ここだけアルトリアに(ry   作:パパイヤZ

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極光

 

 

 

 

 唐突ではあるが水棲生物はお好きだろうか。

 魚、貝、イカ、タコ、ヒトデその他諸々。

 人によって好みは分かれるだろうが、俺はどちらかというと嫌いだった。

 別に嫌いではなかった時期もあった筈なのだが、とにかく今は苦手なのである。

 そしてそんな嫌いなモノが深夜の美女とのドライブ中に突然現れたら、俺の機嫌が急降下するのもある種必然というものだろう。

 え、何言っているか分からない?

 うん俺も体験するまではそんなことが本当に起こるとは思っていなかった。

 山道を車で移動しているのだから、魚のさの字も出てこないというのが普通であり、今のような状態こそおかしい筈だ。

 だが出てしまったのだ。

 

 ――()()()()()()()()()()()()が。

  

 これでその古めかしい装束に相応しいピエロめいた愉快な人物であればまだ笑い飛ばせたかもしれないが、残念ながらそんなことはなかった。

 むしろ鳥肌が立つタイプの不審者だった。

 外見通りの。 

 チクショー!!

 

 いや本当になんで?

 確かに聖杯戦争なんていう怪しい儀式に参加する以上、それなりの覚悟はしてきたよ。

 ヤバいくらいの怪物めいた相手とかと戦う覚悟をね。

 でもそれは物理的な戦闘力という意味であって、生理的な嫌悪感を抱くようなメンタル的な方面での覚悟ではなかった。

 だって英雄が呼ばれるっていうんだから、うちの円卓の連中とかを想像するじゃん普通は。

 なに?

 これ俺が悪いの?

 ヤバいのハードルが低すぎた?

 

 ハア。

 もうどうでもいいや。

 どうやらこの魚目のオッサンがキャスターのサーヴァントらしいし、そういう事であれば話は早い。

 さっさとぶった斬ってしまおう。

 結局今日はあの髭面のライダーのお陰で誰とも決着を付けられなかったから、ここで手柄を上げるいい機会だ。

 ――と思って斬りかかってみたものの、どうにもヌルっと逃げられた。

 頭おかしいと思っていたが、意外に冷静な判断。

 クソーしくったな。

 生存本能とかはまだあるのかよ。

 いやこの場合は使命感からくるものか?

 アイツの言ってることを真に受けると俺がジャンヌ・ダルクってことになるから話半分に聞いてたけど、どうやら俺の目を覚ますために行動するらしいし。

 その使命のためにはまだ死ねないと。

 見た目に似合わず結構真面目な奴だな。

 

 とはいえ呆気に取られててもしょうがないので、そのままドライブを再開してしばし、やっと目的地に到着した。

 この儀式の際によく使っているという美人さんの実家が用意したお城。

 そこが俺たちの拠点になるらしい。

 うん。

 突っ込みどころはあるよ。 

 この二十世紀ジャパンにドイツ風建築のお城?ってね。

 でももうさ。

 慣れたよ。

 仕方ないじゃん。

 そりゃお城の一つくらいあった方が便利だもんね。

 格好いいし。

 だから俺が特にこれについて何か言うことはない。

 見るからに安全そうな拠点に、むしろ感謝しているくらいだ。

 これでやっと人心地つける。

 

 ハ~ア。

 散々な一日だったわ。

 やっぱ心理的なストレスがね。

 何事も積み重なると辛いものなのだ。

 どうやら明日の朝までは美人さんの護衛をしながらこのお城に待機していればいいらしいし、休めたら嬉しいな。

 

 

 

 

 ――さて時間は過ぎて再び夜である。

 結局日中に俺がやることは特になかった。

 もちろん美人さんの警護は一切の油断なくやり遂げましたよ。

 でも流石に日が出ているうちに襲撃をかけてくる馬鹿どもはいなかったし、実質突っ立っていただけだ。

 

 一方俺の契約者ことハイライトお亡くなりオジサンは、色々と忙しかったらしい。

 倉庫街での戦闘のあと早速他の参加者の拠点にカチコミをかけにいったりとか、監督役である教会からのルール変更のお知らせを確認したりとか、その他諸々。

 いや~アグレッシブですね。

 特にこの序盤も序盤でビルごとランサーのマスターを土葬したと聞いたときはビックリしましたよ。

 一応事前に火災を発生させて一般客は避難させてからの爆破だったらしいけど、だいぶ覚悟が決まっていらっしゃる。

 そりゃ俺も生前色々やったから理屈は分かるよ。

 不意打ちっていうのは速度が大事だからね。

 敵が見るからに爆破してくださいって言わんばかりの高層ビルに立て籠もっていたら、そりゃやりたくもなるでしょう。

 

