Lycoris A moon eclipse   作:悪事

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Another day, another dollar【4】

 

 たきなが乗り出した業務改善の結果、リコリコの売り上げは大幅な上昇曲線を描き収益を赤字から黒字に持ち直すまでに至る。

 

 多くの締め付け、シフトの増加、慣れない新メニューの調理。こうした労力によって利益が出た以上、たきなはきちんと皆の負担軽減や要望の対応に還元していった。さすがに店の営業とまったく関係のない千束のルームシアター買い替えは即座に却下するも、それ以外は割りと寛容に店に導入していく。

 

 

 ミカが以前から導入したがっていたヴィンテージのレコードプレーヤーが店の片隅に置かれ、厨房では食器の手洗いと言う労役の解放者たる自動食洗器にミズキが涙した。フロアでは安かった、という雑な理由で配膳や注文を取るサービスロボットまで出現する。

 

 千束の子供の頃の着物を着せられたロボの働きを見たミズキは、“クルミよりは使える”などと割りと的確な評価を下した。

 

 

 

 勤務時間後、店の休憩室として使っている奥座敷でクルミとたきなを除くリコリコの皆は、程よい疲労と達成感を噛みしめていた。改めて、ミズキはたきなの手腕に感心する。

 

「いや~。ホント、たきな様々(さまさま)ねぇ」

 

「そうっすね~、まっさかあの真っ赤な売り上げをプラスにまで持ってくとは」

 

「こうも売り上げが分かりやすく好転すると、どこぞの誰かさんが如何(いか)に能天気にやってたかがよく分かるってもんだ」

 

「おうおう、それはど~この誰のことかいのぅ?」

 

「どうどう、そんな噛みつくなって。──能天気なのはお前の持ち味みたいなものだし、気にしなくてもいいんじゃないか?」

 

 フキの悪態に擁護を入れたつもりだが、千束の拗ねた顔を見るに失敗したみたいだ。腕を掴まれ、立たされると黄理は千束に引きずられる。

 

「じゃあ、能天気な千束サンはたきなサマを探してきますよ~」

 

「たきななら、クルミと一緒にいるのを見たわよ~」

 

「なぜ、俺も行くことに?」

 

「朴念仁だから」

 

 答えになってない返事に黄理が首を傾げている間に、千束はクルミの住処である押し入れでたきなを発見する。二人は難しい顔でPCを見つめ、画面上のグラフや文字列を真剣に瞳でなぞっていた。

 

「ん~~?何やってんの?」

 

「店の売り上げも安定したことですし、これを機に株や資産運用をクルミと一緒に始めようかと」

 

「手堅いな……この手堅さの一割が橙子さんにもあれば……」

 

「あ~、どんまい」

 

 しみじみと天井を見上げた黄理の肩を叩き、千束はクルミとたきなのパソコンを覗き込もうとする。そこで、やたらといかつい着信音が鳴った。着信相手の名を見るや、千束はそぉっとスマホを(たもと)に仕舞おうとする。

 

 それを見逃すたきなではない。

 

 千束のスマホはあっという間に奪取され、たきなの手の中に──。

 

「もしもし、山岸先生。……はい、たきなです。……定期健診の件ですね?ええ、千束は明日にでも行けます。はい、それではお願いします」

 

 矢継ぎ早、トントン拍子で進んだ話の展開に、千束は目を白黒させている。黄理はたきなの手際の良さに驚き、拍手をしている。唖然としている千束と感心する黄理の二人を前に、たきなは一度、咳ばらいをしてから宣言する。

 

「組員の健康管理も私の役目です」

 

「いやいや、組員って」

 

「いつ加入したんだ?」

 

 たきなの強い眼差しに屈した二人は大人しく口をつぐむ。

 

「千束、明日ですからね。きちんと行ってくるように。定期健診を受けるために行くんですよ、病院に行くだけ行って、帰るなんてことがないように」

 

「うへぇ、わかったよぅ~」

 

 しおらしくなった千束に“どんまい”とでも言ってみようかと黄理は考えたが、冗談とするには皮肉が効き過ぎていると大人しく断念するのだった。

 

 

