そんな真島の暴挙を前にしても、ティナは身動き一つしないで真島の瞳を覗き込んだ。

 

「マジかよ?」

 

「はい、大マジです」

 

 ティナの声に合わせ、周囲を浮遊する球状のドローン。同時に彼女の矮躯から発される悍ましいほどの殺意に、真島の部下たちも遅まきながら気づく。彼女もまた、自分たちのボスや仮面の男と同じく、“カイブツ”の領域に棲まう者だということを。

 

 

「なるほど、随分とイかしたヤツじゃねぇの」

 

 笑顔を浮かべた真島の発言に周囲の部下たちがギョッと慄いた。菫医師も同じく仰天の表情を浮かべたのち、ビーカーを机の上に置いてにっこり(濁り)と微笑む。死ぬほど似合わない聖母のような優し気な笑みに、真島は吐き気と悪寒を感じ取った。

 

 

「なるほど、真島くんのカルテに追記しておこう。重度のロリコンと」

 

 菫の発言に、ティナが危険を感じたのか真島からすごい勢いで後ずさる。

 

「…………あの、わたしは傭兵であって、“そういう”のは仕事に含まれませんから」

 

「──抜かせ、もうちっと色気づいてから出直しやがれ」

 

「照れることないじゃあないか、真島くんといえば、幼女のためなら火の中、水の中、パンツの中でも潜り込み、小学生と結婚ないし、いかがわしいことをする世のために体制と闘う()の戦士だろ~う?」

 

「……あの今回の依頼についてですが、前金はお返ししますので条件の見直しをしたいのですが……」

 

「ロリコンじゃねーよっ!!」

 

 

 もう一度、リボルバーが銃声をけたたましく鳴らし、蜘蛛の子を散らすように真島の部下たちがドタバタと逃げ始めた。ティナは狙撃銃を槍のごとく構え、室戸菫は呵々大笑と笑って真島の機嫌を更に悪化させにかかる。シルクハットを被った影胤は、ノリノリで二丁拳銃を抜く始末。

 

 死者の安寧のための部屋は生者たちの喧騒に包まれ、悪党たちの夜も騒がしく、賑やかに明けていくのだった。

 

 

 





次回“LIVE for LIFE 史上最強の味わい!豚バラ蓮根の西京焼き弁当280円”


オリジナルエピソード第二弾、箸休めにキャラ崩壊、ギャグ特化、お祭りモードな一話にしていきたいと思いますのでどうか、しばしお待ちください。
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