 ……なるほどな。

 こういうスタイルなのか。

 ランサーとまたチャンバラしなきゃならん可能性が消えたのはまあ歓迎だし、これでオジサンのことが少しは掘り下げられたと思う。

 手段は選ばないように見えて意外と選んでいるというか、状況に合わせて色々と考えるタイプなんだろう。

 あと多分だけど完全に情がないわけではない。

 そもそもそんな冷血漢だったらあの子があんなに懐かないから分かっていたことではあるが、戦場でも捨てきれないタイプらしい。

 ブランクがあるらしいから錆びちゃってるっていう線もあるか。

 なんにせよ、また一歩前進だな。

 ……早く仲良くならんと。

 

 ハア。

 今まさに俺のことをガン無視して作戦会議を進めているオジサンの鉄面皮っぷりを見ると、あと何歩進めばいいのやらと不安になってくるけど。

 ただ、本来このお城で合流する筈じゃなかったのにこうして合流できたのは吉兆。

 この機に俺を信用してもいいという実績を作っておくのもいいかもしれない。

 ただコミュニケーションを試みるのはちょっと無理筋かな。

 一応要所要所で相槌くらいは打ってみてるんだけど、全部なかったことにされるしそれを見て美人さんが辛そうな顔をするしそろそろやめておこう。

 いやしかし……。

 

 ――俺が色々と悩んでいる間に作戦会議は終わってしまい、場はお開きとなった。

 無念。

 とはいえ終わってしまったものは仕方ない。

 次は頑張ろう。

 次は。

 ……ん?

 何かオジサンと美人さんが慌ただし気に戻ってきたな。

 なんかあったんか?

 てっきりここからは夫婦の時間です的な空気だと思ったからそっとしていたんだが。

 えっ?

 侵入者を感知した?

 相手は誰って――ああ~魚眼怪人じゃん。

 あいつもう来たの?

 しかも子供ぞろぞろ引き連れて。

 どうせろくでもない目的に使うんだろうなって分かっちゃって、凄い今から憂鬱な気分なんだけど。

 あれでしょ。

 人質戦法でしょ、ってアッ――。

 

 ――あの野郎やりやがったな。

 ハ~ア。

 スプラッタ映画じゃないんだぞ。

 何でわざわざこっちがお前の様子見てるって分かった上でそんなことやるかね~。

 悪趣味だな。

 うん。

 本当に悪趣味。

 うちの姉上と言いなんで魔術師って奴は趣味が悪い奴が多いんだろうね。

 もう嫌になっちゃうぞ。

 

 まあいいや。

 正直あんま戦いたくないなーって思ってたけど、やるしかないみたいだし()()()()も追加してくれたから相手してやるよ。

 

 

 

 

 

 ――っていうわけで早速現着。

 ちゃんと美人さんの許可は取ったし、護衛役自体はあの場にいたオジサンとオジサンの助手さんがやるだろうからそこんとこ抜かりはない。

 だからちゃっちゃと終わらせようぜ。

 と、一応煽っておく。

 こういうのはやっておくだけ損はないから生前からよく使う手だ。

 この魚眼怪人にどれだけ通じるかは分からないが果たして……。

 

 うん。

 期待した感じの効果は出なかったわ。

 それは凄く残念。

 もうちょっと怒ってくれても良かったのに、むしろ戦意を煽ったような結果に終わってしまった。

 やっぱコイツ見た目と違って結構まともに状況を把握してるわ。

 態度がヤバすぎて完全な狂人に見えるけど。

 でもいくら強力な宝具を持っていても、キャスターが正面から俺に挑んでくるのは完全に失敗だったな。

 

 あれだから。

 お前がどれだけキモい使い魔よこしてきても意味ないから。

 何なら子供の中に仕込んでおいたとしても無駄だから。

 確かにお前自身が直接魔術で攻撃してくるよりはよっぽど賢い選択だとは思うよ。

 なんせ俺魔術ほぼ効かないし。

 でもだからと言って使い魔の数だよりで攻撃してくるのも間違いなわけよ。

 こいつらみたいな雑魚が何匹かかってこようとも基本的に近接戦闘に特化した俺を倒せる見込みはゼロ。

 つけ加えて言うならば、俺には切り札がある。

 一瞬で雑魚の群れくらい一掃できるだけの切り札が。

 

 ――というわけでここでご退場ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10

 

 

 

 

 ――極光の斬撃が視界を満たす。

 

 騎士道の華。

 人理に刻まれし英傑が集った円卓の騎士団。

 彼らを率いたブリテンの騎士王アーサー・ペンドラゴン。

 かの王が振るいし()()は、文字通り聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置する。

 正当な所有者のもとで発揮されたその輝きは、青髭ジル・ド・レェの召喚した海魔を残らず蒸発させた。

 当然だ。

 聖剣約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 湖の妖精から授かった()()の光は、凡百の使い魔ごときに防げるようなものではないのだ。

 

「……逃げられたか」

 

 とはいえ如何に最強の宝具の一角に属する星の聖剣と言えど、欠点は存在する。

 必要とする膨大な魔力然り、円卓の騎士たちが課した十三拘束然り、この場合で言えば真名を解放する際の()()がそれにあたる。

 結果として大地を抉り、木々を薙ぎ倒し、海魔たちやそれらを召喚するための触媒である血や遺骸を根こそぎ消滅させたものの、主目的であったキャスターの討伐自体は叶わなかったのだ。