 

 

 

 リコリコのバイトに入ってから暫く経った。

 

 本業、いや正規の雇用先である伽藍の堂、ひいては橙子さんの方は相変わらず、時たま裏の仕事を遂行するだけで本格的に給料が払える体勢にはなっていない。

 

 もうしばらくはバイトで糊口をしのぐことになりそうだ。

 

 さて、伽藍の堂と比べ、景気のいいリコリコの方はというと──。

 

 子供の頃から金のない時よく世話になってきたが、たきな、クルミ、フキにサクラ。従業員が最近、やたら増えている。こういう変化は騒々しくも、見ていて飽きず面白い。店にモノが増え、ボードゲームにイベントごとでの新顔も目まぐるしく変化し続ける。

 

 

 ただ、最も直近での大きな変化は……。

 

 たきながあのパフェがどう呼ばれていたのかを知ってしまったことだろう。

 

「あのパフェ、もうやめます……」

 

 たきなのパフェが(ちまた)でどう呼ばれているのかが知られてから、こうなるのは当然の成り行きだと思う。でも、風評はともかくとして、売れ行きは悪くないのだ。別にすぐさまメニューから抹消しなくとも。

 

「売れてるんだから、やめなくてもいいんじゃないか?」

 

「それは黄理くんに実害が無いから言えるんです」

 

 ムスっとした子供っぽい表情から、たきなの説得が難しい事を悟る。

 

 メニューから消したとてSNS上の記録も即座に抹消されるわけではない。たきなが満面の笑顔であのパフェを持ってるとことか、千束が鼻をつまみながら洒落にしてるとこ、俺が死んだ目でパフェを配膳してる絵面も広まっていたりする。

 

 潮時か?

 

「え~、あーしとしちゃあパフェの配膳のたび、げんなりしてっから勘弁なんスけど。フキ先輩も流石にあのビジュアルを配膳するのは厳しいんじゃあ?」

 

「さぁな、見た目はどうあれ売れちゃあいるんだ。いや、頼む方は正気かと思うが、売れてるうちはメニューの隅に賑やかしで残しとけよ」

 

「そーだ、そーだ。常連の人にも新規の客にもウケてるんだぞ?」

 

 クルミの明らか面白がってるセリフにたきなは渋面を作った。

 

「受けの意味が違うでしょう……」

 

 たきなはあくまでスイーツとして、味を売りにしたのであって色物として売り出した覚えは一切ないのだろう。それでも想定しないまま、あれだけのモノを生み出したのだから末恐ろしいセンスである。

 

 ミズキさんがロボに“うん■パフェ”の始末をさせている間、そっとフキがこちらにやってくる。

 

「七夜、ちょっと聞きたいことがあるんだが少しいいか?」

 

「聞きたいこと……ふむ、新メニューのことなら、たきなのセンスは突き抜けてるから張り合わなくてもいいと思うぞ」

 

「張り合わねーよっ、そもそもメニュー作りのことでもねぇし…………なぁ、リリベルの方ではリコリスに助力してる現状を……どう思ってんだ?」

 

「……リリベルの反応?あー、そういえば、今のリコリスはリリベルの支部を拠点にしてるんだよな。アキタカがなんか、言ってたような?」

 

「……やっぱり、あれか。みすみすテロリストどもに支部を落とされたリコリスへの助力は、現場の奴らから反発があるのか……?」

 

「反発?なんで?」

 

 こちらの首を傾げる反応とフキの反応が重なった。フキの考えはよく俺には理解できないが、リリベルのスタンスを改めて説明しておくべきか。

 

「現場の連中はリコリスたちに思うところはないと思うよ。まぁ、リリベルの居住区にリコリスがいる状況は慣れないとか言ってた気がするけど。じきに慣れる」

 

 リリベルの指令系統は虎杖さんの上意下達が絶対。リコリスとの助力を虎杖さんが決めた以上、文句を付けるヤツなんて誰もいないだろう。そも、俺と千束がよくつるんでDAの任務をこなしてるのだ。

 

