12年前の要素はフレーバー程度で、エレジアライブからがメインです。オリジナル天竜人が出てきます。
(某所に投下したものの微ブラッシュアップ版です)
12年前――エレジアにて。
「本当に申し訳ないのだが……今の私には、君を彼のもとへ連れて行ってあげることはできない」
「……」
「だが、成長した君の歌声は、きっと彼のもとまで届けられる。私はそう、信じている」
「私の、歌声……」
「君が、"みんなのため"歌うことができなくなったことは知っている。"ルフィ君のために"でいいんだ。歌ってくれないか。そして、どうか……そのために、私に君を育てさせてはもらえないだろうか」
「……うん。ありがとう、ゴードンさん。私歌うよ。ルフィのために」
そして、現在。
かつての"音楽の国"エレジアでの、歌姫ウタのファーストライブ。一時は海賊の襲撃、海賊"五番目の皇帝"麦わらのルフィとの数分間に及ぶ抱擁、など多少のハプニングはあったものの、それ以外はつつがなく進行していった。ライブの盛り上がりは最高潮に達そうとしている。
「それじゃ、次の曲は――」
だが、そこに異物が侵入してくる。ライブステージにずかずかと上がってきたのは、全身が包まれた奇妙な意匠の衣服を身につけた男と、スーツを着た護衛達。その姿を見た観客達は、これまでの熱狂が嘘のように静まりかえった。ひそひそと、小さなささやき声だけが交わされる。
「天竜人だ……」
「おい、早く平伏しろよ!」
「ウタは一体どうなっちゃうの……?」
やってきた闖入者に、ウタは驚いた様子もなくパフォーマンスを中断し、中心の男に向き直る。
「何の用? ライブ中に邪魔するならさっきの海賊の人たちみたいにするけど」
「ふふ、私は天竜人――ジャカポーム聖だえ! さっそくだが、歌姫ウタ! お前を15億で買ってやるえ~!」
男――天竜人は名乗り、要求を口にした。大仰な喋りと身振り手振りは、まるで舞台俳優のようだった。合わせて、護衛の男の一人が金の詰まったカートを押してくる。
会場は静寂に包まれる。ウタがどう答えるか、誰もがそれに注目していた。とはいえ、出せる答えはひとつだけ。『喜んでお受けいたします』だ。それ以外であった場合、命の保証はない。多くの観客は受け入れて命だけでも繋いでほしい、でもそんなことになってほしくはない、と矛盾した心でそれを見守っている。
ウタはその口をゆっくりと開き、答える。
「え、嫌だけど」
「え~~~~~~~~!!??」
神たる存在に対してのあまりにもストレートな一刀両断に、観客もつい声を出してしまう。すぐに口をつぐんで再度平伏し、視線だけで様子をうかがうが、天竜人は気分を害してはしていないようだ。観客のざわめきも安堵もまるで気にせず、ジャカポーム聖は、笑みを浮かべて言葉を発する。
「そんなこと言っていいのかえ? ――大罪人のくせに」
「っ……!?」
ウタの表情が、ここで初めて揺らぐ。ジャカポーム聖は、大きく手を振り、観客席に向かって大声で主張する。
「おめでたい観客と、ついでに古い仲だとか言う海賊共に私が教えてやるえ! 音楽の国、エレジアが何故滅びたのか! 赤髪海賊団の仕業? 財宝が目当て? 本当は違う――この女こそが、エレジアを滅ぼした元凶なんだえ!」
そうして、天竜人はエレジア壊滅の真相を語り始める。大仰な身振り手振りはそのままに、歌劇を演じるように。
赤髪海賊団の娘であったウタが、彼らに伴われてエレジアを訪れたこと。幼い頃からその才能は際立っており、全国民に向けて歌うことを求められるほどであったということ。そして、その才能のために、エレジアに封印されていた楽譜"トットムジカ"に目を付けられたこと。現れた楽譜をそのまま歌ってしまい、現れた魔王によって国が滅びたこと。
それが、エレジア壊滅までの一部始終であった。ウタは、口を結んで俯いたままその告発を聞いている。彼女が一切の否定をしていないことが、天竜人の発言の正しさを示していた。
「まさか、ウタがエレジアを……」
「国民を皆殺しにしたっていうのか?」
「だから、『私はあなたたちの救世主になんてなれない』って言ってたんだ……」
「でも、それってウタが悪いの?」
「そうだよ、その魔王のせいなんだし」
「でもウタがいたからそいつは出てきたんだろ?」