 

「勘のいい奴だ」

 

 無論セイバーとしてもこの結果は不本意なものである。

 子供を害されるという彼女にとって特級の地雷を踏まれ、怒りで普段の冷静さを失っていたという言い訳は出来るが、そんなことを実際口にすることはあり得ないだろう。

 とはいえ彼女が普段の未来予知のごとき直感を活かせなかったことは事実であり、正面からキャスターを攻撃するという愚策を実行したのも事実であった。

 そのために気づいたときはキャスターが召喚する海魔の大群に周囲を取り囲まれており、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真価を発揮させるのにも不利な形となっていた。

 なんとか態勢を立て直し、追い詰められた風を装って海魔の群れを誘導する形で宝具の効果範囲内に敵の大半を収めることに成功したため一掃することこそ成功したが、彼女としては落第点の戦運びであった。

 

「ハア」

 

 やはりキャスター――ジル・ド・レェを仕留めきれていないということが大きい。

 確かに奴の姿も宝具の効果範囲内に収めた確信こそあるが、残念ながらはっきりとした手ごたえはなかった。

 この場に残るのも、奴の召喚した海魔が漂わせていた悍ましい気配と匂いの名残のみであり、キャスター自身の退去は確認できていないのだ。

 十中八九霊体化して逃げたのだろう。

 だが彼女にはここで霊体化してキャスターを追跡するという選択肢を取ることは出来なかった。

 ()()()()()()()()()

 しかし追跡は出来ない。

 それはキャスターがアサシンのごとき隠密能力を持っているということではなく、単純にタイミングの話だった。

 

「……新手だな」

 

 先ほどから――正確に言えば彼女がキャスターの召喚した三十一体目の海魔を切り捨てたあたりから、()()()()()が近くで衝突していた。

 それらが発する強大な魔力から考えて、まず間違いなく英霊同士の戦い。

 付け加えるならばそのうちの一騎はつい先日に刃を交えた強敵――ランサーであることが感じ取れる。

 つまりこの森には現在四騎の英霊が集結していることになるが、これ自体はさほどおかしな状況ではない。

 もともとキャスターは証拠の隠滅も無しに魔術を行使するというルール破りを行ったことから、全陣営より狙われている身だ。

 討伐した報酬として監督役の聖堂教会から令呪を与えられるとなれば、各陣営が目の色を変えてその行方を追跡するのも無理からぬ話である。

 なにせ令呪があれば英霊を確実に制御することができ、またそれ自体が持つ強大な魔力は様々な用途に利用可能なのだ。

 それを得ること、さらに言えば他の参加者に獲得させないことがこの局面における大きな目標となるのもいっそ当然と言えよう。

 

 そんな経緯なので、キャスターを追って聖杯戦争の参加者たちがこの森に侵入してくるというのはある種分かりきった展開だった。

 そして現状は想定されていた展開の中では上々の部類。

 森に入ってきた複数の英霊がキャスター討伐のための共闘をよしとせず、むしろお互いにいがみ合ってくれているというのなら、こんなに楽な話はない。

 即席であろうとも連携してくれば十分に脅威であったものだが、結果として彼らがその道を選択しなかったお陰で横槍は防がれたのだ。

 感謝するべきだろう。

 その短慮に。

 確かにキャスターは排除すべき害悪だ。

 だが彼らが共闘してキャスターを倒したあと、真っ先に攻撃対象になるのはセイバーであることが容易に予想される。

 過去三度の聖杯戦争において、安定した能力と優秀なスキルによりいずれも最後まで勝ち残っている最優のクラスこそがセイバーなのだから。

 ゆえにこの展開は歓迎される。

 

 ――しかし同時に、ここでセイバーがキャスターを退けたことにより状況は変化した。

 今まで戦っていた二騎が、残るセイバーを相手に一時休戦することはこれまた十分あり得る話なため、一刻も早い対処が求められるのだ。

 

「……切嗣からの連絡はなし。ならば私に任せていると考えていいのだろう」

 

 こういうときマスターとの普段のコミュニケーションが取れていないのが痛い。

 この状況で何を考えているのかということが、単純に読みづらいのだ。

 しかしここはアインツベルンの領地である森の中。

 展開されている結界の範囲からは微妙に外れているが、連絡しようと思えばいくらでも手段はある。

 そんな中で此方に対して何の指示もないということは、このまま好きに暴れて目立てばいいということなのだろう。

 ……辛うじてアイリスフィールを通じて共有されている基本方針を思い返せば、そういう結論になるのだ。

 

「……行くか」

 

 ――森の東側へと進路を定め、剣の英霊は暗い木々の中を疾駆する。

 ただの人間であってもさほど時間はかからない距離。

 英霊の身体能力であればほんの一瞬。

 それだけの時間をかけて移動した先には、予想通り二騎の英霊が激しい白兵戦を演じていた。

 