 リコリスへの助力もリリベルの現場の奴らは“こういうこともあるか”と案外、あっさり馴染んでいると聞いた。今、東京支部のリリベルたちを実質、纏めてるアキタカが言うのなら信憑性を疑う必要もない。

 

「……そうか、助力に関してなんだが。その、なんだ……感謝する」

 

「フキは昔から律儀だな」

 

 幼少の頃から何度も暗殺しに来たフキの不器用な感謝に笑みを浮かべる。二人揃って口元を軽くほころばせると遠巻きに見ていたサクラが意味深なにやけ顔をしてるのをフキが発見。温和な笑顔は威嚇するようなおっかない笑いに早変わり。

 

 サクラの笑顔から血の気が引いてる。俺は黙って合掌し、彼女の先行きへ祈りを捧げた。けれど、こちらまで巻き込まれてはかなわない。俺はたきなのいる方に避難する。

 

 たきなはしょんぼりと憔悴し、クルミは忙しそうにナニカを調べていた。このタイミングで客が来ようものなら、給仕で動けそうなのは俺くらいしか残ってないのでは?

 

 ──リィンリィン。

 

 そんな危惧も束の間、店への電話だ。

 

「──はい、こちら喫茶リコリコ」

 

『もしもし、山岸ですけど。お店の方に千束、居るかしら?』

 

「いや、確か検診行くって……もしや、時間になっても来てないとか」

 

『そうなのよ。電話しても携帯繋がんないし店にもいないとなると……』

 

「電話かけたなら、折り返すくらいはすると思うんですが……おーい、たきな。ちょっと千束に電話してくれないか?」

 

 沈んでたたきなに呼びかけて電話をかけてもらう。しかし、コールし続けても千束は電話に出ない。いつもなら、たった二、三コールで反応するはずなのに。

 

 “なにか、妙だ”。

 

 

 たきなと黄理は急いでリコリコの着物から制服に着替え直す。二人は何かイヤな予感を同時に感じ取り、フキ、サクラに店を任せ千束が今、拠点にしているセーフハウスへと急ぎ走り出した。

 

 

 

 

 

 コールが鳴り始めてから、しばらく。留守電になって着信が途切れ、また電話がかかってくるスマホを眺め、千束はため息をつく。

 

「……鳴ってるぜ、出てやんねーの?」

 

 にやにやと嗤う男を一瞥し、不機嫌そうに視線を反らした。まったく、黒いリボルバーの銃口と狙撃銃の銃口をこっちに向けておきながら、ぬけぬけと言ってくれる。

 

 緑色という特徴的な色彩のパーマ髪、真っ黒なロングコートに合わないドピンクなアロハシャツ。以前、サードリコリスや私たちを襲撃し、リコリスの東京支部までも陥落させたテロリスト、真島。

 

 そして──。

 

 薄っすらと眠気に微睡(まどろ)んでいる宝石のごとき碧眼、黄金色にたなびくプラチナブロンド、纏うはターコイズブルーにフリルの付いた愛らしいドレス。ああ、この西洋のビスクドールじみた少女にも見覚えがある。ウォールナット、いいやクルミの死亡を偽装した際に交戦した小さい少女の殺し屋だ。

 

 その小さな体に不相応なほど大きな狙撃銃を向けられていなければ、少女の愛らしさに和んでいただろうに。

 

「……電話、出てもいーの?」

 

 こっちの確認に少女は何の反応も起こさないが、真島は笑ったまま電話を取るよう促してくる。リボルバーと狙撃銃から目を離さないまま電話を取る。

 

『ようやく出ましたね、千束。今どちらに?定期健診行ってないって山岸先生から電話がありましたけど?』

 

「……あー、ごめんごめん。思わぬ急用があってさぁ、ちょい遅れるって山岸先生にも言っといて~」

 

 たきなには悪いが返事を待たずに通話を切る。これが真島に気取られず、たきなに気づいてもらうための今できる最善。あとはたきな、黄理、フキでも誰かが来てくれればいいのだが──。

 

 緊迫感を味わっている私、狙撃銃を同じ体勢で保持してる少女とうってかわって、真島はやたらと楽しそうにしている。

 

「健康は大事だぜ?体が資本だろ、俺らみたいな仕事はさ」

 