「そんなの子供だったウタにわかるわけないじゃない!」
「呼び出したのには変わりねェだろうが!!」
「うるさい!!!」
観客達は一時、天竜人の威光すら忘れてざわめく。多くの者が状況を受け止めきれないながらも、大まかに『ウタが悪い』『魔王が悪い』の二派に分かれていた。ジャカポーム聖はその様子を満足げに見やると、ウタに再び声をかけた。
「さあ、国を滅ぼした歌姫よ、答えはどうだえ? 絞首台に送られるか、私のものになるか。そんなこと、もはや選ぶまでもないと思うがえ~?」
いつの間にやら、ジャカポーム聖の手には海楼石の手錠が握られている。のしのしとゆっくり歩み寄る天竜人に対し、歌姫は逃げることもできないでいるようだった。ただ、俯きながら左手を強く握りしめている。先ほど海賊を痛快に撃退した時の明るさは、もはやそこにはない。立ち尽くす彼女の視線が、麦わらの一味がいるはずの小島に向けられる。
蚊の鳴くようなか細い声で、ウタは幼馴染みに助けを求めた。
「たすけて、るふぃ……」
次の瞬間。
「ぶヘェァア!!」
誰もがステージに注目していたが、その瞬間を視認できたのは一握りの実力者だけだった。気付けば天竜人は吹き飛ばされていた。ステージ上で何回か跳ねた後、壁に激突する。ウタの隣に、麦わら帽子を被った男――"五番目の皇帝"とも呼ばれる海賊、モンキー・D・ルフィが立っていた。
「ジャカポーム聖!? 貴様……!」
とっさにルフィに銃を向ける護衛だが、その視線を受けるだけで泡を吹いて倒れてしまう。覇王色の覇気だ。
「ルフィ……!」
ウタは、ルフィに抱きついた。再会時のものとはまるで異なる、縋るような抱擁だった。
天竜人がふらふらと立ち上がり、腫れ上がった頬を抑えて叫ぶ。
「お……おばえ、何したのかわかってるのかえ!? 天竜人に逆らう罪を! そして、その歌姫は大罪人! ここで私をどうにかしたところで、居場所なんてどこにもないんだえ!!」
「知らねェ。それに居場所がねェなら、ウタはおれがもらってく」
端的にして明快な回答。ウタは、ルフィに抱きつく力をさらに強めた。
「うん……うん!」
涙を流す歌姫が、海賊によって力尽くでステージからさらわれていく。言葉としてはひどく凄惨なものだが、観客の多くはその光景をどこか清々しさとともに見送った。
船着き場に到着した麦わらの一味は、サニー号が謎の存在に変わっていた様子に驚いていたが、ウタワールドについての説明を受けて納得する。その後、他の観客に先立ち、護衛役を買って出たルフィただ一人を除き現実世界に帰還した。
彼らが出航の準備を終え、ウタワールドが解除されるまでの間、幼馴染み達は言葉を交わす。
「ルフィ……本当に、私を連れていってくれるの?」
「当然だろ。まあシャンクスには悪ィけどさ、この帽子を返す時に話す!」
「そうじゃなくて、私はこのエレジアを――」
「それ、そんなに気にすることか? お前がやりたくてやったわけじゃないんだからよ」
「で、でも……」
「ウタ。お前の夢、変わってねェんだろ。お前の歌で"新時代"を作るんだろ。おれはそれが見てェってずっと思ってたんだ」
「ありがとう、ルフィ……そうすることが、エレジアの人たちへの償いにもなるかな……?」
「いや、それは知らねェけど」
「……ル~フィ~~~?」
「痛ェ! ゴムなのに!」
それは、実に12年もの時をまたいで訪れた、和やかな二人の時間だった。
一方、現実世界のサニー号では――
「やべェぞ! 海軍の軍艦の大群が近付いてきてる! 20隻はいるぞ!」
ウタウタの実、そしてトットムジカの危険に備えて待機していた軍艦たち。うち1隻には大将すら乗せていたそれらが、天竜人を傷つけた大罪人の船へ向けて大挙して押し寄せる。先頭の船から放たれようとする光には、ウタ以外の皆に見覚えがあった。
「大将までいるのか!? 流石にこれはキツい……え?」
そこに、一隻の船が割り込んだ。
「さっさと行け、バカ息子」
「親父……!?」
逃げる海賊と追いかける海軍、その間に割り込んだ船の名は、レッド・フォース号。赤髪海賊団の乗船であった。軍艦から放たれたレーザーは斬り裂かれて四散する。
「おやァ~~……成人も済ませただろう娘に、なんとも過保護だねェ~~、"赤髪"」