 片や双槍を振るいし美貌の騎士――ランサー。

 ケルト神話に名高いフィオナ騎士団において最強と謳われた偉丈夫。

 

 そして彼と相対するは――。

 

 

 

 

 

「――誰だ?」

 

 

 

 

 11

 

 

 

 

「やれやれ困ったものだ。如何に雁夜めが欠陥品のマスターであれども、こうまで己が召喚したサーヴァントを御せぬとは」

 

 間桐邸の地下深くに隠された蟲蔵の中で、老人は独りごちる。

 遠くキエフからこの日本に渡り早二百年。

 一族で根を下ろしたこの地で、既に名士と呼ばれるようになるまでの時間が経っていた。

 それだけの長い時を生き、一度目から今回の四度目に至るまで全ての聖杯戦争を見届けてきた男は、己の息子の醜態に嘆いている。

 魔術師として零落しつつある間桐の血脈。

 仮にも己の息子として生まれ落ちた身であるにもかかわらず、間桐家から参加させたマスター――間桐雁夜は現状何の戦果も挙げていなかった。

 それどころか召喚したサーヴァントからは半ば無視され、魔力の経路(パス)を通すことさえ拒否されてまともに指示を出すことさえままならない状況だ。

 結果として()()()()()で死にかけの身体を引きずって、彼は冬木市内をあてもなく彷徨っている有様だった。

 

「クカカッ」

 

 とはいえこれは老人にとって想定の範囲内であるため、焦りはない。

 むしろ己に反発し一度は出奔した己の息子を苦しめ、その様を嗤うためにわざわざ手を回して円卓の騎士にまつわる触媒を用意してまで儀式に参加させたのだ。

 これしきのことで音をあげてもらっては困るというもの。

 

「呼び出したサーヴァントの能力自体は申し分なかったのだが、実に惜しい。とはいえ此方もまた雁夜と同じく己が分を弁えぬ愚か者。主従で似たというわけか」

 

 老人にとって今回の聖杯戦争への参戦は本命のための布石だ。

 息子の醜態を愉しみつつ、次回、或いは次々回の開催に際して勝率を上げるために情報の収集を行っている。

 召喚の触媒を吟味するというのもその一つだ。

 強力で召喚者に従順なサーヴァントというのはマスターにとって喉から手が出るほど欲しいもの。

 しかし実際の性格や性能はいざ召喚してみるまで分からない。

 伝承での記述などは参考になるのだが、残念ながら確実とまでは言えないからだ。

 先の第三次の例を見てもそう。

 アインツベルン家が確実な勝利を目論み召喚した英霊アンリ・マユ。

 分不相応にもゾロアスター教の恐るべき悪神という埒外の存在を呼び出そうとした彼らは、とんでもない外れくじを引かされる羽目となった。

 神でもなんでもないただの壊れた人間。

 あまりにも弱すぎた()()はあっさりと敗退し、聖杯を汚染するというイレギュラーまで引き起こした。

 

「様子を見るつもりであったが、こうも見苦しくあると少しは手助けをしたくもなってくるというもの。さてどうすべきか……」

 

 英霊モードレッド。

 かのアーサー王伝説を終幕へと導いた叛逆の英霊は、単純に強い。

 ()()()()()であるというのに、第三次聖杯戦争のアヴェンジャーと比べれば雲泥の差だった。

 これは少々おかしな出来事だと言える。

 なにせモードレッドを召喚した間桐雁夜は、刻印蟲を体内に入れ疑似的な魔力回路とすることでようやくマスターとしての体を為している半人前。

 依り代であるマスターの実力によってスペックも上下するサーヴァントの法則に照らせば、モードレッドの実力はもっと低くなくてはならない筈なのだ。

 しかし、事実モードレッドは明らかに強敵である遠坂が召喚したアーチャーを一時的に退けるほどの力を持っている。

 確かにアーチャーを退けたこと自体は宝具の性能が優れているという事だけで説明できるかもしれないが、モードレッドのステータスの数値も把握している老人としては疑問が残っていた。

 

 召喚したときの出来事にしてもそうだ。

 老人は間桐雁夜に対して、サーヴァントの召喚に臨むにあたり()()()()()()()()()()()()()()()していた。

 これは過剰な魔力消費に雁夜が苦しめられることを狙ってのことだったが、問題はそのあとだ。

 狂化の属性を付与するように召喚の際の文言を変更したにも関わらず、呼び出されたモードレッドのクラスは()()()()()()()()()()()()のである。

 老人――間桐臓硯の長年に渡る経験の中でも類を見ない現象。

 モードレッドには何らかの異常が働いている。

 臓硯はそう睨んでいた。

 恐らくは明らかに通常の英霊の枠を逸脱した此度のキャスター――ジル・ド・レェにしてもそうだが、聖杯の汚染による影響は当初想定していたよりも大きいのかもしれない。

 不幸中の幸いは、そのイレギュラーの出現を召喚直後という限りなく早期に掴めていたことだろう。

 