「ら、ってなに?ら、って。銃向けてる相手に言うセリフかね?」

 

「殺すにゃまず、生きてないとなぁ?」

 

 指の筋肉の緊張、相手の瞳孔の収縮、浅くなった呼吸からタイミングを読む。ほんの僅か、銃弾の軌道から頭部をずらして銃撃を回避する。銃弾を受けた背後の電気スタンドが銃声に遅れ、ガチャンと派手に壊れた音を立てる。

 

「ひゅう、さっすが。この距離でも顔色変えず避けるかよ。それ、どうやってんだ?」

 

「ひみつ……そっちも同じことできるのに、何を驚いてるのさ」

 

「同じことすんのにも、こっちには色々とタネと仕掛けがあんだよ。って、あぁ。お前の場合──」

 

 真島は千束の心臓当たりに銃の照準を付けて笑いかけた。

 

「その心臓にタネがあんのか?」

 

「──なんで、それ知ってる、こんヤロー」

 

 

 自身でも全貌を知らぬ秘密を引き合いに出され、千束は不機嫌に口元を歪める。一方で機嫌良さそうに真島が笑っていると突如、金髪の少女は持っていた狙撃銃のストックで緑髪の頭を小突いた。

 

「っで……おい、いきなり何すん──」

 

「合図も無しに撃たないでください、びっくりしました」

 

「……悪かったな」

 

 頭を痛そうにさすってる真島には目も暮れず、千束は金髪の少女が声を発したことに衝撃を受けた。

 

「え、喋った!」

 

「そりゃ、喋るだろ。口があるんだからよ」

 

 真島の呆れた様子を無視し、驚いてる千束にティナはおずおずと。

 

「ハロー……」

 

 

 

「わぁ──! Feeling hyped up(テンション上がるぅ) You look amazing blonde(とっても素敵なブロンドだね)!」

 

 警戒していたはずの千束がティナの雑な挨拶を聞くや、すぐに瞳をキラキラとさせて狙撃銃を構える彼女に親し気に声をかける。あまりの気安さにティナは呆然と銃口を下げてしまう、彼女の鈍い反応を見て、千束はおや?と首を傾げる。

 

「おっとっと。“Which do you prefer to speak, Japanese or English(日本語と英語、どっちが良かったかな)”?」

 

 敵であることは十分理解しているはずなのに圧倒的なフレンドリーさで距離を縮められている状況、ティナは雇い主である真島の方を伺う。しかし、真島は翻弄されてる幼女を見てニヤニヤとしてるだけ。頼りにならない、という結論が出た以上、ティナ自身が対応するしかない。

 

「……日本語で大丈夫です。初めまして、Case2808」

 

「──うへぇ、その呼ばれ方は好きくないんだけど、ったく何処で広まったかなぁ。わたしには錦木千束というぷりちーでチャーミングな名前があるんだってば。そんでもってリコリコって喫茶店の看板娘で~」

 

 話の長くなりそうな予感に対し、ティナは手っ取り早く会話を切り上げるために相手の欲している情報を与えることを決めた。

 

「私の名は、“ティナ・スプラウト”。狙撃手(スナイパー)です」

 

 暗に自分こそウォールナット暗殺の実行犯であることを語り、ティナは言葉少なく千束と敵対関係の境界を別とうとする。

 

 けれど──。

 

「そっかぁ、よろしくね、ティナちゃん!」

 

「…………“ちゃん”?」

 

「“ちゃん”、と来たか。良かったじゃねぇの、可愛(かわい)い感じに呼ばれてよ。なぁ、ティナちゃん?」

 

「うっわ、可愛(かわい)くな~」

 

「ほっとけ」

 

「とりあえず、二人とも“ちゃん”は止めてください」

 

 

 

 

 呆れたティナが狙撃銃を下ろした辺りで、真島もリボルバーを胸元にしまい込む。両手が空き、手持ち無沙汰になった真島は机の上に山積みになったDVDの中から、ある一作を手に取った。

 

「おっ、ダイハードじゃん、好きなの?」

 

「え、……うん」

 