「かわいい娘の大事な門出だ。無事に発てるよう見守ってやるのが親心ってもんだろう」
「――大将! 政府からの撤退命令です!」
"四皇"と"大将"の睨み合いは、海軍側の動きによって終わりを迎えた。艦内から慌てた様子でやってきた海兵が、黄猿に政府からの命令を伝えた。
「いいのかねェ~~? 天竜人が殴られたのに」
「そ、それが――」
海兵が理由を説明するが、黄猿の疑問は解消されていないようだ。指先に灯った光をそのままに、再度問いかける。
「ほォ~~? でも、それならわっしらは撤退じゃなく、エレジアの方に向かうべきじゃないのかねェ~~?」
「そちらには既に……"CP"が手を回しているとのことです!」
海兵からの言葉に、どうやら黄猿は納得したようだった。
「了解したよォ~~」
戦闘態勢を止めた黄猿に、シャンクスが声をかける。
「礼を言う」
「礼を言われる筋合いはないよォ~~。で、そっちも引いてくれるってことでいいのかねェ~~?」
「ああ、こっちとしてはそれでいい」
「わっしらとしても、ここで四皇と事を構えたくもないから助かるねェ……」
納得のもと、双方が矛を収める。海軍は踵を返し、帰還を始めていった。
離れていく海軍の軍艦を尻目に、赤髪のシャンクスは離れていくサウザンド・サニー号に向けて語りかける。
「ルフィ……ウタをよろしく頼むぞ。くれぐれも頼むぞ……くれぐれも……頼むぞ……」
「お頭お頭、覇気が漏れてる」
古今東西、愛する娘を送り出す父親というのはこういうものなのであった。
「シャンクス……ありがとう……」
ウタウタの能力を解かないように必死で眠気を抑えていたウタは、どうやら現実世界での危険が去ったらしいことを確認する。力を振り絞って遠くに見えるレッド・フォース号に小さく手を振ったが、シャンクスからは見えているだろうか。
そんな中、一人また一人とウタワールド内の観客達が眠りにつき、現実世界へと帰っていく。
「眠ィ……」
「ルフィも、本当にありがとうね」
そうして、最後までウタワールドに残っていたルフィもまたウタの膝枕で眠り、光の粒子に包まれてウタワールドからその姿を消した。
全ての観客が消えた会場。特設ステージの上に、ジャカポーム聖の一行だけが残っていた。
「……」
虚ろな顔で立ち尽くしていた天竜人とその護衛達は――黒色の音符となって、弾けて消えた。
――時は、ほんの少しだけ遡る。
五老星は、"CP0"の男に命令を下していた。
「……麦わらの一味に対する海軍の追跡は切り上げさせろ」
「許して良いのですか? 天竜人に対する直接的な暴行を」
「良いのだ。ジャカポーム聖などという天竜人は……数百年も昔に、既にこの世を去っているのだから」
「非公式とはいえ、エレジアに訪問した記録が残っていることに加えて、12年前のエレジアの一件について妙に詳しいことが気にかかるな」
「恐らくは"トットムジカ"が関わっているのだろうが……」
「少なくとも、麦わらのルフィは"天竜人"を殴ってなどいないということになる」
「"赤髪"も娘の逃亡を助ける姿勢を見せているようだ。今ここで四皇級の海賊団2つと"理由無く"戦争を始めることは避けたい」
「了解しました」
――たった一人のウタワールドで、歌姫は恍惚の表情で独り言つ。
「ああ、やっぱりルフィは私の大好きなルフィのままだった」
「計画は大成功。ライブに来てくれて、私を連れ出してくれた」
「本に載ってた天竜人を再現してみたけど、上手くいってよかった」
「あの天竜人に私の罪について暴露させた時は、本当に怖かった。ルフィが受け入れてくれるかどうか」
「でも、ルフィは私を受け入れてくれた。助けてくれた。私の新時代を見たいって、そう言ってくれた」
「物語の王子様とお姫様みたいだった。ちょっと憧れてたんだ、ああいうの」
「海軍があんなに来るのだけはちょっと想定外だったけど、ゴードンと同じように、シャンクスも私を見送ってくれた」
「だから私は、ルフィの隣で新時代を作るんだ。ルフィの新時代を、ルフィの隣で見届けるんだ」
「そうして"私たちの新時代"を作って、それから後も、ずっとずっと、ずっとずっと、私はルフィと一緒にいるんだ」
「会えなかった12年間なんて一瞬になっちゃうくらい、ずーっと……」
「これからもよろしくね。愛してるよ、ルフィ……♡」