「――惜しい。実に惜しい。ああも野放図に暴れまわってはいずれ敗れるのは必定。今はキャスターめに視線が集中しているからいいものの、次が己であるということに気づいておらん。……いや、気づいているのか。なんにせよ、己を律せぬのであれば如何な洞察眼も無力、か」

 

 現在アヴェンジャーは、アインツベルンの所有する森の一角でランサーと交戦中である。

 もともとは両者とも市街地を散策中に発見したキャスターを追跡して森に踏み込んだわけであるが、そこで運悪く鉢合わせした――ということでもなかった。

 アヴェンジャーはその鎧によってアサシンに匹敵する隠密行動が可能だ。

 つまり普通に考えてその姿をランサーやそのマスターに晒すことはあり得ないし、またその必要もない。

 しかし何を考えているのか、アヴェンジャー――モードレッドはマスターと別行動に移ったランサーの目の前に立ち塞がり、今のような一騎打ちを始めてしまったのだった。

 

 臓硯からしたら意味が分からない。

 せっかく隠密能力があるのだから、そのアドバンテージを活かしてランサーのマスター――かの名高き時計塔のロード・エルメロイの背後を襲えばいいものを、何を騎士ごっこに興じているのだろうか。

 そう、どうやらアヴァンジャーは未だに生前の未練に固執しているらしいのだ。

 それ自体はいい。

 聖杯に召喚されるサーヴァントとは所詮、死してなお生者としての在り方に囚われたままの愚者だ。

 だがそれなら猶更、己の未練を晴らすために手段を選んでいられる場合ではないだろう。

 まさか騎士として果し合いをするためだけに己の死を冒涜してまで蘇ったわけではあるまいに。

 

 ……一瞬あり得ない可能性が頭をよぎったが、やはり無理がある。

 英霊モードレッド。

 それはアーサー王伝説に幕を下ろした最悪の叛逆者だ。

 妖婦モルガンとアーサー王との間に産まれた私生児でありながら、モードレッドはアーサー王の慈悲により、その庇護下で王国を継承するために育てられた。

 だがやがて成長した()は、己の出生に秘められた闇を知り、自らがアーサー王の正統な後継者でないことに絶望する。

 そして最終的に彼は狂気のままに王国を滅ぼし、かのカムランの丘でアーサー王と共に果てたのだ。

 

 この逸話をもとにすれば、彼――いや()()の願いは己の出生の書き換え、或いは父母への復讐等が考えられる。

 生半可な願いではない。

 実際あの英霊の瞳からはそれなりの覚悟が見てとれた。

 手際が悪かったとはいえ無辜の一般人を手にかけ魔力を集めていたことからも、そういった想いは確かにあった筈なのだ。

 それがどうしたことか、今は完全に合理性を欠いた行動をとっている。

 そのきっかけとして何かがあったのか?

 ――いやソレは考えるまでもない。

 かの聖剣を振るいし少女、ブリテンの騎士王。

 まず間違いなくこれだ。

 

「何の因果なのやら。こうして死してなお親子が揃うことになるとは、想像すらしておらなんだろう」

 

 とはいえ、アヴェンジャー変貌の理由があのセイバーにあるとしても、やはり疑問は残る。

 臓硯としては、モードレッドが父親であり自らに過酷な運命を強いたアーサー王のことを当然恨んでいるという前提に今まで立っていた。

 ちょうど間桐雁夜が臓硯を恨むかのように。

 しかし戦況を客観的に見ると、どうもキャスターと戦うセイバーに横槍が入らないようにアヴェンジャーが守ったかのような形になるのだ。

 これは不可解である。

 

「ん?」

 

 なおも頭をひねる臓硯だったが、使い魔の蟲から送られてくる映像に明確な変化が生じたことから一旦そちらに意識を向ける。

 映し出されるのは青色のドレスに鋼色に輝く鎧を纏った金髪の麗人。

 たった今キャスターを下した足で戦場を移動してきた英霊、セイバーだ。

 そしてそれに対峙するは激突していた二騎の英霊。

 ランサー。

 及びアヴェンジャー。

 

「ほう」

 

 状況はなおも混沌を極めていた。

 が、ともあれこれでセイバーと対面した以上、アヴェンジャーに対して抱えていた疑問が解消される手がかりが得られる公算は高い。

 

 蟲蔵の奥の観戦は、今しばし続きそうだ。

 

 

 

 

12

 

 

 

 

 ――誰だ?