「ちなみに誰が好きなんよ?」

 

「パウエル?」

 

「ああ、警官の……マクレーンと会ってもないのに相棒になるあの感じ」

 

「「そいで、ラストシーンで──!」」

 

 映画ファン特有の一体感、そしてネタバレをしてはいけないという使命感が二人に同時に口を閉じさせる。千束はしまった、と苦々しく口を尖らせる。思ったより意見というか、趣味が合う。非常にやりにくい……。

 

 面倒そうに息を深く吐いてから、千束は立ち上がった。

 

「コーヒー淹れてくるけど二人とも要る?」

 

「俺、苦いのダメなんだ、他のない?」

 

「はい、わたしも苦いのは……」

 

「砂糖、用意すっから我慢しろーい」

 

 

 淹れてきたコーヒーを二人に差し出す。自分の分には、まず砂糖を入れずに元の豆の風味を……。ドバドバ角砂糖を入れてる二人の姿を見て目が点になる。そっと角砂糖を一つだけ入れ、マドラーを回す。

 

「で、何の用?」

 

「なぁ、お前、俺の事覚えてるか?」

 

「ナンパ?」

 

「ちげぇよ」

 

「──こないだ公園で襲撃してきたこと?それともリコリスの支部襲ったこと?」

 

「もっと前な」

 

 訝し気な千束の反応から、自分に関する記憶は引き出せないと悟った真島は、コーヒーを一旦、机に置いて話に集中することにした。

 

「覚えてないか……じゃあちょっと昔話をさせてもらうぜ。お前も……いやお前たち、か。あのとき、あそこにいたんだろ?そう、“電波塔事件”の現場によぉ?」

 

 真島の言葉は何もかもが真に迫っていた、いやその場で体験したことなのだから、彼の語る言葉は紛れもない真実の一端を担っていた。雨のごとき弾幕、爆轟の中を駆ける二頭の怪物。仲間が瞬く間に駆逐されていき、破れかぶれの自爆戦術も己の片腕もろとも奪われた。

 

 荒事で生きてきた男が断言する規格外、イレギュラー。

 

 あれこそはまさしく、殺戮の化身、人類種の天敵とでも呼べる──。

 

「人を怪物のように描写するな~」

 

「戦りあってるこっちからしたら実際バケモンだよ?どーだ、思い出したか?」

 

「いんや。お前の事なんか知るか。あと、腕をぶっ壊したのは間違いなく黄理の方だから」

 

「あ~、細部は微妙でもそういうことはぼんやり覚えてるもんなのね」

 

 改めて真島はコーヒーに口を付けるが、まだ苦かったのかカップを置いて、首元からあるものを取り出す。それは、金属質な光を放つフクロウ(才知)の形をしたチャームだった。

 

「これな、俺らも持ってるぜ?」

 

 真島の促しに合わせ、隣にいたティナも胸元からフクロウのチャーム、アラン機関より支援を受けた者の証を開示した。それを見た千束は本気の狼狽と混乱に頭がいっぱいになる。

 

「……じゃあ、なんでこんなことしてんの!?」

 

「はぁ?」

 

「それ持ってるからには、なんかすごい才能があるんでしょ?たとえば、人を幸せにするような。二人がやってることはまるっきり逆じゃん!」

 

「お前だって殺し屋やってるだろ?」

 

「おう、一緒にすんな。私はちゃんと人助けしてるっ」

 

 千束の反応にティナは首を傾げ、胡乱な瞳の焦点を彼女に合わせた。

 

「失礼ですが、貴女はアラン機関を平和推進機構とでも捉えていたのですか?」

 

「は?いやいや、俺らみたいなのに渡された時点である程度は察しがつくだろ、おい?」

 

 真島が呼びかけると千束は斜に視線をズらし、つっけどんに応じる。

 

「……二人以外はみんなそういう結果を残してるんでしょ」

 

 弱々しいアラン機関への弁護に、真島は噴出して声を高らかと上げた。

 

「ワタシもメダリストみたいに世界に感動を与えたーい、ってかぁ?ハハッ、おめでたい奴だなぁ」

 