 

 思わず誰何の声をあげたセイバーを責めるものは、恐らくいないだろう。

 何故ならば、彼女から見て黒い全身鎧に身を包んだその英霊の姿は、()()()()()()()()()()()ものだったからだ。

 見覚えは――ない。

 だが何故だか、とても懐かしいものを見たように本能が、胸が叫んで激しく鼓動を打っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 そういう強迫観念めいた思考が彼女の身体を満たして、一瞬その動きを止めた。

 

「アアアアアアアァァァァァァッッッ!!!」

「ッ!」

「なにッ?!」

 

 その一瞬、瞬きよりも短い刹那の時間、その隙を突いて動いた者がいる。

 アヴェンジャー。

 叛逆の英霊は、手負いの獣のような絶叫をあげながら、聖剣の騎士王に斬りかかった。

 直前まで斬り結んでいたランサーを完全に無視する形だが、ランサーもまたこの場に現れたセイバーの姿を目にして僅かに硬直していた。

 歴戦の英霊たちが、いや歴戦であるからこそ先を考えて僅かに隙を作った中、アヴェンジャーだけが動いた。

 それは恐らく、脳を介した動作ではなかったのだろう。

 本能。

 まさしくアヴェンジャー自身にも理解できない感情の働きが、彼女にこういった行動をとらせた。

 

「クッ!」

 

 防御を完全に捨てた渾身の一撃。

 無論かの名高き騎士王が無防備に攻撃を受けるはずもなく、鮮やかな身のこなしで放たれた一閃がアヴェンジャーのソレを迎え撃った。

 衝突。

 英霊という人智を超えた力を持つ存在が、魔力を迸らせ互いの総身から繰り出した斬撃の交錯は、大地を震わせ木々を揺るがす。

 そしてステータスという意味でほとんど差がない両者ではあるが、最初の衝突は不意を突かれたセイバーに不利であった。

 押し出され、僅かに後退する騎士王。

 

「ガアァァッッ!!」

 

 そして、なおも追撃するアヴェンジャー。

 暴風のように滅茶苦茶な剣捌きで繰り出される猛攻がセイバーを襲う。

 金属が衝突する激しい音が連続して幾度も響き、そのたびにアルトリアは後退を余儀なくされた。

 初撃で態勢を崩されていたことが一つ。

 またこの黒い騎士を見てどうしても感じてしまう心の叫びが、彼女の集中を乱していることが一つ。

 しかしその二つを加味しても、やはり常勝の騎士王を退かせることは並みの猛者では不可能だろう。

 すなわちソレをなしえていることこそ、アヴェンジャーが並を遥かに凌駕する難敵であることの証左でもあった。

 

 ――手強い。

 気づけば最初に刃を交えた位置から数百メートル以上離れたところまで押し込まれたセイバーは、そう確信する。

 狂戦士(バーサーカー)、或いは他のエクストラクラスか。

 なんにせよ、倉庫街で戦ったランサーに匹敵、いや凌駕するほどの近接戦闘能力。

 未だ宝具を使っている様子がないことからも、更なる警戒が必要だろう。

 

 ……ランサーと言えば、この一瞬で気配と姿が消えている。

 目の前の英霊と直前まで戦っていたというのに、標的が切り替わった僅かの間にこの場から立ち去っているようだ。

 あの卑怯卑劣を嫌う生真面目な男が敵を前にして撤退するとは考えにくいが、余程の事情があったのかもしれない。

 そう、例えば契約を交わしたマスターの危機など。

 あり得る話だとセイバーは思う。

 アイリスフィールを通して聞いた話では、先の倉庫街での戦闘でもランサーのマスターは実際に現地へと赴いていたらしい。

 好戦的な性格に、それを裏付けるだけの実力。

 加えて切嗣がランサー陣営に仕掛けたあの悪趣味なプレゼント(ビルごと拠点爆破)に勘づいていれば、自ら報復に出陣したということも十分考えられる。

 そしてセイバー陣営の居城へと攻め込んだロード・エルメロイが切嗣の手により返り討ちに遭い、主の危機を察知したランサーが恥を忍んで戦線を離脱したというのは、そうおかしな推測でもないだろう。

 

 実際セイバーの予想は概ね正しかった。

 ビル爆破の実行犯がアインツベルン陣営に潜んでいるという事実をロード・エルメロイが知ったのが居城に侵入した後だったという点だけは異なっていたが、それ以外に関しては間違いはない。

 

 そしてセイバーは思う。

 この予想が正しかった場合、アインツベルン陣営は今すぐにでも敗退してもおかしくはない。

 切嗣が魔術師殺しの異名を持つ凄腕の魔術使いであることは彼女も認知していたが、それでもランサーを相手に生き延びることは困難だ。

 現代の魔術を扱う者が英霊、ことに対魔力のスキルを持つ三騎士に出来ることなど極々僅か。

 ランサーに敵意があった場合、まず間違いなく殺害されるだろう。

 聖杯戦争において時にサーヴァント以上に殺される可能性が高いのがマスターなのだから。

 

 希望があるとすれば、危機に気づいた切嗣が令呪を使ってセイバーを転移で呼び戻すことだが、これも人間の反射神経で可能なことなのだろうかと疑問が残る。

 

「……」

 

 どちらにせよ今から追いかけても間に合わない以上、自分がすべきことはここで眼前の敵を足止めすることだろう。

 サーヴァント三騎の戦闘に巻き込まれるよりは、サーヴァント一騎を相手に逃げることの方がまだ可能性がある。

 ランサーを見逃したのは自分のミスである以上心苦しいが、ここは切嗣を信じるしかない。

 

「……ハア。ままならないものだ。やはり戦争などするものではない。貴公もそう思わないか」

「……」

「無言か。だが喋れないというわけではないのだろう?荒々しい剣の裏に、確かな術理が透けて見える。それは凪いだ水面のごとき理性なくして扱えぬものだ」

 

 確証があるわけではない。

 だがセイバーの()()()()()していた。

 今さっき数十合剣を交えたこの英霊には、紛れもなく理性がある。

 交えた剣を通して伝わってくるのは、単なる狂気ではなく優秀な戦士の持つ氷のように冷徹な思考。

 そしてその奥で滾るマグマのごとき激情。

 ……これもまた、酷く覚えのある感覚だった。

 自分はかつて、この剣士と刃を交えたことがある?

 それも一度や二度ではない。

 それこそ数えきれないほど経験したかのように慣れ親しんだ手応え。

 

 ――間違いない。 

 私は()()()()()()()()()()

 恐らく生前の知己。 

 それもアーサー王としての自分のごく身近にいたものだ。

 なぜそこまで近しいものをこうして対面してもなお判別できないのかは確かに疑問ではあるが、それに対する答えもまた彼女の中には浮かびつつあった。

 

「――問おう。何故そなたは聖杯を求める。」

「……」

「ああ、別に答える必要もない戯れだ。だが私には、こうして聖杯を求め此度の戦いに参じた他の英霊たちが疑問に思えてな。何せ私には、仮初の命を得てまで叶えたい願いなどないのだから」

「……叶えたい願いが、ないだと?」

 

 それはいっそ不自然なほど聞き馴染みのない声であった。

 兜の下から発せられる声というのはくぐもって聞こえるものだが、それとは違う僅かな違和感がどうしても拭い切れていない。

 

 ――ここに至ってアルトリア・ペンドラゴンはある一つのことを確信した。

 自分がなぜこの戦いへの召喚に応じたのか、その理由の全てを。

 

「そうだ。私には万能の聖杯などに縋る理由などない。かつての生涯には多くの苦難こそあったが、それでも私はその全てを受容する。なぜなら苦難なくしては、私が輝かしく思う全ての記憶をも失うことになるからだ。私はそう信じているし、これからもそう思い続ける」

「……」

「――だが、お前にはそう思えなかったのだな。モードレッド」

 

 その言葉を口にしたあと何が起こるのか、セイバーには予想がついていなかった。

 だがどうしても、確認しなければならないことだった。

 ここで黒い騎士の正体を知っておかなければ、私は今後絶対に犯してはならない間違いを犯す。

 そういった確信がある。

 

 だがいざその言葉を言ったあと、セイバーの目に去来したのは久しく覚えていなかった不安だった。

 また選択を間違えたのではないだろうか。

 ()()()()と同じような絶対にしてはならない選択を取ったのではないか。

 ……分かっている。

 直感は今の選択が正しかったと言っているし、彼女の理性もまたその選択を支持している。

 とにかく物事を前進させなくては、何事も決着がつかなくなるというものだ。

 

 それでも不安が絶えないのは、過去のトラウマ、そして自らの娘へ抱いている強い感情ゆえ。

 かつて花の魔術師が抱いた懸念は当たっていた。

 完璧であれと望まれ、完璧であらんとし、実際にそうあった王の唯一の弱点は、我が子への愛だった。

 どれほど優れた直感と判断力を持っていたとしても、愛から生じる不安によってその眼は如何様にも曇る。

 

 

 

「――そうだ。オレはあの結末を認めない。偉大なりしアーサー王が築いた輝かしき王国の最期が、あんなものであってたまるものかッ!!」

 

 ギリっと歯を噛みしめるような音に続いて、叛逆の騎士はそう吠えた。

 続いてガシャンと兜の変形機構が作動し、その素顔が顕わになる。

 同時に迸るは、王剣より生じる黒い極光。

 それはかつて、日輪の聖剣の光を呑み込み、アーサー王の星の聖剣すら陰らせた卑王の息吹と酷似していた。

 

「ッよせモードレッド!お前と戦いたくはないのだッ!!」

「黙れッ!父上の紛い物風情がッ、オレの名を、呼ぶなァァァッッ!」

 

 

 

 ――我が麗しき祖国の落日(クラレント・ヴォーティガーン)

 

 

 告げられた真名に従い、輝かしき王剣はその歪み汚された力を解放する。

 閃光と爆音。

 遅れて到達する爆風。

 それに煽られて運ばれてくる大量の砂塵。

 放射されたエネルギーの()()()()()()()()()()()()蒸発するか、続いて発生した余波で吹き飛ばされた。

 大地には圧倒的な破壊痕が残り、樹木は赤黒い炎に包まれて燃え盛る。

 この世の終わりが顕現したかのようなそんな光景の中、宝具の力が振るわれた間近にいたセイバーは、しかし軽傷であった。

 