 アラン機関の在り様を笑い飛ばす真島に千束は歯噛みして沈黙を守る。違う、有り得ない、そう言い切るには千束自身は知らないことが多すぎた。

 

「お前ねぇ、アランはそんな連中じゃねぇぜ」

 

「なんて言われても、私にはヨシさんとの約束がある。これはその“証”」 

 

 救世主、自分に人生を与えてくれたヨシさんとのよすがともいうべきチャームを千束は、感触を確かめるように握りしめた。

 

「ヨシさんって?アラン機関のヤツか?」

 

「あんたには関係ない」

 

「アランと接触してんのか、お前?」

 

 気軽に情報をとろうとする真島を、千束は勇ましくはねのける。

 

「あんたが私よりなに知ってるか知りませんけどね。私はやりたいようにやりますぅ~」

 

 強情な千束の態度に真島は笑い出す。

 

「いいねぇ、やっぱお前は俺たちと同じだわ。殺しの腕を買われて支援されたのさ。間違いねぇよ、同類からのお墨付きだ」

 

「同類じゃねーっつーの。てか、ぜぇったい、そんなんじゃありませーん」

 

「そういうなって……アランの連中は純粋なんだ。俺たちの殺しを肯定できるくらい、な」

 

 ティナと真島は身軽に立ち上がると、すたすたと玄関の方へと歩いていく。真島が軽く手を振って、この場を立ち去る意図を現した。

 

「え、あれ?帰んの?」

 

「お前んとこの相棒らが来てるみてぇだしな、ほれ、行くぞ。ティナ」

 

「了解」

 

 真島が扉を開ける、そこにはたきな、黄理の両名がおり、真島は出会いがしらに右拳を放つ。黄理はたきなの肩を引き、かわさせながら位置を逆転させて二本の鉄棍で真島の首を狙う。

 

 しかし、黄理の攻撃を狙撃銃の弾丸が中断させた。牽制の弾丸を避け、黄理は体勢を崩しながら、舌打ちをする。彼は瞬間的に悟ったのだ、“不殺(ころさず)”では二手足りないことを。

 

 殺すだけなら必殺の一手で事足りる。しかし、今対峙する二人の力量から考えて、今の“七夜黄理”では無力化に届かないのだ。どうしたものかと悩んでいるうち、たきなが銃を取り出して安全装置を外してしまった。

 

 “合わせて動くべきか”。

 “動くな、冷静に場を俯瞰しろ”。

 

 

 

 ──ダメだ。

 

 此処で迂闊に跳ね回れば、たきなの射線に入ってしまう。七夜黄理は理解するしかなかった、もうこの場において自身の介入できる出番は存在しない。

 

 たきなは弾倉全てを打ち尽くす勢いで引き金を引くも、真島と隣の金髪の少女は軽やかに弾丸を避けて、雨どいを伝いビルのフロアを駆け下っていく。黄理は手すりに足をかけ、追いかけようかとも考えたが、あの二人を追いかけたところで仕留められない以上、追跡をしても返り討ちに逢うのが関の山。

 

 

「またなー、電波塔のリコリス~」

 

 真島、そう呼ばれる男の捨て台詞を聞いて、黄理たちは自分たちの敗北を噛みしめた。そして、跳ね上がる勢いでたきなが千束の部屋に入っていき血相を変えての安否確認を始めた。特に苦痛や、激情の思念を視ていなかった黄理は、無事であることは見なくとも理解していたので、のんびりと千束の様子を確認する。

 

 

 ぺたぺたと声を荒げながら、目立った外傷はないかを診ているたきなに千束は少し困惑気味。本気で心配されている無傷な千束は黙ったままこちらに助けを求めた、ような気がした。

 

 やれやれ、と頭をかく。これから心配をかけた張本人である千束と口下手な俺で、たきなをどう(なだ)めればいいのか。

 

「とりあえず、リコリコで腰据えてから事の次第を聞くというのはどうだろう?」

 

 襲撃を受けた直後には不似合いなほど呑気な黄理の口ぶりがたきなの機嫌を直滑降させるのに気付いた千束は、“あちゃー”と両手で顔を覆った。

 

 

 

 

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