 籠手や鎧の一部が溶けたり皮膚に火傷が生じたりはしたものの、全体的なダメージはこのまま戦闘を続行できる程度の軽さだった。

 彼女が躱したわけではない。

 アルトリアは真名が解放されるその瞬間まで動かずに自分の娘を見ていた。

 まるで少しでも娘と戦う素振りを見せまいとするかのように。

 ゆえにこの結果は、宝具を使用した者の手心により発生したというのが単純な話である。

 無論当人にとってはそんなに単純な話ではなかっただろう。

 事実、外気に晒されたその表情は、複雑という言葉ではいい表せないほど酷く歪んでいた。

 入り混じっているその感情の中で最も本人にとって不本意であったのは、恐らく安堵だろう。

 父に縋らないと決め、父を否定すると決めたにもかかわらず、彼女の心は未だ父に刃を向けることを拒んでいた。

 

「……クソッ」

「待てッ!モードレッド――」

 

 剣を杖にしながら立ち上がるアルトリアが伸ばした手は、誰も掴まないまま空を切った。

 自らの覚悟が足りなかったことを突き付けられた叛逆の騎士は森の暗闇の中に姿を消し、追おうとしたセイバーは唐突な大魔術の予感に体を強張らせた。

 セイバークラスの英霊にすら作用する魔術。

 通常ならほぼあり得ないそれは、マスターである切嗣からの令呪を通した転移による移動の命令だった。

 

 ああ、ランサーへの対処に呼び戻されたのかとセイバーは思う。

 それも当然か。

 自分が目を離した隙にランサーを逃がしたのだ。

 当然の判断だろう。

 これで結局、自分の力が足りないばかりにまた、せっかくのチャンスを活かせなかった。

 経験したことがあるとはいえ、やはり堪える。

 そう思いつつも彼女は、次の戦場に向けて心を切り替えた。

 

 

 

 ――だがそれは、この場面で本来アルトリアに必要とされていた覚悟とは異なるものだった。

 

 

 

 13

 

 

 

 

 アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 錬金術の名門アインツベルン家が此度の聖杯戦争に向けて鋳造した聖杯の個体名である。

 通常のホムンクルスと同じく白髪赤目の美貌を誇る貴婦人然とした容姿だが、精神年齢、身体年齢共にまだ幼く未熟。

 だがそれでも彼女は、夫である切嗣の悲願のために、命を捨てる決意のもとこの冬木の地に降り立った。

 ――そう、全ては恒久的な世界平和という理想のために。

 

 だが夫と共に見たその夢も、ここでひとまず幕を閉じる。

 理想自体は衛宮切嗣が今までと変わらず追い続けるだろう。

 彼は自分の大事なものが失われる恐怖をよく知っているが、それでもその感情に屈しない男だ。

 今さら一人の犠牲に足を止めることはない。

 

 しかしその夫の歩みにアイリスフィールがついていくことは出来ない。

 何故ならば彼女の足は既に、物理的に失われているのだから。

 

 

 

「アヴェンジャーめ。誤って聖杯までも破壊してしまうとは。全く困ったものだ。とはいえこれもまたよい機会やもしれぬ。あの人形共に任せていてはいつまで経っても儀式が完遂されん。となれば――」

 

 腰から下が焼き切られた状態でアイリスフィールは地面に横たわり、事切れていた。

 既に聖堂教会の元代行者との戦闘で致命傷を腹部に負っていたこともあるが、止めとなったのはやはり先のモードレッドによる宝具の放射だった。

 如何にアーサー王の鞘という聖遺物を所持していたとしても、所有者からの魔力供給なしに死という運命を回避することは出来なかったのだ。

 

 そしてそんな彼女の亡骸を森の影から眺める者が一人。

 儀式が破綻しかねない状況に陥ったことを知り、急ぎ駆け付けた御三家の一角――間桐臓硯である。

 既に監視させていた蟲からこの場にいたもう一人のマスターが熱風による重傷を負い、アサシンに担がれて戦線を離脱したことを確認したうえでの登場だった。

 今この場には、老人の他に誰もいない。

 聖杯の護衛を務めていた女も熱風で吹き飛ばされ気絶している。

 セイバーが転移したことも把握しているが、こちらの正確な現在地を認知していない以上僅かではあるが余裕があった。

 

 ――そう、聖杯を回収するという行為に及べるだけの余裕が。

 

 千載一遇の好機。

 聖杯を解析し、その機能を復元することが出来れば今までアインツベルンが独占していた大きなアドバンテージを得ることが出来る。

 

「――アインツベルンの聖杯。間桐の手で完成させるとしよう」

 

 怪しく嗤いながら老人の身体が蟲の群体へと四散すると、群れは聖杯を包みその場から翔び去った。

 

 

 

 

 

 





 巻きで行きました。
 勢い大事。


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